個人事業主が事業に必要な車を購入する場合「経費で落とすことができるのか」「家事按分の割合はどうやって決めたらいいのか」「ローンを組んだ場合も、経費にできるのか」など、さまざまな疑問が浮かぶと思います。本記事では、個人事業者の車と経費の関係についてわかりやすく解説します。
個人事業主の車は、経費の対象となる?
私も個人事業主として事業に車を使用していますが、「自動車と経費」の関係は、常々わかりにくいと思っていました。
結論から言うと
- 仕事(事業)でのみ使用する→経費の対象
- 仕事(事業)とプライベート併用→家事按分を行い、事業に関する分だけ経費の対象
- プライベートのみで使用する→経費の対象外
です。
家事按分(かじあんぶん)とは
事業とプライベートの利用が混在しているものに対し、合理的(一定の根拠がある)に分けることです。個人事業主本人が、自分のルールに基づいて分けることができます。
ただ、注意したいのは、客観的に見ても納得できる分け方であること。走行距離数や運転する日数など、計算しやすい方法で考えると良いでしょう。
(例1)
1ヵ月の平均運転距離が300km、そのうち仕事で走ったのが150km
→50%を経費にする
(例2)
平日は事業用として使い、土日はプライベートに使う
1ヵ月(30日)のうち、22日が事業用
→73%を経費にする
ここで決めた家事按分が、車に関する他の費用にも関係してきます!「なんとなく」で決めないようにしましょう。
自動車購入費用と「減価償却」の関係
自動車の購入費用は、交通費や宿泊費、文房具などを購入する金額とは異なり、高額です。そのため、「減価償却」の考え方が適用されます。
減価償却とは、簡単に言うと「年単位で使用を継続する高額な商品を、定められた耐用年数に応じ、分割して経費を計上する」ことです。
確定申告の方法により、「高額」とみなされる金額が異なります。
- 白色申告→10万円以上/件
- 青色申告→30万円以上/件
さらに減価償却は、価値の変動により次の2種類に分けることができます。
減価償却資産 | 非償却資産 |
所有期間の経過により価値が減る | 所有期間が経過しても価値が変わらない |
建物、機械装置、車両運搬具など | 土地、骨董品など |
自動車は、時間が経てば経つほど価値が減っていくため「減価償却資産」に当てはまります。
新車購入の場合
減価償却の計算の際には「法定耐用年数」を使用します。同じ「自動車」であっても、用途や排気量により、細かく定められているため、自分が使用している車が当てはまる箇所を探してください。
下記は、新車の法定耐用年数です。
構造・用途 | 耐用年数 |
軽自動車 | 4年 |
普通自動車 | 6年 |
積載量2トン以下の貨物自動車(運送業で使用) | 3年 |
積載量2トン超の貨物自動車(運送業で使用) | 5年 |
新車で軽自動車を購入した場合であれば、4年ということになります。
計算方法は「定率法」「定額法」の2種類ですが、一般的に個人事業主の場合は、基本的に耐用年数を経費で割る「定額法」を使用し、計算します。法人の場合は「定率法」を使用しますが、税務署に届け出ることで、個人事業主も定率法を選ぶことは可能です。
- 定率法=残存価格(取得価額−償却累計額)×定率法の償却率
- 定額法=取得価額×定額法の償却率
中古車を購入した場合
中古車を購入した場合の耐用年数は、どうなるでしょうか。
中古車の場合の耐用年数は
(新車購入時の耐用年数−経過年数)+ 経過年数×20%
の式で計算します。
1年未満の端数は切り捨てとなり、2年以内になる場合は、一律で2年として計上します。
中古の軽自動車(3年落ち)を購入した場合を例に挙げてみます。
(4年-3年)+4×20%= 1年+0.8=1.8
1.8年、つまり2年以内となるため、この軽自動車の耐用年数は2年です。
では、普通自動車7年、軽自動車5年など、すでに法定耐用年数を超えている場合はどうなるでしょうか。
この場合は、法定耐用年数×20%にて計算します。普通自動車、軽自動車ともに計算上2年以内となるため、耐用年数は2年です。
ローンでの購入
ローンで車を購入した場合は、少し複雑になります。
- 車両運搬具として固定資産に計上
- 減価償却を行い、経費として計上
- ローンを「長期未払金」に計上(負債に分類)
- 利息は「支払い利息」として経費に計上
ローンの元本返済部分は、経費にできない点に注意しましょう。
車本体以外にも経費にできるものをチェック
車を所有することにより、さまざまな費用が発生します。ただ、経費として計上できるものも多いことをご存知でしょうか。特にフリーランス、個人事業主として活動したばかりの頃は知らずに損していたということも。
改めて経費にできる内容について勘定科目と共に、確認しておきましょう。
もちろん、ここでも100%事業用の車でないならば、家事按分の考え方は必須です。
ガソリン代
車に必須のガソリンですが、ガソリン代には勘定項目の指定がありません。「車両費」「旅費交通費」「消耗品費」など、事業内容に合わせて選ぶと良いでしょう。
イメージとしては
- 一般的な事業(車の使用がメインではない)→車両費
- 車の利用が多い事業→旅費交通費
- ほぼ車を使用しない事業→消耗品費
ですが、上記以外の分け方でも構いません。ガソリンの消費が多い事業であれば「燃料費」といった別項目を設ける方法もあります。
ガソリン代の勘定項目は、ある程度自由に決めることができますが、途中で変更してはいけません。本人としては深い理由がないとしても「意図的に経費を増やそうとしているのでは?」と勘繰られる可能性もあります。一度決めた勘定項目は、そのまま使い続けるのがルールです。
自動車保険料
車の保険には「自賠責保険」「任意保険」があります。どちらも「車両費」または「損害保険料(支払保険料)」で処理するケースが多いです。
ただ、ここで注意したいのは処理方法の違いです。
1年分以上の保険料を一括で支払った場合、次のようにやるべきことが変わります。
自賠責保険 | 任意保険 |
支払った会計年度中に全額経費計上 | 「長期前払い費用」として資産計上 経過期間ごとに家事按分 |
税金
自動車を取得、所有することで次の税金の支払い義務が発生します。
- 自動車税
- 自動車重量税
- 自動車税環境性能割
勘定項目は「租税公課」にて処理しますが、自動車税環境性能割は自動車の取得価格に含めることも可能です。(取得価額が50万円以下の場合、自動車税環境性能割は課税されません)
税金の中でも、自動車税の延滞金は「経費」として計上できないため注意しましょう。
交通反則金も経費としては計上できません。安全運転を心がけましょう!
駐車場代
車の駐車場代は「地代家賃」として計上します。家賃と同じ扱いです。
(例)自宅マンションの駐車場料金:2万円
家事按分:50%
→1万円分を経費として計上
また、コインパーキングの利用料金は事業に関する費用であれば、100%を経費計上できます。「旅費交通費」の勘定項目が選択されるケースが多いものの、これも厳密に決められているわけではありません。
例えば、研修先で駐車した場合は「研修費」、取引先との接待のために駐車した場合は「交際費」など、駐車の目的に合わせて選ぶこともできます。また、年間を通してコインパーキングの利用頻度が少ない場合は「雑費」としてまとめることもひとつの方法です。
こちらもガソリン代の処理同様、途中でルールを変えないようにしましょう。
ちなみに私はコインパーキング利用時の駐車料金は「旅費交通費」として処理しています。
目的別に仕訳する方法もありますが、毎回目的を考えるのが面倒だと思ったことが大きな理由です。「旅費交通費」、便利ですよ!
車の維持に必要なアイテム・メンテナンス費
タイヤやオイル、ワイパーのゴムなど、車に関するさまざまな消耗品も、経費計上が可能です。こちらも特定のルールはないものの、車に関する費用として「車両費」に入れておく考え方が一般的です。
タイヤ交換費用やオイル交換費用も、経費として計上できますが、ここでも家事按分が適用される点に注意しましょう。
個人事業主の車の経費に関するよくある質問
最後に、個人事業主の車の経費に関するよくある質問にお答えします。
Q.個人事業主の車の経費は、何%までOK?
A.実際に事業で使用する割合に応じて決めるため、何%までならOKと言い切ることはできません。ただ、個人事業主の車の場合、100%を経費とするのは無理があるように思います。走行距離や稼働日数から、客観的なデータを出して決めるのが良いでしょう。
Q.個人事業主の経費計上できるのは、車何台まで?
A.事業に必要であれば、所有台数に制限はありません。個人事業主でも、複数の社員を雇うケースや、営業用・運搬用など用途別に車が必要なケースもあるためです。ただし、「事業で必要」と言える客観的な理由があることが必要です。
Q.個人事業主の車の経費は、いくらまで?
A.青色申告の場合、30万円までの車であれば、一括で経費計上が可能です。30万円超の場合は、減価償却が必要となります。経費計上できる金額は、家事按分のパーセンテージにより異なります。
Q. 妻(または夫)名義の車に関する費用も経費計上できる?
A.同一生計の親族(家族)名義であれば、問題ありません。経費計上できます。
事業目的で使う車。正しく理解し、計算しながら、節税にも役立てていきましょう。
文・柚月朋子
フリーランスとしての経験やポイント投資からスタートした経験を活かし、年間200本以上の記事を執筆・監修。投資初心者にわかりやすい記事執筆が目標。