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中古物件を買ってリフォームしてみた リフォーム編その⑦

中古物件のリフォームで最大かつ最重要項目である水回りの業者が決定。壁のクロスは張り替えではなく塗装で安上がりに済ませることに。引き渡しまであと1週間と迫るなか、やることはいっぱい。パンク状態の頭をなんとか回転させながら引き渡し日を迎える夫婦なのでした。

インターネットはどうする? 

引き渡し日=決済の日まであと6日。このところ、筆者や妻のもとには問い合わせをしている諸々の業者からの連絡が絶えません。○○について電話が鳴ったかと思えば、△△についてメールがくる、かと思えば□□の件で誰かが訪ねてくる、といった塩梅で、頭の中は常にいくつかのスイッチがついたり消えたりしているような状態です。前頭葉はフル回転、ニューロン間を稲光みたいに電気信号が飛び交っているのが自分でもわかります。

引っ越しは7月末。まだ1ヶ月以上あるものの、そろそろ引っ越し業者を決めたり、ガス、水道、電気、インターネット、電話の解約、申し込みなどに動き出さなければならない時期です。

我が家のインターネットのプロバイダーはケーブルテレビ会社で、テレビ、電話がパックになっています。電気代も新電力であるその会社に払っています。比較するとインターネットなどはもっと安い業者がいます。引っ越しを機に乗り換えるのが賢い手です。ケーブルテレビも実際には地デジ以外まず観ないので解約した方が良さそうです。妻に相談すると「そうしよう」と二つ返事でした。

が、調べてみるとインターネットは2年契約で、解約は更新月以外の月にすると解除金1万5000円が必要なことがわかりました。残念ながら7月は更新月ではありません。なので解約するのはテレビだけとしました。

引っ越し業者が見積もりに来る

引き渡しまであと4日という日、ネットで見積もり依頼をしていた引っ越し業者の営業担当Bさんがやって来ました。Bさんの会社は業界でも1位2位を争う大手で、筆者もこれまで何度か利用したことがあります。予算がないのならもっと安い業者を使うべきかもしれませんが、仕事の品質を考えると大手の方が安心です。

「では、さっそくお荷物見せていただけますか」
スーツ姿のBさんは名詞をくれると見積もり作業に入りました。一覧表に並んだ家財は、冷蔵庫や洗濯機、テレビ2台、本棚3つ、シェルフ5つ、箪笥2つ、ダイニングテーブル、机等々です。
「けっこう本がありますね」
引っ越しのときはいつも言われることをこの日も言われました。文筆業者の宿命です。

「そうですね。どうしても段ボール箱が普通の人より多めになっちゃいます」
「うちはもう何回か使っていらっしゃるんでしたよね。確かアンケートにそうあったような」
「今回で5回目くらいかな。たまには他社さんにしようかなとも思うんですけど、結局はBさんのところにお願いしちゃうんですよね。安心感が違うっていうか」
「ありがとうございます。そう言っていただけると私たちとしても嬉しいです」

なにげなく交わしている会話ですが、実はこの会話がとても大切です。5回も利用していれば、見積もりの流れや相場がどんなものか、だいたいのところはわかります。「わかっています」ということを暗に伝えておくことで、相手もよけいな駆け引きをせずに済むのです。

Bさんの会社の場合、見積もりはたいてい一度は高めの金額を提示してきます。それにこちらが頷かないと、営業マンは「上司に訊いてみます」と会社に電話を入れます。電話が終わったときには、お互いが妥協できる金額に落ち着いている。これがパターンです。

ただ、何度も使っていると慣れているので、筆者の場合は「こちらの希望を言いますので、そちらも最初から出せるギリギリの金額を提示してくださると助かります」と言うことにしています。相手が新人だとどうなるかわからないけれど、ある程度経験を積んでいる営業担当者ならば、ここで交渉不能になるようなおかしな金額は出してきません。

ざっと家の中を見たあとは、テーブルに向かい合って金額や引っ越し日の相談に入りました。

今回、引っ越し業者にお願いしたいのは、家財の引っ越しと、リビングのエアコンの移設工事です。まずは引っ越し代。これは妻とあらかじめ決めていた税込10万円でお願いすることにしました。今回の引っ越しで動くスタッフはおそらく3名。いままでの経験からこれ以上安くするのは申し訳ないという気持ちもありました。

「10万円……エアコン工事も込みですか?」
引っ越し代だけのつもりだったのですが、Bさんはエアコン工事も込みだと勘違いされたようでした。
「はい」
ダメで元々。こうなったらそのままでいこうと筆者と妻は頷きました。
「わかりました……ちょっとお待ちください」
Bさんが計算機を叩き始めました。

数十秒後、顔を上げたBさんが言いました。
「税込11万円ではいかがでしょうか?」
引っ越し代で10万円。エアコン移設工事で2万~3万円。合計12~13万円程度はかかると考えていたこちらにとってはなんともありがたい金額でした。「はい」と即答です。Bさんの助けられた形でした。

引っ越しは7月29日に決定。Bさんによると「この日ならこのお値段でできます」とのこと。むろん、こちらに異存はありません。

翌日は水道局に電話。引き渡し日の6月29日からは新居でも水道を使うと伝えました。

新居購入という家族の船出

引き渡し2日前の土曜日の午前中、インターネットや電気の契約先であるケーブルテレビ会社に電話を入れました。ネットや電話などは引っ越しのときでいいけれど、電気は引き渡しと同時に使えるようにしておかなければならないからです。

つながったのは顧客対応のオペレーター。用件を話すと折り返し担当者から電話が入るということなので、筆者は予定していた仕事の打ち合わせに出かけました。この日は横浜で夏に出す小説の初校(校正刷り)を受け取ることとなっていたのです。

昼、横浜駅の北口に行くと担当のJさんが待っていました。そのままランチミーティングとし、初校を受け取りました。コロナ禍や新居購入のドタバタで、家族以外の人と外で食事をするなどひさしぶりです。新しく出す作品は冒頭部に横浜港が出てくるということもあり、食事のあとはシーバスに乗って山下公園まで行くことにしました。

船に乗ると、お目当てのものが見えてきました。客船です。この日は新港埠頭(横浜ハンマーヘッド)に『にっぽん丸』、大桟橋に『飛鳥Ⅱ』が係留されていました。コロナ禍で予定していたクルーズはすべて中止。おかげで日本を代表する2隻の豪華客船を一度に見られるという僥倖に恵まれました。

夏に刊行される新刊は、客船を舞台にした小説です。
ここ数ヶ月間の筆者は、リアルの生活ではボロ物件の購入やリフォームに駆けずり回りながら、頭の一部は常に太平洋を旅する豪華客船の上という日々を送っていました。考えてみればすごいギャップです。

この記事の本筋とは直接関係ない仕事の話ですが、あえて語っているのは実は関係がなくもないからです。

ご存知の通り、日本におけるコロナ禍は横浜から始まりました。客船『ダイヤモンド・プリンセス』号での集団感染が話題となったのはこの年の冬です。

筆者にとって、このニュースは他人事ではありませんでした。なにしろ、ちょうどクルーズを題材とした新作の執筆に着手したところで「客船で集団感染」などというニュースが流れ、日本中が大騒ぎとなったのです。

ネットニュースやテレビの情報番組は、こぞってこのニュースを取り上げました。客船やクルーズのイメージダウンは避けられませんでした。となると、筆者の頭をかすめるのは「もしや自分のこの作品も刊行中止になるかも?」という不安でした。

本の刊行が中止になれば、当然、印税も入ってきません。
だというのに、こういうときに限って「家を買おう」などという話が持ち上がったりするのが人生なのです。

妻が最初に今回購入した物件を見つけたとき、筆者は「時期尚早だ」と反対しました。そこにはこうした裏事情があったのです。

しかし、出版社はコロナ禍にも『ダイヤモンド・プリンセス』号の集団感染にもぶれませんでした。担当のFさんもJさんも逆風など意に介さず作業を進めてくれました。おかげで今日の日を迎えることができたのです。

洋上に出ないいまのうちにということでしょうか。あちらこちらペンキを塗り直したらしくぴかぴかと光る『にっぽん丸』や『飛鳥Ⅱ』を眺めながら、新居購入という家族の新たな船出を実感している自分がいました。

新居のアンペア変更を依頼する

シーバスを下りて山手に住んだことのあるJさんと横浜暮らしについて話していると、ケーブルテレビ会社の担当者から電話が鳴りました。

電力は明後日から使用可能。旧居については引っ越し後の8月1日朝にストップ。新居のアンペアは現状の40アンペアから60アンペアに変更することにしました。アンペア数をあげると基本料金が高くなってしまうけれど、停電するよりはましです。

ついでにプランも変更。現在はインターネット、電話、テレビ、電力の4つを合わせたプランを利用していますが、新居ではテレビはケーブルテレビを使用しないこととしました。確認してみると、テレビ付きのプランは契約時よりも月当たり1000円程度高くなっていました。サービスのひとつである「引っ越し割」は「テレビ付きのプランでないと適用されない」とのこと。テレビ付きプランを値上がりしたかわりに引っ越しのときは割引きますよ、という施策のようです。

なんにせよ、この2年間、NHKを除けば無料で見られる地上波の番組を観るのにお金を払っていたことを思えば、ここは解約(プラン変更)以外の選択肢はありませんでした。

アンペア交換は引き渡し日の夕方に決定。初日から忙しくなりそうでした。

(リフォーム編その⑧へつづく)

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。