補助金は助成金とは違い、申請しても支給されるまでの難易度が高いとされています。公募要領を見るとよく分かりますが、制度自体も難解です。一読しただけでは理解できないとの声も少なくありません。
さらに、提出を義務付けられている申請書の文章量は、A4で10枚程度あり、問われる事業計画は厳正に審査されます。
補助金給付の第一関門が、この申請書に採択を受けることですが、事業者が1人ですべての作業を行なおうとすると、いささか無理が生じるようです。そこで注目したいのが、申請代行、あるいは申請コンサルタントの存在です。
本稿では、ものづくり補助金を例に取り、申請において外部の支援は必要か、またどのようなコンサルタントが存在しているかについて、詳しく解説します。
補助金の申請にはサポートは必要?
事業者の中には、「そもそも補助金の申請に、金をかけてまで代行業者を雇う必要があるのか」との疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。結果を先に申し上げますが、申請サポートは「必要」です。その理由を、順を追ってご説明しましょう。
補助金の基本的な知識と独自テクニックが必要
国や地方公共団体は、政策目的に合致した事業に資金援助し、事業を後押しすることにより、政策の推進そして雇用の維持などの企業・労働者の支援を図ろうとしています。なお、補助金は金融機関からの借入れとは違い、返済の義務はありません。つまりは、「貰えるお金」ということになります。
しかし、補助金の財源は、国民の貴重な税金や国・地方公共団体が捻出する資金です。従って、補助金を提供する側は、費用対効果を重要視します。つまり「その補助事業を行うことにより、国民の生活にどのような恩恵がもたらされるか」が問われるのです。
そのため補助金は誰でも貰えるという訳ではなく、申請書を提出し、場合によっては面接まで受ける必要があります。
さらに申請書を作成するにはかなりの労力を要しますし、採択を受ける内容に仕上げるには、独特のノウハウが必要です。また、長い時間をかけて申請書を書いたとしても、必ず採択されるとは限りません。後で触れますが、採択率は30~40%程度で、決して高いとは言えません。
申請書類の主体となる「事業計画」は、その事業の革新性、技術・サービスの先進性をアピールする資料となるものです。これに関しては、事業者自らが熱を込めて記載することは十分可能です。しかしその事業が、国民生活や地方社会にどのように貢献するか、雄弁に物語るには、それなりのテクニックがいるのです。
採択を受けただけでは終わらない点に注意
採択された後も、すぐに給付金が支払われるわけではありません。採択を受けたら、交付申請書や経費明細表を提出し、交付決定通知を受けます。
その後、補助事業を開始しますが、期間中も巡回指導を受けたり、定期報告書の提出を求められたりすることもあります。
事業が終了したら、実績報告書を提出します。採択後の提出物の中では、これが最も重要で、書類の量もかなりなものになります。報告書の内容に基づいて、確定検査が行われ、支給額が決定されます。金額の確定通知書が郵送されたら、ようやく補助金が振り込まれるのです。
補助金の申請において、採択は大きな壁ですが、採択をクリアしたからといって終わりではありません。むしろ、採択を受けた後の方が、煩雑な事務処理は山積しているのです。
データから考察する「支援者の必要性」
ここからは、公表されているデータを参照してみましょう。
「ものづくり補助金総合サイト」※1では、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金について、過去に実施した補助金の採択結果を公表しています。
採択結果を表にまとめました。(4次以降、一般型・グローバル展開型に分かれています)
応募件数(一般型) | 採択件数 | 採択率 | |
1次 | 2,287 | 1,429 | 62.4% |
2次 | 5,721 | 3,267 | 57.1% |
3次 | 6,923 | 2,637 | 38.0% |
応募件数 | 採択件数 | 採択率 | ||
4次 | 一般型 | 10,041 | 3,132 | 31.1% |
グローバル展開型 | 271 | 46 | 16.9% | |
5次 | 一般型 | 5,139 | 2,291 | 44.5% |
グローバル展開型 | 160 | 46 | 28.7% | |
6次 | 一般型 | 4,875 | 2,326 | 47.7% |
グローバル展開型 | 105 | 36 | 34.2% | |
7次 | 一般型 | 5,414 | 2,729 | 50.4% |
グローバル展開型 | 93 | 39 | 41.9% | |
8次 | 一般型 | 4,584 | 2,753 | 60.0% |
グローバル展開型 | 69 | 27 | 39.1% | |
9次 | 一般型 | 3,552 | 2,223 | 62.5% |
グローバル展開型 | 61 | 24 | 39.3% | |
10次 | 一般型 | 4,224 | 2,584 | 61.1% |
グローバル展開型 | 70 | 28 | 40.0% | |
11次 | 一般型 | 4,668 | 2,786 | 59.7% |
グローバル展開型 | 76 | 31 | 40.8% | |
12次 | 一般型 | 3.200 | 1.885 | 58.9% |
グローバル展開型 | 56 | 22 | 39.3% |
ものづくり補助金の初回公募第1次は、採択率62.4%と高い水準から始まったものの、第3次・第4次は30%台と落ち込んでいます。これは、申請者数が一気に増加したからだと推察されます。
しかし、第5次以降は応募件数が半分ほどになり、一般型の採択率は徐々に上昇。第8次以降は60%台を維持し、第10次締切では61.1%となりました。グローバル展開型は、現時点30%~40%台を推移しているといった状況です。
では次に、同サイトで公開している、「支援者の関与」※2というグラフを見てみます。これは第12次締切までのデータを参照しました。
それによると、「支援なし」と回答した事業者の採択率は47.9%であるのに対し、「支援あり(報酬なし)」が57.1%、「支援あり(報酬~5%)」が61.1%、「支援あり(報酬~10%)」が67.9%、「支援あり(報酬~15%)」が67.7%、「支援あり(報酬それ以上)」が59.5%と続いています。
報酬額に応じてばらつきはあるものの、支援なしで申請した事業者に比べると、支援を受けて申請した事業者の採択率は、高い位置で推移していると言えます。
※2「ものづくり補助金総合サイト」データポータル/「支援者の関与」
申請代行・申請コンサルタントの種類
上記のような理由から、申請書の採択を受けるには、申請代行や申請コンサルタントの支援を受けた方が有利になることは、お分かり頂けたと思います。
次に、申請代行業者の選び方について見ていきましょう。
認定支援機関
「認定支援機関」の正式名称は「認定経営革新等支援機関」です。これは国が審査し認定した、専門的知識と一定の実務経験を持つ法人、または個人を指します。この制度は、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」、現在の「中小企業等経営強化法」を一部改正して生まれたものです。
弁護士や税理士、公認会計士、中小企業診断士、行政書士等のほか、商工会議所や商工会などの中小企業支援者、監査法人、金融機関などが認定を受けています。認定されることにより、公的機関として認められたことになり、中小企業や小規模事業者が、安心して経営に関する相談ができる、頼れる存在として昇格したのです。
補助金の申請に際しても、その分野の専門家として、的確なサポートを仰ぐことができるでしょう。
中小企業診断士
経済産業大臣が登録する経営コンサルタントの国家資格です。経営企画、人事、労務、マーケティング、店舗及び向上のオペレーション、財務会計分析などが、試験項目になっており、有資格者は経営に関する幅広い知識を持っています。
経済産業省が援助する補助金について、詳しい人材が多いのが特徴です。申請書を作成する場合、事業性をあらゆる角度から見つめ、実行可能性の高い事業計画に仕上げてくれることも期待できます。
行政書士
許認可の申請代理を独占業務とし、官公庁に提出する書類作成のエキスパートです。補助金に明るく、申請代行を専業にしている行政書士も多数います。
税理士
企業の税務書類の作成、申請等を独占業務としています。税務の専門家であり、中小企業の経営者には、資金調達や税務処理など、経営に関する相談を持ち込める頼れる存在です。
補助金申請の際には、事前に税理士にアドバイスを受けていることが審査委員に知られていれば、税制優遇等を受ける時にプラスに働くでしょう。また収支計画の信憑性も、高いとみなされるかも知れません。
コンサルタントを選ぶ3つのポイント
前述した専門家が代行する範囲は、様々です。
申請書作成の代行のみを請け負う場合もあれば、採択された後の各種報告書類の作成、補助事業実施期間中の検査対応など、実務上のアドバイスまでをカバーすることもあります。
専門家を選ぶ際にあらかじめ確認しておきたいポイントを紹介します。
専門性
依頼したい専門家が、企業の組織人事やマーケティング、工場における生産管理等、企業経営全般に関する知識を持っているかどうかを確認する必要があります。
行政書士や税理士の資格試験では、企業経営に関する知識は問われません。そのため、彼らに依頼するのであれば、経営に精通しているかを見極めるようにしてください。
一方、中小企業診断士は、経済産業省が認定した、経営コンサルタントとしての国家資格です。この資格試験においては、企業のマーケティングや組織人事、工場の生産管理、財務会計等の知識が試されます。従って、中小企業診断士であることは、経営に関する一定の知識を持っていることが証明されていると言えます。
採択実績
専門家が、過去に補助金の採択実績を持っているか、確認するようにしてください。実績がない場合、採択される申請書や経営計画のレベルを実感できていないと言わざるをえません。
事業計画に実施不可能な計画を盛り込んだり、採択後に実際には実行不能な助言をしたりする可能性もあります。必ず過去の採択実績の有無、並びに補助金を交付された経験があるかどうかも調べてください。
採択後のフォローの有無
申請書が採択された後、交付の決定、事業の実施、定期報告・巡回指導、実績報告書の提出、確定検査、支給額の決定等、やるべき事務処理は山のようにあります。事業者や担当者が、適切に対応できれば問題はありませんが、中小企業や小規模事業者では、それらの作業に割くリソースは持ち合わせていないかも知れません。
補助金は、「後払い」です。全ての行程を、過不足なく処理して初めて交付されるのです。その専門家が、実際に補助金の交付までをフォローしてくれるかどうか、事前に確認しておく必要があります。
外部の申請コンサルティングを上手に利用し、補助金を獲得しよう
今回は、補助金を申請するにあたって、代行業者に依頼するべきか否か、いくつかの角度から検証してみました。
申請書が採択を勝ち取る上で、キモとなるのが事業計画書の策定です。
事業計画に盛りこむ内容には、自社が提案する事業の革新性と、所有する技術の優位性をアピールする必要があります。これに関しては、事業者自らの手で書くべきでしょう。
ただ、申請書類の作成には、採択を受けるためのコツやノウハウが必要になります。これらに長けている代行業者や、申請コンサルタントのアドバイスを仰ぐことは、補助金受給の近道となるでしょう。
また、仮に採択を受けたとしても、交付決定後、補助事業期間中に多くの報告書の提出、検査等に対応できなければ、給付を受けるまでには至りません。これらの行程に関しても、フォローしてもらえる専門家がいれば、公募から給付までスムーズに進むのではないでしょうか。