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中古物件を買ってリフォームしてみた リフォーム編その⑥

中古の戸建てを購入してのリフォームは、引き渡しまであと半月というところで、当初予定していたリフォーム会社への丸投げからすべてを自分たちで手配するセルフ方式へ変更。時間との戦いのなか、遮二無二リフォームへと突き進む買主夫婦が出会ったのは「その道のプロ」でした。

水回り4点セット、工事費込みでずばりいくら?

引き渡し日まであと10日を切ったその週の土曜日、新居となる現地で、水回りの工事をお願いしようかと連絡をとったリフォーム業者さんと待ち合わせをしました。

先方は社長のMさんと職人さんの2人。こちらは筆者と妻と娘の親子3人です。

「どうも」と名刺を差し出してきたのは、角刈りで恰幅のいい、いかにも工事屋さんの親方といった感じの風貌を持つMさんでした。Mさんたちが販売会社から鍵を借りて来てくれていたので、さっそく家の中に入って見積もりに入ってもらいました。

「交換したいのは、システムキッチン、トイレ、洗面台、お風呂でしたよね?」
「そうです」と答える筆者に、Mさんは「脱衣所とトイレの床はどうします?」と訊いてきました。
「床は自分たちで張り替えるかなにかしようかなと思っています」
トイレと脱衣所の床は、どちらも長年の使用で黒ずんでいます。一部は禿げています。

「トイレのクロス、剥げていますね」
職人さんが言うとおり、トイレの壁もひどい状態です。トイレだけでなく、1階部分はどこもかしこもクロス交換が必要です。
「壁は壁屋さんにお願いする予定です」
このときには妻がネットで壁の修繕業者をいくつか見つけていました。
「なるほど。じゃあ、うちはとりあえず水回りに限って見積もりを出しますね」

Mさんが目配せすると、職人さんと素早く各所の寸法などを確認し始めました。その間にこちらはMさんに先日訪問したメーカーのショールームで選んだ商品が何かなどを伝えました。
「キッチンは○○ですね。ああ、わかりました」
さすがはプロ。Mさんはこちら口にするだけでそれがどの商品かわかるようでした。

数分後、「こんなところですね」と出された見積もりは、水回り4点セットで税込188万円でした。
予算に関しては早いうちに伝えておいた方がいい。Tさんとのやりとりのなかでそれを学んでいた筆者と妻は正直に打ち明けました。

「Mさん、ぼくたちあまり予算がないんです。水回りはできれば150万円でおさめたいと思っていました」
そう言うと、Mさんは「わかりました。じゃあ引けるだけ引きましょう」と再度見積もりをはじめました。
「スライド式シャワーはいらないですね?」
「いらないです」
「サーモ機能もいらないですね」
「なくても大丈夫です」
「となると、こうなります」

今度の見積額は税込175万円でした。

「なるほど。Mさんの会社の広告にあった4点セットで150万円っていうのはマンションの価格ですもんね。やっぱりあそこまでは下がらないって感じですか」
筆者の質問に、Mさんは「ええ」と頷きました。
「あれは同じ商品を大量に仕入れているから出せる金額なんですよ。こちらのお宅のように1つずつメーカーに注文するとなると、どうしてもこのくらいの金額になってしまいますね」
どうする、と妻を顔を見合わせました。
いいんじゃない、と妻の目は言っていました。

水回り4点プラス給湯器交換で消費税込190万円

ここまできて、筆者は、「あ、やば……」とあることを思い出しました。

「すみません。言っていませんでした。この家、プロパンガスから都市ガスに切り替えるんです。給湯器も都市ガス用が必要ですよね」

給湯器はプロパンガスと都市ガスでは別々のものが要ります。知識としてはあったくせに、それを伝えるのを忘れていたのです。
「わかりました。じゃあ給湯器込みで計算し直します」
Mさんが電卓をはじきました。
「出ました」
給湯器込みでの見積額は190万円でした。

「これって消費税込みですよね」
「すべて込み込みです」
妻の顔をもう一度見ると、頷いています。

「よし。じゃあ、これでお願いしてもいいですか?」
こちらが言うと、Mさんの目が大きく見開かれました。
「お持ち帰りになるのでなく、いまお決めになられますか」
「決めます」
「ありがとうございます。うちとしても助かります」
こちらの一発回答に、Mさんも喜んでくれているようでした。

Mさんによると、バスルームを交換する際、床下の配管なども腐食が進んでいた場合は工事費と別に交換費用がかかってしまうといいます。ただしそれについては上限を5万円にして、それ以上かかる場合はMさんの会社が負担してくれるということになりました。

工事の契約は2日後、Mさんの会社で行うこととして、その日の見積もりは終わりました。

システムキッチン、トイレ、バス、洗面台、給湯器で税込190万円。 キャンセルした会社の見積もりは225万円でしたから、水回りだけで35万円が浮きました。しかも交換する商品は同じです。

「リフォーム屋さん、最初から自分たちでさがせばよかったんだね」
Mさんたちと別れたあと、妻が呟くように言いました。筆者も同感でした。

リフォーム業者の矜持に触れる

2日後、隣の区にあるMさんの会社を訪ねました。

通された事務所でMさんと工事の契約を交わしました。支払いは二回払いとし、前金として現金で100万円を払いました。

契約のあとは会社の建築士さんや職人さんも交えて購入するシステムキッチンや洗面台のカラーを選びました。こちらはすでに一度メーカーのショールームに行って決めているので迷わずに進みます。

色選びがあっさり済んだところで、Mさんが切り出しました。
「トイレと脱衣所のクッションフロアなんですけど、無料にしますのでうちの方で交換させていただけませんか」
「え?」
ぽかんと口を開ける筆者と妻に、Mさんはつづけました。
「即決で決めてくださったし、リフォーム屋としてなんとかしたいという気持ちもあるんです」
「あ、ありがたいお話ですけど、無料というのは……」
「いいんです。ただ、うちに在庫で余っているものを使わせていただくという形になりますが、それでよろしいですか」
「はい」
筆者と妻は言葉もありません。クッションフロアの交換は業者に頼むと6~10万円はするのです。

Mさんに何度もお礼を言って会社をあとにしました。
2人とも、帰り道は「よかったね」「Mさん、いい人だね」を連発です。

「あの会社の駐車場見た? いいクルマばかりだったね」
目ざとい妻は社員の人たちのクルマにまでチェックを入れていました。
「儲かっているってことだね」
「グーグルの評価が高いからね。口コミサイトと違ってグーグルは自発的にするものだから、あそこで評価が高いということは本当にいい業者さんなんだよ」

さがせばもっと安い業者はいたかもしれない。けれど、筆者と妻は満足でした。義理人情に厚いプロに出会えた。今回はそう思って間違いないでしょう。

壁はクロス交換でなく塗装を選択

水回りの工期は7月13日から18日の6日間。この間は他の工事はなるべく入れない方がいいでしょう。

「壁をやるとしたら水回りのあとかな」
そう口にする筆者に、妻は「そうだ、いいとこ見つけたんだ」とスマホをかざしました。「塗装? 張り替えでなくて?」
妻が目をつけたのは、クロスの張替え業者ではなく、塗装業者でした。
「そう。張替えよりもずっと安く済むよ」
「その手があったか……」
いざとなれば自分たちでペンキで塗ってしまえと思っていた内部の壁でしたが、ちゃんとその分野でもプロがいたのです。

事例紹介の写真を見ると、クロス交換と変わらないくらいのきれいな出来栄えでした。
「これでいいじゃないか」
「じゃあ、見積もり頼んじゃお!」
妻がスマホ画面をタップしました。

家に帰ってポストを覗くと、東京ガスエコモのYさんからガス工事の見積もりが届いていました。こちらは税込29万円ほど。リフォーム会社に頼むと35万円だったので6万円安くなりました(最終的には工事費は27万円で8万円の差になった)。

当たり前のことながら、中間マージンがないと同じものでも安くなるのです。要は人にまかせず自分でやること。このときにはもう筆者も妻も業者さがしが楽しくなっていました。

(リフォーム編その⑦へつづく)

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。