そのビジネスで収益化できる?
起業をするときの最大のリスクは、お金のリスクです。収益が得られなければ、事業を続けることはできません。そのため、「企業しようとしているビジネスで収益化できるか」が重要です。
何をビジネスにするか
「あのビジネスは儲かりそうだ」「これなら自分でできそうだ」と思っていても、その業界に関する知識やノウハウがなければ、生き残っていくことは非常に厳しいでしょう。最初に、「何をいくらで売るのか」をイメージすることが大切です。年齢や性別、年収、ライフスタイルなどによって、顧客とするターゲットの設定が変わってきます。
ターゲットが決まれば、販売方法や価格設定なども決めやすくなるでしょう。その事業で収益を上げる仕組み、つまりビジネスモデルを構築することが、起業を成功させるための最重要ポイントとなります。そのためには、情報収集は怠らないようにしましょう。起業する業種の専門的な知識や業種特性、ノウハウなどを調べて、柔軟に対応しなければなりません。
インターネットに記載されている情報は、全部が正確な情報とは限らず、信ぴょう性のない情報も多数あります。そのため、時には自分で情報の信ぴょう性の高さをしっかりと確認することも大切です。
業種・業態を選ぶときに考えておきたいこと
どのような業種・業態を選ぶのかを考えるうえで、自分自身の能力や経験を一度洗い出し、「自分の強み」を理解することが必要です。業種・業態選びの主なポイントは、以下の3つとなります。
1.知識と経験が活かせるものかどうか
会社員としてのこれまでの専門知識や経験、ノウハウ、人脈などは、起業するうえで「自分の強み」です。未経験のフィールドで勝負するよりも、「自分の強み」が活かせるほうが事業を有利に運べるでしょう。
2.資格や特許などが活かせるか?
専門的な資格を持っていれば、その専門的な知識を活かせることが「自分の強み」となります。特許なども、実用化や他社との業務提携をする際に大きな武器となるでしょう。
3.自己所有の資産や不動産が活かせるか
自己所有の物件を事務所や店舗に利用できれば、開業資金を大幅に減らすことが可能です。設備を必要としない事業であれば、自宅を事務所として利用できるだけでも費用はかなり違ってきます。
資金調達はどうする?
日本政策金融公庫が発表した「2020年度新規開業実態調査」によると、2020年における開業時の資金調達額の平均は1,194万円(前年度比-43万円)でした。そのうち「金融機関等からの借入」は約825万円(平均調達額に占める割合は69.1%)、次いで「自己資金」が266万円(同22.2%)となっています。
資金調達の留意点
起業時の資金調達は、主に以下の順番で考えることが賢明でしょう。
- 自己資金
- 家族・親類からの借入
- 金融機関からの借入
1.自己資金
自己資金は、最も確実な事業資金。自己資金が多いほど金融機関からの借入など、他からの資金調達は少なくなるため、安全です。
2.家族・親類からの借入
配偶者・親・兄弟・親戚が起業に協力してくれれば、心強い味方になります。それには、何よりも起業する事業に対する理解と信頼を得ることがポイントです。
3.金融機関からの借入
開業資金は、今までの取引実績や業績などで判断できないため、金融機関の審査は厳格となりがちです。審査を通過するには、事業計画や返済計画の信ぴょう性が高くないといけません。
起業時の資金調達方法の種類
起業時における、5つの資金調達方法を具体的に見ていきましょう。
1.日本政策金融公庫
政府100%出資の政策金融機関として、「新規開業資金」「新創業融資制度」など起業時に利用できる融資制度があり、利用頻度の高い資金調達方法といえるでしょう。
2.銀行・信用金庫などの保証付融資
信用保証協会は、中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受けられやすいようにサポートする公的機関です。借主が返済できなくなったときには、信用保証協会が借主の代わりに金融機関へ立て替え払いを行ってくれます。(代位弁済)ただし、代位弁済となった場合、借入がなくなるわけではなく、借主は、信用保証協会へ返済をしていくことが必要です。
市区町村などの各自治体が行っている「あっせん融資制度」も信用保証協会を利用することが多く、信用保証料や金利の補助が受けられる場合があります。銀行などの金融機関で相談すると、その地域の利用可能な制度融資を紹介してもらうことが期待できるでしょう。
3.銀行のプロパー融資
プロパー融資は、すべて金融機関が独自の審査基準に基づいて融資の可否を判断します。一般的に、保証付融資と比べると審査を通過する難易度は高めです。審査の際は、財務内容を重視する傾向のため、決算書がない起業時には向いていません。長く取引したり、担保に入れる不動産があったりすることで、借入できる可能性が高まります。
4.補助金・助成金
国や地方自治体が企業を支援するための制度で、起業時に利用できるものもあります。補助金は、採択された企業に支給するものであり、必ずもらえるとは限りません。助成金は、原則一定条件を満たせば支給されます。両者とも返済不要の資金ですが、事業に必要な資金を先に立て替え払いし、後から経費の一部を補助するものが多いため、注意が必要です。
5.クラウドファンディング
インターネットを介して支援者を募り、少額の資金を不特定多数の人たちから集める新しい資金調達方法です。不確定要素はあるものの、魅力的なアイデアや事業の計画に賛同してもらえれば、時には高額な資金調達も期待できるでしょう。
起業するなら会社は辞める?辞めない?
「会社員のまま起業をするか」「退職して本格的に事業を始めるか」といった選択で迷っている方もいるのではないでしょうか。定年退職後、自分のスキルや趣味を活かして開業する方も大勢います。また、会社員のまま起業し、事業として軌道に乗ってから退職することも選択肢の一つです。
会社を辞めずに起業する場合
会社を辞めずに起業する場合の最大のメリットは、安定した収入を確保しながら事業ができることです。生活費用が枯渇してしまうリスクも少なく、精神面でもゆとりが持てるため、収入を増やすことも期待できます。また、会社の福利厚生をそのまま受けることも可能です。会社を辞めずに起業を考える際は、最初に現在勤めている会社の就業規則で副業に関する規定を確認しましょう。
働き方改革も浸透し、2024年現在は副業を認める企業が増えています。しかし、副業を事前届出制にしていたり、一定の禁止事項を定めていたりするなど会社によって就業規則は異なるため、注意が必要です。特に、以下のような場合は、会社とトラブルになることもあるので押さえておきましょう。
- 労務提供上、支障がある場合
- 企業の機密が漏えいする場合
- 競合により企業の利益を害する場合
時間管理や体調管理には気をつけましょう。会社を辞めずに起業する場合には、会社員としての本業に支障がないようにしなければなりません。副業により、時間的・身体的な負担が多くなると、人事評価でもマイナスとなる可能性があります。
会社を辞めて起業する場合
会社を辞めて起業する、いわゆる「脱サラ」の道を選ぶ人もいるでしょう。会社員は、転勤や配置転換などがあり、必ずしも自分が望む業務ができるとは限りません。一方、起業すれば自分の裁量で自分のやりたい仕事に専念できるため、仕事にやりがいを持つことができ、会社員時代よりも高収入を得る可能性もあります。
しかし、「事業が成功するかどうかは自分次第」ということも忘れてはいけません。事業がうまくいかなければ収入がなくなるどころか借金が増える可能性もあり得ます。事業に関することは、自分の判断ですべて行うことになるため、常にリスクがつきまとうことも押さえておきたいポイントです。また、以下のことにも留意しなければなりません。
- 個人事業主は労災保険や社会保険に加入できない(労災の場合は特別加入という方法があります)
- 事業をやめても、雇用保険などの失業者給付がない
- 確定申告や会社の決算など、税務や会計の知識が必要になる
- 従業員を雇えば、労働保険や社会保険の保険料など費用負担が生じる
会社を辞めて起業したときの最大のリスクは、「資金繰り」など、お金に関するリスクです。最初から順調に利益を出すのは至難の業です。お金は、いくら貯めておいても安心ということはありません。起業してから事業が軌道に乗るまでの間の生活費は、事業資金とは別に確保しておきましょう。
会社を辞めずに起業する場合と会社を辞めて起業する場合のメリットとデメリット
それぞれのメリットとデメリットを整理してみてみましょう。
【会社を辞めずに起業する場合】
メリット | デメリット |
・安定した収入を確保しながら、やりたいことにチャレンジできる ・安定収入があるため、リスクが少ない ・給与以外の収入増加が見込める ・会社の福利厚生、社会保険、労働保険が使える ・将来の起業の準備ができる ・会社の倒産などのリスクヘッジになる | ・プライベートの時間が少なくなる ・体調不良や過労の原因にもなり得る ・起業のモチベーションの維持が難しい ・会社の業務、人事評価に支障が出る場合がある ・雇用保険などの失業者給付がもらえない |
【会社を辞めて起業する場合】
メリット | デメリット |
・自分の裁量でビジネスができ、 やりがいや充実感がもてる ・結果を出せば高収入も可能 ・定年退職がない ・時間の制約がない | ・収入、生活が不安定になる可能性がある ・経営リスクなどすべてのリスクを負う ・社会保険、労働保険に適用されないものがある ・税金、財務、会計などさまざまな知識が必要 ・事業をやめても、雇用保険などの失業者給付がない |
会社員が起業を成功させるためには
会社員が起業を成功させるには、事前にどれだけ準備をするかがポイントになります。
起業する前にやっておきたいこと
事業計画を綿密に立てたとしても、なかなか思い通りにはいきません。事業を1人で行うには、限界があるため、協力体制を作ることも大切です。
1.家族の協力と理解を得る
最も身近な存在となる家族の理解と協力は、必要不可欠です。なぜなら、家族がいる状態で起業することは、自分だけでなく家族のリスクにもつながるからです。家族に十分理解してもらったうえで協力を得ながらスタートすることが、起業への第一歩といえるでしょう。
2.自己資金の準備
「事業に費やせる自己資金がどの程度あるか」「いざというときのために使えるお金をどれだけ蓄えるか」は、非常に重要です。事業計画・資金計画をどれだけ綿密に作成しても、予期せぬ事態が発生することがあります。起業を考えるときには、まず自己資金を着実に貯めることから始めましょう。
3.相談相手やパートナーの存在
助言がもらえる同業者や知人・友人の存在は、心強い味方になってくれます。職場の同僚や、開業の準備で知り合った人とのネットワークを作ることができれば、情報収集能力も高くなるでしょう。
ビジネスモデルが固まったら事業計画・資金計画を作る
ビジネスモデルがある程度固まってきたら、事業計画や資金計画を作成します。金融機関から融資を受ける場合には、より実現可能性の高い事業計画書や創業計画書が必要です。事業計画や資金計画をまとめるポイントを見てみましょう。
日本政策金融公庫のホームページでは、創業計画書や月別収支計画書などの記入例がダウンロードできます。事業計画書の作成例がイメージできるので、ぜひ参考にしてみてください。
各種書式ダウンロード|国民生活事業|日本政策金融公庫 (jfc.go.jp)
【事業計画書を作るポイント】
1.事業内容を具体化する
- 商品・製品・サービスの具体的な内容を決め、ターゲットとなる顧客層、市場、開拓の手段を具体化
- 協力先、支援先、見込み先など裏付けのある売上見込みを計算
- 資金計画、販売計画、売上目標、収益目標の数値化
2.計画の採算見通しを検討する
- 資金計画、収支計画を月次で作成(1年間)
- 年次計画を3~5年分を作成する
- 売上規模、人員計画の目標を作成
3.計画の実現可能性を検討する
- 想定される問題点の洗い出しと克服方法の明確化
- 事業の将来性、将来のマーケットを検討
4.スタートアップまでのスケジュールを作成する
- 月次計画、年次計画から中長期の目標を作成
【資金計画書・収支計画書を作るポイント】
1.開業に必要な費用の明確化
- 設備資金(店舗・事務所等の取得費、敷金・保証金、車両・通信機器・事務機器など)の見積もり
- 運転資金(開業に必要な商品・材料の仕入費用、広告宣伝費、人件費、生活費など)の見積もり
2.資金調達方法の明確化(内訳の作成)
- 事業に投入できる自己資金の金額と金融機関からの借入予定額を算出
- 返済方法・返済計画(月次返済額・年間返済額)を整理
3.収支計画を立てる
- 必要売上高を算出し、販売計画、仕入計画、人件費等諸経費の検討
4.月次計画・年次計画の作成
- 月次損益計画表、月次資金繰り計画の作成
自分のスタイルに合った起業を目指しましょう
「働き方改革」の影響もあって、多くの会社が副業を認めるようになりました。今は会社員でも、「自分の夢を実現したい」「一国一城の主になりたい」と目標を持って起業を目指す方はたくさんいます。会社員が起業を成功させるためには、自分の思い描くビジネスモデルを具体化し、事前にどれだけ準備をするかが重要です。
「会社員のまま起業するか」「退職して本格的に事業を始めるか」について迷う方もいるかもしれません。しかし、「会社員のまま起業して事業が軌道に乗ってから退職する」という選択肢もあります。起業をする際のスタイルは、人それぞれです。具体的な目標を明確にし、自分に合ったスタイルで夢が実現できる起業を目指しましょう。
文・加治直樹(1級FP技能士、社会保険労務士)