「ひな祭り(桃の節句)」や「七夕(七夕の節句)」で、日本人には子供の頃から馴染みのある節句。そもそも節句とはなにを意味するものなのでしょう。1年に5回巡ってくる節句について簡単に説明します。
中国伝来の五節句
節句(せっく)とは、年に5回、奇数の並んだ日(季節の変わり目)に五穀豊穣や無病息災などを祈って神様にお供えをしたり、旬の野菜などで特別な料理をつくって邪気を払うことを目的とした年中行事で、2,000年以上前に中国で生まれたものだといわれています。
日本に伝わってきたのは唐の時代(7世紀~11世紀)。節句は公家社会や武家社会に取り入れられ、七夕祭りなどの風習ができていきました。これが庶民の年中行事となったのは江戸初期のこと。徳川幕府では年間に何回もあった節句のうち、1月7日の「人日の節句」から9月9日の「重陽の節句」までの5つを選び、これを五節句として幕府における公式行事としました。ほどなくしてそれは町人や農民の間でも広まり、現在の五節句となりました。
五節句には以下のものがあります。
- 1月7日 人日の節句(七草の節句):七草粥を食して一年間の無病息災を願う節句。
- 3月3日 上巳の節句(桃の節句):雛人形、桃の花などを飾って女の子の成長と誕生を願う節句。ひなあられやチラシ寿司、菱餅、ハマグリ、白酒などを食す。
- 5月5日 端午の節句(菖蒲の節句):男の子の誕生と成長を願い、菖蒲湯に浸かったり、柏餅やちまきを食する。五月人形(兜、鎧)や鯉のぼりなどを飾る。
- 7月7日 七夕の節句(笹の節句):願いを書いた短冊や飾りを笹に吊るし、豊作を祈願するとともに裁縫や機織りなどの技術の上達を願う。素麺を行事食とする。
- 9月9日 重陽の節句(菊の節句):菊の花を飾ったり食べたり、菊湯に浸かったりして邪気を払い、長寿を願う。食卓には栗ご飯や秋茄子、菊酒などが振舞われる。
日付を見ているとわかるように、五節句は奇数の日と決まっています。これは陰陽五行思想が関係しているからです。陰陽五行思想において奇数は縁起の良い陽数であり、偶数は縁起の悪い陰数とされています。奇数が重なる日は足すと偶数になるため、邪気を払うために旬の恵みを食べるという習慣が生まれ、この日が節句となりました。ただし1月1日に関しては元日であることから別格の扱いとなり、1月については7日が節句とされました。
よく聞く「春の七草」とは
1年でいちばん最初にくる五節句は1月7日の「人日の節句」です。旧暦だった昔は、野に生えているこの季節では貴重な7種類の野菜=せり、すずな(カブ)、なずな、すずしろ(大根)、はこぺら、ごぎょう、ほとけのざ=を七草粥というおかゆにして食べて、その年の豊作や無病息災を祈りました。
新暦になってからもこの習慣は引き継がれ、七草粥用に栽培された野菜が1月7日に合わせて店頭で売られるようになりました。
現在は毎年、この時期になるとスーパーで「春の七草」のセットが売られています。野菜を刻んで塩で味付けした素朴な粥は、お正月の休みについ飲みすぎたり食べすぎたりしてしまった体に優しく、体調を整えるという意味でも人々に愛されています。
なお「人日の節句」の人日とは、文字通り「人の日」を意味します。
中国では古来、正月の1日から6日までを、鶏や犬、豚、羊、牛、馬などの家畜の日とし、その日はそれらの動物を屠畜しないと定めていました。そのあとにくるのが7日の人日で、この日は罪人の処刑など、人を殺めることは行わないとされてきました。他にこの日は元七(がんしち)、人勝節(じんしょうせつ)、霊辰(れいしん)などと呼ばれることもあります。
重陽の節句で金運と健康運アップを!
現代にも伝わっている五節句の風習。1月には七草粥を食べ、3月にはひな祭りを楽しみ、5月には鯉のぼりを風に泳がせ、7月には笹に短冊を吊るす。こうした習慣は学校行事などにも取り入れられているため、日本人の共通体験となっています。
そのなかで、あまり一般的でないのが9月9日の「重陽の節句」です。社寺などでは菊を飾ったり、菊酒を振舞ったりといったことを行っていますが、わざわざ自宅に菊の花を生けたりしている家庭はそんなに多くはありません。廃れてしまった理由は、旧暦から新暦へと変わったことで花の咲く時期と暦にずれが生じてしまったからだといいます。
考えてみれば、これはとてももったいないことです。
そもそも「重陽の節句」の「9」という数字は奇数のなかでは最大のもの。最大の陽数である9が重なっているだけでなく、1年の締めくくりの節句でもある「重陽の節句」には他の節句にはないほどのパワーがあるはずです。
重陽の節句にしっかりと菊を食したり、飾ったりすれば、無病息災(不老長寿・健康運)も五穀豊穣(豊作・金運)も他の節句以上にかなうはずです。
菊にはさまざまな色がありますが、重陽の節句で飾りたいのはやはりベーシックな黄色い菊です。黄色い菊には「やぶれた心」といった悲しげな花言葉がついていますが、それだけではなく「長寿と幸福」という花言葉もあります。節句という舞台で菊が担うのは、言うまでもなく後者の役割です。また黄色は金運とも相性のいい色とされています。
現代では菊も品種改良が進み、手に入れやすくなっています。重陽の節句をあらためて生活の中に加えてみてはいかがでしょう。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。