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中古物件を買ってリフォームしてみた 内見編その②

皆さんはネットの「物件情報」を見るのは好きですか? たとえすぐに家を買う予定はなくても、眺めていると夢が膨らむのが売家の写真や間取り図です。もしも直感的に「この家だ!」と思える物件に出会ったら、あなたならどうするでしょう。「お金がない」とあきらめますか。それとも「でもほしい!」と購入に動き出しますか。幸か不幸か、そんな物件に出会ってしまった夫婦のエピソード、第2弾です。

本当に保育園の前にあった売り物件

妻がネットで見つけた中古の戸建物件。筆者がまず確かめたのは、本当にその家が地図のとおり、娘が通う保育園の前にあるのか、ということでした。

内見しようと決めたその次の朝、いつものように娘をクルマで保育園に連れて行きました。お目当ての物件は園の駐車場に入ると同時に見つかりました。間違いない。物件情報の外観写真そのままの家がフェンスの向こうに建っていました。

家の前まで行ってみようかな。そんな誘惑にもかられたけれどやめました。物件情報に内観の写真が1枚もなかったのでそうだろうと思っていたのですが、家の窓にはカーテンがかかっていて、まだオーナーさんか誰かが居住中であることがわかったからです。
内見することは決めたし、どうせあとでゆっくり見ることができる。来ようと思えばいつでも来られるという気持ちの余裕もあってか、人が住んでいる家を相手の知らぬところで値踏みするような真似はしたくないなと思ったのです。

それはともかく、この場所だったら園の送り迎えはすこぶる楽です。1歳児で入園した娘には、まだあと4年間、保育園での生活が残っています。毎朝送り迎えに要している三十分ほどの時間が節約できるのはありがたい。ロケーションについては文句なし。最高です。

保育園にばかり言及していますが、すぐそばを片側2車線の幹線道路が走っている対象物件は、その他の面でも便利でした。

徒歩で1分ほどの場所にはコンビニ。もう1分も歩くと別のコンビニ。安売りの量販店やチェーンの飲食店なども数軒あって、生活するのに困ることはなさそうです。その他、ドラッグストア、スーパー、郵便局、クリニック、小学校、中学校も徒歩圏内にありました。そして、そのどれもが平坦な土地の上にありました。

「あそこなら歩ける」

帰り道、ハンドルを握りながら独り言がもれました。

いま住んでいる家は近所に商店の一軒もなく、まわりは坂道だらけで、どこに行くにもクルマに乗らねばなりません。おかげで筆者も妻も運動不足で体重が増えていました。

その点、あの家なら日々の買物や用事は徒歩で済ませることができます。常々運動不足を気にしていた筆者は、「保育園の前」という以外にもうひとつセールスポイントを見つけてしまったのです。

それにしても、まさか自分たちが家を買うことになるとは……人生、どう転ぶか、わからないものです。

実物の家を見てしまったせいか、まだ内見もしていないのに「家を買う」などと考えている自分がいました。

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家なんか買うもんじゃない?

もしこの物件を買うとして、それは自分にとっても妻にとっても人生初の住宅購入ということになります。

家を買うには、タイミングが大事です。不動産投資に興味のある人は別として、普通の人が家を買おうと思うのはどんなときでしょう。たいていは結婚や出産などのライフイベントが関係しているはずです。独身の人であれば、老後を考えて購入したりするのでしょう。

ひるがえって妻と自分の場合はどうでしょう。

「持ち家」を意識し出したのはつい最近のこと。2人とも子供が生まれるまでは、どちらかというと持ち家に対しては消極的な方だったように思います。いつかは買うときがくるかもしれないけれど、いまじゃない。夫婦2人で暮らしていた頃はお互いにそう思っていました。

住宅購入に積極的でなかった理由はいくつか挙げられます。

  • 夫がフリーランスで収入が安定していない(20日締めで25日払いの勤め人と違って、お金が入る月と入らない月の差が大きい)
  • 居住地域(世田谷区)の物件が高価過ぎて買えない(筆者たちが住んでいたエリアでは、狭小住宅の新築が1億円近い値をつけている)
  • そろそろ介護が必要になるかもしれない夫の高齢の両親が近所に住んでいた(心配なので、できれば近くにいたい)
  • 2人とも引っ越しが割と好き(夫はこれまでの人生で11回、妻は7回、引っ越ししている)
  • 2人とも家や車にはお金をかけないタイプ(それよりも海外旅行などが好き。モノより思い出タイプ)
  • いずれは首都直下型地震などの大災害がくる。家を買うならそのあとがいい(東日本大震災の記憶がいまだ生々しかった)

また、これとは別に、夫婦には「持ち家」に関して共通した苦い思い出がありました。

筆者と妻はお互い若い頃に「家を失う」という経験をしていたのです。といっても自分で購入した家ではなく、親がローンを組んで買った物件でした。ローンは毎月20万円弱。どちらの家も諸事情からローンが負担となり、ダウンサイジングするような形で売却して別の家に移り住んだのです。

持ち家を手放すのは寂しいものです。こんな経験があったためか、2人とも心のどこかで「家なんか買うもんじゃない」という思いがあったのです。

そんな夫婦でしたが、子供の誕生が意識を大きく変えました。

我ながら変わり身の早さに呆れますが、「子供のためにしっかりしなくちゃ」と資産について考え始めたのです。

とくに妻はドラスティックなまでに変わりました。それまでは資産形成になどほとんど興味がなかったのに、俄然猛然、子供の教育費や自分たちの老後について考え始めたのです。そうなると興味の範囲は「家」にまで拡大するらしく、まるで通販カタログでも開くように物件情報を閲覧してはポチポチ。今回の物件もそんなふうにして見つけたものでした。

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ローンをシミュレートしてもらう

夫があれやこれや思いに耽っている間に、妻は連絡を入れてきた販売会社の担当者と電話やメールでやりとりをしていました。

「内見、今度の金曜日に決定したよ」

さくさく話を決めた妻は、販売会社にローンのシミュレーションもしてもらっていました。結果は、物件情報のサイトにあった簡易シミュレーションと大差ないものでした。

「自己資金200万円で、最初の5年が8万何千円か、残り30年は6万何千円かだってさ」
「それならいまの家賃より安いし、払えそうだね」
「でしょ、でしょ!」

考えてみれば、これまでの人生、家賃をずっと払いつづけてきたのです。最近まで住んでいた世田谷の部屋は11万2000円、もっと前は13万8000円の家賃を払っていたこともあります。それを思えば6万いくらかのローンくらいはどうにでもなりそうな気がしました。

中古物件のリフォーム代は300万円

「ただ、リフォームに300万かかるって」
「まあ、中古物件だし、リフォームは必要だろうね」

物件の売値が1980万円。それにリフォーム代が300万円。合わせて2280万円。それでも周辺の似たような物件に比べれば手頃な価格であることは、すでにネットで調査済みでした。

「リフォーム代はどうする?」
 妻が訊いてきました。
「ローンはこれ以上増やしたくないね」
「現金払いだよね、やっぱり」

そうなると、手持ちの蓄えをすべて使って、なおかついくらか足さねばなりません。
「まあ、どうするかは内見してからだね」
「そうだね」

リフォームと聞いて、ちょっとわくわくしている自分がいました。

住宅購入は具体的には考えたことがない。でも、もし家を買うなら新築でなく中古を自分好みにリノベしたい。筆者のなかにはそんな願望があったのです。

気がつくと夫婦の間で意見一致

最初は夫婦喧嘩で始まった物件の購入話。それが気がつくと、いつの間にか夫婦の間で「気に入ったら買う」というコンセンサスが得られていました。

どうしてこんなに簡単に話がついたのでしょうか。考えてみると、ローンの審査が通るかどうかを抜きにしたら、筆者と妻は、夫婦が家を買うときの諸条件について、最初からクリアしていたことが見えてきました。

共稼ぎの夫婦が新居を購入する。そのときに話し合われるのは以下のようなことでしょう。

  • 場所(地域)をどこにするか
  • 戸建てか、マンションか
  • 新築か、中古か
  • 間取りはどうするか
  • 価格
  • 購入資金
  • リセール可能かどうか
  • 購入時期(いつ買うか)

これが我が家の場合、最初から答が出ていたのです。

  • 場所(地域)をどこにするか 
    →保育園の前という最高の立地条件
  • 戸建てか、マンションか 
    →2人ともどっちでもいいという考え(修繕積立金や管理費が嫌なのでどちらかというと戸建て)
  • 新築か、中古か 
    →自分たちの所得だと中古が現実的
  • 間取りはどうするか 
    →家族構成から必然的に3LDK以上
  • 価格 
    →文句なしに安い
  • 購入資金 
    →ローンの審査さえ通ればどうにかできる。通らなければあきらめるまで
  • リセール可能かどうか 
    →そこそこの住宅地なので可能と判断
  • 購入時期(いつ買うか) 
    →妻はいつでも。夫は時期尚早と考えていたけれど気持ちが変化してきた

つまり、「いつ買うか」と「ローンの審査」を除けば、夫婦の間で意見は共通していたのです。「そのうち東京に戻る」という話も絶対的なものではなかったので、とくに揉めることはありませんでした。いま住んでいる地域は、クルマがあれば都内に行くにも横浜市の中心部や湘南地域に行くにも便利な場所です。世田谷にいる高齢の親の存在は気になりますが、無理をして東京に戻る必要はないのです。

そして。

約束の金曜日がきました。

内見の時間は午後一時。歩いて現地に行くと、販売会社の担当者であるIさんが物件の前で待っていました。

(内見編その③へつづく)

中古物件を買ってリフォームしてみた 内見編その③相場よりだいぶ安い中古物件。内見した室内は予想通りリフォームが必要なボロ屋敷でした。買うべきか、買わないべきか。検討して出した答は「購入」でした。...

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。