「今はサラリーマンだけど、一念発起して起業したい」という方もいるのではないでしょうか。そこで、決めなければいけないのが、「今の仕事は辞めるべきかどうか」ということです。仕事を続け兼業として始める、もしくは辞めて独立する、この二つはどう違うのでしょうか?
この記事では、仕事を続けながらの起業、辞めてからの起業について詳しく見ていきます。メリット・デメリットについてもご紹介しますので、起業を検討している方はぜひ参考にしてください。
起業とは?どこから始めたらいい?
起業をする場合、「初めから会社を設立する」「個人事業主から始める」のいずれかを決めなければいけません。個人事業主への道、および会社設立について、それぞれ解説していきます。
会社員が個人事業主から始めた場合
会社設立をせず、個人で事業を行うのが「個人事業主」です。事業を始める際には、税務署に個人事業主として開業届を提出します。開業届を出すメリットには以下のものがあります。
- 青色申告で最大65万円を控除することができる
- 青色申告で赤字を3年繰り越せる
- 屋号付きの銀行口座が作れる
なお、開業届には以下の項目の記載が必要です。
※従業員を雇わず、一人で事業を営む場合
- 提出先の税務署長名
- 提出日(事業開始から1ヵ月以内の日)
- 納税地(住民票のある場所もしくは居住地)
- 納税地以外の住所地(自宅とは別に事務所を借りている場合に記載)
- 氏名・生年月日
- 個人番号(マイナンバー)
- 職業(所得を得ている職業)
- 屋号(なくても可。屋号入りの銀行口座を開設したい時は必須)
- 開業した場所の住所と氏名
- 所得の種類(不動産収入、事業収入など)
- 開業日
その他、青色申告を選択する場合は開業届の「青色申告承認申請書」欄の「有」に〇を付けることが必要です。ちなみに、会社を辞めずに個人事業主になる場合であっても、開業届の提出は必要です。
会社員が独立して会社を設立する場合
会社を設立する場合は、個人事業主に比べ煩雑な手続きが必要です。株式会社設立の手順をご紹介します。
事業目的や会社名、住所(本店所在地)を決める
会社を設立するときは、はじめに事業目的や会社名(商号)、本店所在地などを決めないといけません。例えば、本社は自宅、借りた事務所などにすることができます。現在居住している借家を本社にしたい場合は賃貸契約書に「居住以外の目的で使わない」等の条件がないかを確認してください。
資本金を決める
株式会社や合同会社は、資本金1円から設立可能です。ただし、設立直後は売上などがまだ見込めないことも考えられるため、しばらくの間会社を維持できる程度のお金を準備することをおすすめします。
定款の作成と認証
会社の定款を作成した後は、公証役場で認証を受けることができます。定款は、3部作成し押印が必要です。法人の実印(法務局へ登録する印鑑)の準備もしましょう。あわせて、銀行印や角印、ゴム印も準備しておくのがおすすめです。
定款の認証には、最低「9万円(定款認証の手数料5万円と印紙代4万円)+謄本代」がかかります。もし収入印紙が不要の電子認証の場合は「5万円(電子認証の場合は、印紙4万円が不要になる)+謄本代」です。
資本金の払込
会社の発起人の個人口座に資本金を払い込みます。発起人が複数いる場合は、代表者1名の口座に振り込みます。
法務局に設立登記を申請
法務局で設立登記の申請を行います。提出する書類などは、ケースによって異なる場合がありますが、主に以下の通りです。
- 登記申請書
- 定款(認証済みのもの)
- 登録免許税納付用台紙
- 発起人決定書
- 資本金の払込証明書
- 印鑑届出書など
株式会社設立時の登録免許税は、資本金×1,000分の7で算出した金額です。ただし、算出した金額が15万円に満たない場合は申請1件につき一律15万円となります。
起業時に会社は辞める?辞めない?
サラリーマンが起業を考えるときは、「会社に在籍したまま始めて会社員との両立を目指すか」「会社を辞めるかどうか」を決めないといけません。状況が許すのであれば、まずは副業から始めてみて、起動に乗ったら独立を検討してみてはいかがでしょうか。副業を始める場合は、次の点に気を付けてください。
- 会社の就業規則に「副業禁止」という項目がないかを確認する
- 副業が認められている場合でも、会社の情報漏えいにつながりそうな業種への就業禁止が就業規則で明示されている場合があるため、始めたい事業が許可されているかの確認が必要
- 副業の年間所得が20万円を超える場合は確定申告が必要
- 副業が波に乗り忙しくなると、労働時間が長くなり本業に支障をきたす可能性もある
特に、副業で20万円を超える年間所得があった場合、確定申告が必要になる点はしっかりと押さえておきましょう。確定申告は、所得があった翌年の2月16日~3月15日の間に行います(休日の場合は翌営業日)。
※感染症の拡大や自然災害発生など、社会情勢によっては確定申告時期が延長されることもあります。
副業であっても収入が多くなってくると、青色申告を選択して確定申告を行ったほうが節税につながります。もし収入増が見込まれるのであれば、開業届及び青色申告承認申請書の提出も視野に入れておきましょう。
※青色申告承認申請を開業届提出と同時に行う場合は、青色申告承認申請書の提出は不要です。開業届のみで手続きが行えます。
サラリーマンのまま起業するメリットとデメリット
会社を辞めず、サラリーマンのまま起業するメリット、デメリットについても確認しておきましょう。
サラリーマンのまま起業するメリット
サラリーマンのまま企業するメリットは、以下の通りです。
収入が確保できる
起業したばかりのころは、売上もそこまで期待できないかもしれません。生活の維持のためにも、サラリーマンとしての収入を確保しておくと安心です。また、社会保障の面でもサラリーマンのまま起業した場合の方が安心できるでしょう。
会社を辞めた場合に比べ、ローン審査、クレジットカード作成時の審査に通りやすい
住宅ローンやカーローン、クレカの審査などは、企業に属するサラリーマンのほうが収入としては安定しているとみられるため、通過しやすい傾向があります。
また、辞めるにしても必要があれば、在職中にローンの審査やクレジットカードの作成は済ませた方がいいかもしれません。
サラリーマンのまま起業するデメリット
サラリーマンのまま起業するデメリットは、以下の通りです。
時間管理が難しい
本業からの帰宅後や会社の休業日に自分の事業を行う場合、時間管理が難しくなることも考えられます。本業に支障が出る可能性もあるため、注意が必要です。プライベートの時間が取れなくなるかもしれません。
健康管理が難しい
起業した事業が忙しくなりすぎると、休む時間が取れなくなり、健康面で問題が生じる恐れもあります。
社会保険の加入義務がある(会社設立の場合)
サラリーマンのまま会社を設立した場合であっても、厚生年金・健康保険といった社会保険への加入義務があります。また年金や保険料の半額は会社が払うことが必要です。また、起業したことを会社に内緒にしている場合は、起業した会社の社会保険加入で、本業の社会保険料の変動があることが会社に連絡される場合があり、会社にバレる可能性が高くなります。
ただし、役員報酬がゼロの場合は社会保険の加入義務はありません。会社を設立する際は、役員報酬をなくして社会保険未加入にするか、きちんと役員報酬をもらう代わりに社会保険に加入するかも考える必要があるでしょう。
会社を辞めて起業するメリットとデメリット
サラリーマンのまま起業するメリットとデメリットをご紹介しましたが、次は会社を辞めて起業する際のメリットとデメリットを解説していきます。
会社を辞めて起業するメリット
会社を辞めて起業するメリットは、以下の通りです。
時間を自由に使える
会社にかかる時間がないため、時間を自由に使って起業した事業に励むことができます。
起業した事業を続けていくという覚悟ができる
サラリーマンで起業した場合、給与や身分が保証されているため、「いざとなったら起業した事業を辞めてもいい」と考えてしまう可能性もあります。しかし、会社を辞めて起業した場合、絶対成功させるという決意や覚悟ができるでしょう。
会社を辞めて起業するデメリット
会社を辞めて起業するデメリットは、どのような点でしょうか。
年金・健康保険の負担が生じる
サラリーマンの場合、厚生年金や健康保険に加入し、その保険料は会社が半額負担してくれます。しかし、個人事業主となった場合に加入となる国民年金、国民健康保険は全額自己負担です。扶養家族(配偶者)がいる場合でも国民年金には「第3号被保険者」といったカテゴリーはありません。そのため、世帯主と同様に国民年金、国民健康保険料の支払い義務が生じます。
また、会社を設立した際は厚生年金、健康保険への加入が必須です。会社が社会保険料を半額負担しないといけない点もデメリットといえるでしょう。ただし、設立した会社で厚生年金・健康保険に加入している人は国民年金・国民健康保険の加入は不要ですので、その分の負担はありません。
※役員報酬ゼロの場合は、社会保険加入は必須ではありません。また、役員報酬ゼロの状態で社会保険加入を希望しても年金事務所から断られることもあります。その場合は国民年金・国民健康保険料へ加入しないといけません。
決まった額の収入がなくなる
会社を辞めてしまうと、安定した収入がなくなります。しかし、起業した事業がすぐに軌道に乗るとは限りません。毎月収入があるという安心感がなくなり、不安のほうが大きくなると、事業を展開するうえでの大事な判断を誤ってしまう恐れもあります。
起業のために会社を辞めるならば、生活のためにもある程度の貯蓄をしてからにしましょう。
サラリーマンに比べ、信用度が下がる
個人事業主や、起業したばかりの会社の代表は、会社勤めのサラリーマンに比べ収入が安定していると見られないため、社会的な信用度がどうしても下がってしまいます。例えば、ローンやクレジットカード作成時の審査に通りにくくなることもあり得るのです。
リスクを減らしたいなら、サラリーマンのままで起業を考えよう
サラリーマンのまま起業する場合、会社を辞めて起業する場合、それぞれのメリット・デメリットをご紹介しました。会社を辞めて起業すると、事業に専念できる点はメリットですが、安定した収入が入ってこなかったり、サラリーマンより年金・健康保険の負担が大きくなったりするデメリットもあります。
これらの点から考えると、まずはサラリーマンのまま起業し、業績が安定してきたら独立を考えるほうが賢明です。ただし、サラリーマンの起業は「副業」に当たります。トラブルにならないためにも、勤務先が副業を認めているかをしっかりと確認したうえで手続きを進めましょう。
文・田尻宏子