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中古物件を買ってリフォームしてみた リフォーム編その⑧

冬から始まった中古物件購入の流れ。気がつくと夏はもうすぐそこ。リフォームに必要な業者選びや注文が次々に決まっていくなか、ついに「決済日=引き渡し日」を迎えます。夫婦が手にするはじめてのマイホーム。持ち家を所有する気分とはどんなものなのでしょうか。

販売会社で司法書士を交えて決済

6月29日、引き渡しの日が来ました。朝10時に妻と販売会社に行くと、すでに売主さんと司法書士のYさんが来ていました。筆者が売主さんに会うのはこれがはじめてです。ご挨拶を済ませると、すぐに販売会社担当のIさんの仕切りで新居の決済に入りました。

必要な数枚の書類に記入、捺印したあとは、全員で銀行に行きました。

司法書士さんのYさんは30代前半の女性でした。この仕事に慣れているらしく、妻を見ると「医療従事者さんですよね」と職業を当てました。Yさんによると「接していてお話のされ方とかでだいたいわかるんです」とのこと。そういうものなのかと感心しているうちに銀行に着きました。

今日のこの時点で、妻の口座には住宅ローンで借りた全額のお金が入金されていました。それを売主さんの口座に振り込めば売買成立です。金額が大きいだけにATMでは処理できません。なので窓口で振込を依頼するのです。

あいにく窓口は混んでいたので、振込依頼をした時点で他の皆さんには先に販売会社に戻っていただくこととしました。

しばらく妻とたわいもないことを話していると、係の人に呼ばれました。手続きは無事完了。蓋を開けてみればあっけないものです。「至急」扱いでお願いしたので、すでに売主さんの口座には指定した千数百万の金額がおさまっているはずです。

販売会社に戻り、今度は登記費用や仲介手数料の支払い。住宅ローンは「実行」され、新居の鍵が手元に来ました。売主さんやYさん、Iさんにお礼を言って解散です。

外に出ると妻が言いました。
「家買うって簡単だね。手続きもちょっと手間がかかるだけで賃貸と変わらないね」
いやいや、今日までいろいろあっただろう。いまもあれこれやっているところだろう。だいいち、これからリフォームと引っ越しがあるだろう。そう言いたいところでしたが、妻の晴れ晴れとした顔を見て、喉元まで出かかったその言葉をぐっと飲み込みました。

隙間時間はひたすら業者さがし

保育園に行っている娘には申し訳ないけれど、お祝いの意も込めて昼食は高級焼肉店のランチに行きました。クルマで走っている間、妻がスマホで畳の張り替えをしてくれる業者さんにオーダーのメールを送りました。業者選びの基準は「とにかく口コミがいいこと」。水回りの工事で「当たり」を引いたので、他もその手でいくことにしたのです。

焼肉を食べ、食後のコーヒーを飲みながら、今度はハウスクリーニンングの予約も入れました。これで水回り、ガス工事、インターネット&電話、畳の張り替え、ハウスクリーニングが決定。じきにエアコン工事も確定しそうだし、どんどん予定が埋まっていきます。

懸案は窓ガラス。これは建具屋さんに頼むつもりでしたが、なぜか近隣では頼めそうな雰囲気の店がありません。試しにと、食事のあとに近くのホームセンターに行ってみましたが「窓ガラスの交換は扱っていません」と残念な回答。もうちょっと頑張らなければならないようです。

夕方は新居のアンペア交換。自分で鍵を開けるのはこれがはじめてです。
待っていた東京電力のGさんに40アンペアだったアンペアを 60アンペアに変えてもらいました。60アンペアあれば、エアコンを同時に数台稼働してもまず大丈夫です。

「万が一停電したら、ブレーカーを上げればいいんですよね」
念のために確認してみると、「なにもしなくていいです」と思わぬ答が返ってきました。
Gさんが言うには「外のスイッチが10秒後に再作動します」ので、黙って待っていればいいというのです。筆者の知らぬ間に、設備というのはいろいろなところで進歩しているようです。

Gさんを見送って少しすると、保育園のお迎えに行っていた妻が娘とやって来ました。2歳の娘にはがらんどうの新居は巨大な遊具に見えるらしく、ひとりで階段を上り下りして遊び始めました。

その間に、妻はあたりをつけていた壁の業者さんと電話で見積もり日の相談をはじめました。こちらはこの週の日曜日に決定。それまでにどんな配色にするか考えておかねばなりません。

あらためて見回すと、ボロボロの新居のなかでも、とくにその印象を強くしているのが壁だとわかります。はげていたり、黒ずんでいたり、ところによって穴が空いていたり。逆に言うと、壁さえきれいにしてしまえばイメージはがらっと変わるはずです。壁にかけられる予算は20万円といったところ。それでどこまでできるか。妻の目利きを信じるほかありません。

気になる窓のヒビと荒れ放題の庭

あと気になるのは、やはりリビングのガラス窓です。足元に入った小さなヒビ。全体から見るとわずかなものだけれど、幼い子どものいる身としては放置できません。

「うーん。テープで強化するとかできないものかな」
近寄ってみると、ヒビの向こうに草ぼうぼうの庭も見えました。
「庭もなんとかしなきゃな」
「そうだね」
草刈りに誰かを雇うような予算の余裕はなし。といって時間的に余裕があるわけでもないのだけれど、草刈りは自分たちでやるつもりです。

「しかしこの庭、相当手強そうだぞ」
庭はいったいどれだけ放置されていたのか、ただ雑草が伸びているというだけではなく。まるでそこいらじゅう罠でも仕掛けたかのように蔦のようなものが幹を張り巡らせていて、それが場所によっては腰くらいの高さにまでなっています。へたに踏み込んだが最後、絡め取られてしまいそうな雰囲気です。その下はというと、ドクダミが大勢力ではびこっています。草刈りの際にはこのギャングみたいな草たちに一斉にご退去願わなくてはなりません。

「いま見るのやめときなよ。やるときに考えよう」
妻に言われて、「そうします」と、筆者は開けていたシャッターを閉じました。

夜、家に帰ってから、あらかじめ用意しておいた引っ越し代や、年内分の住宅ローンなどを妻に渡しました。今日は大金を引き出したばかりだし、この先リフォームでもっと残高が減る妻の口座に少しくらいは足しておきたいと思ったのです。

「こんなに先の分まで、いいの?」
「だってトン子(仮名)は今日いっぱい使ったじゃないか」
お金の入った封筒を差し出す筆者に、妻は「使ったのは2人のお金だよ」と言いました。
「いや、なんか申し訳なくて。名義そっちだし」
「なあに? 私に家を買わせた気でいるの」
「いやいや、そういうわけじゃなくて……」
なんだか面倒な展開になりそうなので口をつぐみました。妻はというと、いつになく嬉しそうな顔をしています。
その顔を見ていると、とうとう家を買ったのだなという実感が湧いてきました。

プロパンガスのボンベは撤去することに

翌朝、仕事に入る前にネットでガラス窓の業者をさがしました。しかし、依然として「これだ!」と直感できるような業者に当たりません。

午後、東京ガスのYさんが契約書類の控えを携えてやって来たのでガラス窓と並んで気になっていたことを相談してみました。
「残っているプロパンガスの備品とかって、どうすればいいんでしょう?」
新居の東側の壁際にはまだプロパンガスのボンベが置いてあります。都市ガスに変えるとなったら無用の長物です。

「それなんですが……」
Yさんもこの件について話したかったようで、鞄から書類を出してみせました。
「この書類に必要事項を記入していただければうちの方で撤去いたします」

書類にはプロパンガス業者の情報も必要だったので、この日の夕方、娘のお迎えの前に新居に寄ってガスボンベに記してある業者の社名を確認しました。ついでに交換するリビングのガラス窓の寸法をメジャーではかりました。枠のサイズは横が1200㎜で縦が1830㎜といったところ。いままで筆者が住んだ家で、1枚の窓がここまで大きい家ははじめてです。

ともあれ、処理に困っていたガスボンベの撤去が決まって万々歳といったところでした。

ガラス屋さんが決まった!

翌日もガラス屋さんさがし。筆者が小説の校正作業で忙しいので、今日のネット検索は妻におまかせです。前の晩、めずらしく職場の同僚と飲みに出かけた妻は「ううう、二日酔いだよ~」と布団の上で呻きつつ、それでもスマホをタップしまくっています。

午後4時、水回りの工事をお願いしているMさんの会社に新居のスペアキーを持って行きました。帰り道、クルマを運転していると妻から電話が鳴りました。
「ガラス屋さん、見つけたよ。5時半に見積もりに来てくれるって」
「どこのガラス屋さん?」
「子安だって。個人経営みたい」
「よく見つけたね」
また口コミのいいところをひたすら探したようです。
「電話かけたら、はい、ガラス屋でーす、だって」
ノリの良さそうな業者さんのようです。

時間がないので、新居でガラス屋さんを待ちました。やって来たのはガラス屋のRさんと助手のお兄さんでした。
「ありゃりゃ、大きいですね。電話でお聞きしたときはもっと小さいのかと思いました」
妻がなんと言ったのかわかりませんが、Rさんは窓を見るなりびっくりです。
「これ、やっぱり交換した方がいいですよね」
筆者がヒビを指差すと、助手のお兄さんがヒビをさすりました。

「このヒビならそんなに広がりはしないですよ」
業者ならば即交換を勧めてくると思いきや、意外な言葉でした。Rさんも「心配ならテープを貼って使えばいいですよ」と筆者も考えたことを口にします。
ただ、「さすがに長い時間のうちに空気がもれて断熱効果は薄くなっている」し、「子供さんがぶつかったときの保証はできないかな」といいます。やはりここは交換です。

とりあえず採寸、ということになりました。これは思っていた以上の大仕事でした。

いったんガラスを枠から外すのだけど、まず窓枠をレールからはずすのがたいへん。そのうえ枠をばらしてガラスを出すのがひと苦労。外での作業となるものだから、荒れ放題の庭に出なければならないしでよけいに面倒。しかもはずしたガラスはやたら重く、扱いに難儀します。

なんとかはずして正確な寸法やガラスの厚さをはかったはいいものの、今度はもとのレールにはめるのに大苦戦。最後は筆者も手伝って、3人でうんうん言いながら、どうにか力技で元に戻しました。
プロですらこんなに苦労するとは。これだけでお金を払いたいくらいです。

はかってみたペアガラスのガラス窓は、1枚の厚さが4㎜という珍しいものでした。見積もりは問屋に値段を確かめて、そこに工賃を乗せた額、ということになりました。
今回は、他にリビングの網戸と2階の網戸も張り替えてもらうこととしました。リビングは1万円で2階は3,000円程度と、これはすぐに金額が出ました。

「全部で10万円とかいっちゃいますか?」
ペアガラスは相当いくだろうと覚悟して尋ねてみました。
「いやいや、そこまでは」とRさん。10万円まではいかないとわかってこちらはホッとしました。キャンセルしたTさんの会社の見積もりでは20万円だったのです。

「それじゃ、見積もり出たらファックスしまーす!」
ノリよくRさんは軽トラックを走らせて去って行きました。メールやLINEでなくファックスというところが昔ながらの個人経営という感じで、なんだか和ませてくれる人でした。

引き渡し日から数えて3日目でガラス窓も解決です。自分たちが頑張って動いたぶん、物事が前に進んでいく。その手応えは悪いものではありませんでした。

(リフォーム編その⑨へつづく)

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。