銀行の各種サービスが次々と有料化しています。なかでも気になるのが通帳や口座管理の有料化です。銀行はなぜサービスの有料化に踏み切ったのでしょうか?この記事では、その理由や銀行が有料化に踏み切った背景について元銀行員の視点から解説します。
銀行業界では2021年より通帳の有料化が加速
通帳の有料化とは文字通り、通帳の発行に対してお金がかかることを言います。銀行業界では2024年より大手銀行などを中心に通帳の有料化が急速に進んでいます。
例えば、2024年1月には、みずほ銀行、同年2月には横浜銀行が、新規口座開設者を対象に通帳の新規発行および繰越手数料(1通につき税込1,100円)の徴収を開始しました。
三井住友銀行も同年4月より新規口座開設者を対象に通帳発行手数料(1通につき550円)の徴収を始めています。他にも、十六銀行などの地方銀行で通帳手数料の導入を検討しており、全国の銀行で通帳有料化の動きが加速しつつあります。
なお、以前から銀行に口座を持っていた人や高齢者などは、これまで通り無料で通帳の発行や繰越ができます。ただ、今後そのような人も通帳発行に際して手数料を徴収されるようになる可能性は十分考えられるでしょう。
通帳の有料化が進み始めた理由
従来、無料で発行されていた通帳の有料化が進み始めた理由として、各銀行が多額の通帳発行コストをカットする必要に迫られていることが挙げられます。銀行側が負担する通帳の発行コストには、「印紙税」と紙代などの「諸経費」がかかり、それらのコストはいずれも莫大な金額となるため、非常に重い負担となっているのです。
通帳発行における印紙税年間納付額は600億円超!
通帳のコストで大きな比重を占めているのが「印紙税」ですが、1年に発行される通帳数はどの銀行もかなりの数となるため、その分印紙税額もかなり高額になります。2019年の通帳の印紙税納税総額は611億7,800万円でした(国税庁の「令和元年度統計年報『3 間接税 間接諸税』」)。2016年までは、700億円を超えていたため、数年前よりは減ってはいるものの、今もなお銀行が通帳発行で非常に高額な印紙税を払っていることがわかります。
銀行によっては、毎年億単位で通帳の印紙税を払っているケースもあるでしょう。
通帳作成にかかる諸経費もかなりの高額に
通帳の作成には、紙代や印刷費、人件費などの諸経費もかかります。諸経費の金額は、銀行の規模などによって異なりますが、インターネット銀行を除くいずれの銀行でも通帳発行にかかる諸経費がかなり高額になることは間違いありません。
インターネットバンキングの利用者増加が通帳有料化の追い風に
通帳の発行にかかる高額なコストの問題は、銀行業界にとって大きな悩みとなっていました。低金利政策が続いて銀行の利益が伸びない中、年々その深刻度は増しています。そんな中、紙の通帳が不要なインターネットバンキングの利用者が増加傾向にあります。
それが追い風となり、各銀行が通帳の有料化に舵を切り始めました。銀行の利用者にとっては、明らかに改悪といえる動きです。しかし、長引く低金利政策で利益が上がらない銀行としては、有料化への転換を余儀なくされた実情があります。
「未利用口座管理手数料」の導入は以前から進んでいる
もう一つ、銀行口座について利用者が注意すべき手数料があります。一定期間預け入れや、出金などの動きがない休眠口座(以下:休眠口座)にかかる「未利用口座管理手数料」です。こちらは、かなり導入が進んでおり、すでに多くの銀行は休眠口座について1,000円以上の「未利用口座管理手数料」を導入しています。
例えば、りそな銀行では2004年から2年以上未利用の休眠口座について未利用口座管理手数料を年額で1,320円(税込み)徴収。三井住友銀行は2024年4月より、りそな銀行とほぼ同じ条件で年額1,100円(税込み)の口座管理手数料(デジタル未利用手数料)を徴収しています。
また同年7月からは、三菱UFJ銀行も年額1,320円(税込み)の未利用口座管理手数料を導入する予定です。千葉銀行や横浜銀行などの地方銀行でも、次々と未利用口座管理手数料を導入、または導入予定となっており、その動きは信用金庫などにもじわじわと広がっています。
多くの銀行が「未利用口座管理手数料」の導入に踏み切った背景
多くの銀行が「未利用口座管理手数料」の導入に踏み切った背景には、休眠口座を含む銀行口座のセキュリティ対策や、そのための費用の捻出が必要となったことが挙げられます。
休眠口座は、マネーロンダリング(資金洗浄)や金融犯罪の温床となりかねません。その防止対策として、各銀行では高いコストをかけて口座所有者の本人確認やセキュリティ対策を厳重に行っています。つまり、犯罪などの防止対策と費用の捻出を兼ねて未利用口座管理手数料を徴収しているわけです。
こちらも、利用者にとっては改悪となる手数料の導入といえるでしょう。しかし、銀行口座の安全を守るうえでは徴収が必要な費用ともいえます。ただ、手数料の有無を問わず、知らないところで自分の休眠口座が犯罪などに使われないためにも、休眠口座は速やかに解約または再利用することが賢明です。
新たな手数料導入の主な目的は低コストのインターネットバンキングへの誘導
銀行が2つの手数料を新たに導入した理由は、上述した通りです。しかし、その目的としては「インターネットバンキングへの誘導」というものもあります。インターネットバンキングは、ほとんどの手続きがインターネットで完結できるため、印紙税や消耗品費、人件費などのコストを大きく減らすことができます。
それにより、銀行の利益が増えるだけでなく、銀行業務の効率化や顧客の利便性が向上する点はメリットです。そのため、各銀行ではインターネットバンキングの手数料を低額または無料にしてそれ以外の手段で行う銀行取引との差別化を図っています。
今後は、ますますその傾向が強まり、より一層銀行のインターネットバンキング化が進んでいくでしょう。
文・大岩楓