新型コロナウィルスの感染拡大は、依然として収束する様子はなく、経済の回復は未だに見通せない状況です。個人事業主や小規模事業者にとって、コロナ禍の影響は深刻な影を落とし、事業の存続を図るべく、模索する日々が続いています。そのような状況で、国も事態を憂慮し、様々な支援策を打ち出していますが、十分に活用されているとは言えません。
そこで今回は、個人事業主が活用できる公的支援に焦点をあて、「もらえるお金」と呼ばれる、助成金、補助金について解説します。
個人事業主の定義
企業と雇用契約を結んでいる会社員とは異なり、個人で事業を営んでいる人物を「個人事業主」といいます。事業主本人で事業を行うケースだけではなく、雇った従業員や家族など、複数人で事業を行っている場合でも、法人化されていなければ、個人事業主に分類されます。
国税庁のホームページ※1を参照すると、個人事業主と法人を事業者と定めています。主な例としては、小売業や卸業を営んでいる者、取り引きの仲介業者、賃貸業者、運送業者、加工業者、清掃・クリーニング業者、利用・美容業者等です。さらには医師、弁護士・公認会計士・税理士等の士業も含まれます。
ここで言う事業とは、「対価を得て行われる資産の獲得等を繰り返し、継続かつ独立して行うこと」と定義されています。つまり、例えばフリーマーケットで、たまに物品等の販売をして対価を得ても、「継続して」行っているわけではないので、この場合は個人事業主とは言いません。
フリーランスも個人事業者と同様に、企業や団体等と雇用契約は結ばずに、仕事を請け負っています。では両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
フリーランスは、企業等の組織には属さず、仕事の案件ごとに契約を行い、求められる技術やスキルを提供して、その対価として報酬を受け取る仕事形態です。
働き方は、フリーランスも個人事業者も似通っており、よく混同されますが、フリーランスは職業ではなく、働き方の呼び名に過ぎません。これに対して個人事業主は、税法上の区分を指します。個人事業主になるためには、事業を営む場所を管轄する税務署へ、開業届を提出することです。この行為により、税法上の個人事業主に分類されるのです。
個人事業主になることで、メリットがあります。
例えば確定申告の際、白色申告及び青色申告を行うことにより、特別控除の対象となり、節税効果が期待できます。
個人事業主が利用できる助成金
ここからは、個人事業主でも利用できる、国や自治体の支援策について、見ておきましょう。まずは、助成金からです。
1 助成金とは?
助成金は、事業所が受給要件を満たしており、間違いなく申請をすれば給付されると考えておいてよい支援金です。しかも、金融機関からの借り入れとは違い、返済義務のない、「もらえるお金」なのです。
2 雇用調整助成金(新型コロナウィルス感染症の影響に伴う特例)
新型コロナウィルス感染症の影響により、事業活動の縮小を強いられ、従業員の雇用を維持するため、労使間の協定に基づき、雇用調整(休業)を実施する企業に対し、休業手当などの一部を助成する事業です。さらに、事業主が従業員を出向させることで雇用を維持した場合も、支給対象となります。
今回の特例措置により、2020年4月1日から2024年11月30日までの期間を1日でも含む「判定基礎期間」が対象となりました。2024年12月1日からは経過措置期間が設けられ、対象期間が2024年3月31日までと延長されました。
1人1日当たりの上限額は、8,355円となっています。
中小企業の場合、助成率は次のとおりです。
- 解雇等をせずに雇用を維持した場合:9/10
- 上記以外:4/5
個人事業主が活用できる補助金
次は、補助金です。
1 補助金とは?
補助金も助成金と同様に、返済しなくてもよいもらえるお金です。決められた期間内に提出された申請書について、内容の厳正な審査が行われ、応募要件を満たしていても、事業内容が補助金の目的に合致していなければ、採択は難しくなります。そのため、助成金に比べてハードルはかなり高くなります。しかも、採択を勝ち得た後は、交付申請書を提出して交付決定通知を受け、補助事業開始後に実績報告書を出し、確定審査が実施されます。審査に通れば補助金の支給額が決定され、ようやく口座に補助金が振り込まれるのです。
これだけ手間も時間もかかる補助金ですが、申請件数は年々増加しています。それは、他の支援金と比較しても、支給額が高額で対象範囲も広いためです。
2 小規模事業者持続化補助金
超高齢化や人口減少に伴い、地域の需要の変化に対応し、持続的な経営への取り組みを支援し、地域活性化に貢献する小規模事業者を支援する制度です。小規模事業者の事業継承における円滑な取り組みの促進、生産性向上のための設備投資を行う事業者、地道な販路開拓と業務効率化にかかる費用の一部を補助するものです。
通常枠の場合、補助上限額は50万円、補助率は2/3です。ただし、「賃金引上げ枠」「卒業枠」「後継者支援枠」「創業枠」の場合は補助上限額が200万円、「インボイス枠」は100万円となります。
※小規模事業者持続化補助金は2024年2月20日締切の第11回をもって終了の予定です。
個人事業主でも公的支援を利用して、事業の安定化を図ろう
今回は、資金繰りの手段として、個人事業主が利用できる、国や地方公共団体が提供する支援にはどのようなものがあるか、解説しました。
個人事業主及び小規模事業者は、中堅以上の企業に比べれば、売上は市場や社会環境に左右され、経営基盤は脆弱なものになりがちです。毎年、数千以上も出ていると言われる公的支援ですが、自社に相応しい助成金や補助金を見つけられず、事業展開に活かせない事業者は、かなりな数に及ぶでしょう。助成金、補助金、支援金は、返済義務のない公的資金です。融資とは違い、本業以外で得られる収益であり、事業を安定化させる有効な手段です。国が折角、手を差し伸べてくれているのに、これを利用しない手はありません。
数限りなく存在する公的資金ですが、難解な公募要領を読み込み、自社にあてはまる支援金を探すだけでも一苦労です。補助金は、支給額の高さや支給対象範囲の広さから、魅力のある支援制度ですが、審査の要となる事業計画書の作成一つとっても、かなりな労力と時間を必要とします。しかし、視点を少し変えて、外部のプロの力を借りるという選択肢も、お考えになってみてはいかがでしょう。