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コワーキングスペースの開業 予算はいくら? 補助金は使える?

自宅や会社の外でも仕事や勉強に集中できる空間として人気のコワーキングスペース。自分で経営するにはどんな準備が必要なのでしょうか。開業に向けて必要なこと、ノウハウなどを簡単にまとめてみました。

コワーキングスペースとは

コワーキングスペースは、シェアオフィス(レンタルオフィス)などと同じフレキシブルオフィスの一種です。

シェアオフィスが企業や団体を対象にオフィスや会議室を提供(レンタル)しているのに対し、コワーキングスペースはどちらかというと個人が対象。床面積もレンタルオフィスに比べて小さく、5~50人程度の利用者を想定しているものがほどんとです。利用者はフリーランスや在宅ワークなどのビジネスパーソンが中心となっています。

国内のコワーキングスペースについて調査研究している一般社団法人大都市政策研究機構の調査によると、新型コロナウイルス感染症が流行する2019年の6月時点で全国に799あったコワーキングスペースは、同感染症の流行拡大にともなうテレワーク(リモートワーク)の普及に合わせるように急激に増加し、2024年12月時点では2042施設を数えるまでになりました。現在はおそらくそれ以上の数となっているはずです。

コワーキングスペースを実際に利用したことがあるという人はかなり多いのではないでしょうか。以前はこうしたスペースは専用のオフィスを持たないフリーランスやスタートアップ企業の人たちが顧客の中心でしたが、最近では在宅ワークや外回りのビジネスマンが利用するするケースが増えています。

ちょっとした人との打ち合わせやパソコンを開いての作業ならカフェやファーストフード、ファミリーレストランでもできるけれど、機密情報を扱うときや静かな環境で集中したいというときはコワーキングスペースの方が目的に適っています。

コワーキングスペースの利用方法は施設によって変わりますが、料金についてはその都度支払うドロップイン型と月額制(定額制)のどちらかを選ぶといった形が多いようです。この他、定額制までは利用しないものの頻繁に来るリピーター向けに回数券などを販売している施設もあります。

個人経営の施設が多いこともあって、内装や雰囲気もさまざま。街中であればオフィスや店舗だった物件をカフェ風に改装して使っているところがほとんどです。

内部は高速WiFiが利用可能、USBや電源のコンセントが付いたデスクやテーブル、椅子が配置され、集中した作業ができるような空間づくりがされています。施設によってはコピー機やプリンター、スキャナー等が使えたり、ミーティング用やイベント用のスペースがあったり、人との会話や電話が可能なスペースと会話禁止のスペースに区切られていたりもします。またコーヒーやお茶、軽食を提供してくれる施設もあります。

これも施設によりけりですが、なかには住所のレンタルサービスを提供しているろころもあって、登録すると郵便物などに受け取りや法人の登記などに使うことができます。

営業形態は、有人式、もしくは無人式。有人式の場合はスタッフが常駐していて、利用の手続きを受け付けてくれます。無人式の場合はネットで日時や利用時間を予約し、クレジットカードなどで電子決済、施設の鍵を開けるパスコードを受け取って利用するというパターンになります。なかには時間帯によって有人と無人、両方の利用方法を使い分けている施設もあります。

営業時間は、24時間開業している施設もあれば、ビジネスアワーのみという場所もあります。料金はドロップインで1時間500円程度、1日だと1,000円程度(高いところで2,000~3,000円)。月額で5,000円~3万円程度となっています。住所利用は月1万円前後。平日と土日で利用料金が違っていたりする施設もあれば、学生向けに割引サービスを提供している施設もあります。

コワーキングスペースは有望市場

官公庁や民間企業、学術機関などに向けてさまざまな調査研究を情報発信している日本能率協会総合研究所の調べでは、コワーキングスペースを含むフレキシブルオフィスの市場規模は、2020年度に800億円だったのが2024年には1,550億円、3年後の2026年には2,300億円になると予想されています。

このうちコワーキングスペースが占める割合がどれほどのものになるかはわかっていませんが、かりに3分の1だとしても2024年時点で約500億円。施設数をかりに2,500とした場合、平均すると1施設あたり年間2,000万円の売上となります。これはあくまでも平均を大雑把に試算した数字に過ぎませんが、コワーキングスペースは飲食業などの他の業種に比べてランニングコストが安く抑えられることを考えれば、十分に採算がとれ、黒字経営が可能な業態であることを示唆しています。

例えば、1日の利用料が1,000円/1人、年中無休で1日30人のドロップイン利用者がいたとして、1日の売上は3万円。

これを1ヶ月(30日)で計算すると、売上は90万円。コワーキングスペースは飲食業のような原価はかからないので、光熱費などや施設の賃料を差し引いても相当な額が利益として残ります。

かりに諸々の経費が20万円、スタッフの人件費が30万円としても40万円の手取り収入となります。あとは初期費用をどれくらい回収できるかです。成否の分かれ目は稼働率(利用者数)。ここをしっかり確保できればコワーキングスペースの経営は十分成り立つはずです。

開業へ向けての準備

「コワーキングスペースを開業したい!」

 そう思ったら、まずは実地検分です。日常、自分が生活している範囲内でもいいし、どこか好きな街や気になる場所でもいいので、何ヶ所かのコワーキングスペースをまわってみましょう。

客として利用して、どんな空間だと居心地がいいのか、どんなサービスがあると便利なのか、体験してみることで自分が手がける施設のコンセプトが見えてくるはずです。

見学時は、有人タイプの施設なら、オーナーや施設の責任者と言葉を交わすことができるかもしれません。「実は自分もコワーキングスペースの開業を考えているんです」と正直に言えば、当事者ならではのアドバイスや苦労話、耳寄りな情報などが聞けたりするかもしれません。

どんな内装や設備の施設にしたいか、それがある程度頭に描けるようになったら、開業する場所を決めましょう。コワーキングスペースを開くのに適した場所は以下のようなところです。

・ターミナル駅周辺
・急行・快速等の停車駅の周辺
・競合が少ない地域
・繁華街(商店街)

他にも大学の近くや再開発されて商業施設が並んでいる地域なども狙い目です。また、そこにあるカフェやファーストフードを覗いてみて、客にパソコンを開いている人が多かったりしたら、潜在的ニーズがあるとみなしていいでしょう。

施設を開く場所が決まれば、次は物件探しです。ポイントとなるのは以下のような要素です。

①床面積
床面積は利用者数によって変わってきます。逆に言うと床面積によって利用者数が変わります。あまり窮屈な空間では敬遠されてしまうので、1人あたりのスペースはある程度確保する必要があります。
かりに利用者数を30人とするなら、床面積は30坪程度(70平米弱)はほしいところです。受付カウンターなどを置くことも考えるともう少しあってもいいかもしれません。もちろん、床面積は広ければそれだけ賃料は上がってしまいます。25坪程度でも物の配置を工夫すれば30人が利用できる空間をつくることはできます。

②環境
物件がどんな場所にあるのか。望ましいのは、もちろん静かな環境です。コワーキングスペースの場合、物販や飲食を目的としたものではないので、必ずしも路面店である必要はありません。むしろビルの上階の方が外と隔絶していていいかもしれません。賃料も1階の物件に比べて安いはずです。

③駅からの所要時間
駅からの距離はやはり近い方が有利です。できれば駅から徒歩で5分以内、それが無理でも7~8分以内の場所で開業したいものです。もちろん、何か人を惹きつける付加価値があればそれ以上遠くても足を運んでもらえます。

④トイレの有無
トイレが施設内にあるのか、それともビルの共用トイレを使うのか。施設内のトイレは便利ですが、たいていの場合はひとつしかありません。共用の場合はいったん外の廊下に出たりしなければなりませんが、男女それぞれのトイレがある場合がほとんどです。理想は施設内に男女それぞれのトイレが独立してあること。ただその場合、トイレ掃除は自分たちで行うことになる可能性があります。

④管理体制
建物の管理体制はどの程度行き届いているのか。ここは大事なポイントです。少なくとも不潔だったり非衛生的な物件は避けたいところです。また冷暖房などの空調施設も正常に稼働するか確認しておきましょう。合わせて火災の際の避難経路が確保されているかどうかなどもチェックしましょう。

⑤賃料
経費の中でも人件費に次いで大きな出費となるのが賃料です。目安となるのは売上に対して10%以下。月に30日営業するなら3日分程度の売上の範囲内でおさえることです。これが3日ではなく2日分や1日分ならなおけっこうです。
1日に5万円の売上があるのなら30日で150万円だから、賃料は3日分で15万円以内。1日
3万円なら賃料は9万円です。もし1日10万円の売上が見込めるなら、賃料は30万円の物件を借りることができます。とはいえ、月の売上ははじめてみないことにはわからないもの。最初は少なめに見積もる方が無難です。

物件を借りたらすべきこと

物件が決まったら、コワーキングスペースとしての体裁を整えます。経費を抑えるためには内装工事などはできれば避けたいところですが、必要とあれば業者を手配しなければなりません。

コワーキングスペースの開業資金はよく100万円~1,000万円といわれています。

ずいぶんと開きがあるのは、施設によって内装や設備投資にかける金額に大きな開きがあるからです。もし居抜きでそのまま使える空間なら、内装にかかる費用はなし。デスクや椅子なども簡素なものをリサイクルショップなどの中古品で揃えれば開業資金は最低限で済みます。内装はおもいきり手を入れて、インテリア類もとことんこだわりぬくとなったら、費用は1,000万円でも収まらないかもしれません。ここは物件の状態やオーナーの考え方次第で変わるところです。

とはいえ、コワーキングスペースは飲食店に比べれば開業資金もランニングコストも安め。調理をしない限りはとくに営業許可も要らないので、スタートするのにハードルは低いといえます。

内装と同時に考えたいのは施設のレイアウト。どこに何を配置するか。利用者数が決まったら買い揃えるデスクやテーブル、椅子の数なども見えてきます。数が出たら、実際に購入です。

コワーキングスペースに必要なインテリアや物品は以下のイメージです。

・受付用のカウンターテーブル、キャッシャー

・作業用デスク、テーブル
・作業用チェア
・コピー機
・プリンター(複合機)
・冷蔵庫・冷凍庫
・ウォーターサーバー、コーヒーメーカー
・シェルフ
・ロッカー

このうち絶対に必要なのは作業用のデスクとチェア。コピー機やプリンターも用意したいところです。他は必要に応じて揃えるといいでしょう。また新型コロナウイルス感染症対策として仕切りとなるアクリル板なども用意しておくと便利です。

もうひとつ、絶対に忘れてはならないのはインターネット環境。これは高速で、かつ大勢が同時に使えるだけのwi-fi環境を整えることが求められます。

他に、会議室やイベントスペースなどを設ける場合はそれ専用のテーブルやチェア、ホワイトボード、スクリーン、プロジェクターなども揃えておかねばなりません。

あとは文房具類、ドリンクを提供する際のカップ、グラス、ゴミ箱、電源タップ、USBポート、コード類、掃除道具、時計、装飾用のインテリア、小物、看板など。このへんを揃えれば開業にこぎつけることができるはずです。

有人にするか、無人にするか

コワーキングスペースを経営するうえで悩ましいのが人件費です。例えば、毎日9:00~19:00のビジネスアワーだけのオープンとしても、自分1人での店番となるときついはずです。

昼食は休憩時間をどうとるのか、休日はどうするのか、そうやって考えていくと、最低でも1~2名のスタッフは必要となります。もしフルタイムで1人のスタッフを雇った場合、人件費は月に20~30万円。とても無視できる金額ではありません。

人件費を毎月払うのはきつい。そう考えている人には無人での運営というビジネスモデルをおすすめします。

コワーキングスペースはその業態の特性上、無人でのオペレーションがしやすいというメリットがあります。

無人経営の場合、受付手続きはネット上となるため、認証システムや決済システムなどの導入は必要不可欠です。また施設にもセキュリティ対策を講じる必要があるなど、有人に比べると初期段階での費用がかかりますが、長い目で見ればやはり人件費がかからないというのは大きなメリットとなるはずです。こうしたシステムの導入は専門の業者に相談すれば、コワーキングスペースに適したシステムやサービスを提案してくれます。

経費だけ見れば無人経営に軍配があがりそうに見えるコワーキングスペース経営ですが、有人タイプにもメリットはあります。

これはオーナーの考え方にもよりますが、大勢の人が出入りするコワーキングスペースはコミュニケーションが発生する場ともなり得ます。

もしそうした空間を世の中に提供したいのなら、有人にした方がいいでしょう。知らない人同士でも運営者を介しての出会いがあれば、コミュニケーションは生まれます。コワーキングスペースには比較的属性が近い人たちが訪れる可能性が高いので、お互いが出会うことで新たなビジネスにつながることもあるはずです。またそれは利用者同士でなく、オーナー自身にも及ぶかもしれません。

コワーキングスペースは、たんに作業を行う空間というだけでなく、フリーランスや在宅ワーカーを結ぶハブのような場所となることもあり得る。そこを重視するのなら、無人経営ではなく有人での経営にチャレンジしてみてください。コミュニケーションの場にはしたいけれどスタッフを雇うのはできれば避けたい、という場合は、時間帯や曜日によって有人と無人を使い分けるという方法もあります。

コワーキングスペースの集客の方法

飲食店や服飾雑貨の店などでは、よく「〇〇初上陸!」などとマスコミで話題になってオープン初日から行列ができるようなことがありますが、コワーキングスペースの場合はまずそんなことは起きません。

オープンしてしばらくは利用者が一桁、へたをすると誰も来ないなどということもあり得ます。それを避けるためにも、リアルとデジタル、両方を駆使した広報活動を展開しなければなりません。そして、そこで間違えてはいけないのがターゲット層の選択です。

たとえば街頭でのチラシ配布とポスティングだったら、どちらが効果があるか。駅を利用する人を対象にするなら駅前でのチラシ配布は効果があるかもしれません。あるいは施設のある地域に住む人をメインターゲットとするならポスティングが有効でしょう。もちろん、余力があればそのどちらも使いたいところです。地域限定の情報誌などへの広告出稿なども効果があるかもしれません。

さらに幅広い層に訴えるなら、やはりネットが有効です。まずは施設のホームページやブログを立ち上げ、SNSはtwitter、facebook、Instagramなどを同時に活用。もしできるならYouTubeやTikTokへの投稿にも挑戦してみましょう。発信はSEO対策を心がけ、とにかく毎日欠かさずすること。継続は力なりは嘘ではありません。そうしているうちに利用者は増えていくはずです。

ここで気をつけたいのは、告知を見てやってきた利用者がリピーターとなってくれるかどうかです。もしリピーターの数が極端に少ないようであれば、コワーキングスペース自体に何か問題があると考えた方がいいでしょう。

はじめての人でも、利用してみて快適性や作業効率に満足できればまた足を運んでくれます。それが来ないということは、居心地が悪かったり、作業がはかどらなかったりといった、なにかしらの理由があるはずです。オーナーはそうした問題点を早急に見つけて解決しなければなりません。

コワーキングスペース、開業したいけれど自信やノウハウがないときは

コワーキングスペースは、たとえ未経験の人でもやる気と元手さえあれば開業できるビジネスです。

それでも開業に自信がない、どこかでノウハウを得たいという人は、ネットで「コワーキングスペース 開業 支援」と入れて検索してみるといいでしょう。市場規模が拡大中のコワーキングスペースには、開業支援のサービスやフランチャイズの募集などがいくつもあります。多くはロイヤリティが発生するものですが、なかには手数料以外の部分で収益をあげる方法で相談者に負担がかからないサービスを提供している企業もあります。自分一人でやるには心もとないという場合は、そうしたサービスを積極的に活用するのもひとつの方法です。

コワーキングスペースのメリットのひとつは、それを副業として始めるということもできるという点です。

例えば、自分はフリーランスで他に本業がある場合なども、コワーキングスペースの一角を仕事場にして施設を運営するというスタイルがとれたりします。飲食店や対面販売の店と違って、コワーキングスペースは受付を済ませれば、あとは利用者は自分の作業に向かうだけ。掃除や雑用に費やす時間を差し引いても、オーナーには比較的時間ができます。その間、自分もパソコンに向かって作業を進めればいいのです。

こんなふうに本業を他に持っている場合なども、時間を有効活用するために開業支援のサービスを利用するといいかもしれません。実際に開業した場合、決済や顧客管理に関してはなんらかのシステムや支援サービスを利用した方が仕事がスムーズに進む可能性が高いので、いずれにしても一度はこうしたサービスを調べて比較検討してみることがおすすめです。

開業や運営に補助金は使えるの?

100万円から、高いと1,000万円といわれているコワーキングスペースの開業に必要な資金。100万円や200万円ならなんとか自前で用意できても、500万円、1,000万円というお金をぽんと出せる人はそうはいないでしょう。しかし、もし開業にそれだけのお金が要るとなった場合などは、補助金の申請を検討してみましょう。

コワーキングスペースが対象となりそうな補助金には、小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金、事業再構築補助金などがあります。

このうち小規模事業者補助金は補助上限額が200万円、ものづくり補助金は750万円~1,250万円、事業再構築補助金は2,000万円(従業員数20人以下)となっています。いずれも個人事業主であっても申請が可能となっています。

補助金の対象となり得るとどうかは、ぞれぞれの要件を満たしているかどうかで判断が分かれますが、過去にはコワーキングスペースの事業者が採択された例もあります。例えば、内装の改装に予算がかかりそうな場合などは事業再構築補助金の改装費に該当する可能性があります。申請してみる価値は十分にあります。

補助金のいいところは貸付と違って返済の義務がないところ。ただし申請には詳細な書類を作成しなければならず手間がかかります。もし自分だけでできそうにない場合は、補助金申請の支援をしてくれるコンサルティング会社や行政書士事務所などに相談してみることをおすすめします。またこれらの補助金は年に数回公募があり、たとえ不採択になっても再申請が可能です。

年々増加中のコワーキングスペースですが、都市部を除けばまだまだ少ないのが現状です。人口の多い地域でも駅周辺にコワーキングスペースがないというところもあります。「ここにコワーキングスペースがあったら便利なんだけどな」と感じたら、おもいきって自分でつくってしまう。もしかしたら、新しい世界が開けるかもしれません。

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ、『最強戦国武将伝 徳川家康』等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。