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中古物件を買ってリフォームしてみた リフォーム編その②

手付金を払って中古物件の購入が確定。リフォーム業者さん立会いのもとリフォームの詳細が決まり、あとは正確な見積もりを待つばかり。約束の日、リフォーム業者のオフィス兼ショールームを訪ねた夫婦を待っていたのは想定外の出来事でした。

リフォームと引っ越しの予算は400万円が上限

前回の下見でリフォーム予算が予定していた310万にプラス40万で350万になりました。

貯金のうち、引っ越しとリフォーム代を含む家の購入費用に使えるお金は400万円ほど。すでに売買契約の手付金として50万円を使っていたので、残りは350万円ほど。これだとリフォーム代だけで、引っ越し費用がまかなえません。

こうなると、リフォームに入るまでの残る2ヶ月でいくら貯められるかが勝負です。

計算すると50万円はいけるだろうとわかったので、リフォームと引っ越しの予算は400万円。引っ越し代は15万円程度で済むでしょうから、リフォームは最大385万円が許容範囲。なんだかもう、本当に綱渡りといった感じです。

4月中旬のその日、正確な見積もりを聞くのに、約束通りリフォーム業者のTさんのオフィス兼ショールームを訪ねることとしました。

その前にひとつ、気の重たい仕事がありました。

いま借りている家の大家さんへの報告と挨拶です。

家を買う=引っ越しを決めた以上はすぐに大家さんに伝える必要があります。契約上は1ヶ月前となっていますが、早いに越したことはありません。

というわけで、出かける前に斜め前にある大家さんのインターフォンを鳴らしました。出てきたのは大家さんの奥さんでした。筆者と妻は用意しておいた洋菓子店の菓子折りを差し出しながら「実は……」と切り出しました。

たまたま娘の通う保育園の目の前に安くていい物件を見つけまして。更新したばかりで、まだまだずっと住むつもりだったのですが、ぼくたちもローンを組みにはギリギリの年齢なので……と言い訳じみた理由を並べる筆者と妻に、奥さんは「よかったですね」と言ってくれました。本当にいい大家さんです。

リフォーム会社のショールームを訪ねる

Tさんのオフィス兼ショールームはクルマで40分ほどの場所にありました。迎えてくれたのはTさんとインテリアコーディネーターのHさんでした。

「せっかくだからご覧になってください」

Hさんの案内でショールームを見せてもらいました。ドアや窓枠、ブラインドなど、かわいい&かっこいい物がいくつもあって、なかなか楽しい空間です。

Hさんはこちらに娘がいると知ると「女の子の部屋でしたら、こんなふうに廊下側にも窓のあるお部屋なんかがかわいいですよね」と改修案を提案してくれます。
素敵な提案だけど、予算に余裕のないこちらとしてはドアノブひとつとて余計な買物はできません。なんだか間違って入ってしまったギャラリーで高価な絵画の説明を受けているような居心地の悪さを感じます。

ショールームをひととおり見せてもらったあとは商談用のテーブルで見積もりについての話です。

「これどうぞ」とTさんが出してくれた見積もり書を見てみました。
最初に目がいったのは合計金額でした。

合計金額 430万円

あれ?

前回の下見では350万くらいと聞いていたのが、いつの間にか430万円になっています。

いくつも分かれた項目を見てみると、追加したリビングの窓ガラス交換と都市ガスへの変更で、合わせて55万円とあります。その他、上がり框の修繕やカーテンレールなど、細かいものがそれぞれ数万円単位でプラスされています。

これでは用意できる予算を上回ってしまいます。

「430万円もかかりますか」筆者が尋ねると、Tさんは「ちょっと待っていてください」とオフィスに戻り、今度は違う見積書を持ってきました。
「現状、400万円になっています」
今度の見積もり書は合計金額が400万円になっていました。先ほどの見積もりはこのあとまだ何か変更や追加があることを見越してのものだったようです。

それにしても400万円です。こちらが上限としている385万円を超えています。
これでは引っ越し代が捻出できません。いや、そもそもこちらはリフォーム費用を300万円と考えていたのです。窓ガラスやガスの変更があったとしても、100万円も増えてしまうとは計算違いもいいところです。

リフォーム代もローンに変更

さて、どうしたものか。先ほどから黙っているところを見ると妻も同じことを思っているようです。

「いま、ローンの見積もりも出しますね」Tさんが言いました。

ローン?

リフォームは現金で。販売会社のIさんには確かそう伝えてあるはずですが、Tさんには伝わっていなかったのでしょうか。

ローンについては、夫婦で考えていなかったわけではありませんでした。あまりにギリギリだったらローンもありかもしれない、とは話しあっていました。Iさんも5年で完済するプランを考えてくれていました。
とはいえ、リフォーム代までローンにしたら、いまよりも安くしたいと思っていた毎月の固定費が逆に高くなってしまう可能性があります。これは悩みどころでした。

Tさんが出してくれたのは、10年ローンと15年ローンの2パターンの見積もりでした。
15年ローンならば、住宅ローンと合わせてもいまの家賃より安くなります。もっとも、金額を見るとたいした違いはなさそうです。これでは「固定費を下げる」という目標の達成度は20パーセントといった印象です。

リフォームのローンの金利は2.6パーセント。Tさんいわく「先月まではキャンペーンで1.8パーセントだったんですけどね」だとか。「もう少し安い金利のものはないかさがしてみますね」と言ってもらえたので「お願いします」と答えました。

こうなってくると、リフォーム代もローンということになりそうです。懐具合を考えると正解なのかもしれませんが、現在の家賃と比べて毎月の支払いが2万数千円安くなると期待していた筆者としては少々ショックな展開でした。

「上がり框は何もせずにあのままでいいかもしれません」
筆者が口にすると、妻も「そうだね」と頷きました。

「カーテンレールも、普通のステンレスのでいいです」
「うん」
守りに入った夫婦に、Tさんは「まだ工事まで期間がありますから、ゆっくり考えてください」と時間を与えてくれました。

胸のなかに生まれたもやもや感の正体は

見積もりのあとは、壁紙の見本ファイルを見せてもらいました。ファイルの中に妻が自分の好きなブルーを見つけました。

「リビングにこの青入れたいな」
「でしたら一面を青にすると素敵かもしれないですね」
Hさんが同じ色を使った事例写真を見せてくれました。

「お嬢さんの部屋はどうされます?」
「ピンクかな、やっぱり」
「大人になって、こんな部屋いやだとか言ったらどうするんだ?」
筆者が訊くと「それで自立してくれるならいいじゃない」と妻が答えました。一理あります。

それにしても、壁紙の見本だけでもたいへんな量です。
「いま選ぶのもたいへんでしょうから、ファイルごと持ち帰って検討されるといいですよ」
HさんとTさんがすすめてくれたので、お言葉に甘えることとしました。

分厚いファイル2冊を持って帰宅。なんだか楽しい宿題を背負いこんだ気分です。

けれど、どうもすっきりしません。なにかが胸のなかでもやもやしています。
もやもやの正体は言うまでもなくリフォーム代です。

ローンを組まないはずが、いつの間にか15年ローン。

問い合わせ時は300万円だった見積もりが430万円(その後、400万円に下がったとはいえ)。

〈まあ、仕方がないか。かかるものはかかるのだし、これが家を買うということだ〉

妻もそう考えているのか、帰りの車内でも家に帰ってからもリフォーム代には触れませんでした。

(リフォーム編その③へつづく)

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。