1ドル120円台の円安が続いています。食品などの日用品の多くが値上げをしたばかりですが、これ以上円安が止まらないようなら、さらなる値上げも起きかねません。消費者にできることは悲鳴をあげることだけなのでしょうか。できることを考えてみました。
「指値オペ」ってなに?
日銀が長期金利の上昇を抑えようと3月29日から3日間、史上初となる連続指値オペに踏み切りました。円相場は急落。6年7ヵ月ぶりに1ドル=125円台まで値下がりしています。
「指値オペ」というのは聞き慣れない言葉ですが、簡単に言うと「日銀が無制限に国債を買い入れる」ということを指します。聞き慣れないのは当たり前で、この「指値オペ」という措置は2024年3月に導入されたばかりのもので、使われたのは今回がはじめてとなります。なお、今回は初日の29日だけで5,280億円分の国債を買い入れています。
では、なぜ日銀はこうした異例となる措置を行ったのでしょうか?
というのは、最近、債券市場で日本の国債が売られる傾向にあって、金融緩和を続けたいとしている日銀が避けたい長期金利上昇への圧力が顕著になってきたからです。背景にあるのは米国の金利上昇です(アメリカが上げているのだから日本もしてほしい、といったところでしょうか)。
そこで日銀としては「ここまでだったら」と決めた0.25パーセントの利回りを「指値」として指定して、国債を大量に買うことで市場を操作(オペ=オペレーション)したわけです。
なんで円安になるの?
「指値オペ」の結果、起きたのが1ドル=125円台という6年7ヶ月ぶりの円安でした。「やっぱり日銀は利上げに踏み切る気はないんだ」と判断した人たちが為替相場で円を売って金利のいいドルを買ったのです。
もちろん、日銀としてはそうした市場の反応は織り込み済みです。そもそも日本は1990年代から基本的な姿勢として円安を容認しています。日銀の黒田総裁も常々「円安は全体としては日本経済にプラス」と口にしています。
しかし、さすがにこれだけ円安が進んでいるとその姿勢に異論を唱える人も多く出てきています。
「輸出国である日本は円安の方が物が売れて潤う」「株価も上がるしGDPも上がる」 これが昔から言われてきた「円安のメリット」でした。日銀が「円安は全体としては日本経済にプラス」と繰り返しているのも、底流にこうした考えが根付いているからなのかもしれません。
円安のデメリット
生活者の視点で見ると、円安はメリットよりもデメリットの方が多いのではないでしょうか。ちょっと思いつくだけでも円安のデメリットはいくつか挙げられます。
- 食料品などの輸入品が高くなる
- ウクライナ情勢などで、ただですら値上がりしているものがさらに値上がりするかもしれない
- エネルギーや資源も高くなるから電気代やガス代が上がる
- 海外旅行に行ったときに旅先の物価が高く感じる(実際、高い)
消費者目線では、はっきり言って円安でいいことはあまりありません。むしろ収入は変わらないのに出費ばかりが増えてしまい、生活が苦しくなるだけです。
資産の中に外貨や米国株などの割合が多い人ならば、あるいは円安もまんざら悪くないと感じるかもしれません。しかし、日本に住む日本人にとっては、やはり資産のベースは円です。円安で喜ぶ人はそうはいないでしょう。
普通の人はどうしたらいいの?
円安が引き起こす物価の上昇(→インフレ)。それでいて賃金はなかなか上がらず…。
この状況下で一般の消費者にできることは、やはり「節約」や「家計の見直し」しかありません。具体的に言うと無駄な出費を減らすこと。そして、できれば収入を増やすこと。むしろ、これを好機と捉えて積極的に円安やインフレに負けない家計を築きあげてください。
- 無駄な買物をしない(買物前に冷蔵庫や戸棚を点検。すでにあるものは買わない)
- 月に何日かは出費ゼロの日をつくる(買物に行かない、しない)
- エアコンの温度設定を変える(よく言われる1度でなく2、3度変える)
- お風呂は沸かしたらすぐに入る(なるべく追い焚きをしない)
- 車でなく自転車を使う(ガソリン代を減らす)
- 電力会社、ガス会社を見直す(料金の安い新電力などに乗り換える)
- 携帯電話会社を見直す(格安SIMに乗り換える。お得なキャンペーンをフル活用する)
- インターネットのプロバイダーを見直す(最安をさがす)
- 夏休みは前倒しするか後ろにずらす(ハイシーズンを避けて旅行代金を安くする)
- 保険を見直す(現状の生活の中でのリスクと照らし合わす)
上記はほんの一例です。できることはたくさんあるはずです。本気になって取り組めば、物の値上がり分を差し引いても、お金が余るかもしれません。余ったお金は少額でもいいから積立投資などにまわすといいでしょう。また、現在、借金がある人もこうした工夫をすることでお金が浮いて返済が予定より早く進むかもしれません。
さらにおすすめなのは、副業を持つことです。なかなか賃金が上がらない現状を考えると、資産を増やすのにいちばんの早道は収入源を増やすことになります。
円安は無駄をなくして自分や家計を変えるチャンス。そう考えてしたたかに生きていきたいですね。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。