内見から数えて5ヶ月。リフォームした中古物件にいよいよ入居の日が来ました。引っ越し当日も作業や工事はてんこ盛り。はじめてのマイホーム購入とリフォームにまつわるドタバタ劇もゴールが近づいてきました。
引っ越し中に自分で床拭き
引っ越し当日。朝は6時に起床して、2歳の娘を保育園に連れて行きました。娘に「この家から保育園に行くのは今日が最後だよ」と教えましたが、本人はわかっていない様子です。園の帰りは、早めに来るというガラス屋さんのために新居の鍵を開けておきました。
家に戻り、最後の段ボール詰めをしていると引っ越し屋さんが来ました。チームリーダーのOさんに荷物を見せると「3回に分けて運びます。午前中に2階をやって、午後に1階の荷物を運びます」とのこと。そうこうしている間にも、宅配便が来たり、リビングのエアコンの取り外しに業者さんが来たりと、朝から慌ただしいことこのうえありません。
旧居は妻と義母にまかせて、自分は新居へ移動。すでにガラス屋さんが来ていて、リビングの窓を取り外しています。前回の見積もりで作業に苦労したからか、今日は1人増えて3人体制。前にも書きましたが、交換するリビングの窓は通常よりも大きなサイズのペアガラスです。今回はこれに網戸の張り替えや助っ人の作業員さんの人件費をなど含めて、最終的には9万9000円の支払いとなりました。
新居に引っ越し屋さんが来たので、2階をお見せして作業に移ってもらいました。その間にガラス屋さんはペアガラスや網戸を交換。自分はというと、作業は業者さんたちにお任せして近くのディスカウントショップに雑巾と洗剤、コンビニにガラス屋さんの領収書に貼る収入印紙やペットボトルの飲料を買いに行きました。
新居に帰ると、引っ越し屋さんたちは休憩入り。作業の終わったガラス屋さんに支払いをして「おつかれさまでした」とコンビニに買った飲料を渡しました。ノリのいいガラス屋さんたちは「どうもー」と手を振って軽トラで去って行きました。これでヒビの入っていた窓も新品が入って再生です。娘の体当たりにもきっと耐えてくれることでしょう。
家が空になったところで、筆者は予定していなかった作業にとりかかることにしました。
「………この床、我慢ならん!」
そうなのです。あらためて眺めたLDKの床のあまりの汚さに、部屋が空のうちに掃除したいと思ったのです。ディスカウントショップで買った雑巾と洗剤はそのためのものです。
見ると床は正体不明の黒ずみや汚れだらけ。いったいぜんたい、昨日のハウスクリーニングはなんだったのでしょう。
築19年目の物件だけに床が汚れているのは仕方がありません。どこまで汚れが取れるのかわからないけれど、きっと拭けば取れる汚れもあるはずです。ということで、まずは雑巾で水拭きにとりかかりました。
濡れ雑巾を絞って、リビング、キッチンと拭いてみました。キュッキュッとこすってみると、案の定、汚れがけっこう落ちてきます。昨日のハウスクリーニングがいかにいい加減だったかがよくわかります。頑固そうな汚れも、雑巾越しに爪を立ててみるとポロリと取れたりします。やっていて、水拭きだけでもけっこういけることに気がつきました。
LDKはまだエアコンが付いていないので汗だくだく。でも、気分的には悪くない汗です。1時間ほどかけて水拭きは終了。思った以上にきれいになってくれたので、そのあとに予定していた洗剤を使っての拭き掃除はやめにしました(体力的にも厳しかった)。
エアコン業者さんに工事費の相場を尋ねる
午後、引っ越し業者さんが1階の荷物を運んできました。
そこにエアコン業者さんも到来。業者同士で場所を譲り合ってもらって、旧居から運んできたエアコンを取り付けてもらいました。LDKのエアコンはホースが外から丸見えなので化粧カバーをつけてもらいました。費用は9000円。安い業者さんだと7000円くらいで済むはずですが、この種のその場で判断しなければならない工事はどうしても相手の言い値に従うことになってしまいます。
業者さんは2人組。1人が作業をしている間に、もう1人のお兄さんに、気になっていたカースペースに室外機を置く2階のエアコンの工事費について「これ、いくらくらいになるでしょう?」と尋ねてみました。
「この感じだと、5、6万ってところじゃないでしょうか」とお兄さん。
「この間、別の部屋のエアコンを取り付けに来た業者さんに訊いたら7万って言われたんですよ」
「ああ、業者さんによって値段が変わるんですよね。ぼくらも他の業者さんがいくらでやっているのか知らないんです」
「8月1日に工事の予定なんですけど、もしあんまり高かったらどうすればいいでしょうね」
「その場で断るという手もありますよ。そうしたら工事会社の方で別の人を手配すると思います」
なるほど、その場で断るという手もあるようです。ただ、これは実際にやるとなると気持ち的にちょっとしんどいです。それに、もし断ったらまた工事が延期となってしまいます。
「例えばの話、もしお兄さんたちにお願いしたいと思ったらどうすればいいんですか?」
「ぼくたち、勝手にお客さんから仕事をもらったら工事会社から干されちゃうんですよ」
エアコン取り付けの世界もけっこう厳しいようです。
「うーん」と唸っていると、お兄さんは「でも、何かご相談があったらこの番号にいつでも電話してください」と携帯の番号を教えてくれました。いざとなったら頼れる先があるというのは助かります。
取り付けたエコアンは「中の水が乾燥するまで、できれば1週間は使わないでください」。エアコンは移設する場合、中に水があったりすると故障の原因になるから、というのが理由です。とはいえ、夏に1週間の使用禁止は過酷です(試しに次の日から使ってみたら普通に使えた)。
エアコンの移設費用は引っ越し代込みですが、その他、化粧カバー代や部品交換などで2万1300円を支払うことになりました。これが終わるや、今度はガス屋さんが火災報知器の設置に来訪。今日は、入れ替わり、立ち替わりでいろんな人が来ます。
引っ越し屋さんの作業も終了。支払いは見積もりどおりの11万円でした(エアコン移設工事代込み)。
家の中は荷物だらけです。最後に確認のサインを完了。そこに旧居での用を済ませた妻が来ました。もう夕方だったので目の前の保育園に娘を迎えに行きました。娘と妻はさっそく新品のバスルームで初シャワー。筆者はクルマでスーパーに買物に行きました。
想定外の娘の涙にびっくり
買物から戻った筆者を待っていたのは、思わぬ娘の一言でした。
玄関ドアを開けると、シャワーを浴びてさっぱりしたはずの娘が、なぜか涙目で寄ってきました。
「どうしたの?」と後ろにいる妻に問うと、かわりに娘が答えました。
「パパ、おうちに帰ろう」
がああああん! まさかの一言に「え……」と絶句するパパです。娘はこの新居に来るたびに「おうちー」とはしゃいで駆け回っていました。引っ越しもすんなり受け入れてくれるものと思っていたのですが、ここに来てまさかの旧居へのホームシックです。
「ポン子ちゃん(仮名)、ごめん!」
妻が娘に謝りました。
「ママ、自分と同じ思いさせたくないからあなたが小さいうちに引っ越そうと思ったんだけど、もうわかるんだね」
妻は10歳のとき、学期の途中だというのに引っ越しと転校を体験したことがありました。そのときは新居で目を覚ますたび、「なんでここにいるんだろう」と泣きたい気持ちになったといいます。
「ポン子ちゃん、今日からここがおうちなんだよ」
こんなとき、親としてできるのは抱きしめてあげることくらいです。悲しそうな顔をしている2歳児を抱っこしてあげると、娘はポロポロと涙を流します。娘のために買った、保育園が目の前という我が家。けれど、便利になるのは親だけで、2歳の娘にはそんなことは関係ない。もしかしたら、これは親のエゴだったのだろうか。一瞬、そんなことが頭を過ぎりましたが、すぐに「いやいや、そんなことはない」と思い直しました。
きっと娘もすぐに慣れるはず。そうすれば、旧居に比べて圧倒的に利便性の高いこの家での暮らしを楽しむようになることでしょう。
引っ越しの日に届いたプレゼント
自分もシャワーを浴びて、新居での初晩餐です。家の中は荷物でごちゃごちゃ。夕食もさすがにすぐに食べられる惣菜が中心です。
娘は泣いたことも忘れて焼き鳥やタコをぱくぱく。食後は2階の和室にあがって3人で横になりました。娘は旅行先のホテルや旅館などではいつも大はしゃぎして物怖じしないのですが、引っ越しとなるとまた違うようで、「寝ようね」と電気を暗くしようとすると普段と違って「電気つけよう」と嫌がります。それでもパパやママが一緒なので、しばらくすると安心して眠りました。ほどなくして妻も入眠。引っ越しで疲れているので無理もありません。
疲労困憊は自分も同じ。しかし、目が冴えて眠れそうにはありません。それに自分にはまだやりたいことがありました。
1階のリビングに下りて、冷蔵庫からビールを出してグラスに注ぎました。そして、今朝、旧居に宅配便で届いた小ぶりのダンボール箱を開けました。
出てきたのは、この夏に出る著書の見本です。自分にとっては1年ぶりの新刊。10冊入っている見本のうち1冊を手にとってテーブルに置きました。海に浮かぶ船と主人公の女性を描いたカバーイラストがとてもかわいい。イラストレーターさんやデザイナーさんのおかげで素敵な本ができました。
偶然とはいえ、引っ越し当日に新刊が届くなんて、版元もなかなか気の利いたことをしてくれます。担当のFさんやJさんに感謝です。
さっそく本を開きました。つい1ヶ月くらい前までゲラと格闘していた作品ですが、完成した本となるとまた新鮮な気持ちで読めます。
ビールを飲みながら、眠くてくらくらになるまで文字を辿りました。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。