ロシアのウクライナ侵攻に対するG7をはじめとした各国の経済制裁は、ついに最大級といえる国際決済網(SWIFT/国際銀行通信協会)からの排除という段階を迎えました(2024年2月28日現在)。簡単に言うと、これによりロシアはいままでのような外国との貿易ができなくなります。同時に、ロシアを相手に輸入や輸出取引をしていた国もそれができなくなります。経済制裁で私たちの暮らしにはどんな影響が出るのでしょうか。消費者に身近な水産物「カニ」で考えてみました。
日本のカニの6割はロシア産
水産白書によると、日本が輸入しているカニの約6割はロシア産です。実際、スーパーに行ってズワイガニやタラバガニ、毛ガニなどの表示を見ると「ロシア産」が多いことにあらためて気づかされます。
スーパーでよく見かける茹でズワイガニ(冷凍品)の1パックの値段は、だいたい2,980円~3,980円(消費税別)。今後、経済制裁によって輸入が停止されるとこの「ロシア産」表記のカニが店頭から消えてしまう可能性があるかもしれません。そうなると、正直、ただですら高いと感じるカニがますます高値の花となってしまうのは確実です。
カニが食べられなくなる? 慌てる必要はない
いまのうちにカニを食べておこう。そう思って動くのは早計です。なぜなら水産物の輸出入は一般の消費者が思っている以上に複雑でステークホルダーがたくさん存在するからです。
例えばズワイガニを見ると、ロシアから日本に直接輸入されているものはもちろんありますが、それは主に活カニなどの一部であって、実はロシア産ズワイガニの多くは韓国の釜山を経由して日本に入ってきます。日本の業者が買いつけに出かける先もロシアよりもむしろ韓国の方が多いのです。
カニには種類や漁場によって定められた漁期があり、ロシア近海で撮れたカニの大半は冷凍保存されます。例えば、これから迎える5~8月はオホーツク海北部やベーリング海西部で漁が行われます。輸入カニの大半はこうしてストックされた冷凍品なので、供給が今日明日にいきなりストップするということはありません。
ただし、韓国もロシアに対する経済制裁にはG7と歩調を合わせる方向なので、今後の動向には注目しておく必要があります。また、金融制裁によって起こるルーブルの暴落が物の価格にどう影響してくるのか。転がりようによっては、可能性は低いながらも案に相違してカニの値段が安くなる、などということも起きるかもしれません。
抜け道を使う可能性も
かつてロシアから日本に入ってくるカニの多くは密漁されたものでした。そこで両国は水産資源保護と不正取引の防止のために2014年12月に「日ロカニ密漁密輸防止協定」を発効させました。これにより市場でのカニの価格は高騰しましたが、水産資源の保護という点では一定の成果を得られたと評価されています。
ただ、本当のところはどうなのか。先頃も熊本産アサリの産地偽装が話題になったように、水産物の流通には素人から見ると伏魔殿的な部分があります。カニにしても、例えば経済制裁に参加しない一部の国を介しての取引が行われるかもしれません。国際決済網から締め出されたとしても、何らかの抜け道を使って輸出入が続けられる可能性は否定できないのです。
こうしたことは、カニだけではなく水産物全般、また穀物や原油、天然ガスなどにおいても同様です。
物価の値上がりには工夫で対抗
最近は電気料金や食用油など物価の上昇が続いています。消費者にとって切実なのは、たまにしか食べない高級食材よりも、むしろ毎日使うこうしたものの値上がりでしょう。
賃金がなかなか上がらない現在、消費者にできるのは手持ちのお金を増やす工夫をすることです。いままで以上に投資の勉強をしたり、節約術を磨くなど、逆境をチャンスに変えていきたいものです。
カニだったら、直接買うのではなく、ふるさと納税や、冠婚葬祭、お中元、お歳暮のときなどにいただくカタログギフトなどを活用するといいでしょう。できることはしながら、家計を守る工夫を怠らないようにしたいものです。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。