「当たるわけないよ」と思いながらも、発売されるとつい買ってしまうジャンボ宝くじなどの宝くじ。もしも高額当選したらどうしますか?実際に当たった人の声やデータを見ながら、名作映画『バベットの晩餐会』を参考に当せん金の使い方を考えてみました。
1,000万円以上の高額当せん。当たったときの心境は?
宝くじでなくても、不意に1000万円以上の大金が入ってくると、たいていの人は平常心ではいられなくなります。宝くじ公式サイトを見ると、当せんした人たちはたいていこんな心境になるようです。
「とにかく頭がぼーっとして…頭の中が真っ白になっていたので、とりあえず近くの喫茶店に行き、自分を落ち着かせました。でも、あれこれと考えてしまって、その夜は眠れませんでした」
「周囲から見られてはいけないと思って、一人で布団の中に潜り込んで懐中電灯の灯りで何度も何度も当せんしていることを確認してしまいました。私一人暮らしなんですけどね(笑)。でも、本気でそうしてしまうくらいに気が動転していたんです。翌日の早朝一番で銀行に当せん券を持って行って、初めて安心した気持ちになり、ひとりでガッツポーズしたことを覚えています」
(※宝くじ公式サイトより引用)
なんだか気持ちがわかりますね。きっと自分も宝くじに当たったらこんな状態になって、何も手がつかなくなってしまうことでしょう。
宝くじの当せん金の使い道は?
1,000万円以上の高額当せん金。当たった人たちは、いつ換金して何に使っているのでしょうか。
宝くじ公式サイトの調査では「1ヵ月未満で換金している方が7割以上」となっています。
当たったその日(当日)に換金という人は全体の10.9%、翌日という人が7.9%、2~7日未満が27.1%で、いちばん多いのが1週間以上~1ヶ月未満の29.5%。なかには1ヵ月以上経ってからという人も21%もいます。どうやらみなさん、当せんが判明してしばらくの間は手元に置いて気持ちを落ち着かせる、という感じで動いているようです。
気になるのは使い道。圧倒的に多いのは「貯蓄」で45%。いかにも日本人らしい回答です。これに対して「投資」はというと6.5%。正直、もうちょっとあってもいいかなという気がします。以下、
- 車の購入(15.4%)
- 土地・住宅の改築や購入(15.2%)
- 借入金の返済(13.8%)
- 家族サービス・親孝行(11.7%)
- 旅行(11.1%)
- 子供の教育費・養育費(9.5%)
- 趣味の充実(6.0%)
- 仕事・事業の資金(5.1%)
- 寄付等社会貢献(2.7%)
- 結婚資金(1.1%)
その他1%未満に、ブランド品の購入、習い事や勉強、美容(エステや化粧品等)、退職、海外移住などがつづきます(複数回答)。
データを見ると、総じて慎重な使い方をしている人が多いのがわかります。
筆者だったら、当せん金の額にもよりますが、やはりいちばんは貯蓄、次が投資という順になるでしょう。額が億単位であれば、一部は住宅ローンの返済や子供の教育費にまわす可能性が大です。もちろん、家族サービスや親孝行にも使いたいものです。人生に一度あるかないかの幸運なのですから、大切な人たちと分け合いたいと思うのは自然なことです。
『バベットの晩餐会』に出てくる宝くじ
宝くじと聞くと、筆者がいつも思い出すのは『バベットの晩餐会』です。1987年公開のデンマーク映画です。
まずはどんな話か、ざっとあらすじを書いてみます(以下はネタバレを含みますのでご注意ください)。
物語は19世紀。舞台はユトランド半島(デンマーク)の辺鄙な海辺の村です。
周囲に遮るものがないこともあって、常に風が吹き、野にはほとんど木も生えておらず、まさに荒野といったような厳しい土地で、人々は素朴に暮らしています。
外界との接触が少ない土地ゆえに、誰も彼もがみんな保守的で、互いに子供の頃から顔なじみで、そしてみんな敬虔なプロテスタントの信者です。
敬虔なキリスト教信徒、といっても人間です。
歳をとると偏屈になるし、ちょっとしたことで我慢ができなくなってきて、何十年も前のことを思い出しては恨みがましく「お前、あのときはよくも……」などと幼馴染みをなじったりします。どこの国でも人間は一緒です。
村には美しい姉妹が暮らしていました。
二人とも若い頃は、颯爽とした騎馬隊の士官や、フランスのオペラ歌手を相手にロマンスの機会がありました。
しかし、厳格な牧師のおとうさんの教育と若干履き違えた愛情のせいもあって、姉妹とも村から出る道は選びませんでした(おとうさんはなにげにご満悦です。いまだったら毒親認定されているかもしれません)。
やがて父は他界。姉妹は父のあとを継いで、自分たちも貧しい人々への施しをつづけています。
そこへやって来るバベット。パリ・コミューンで祖国フランスを追われた彼女は、この地で姉妹の召使いとなります。
時はさらに流れて10数年。
バベットにフランスから「宝くじ当選!」のお知らせが舞い込みます。
賞金の1万フランの使い道は「晩餐会」。バベットは実はパリのレストランでシェフをつとめていた料理の達人なのです。
映画の後半部はこの「晩餐会」がメインです。
料理はエンターテイメントです。別にアクションシーンでもないのに、すごく興奮します。
晩餐会を前に、姉妹の家にバベットが取り寄せた料理の材料が次々に届きます。
厨房にどんと置かれた牛の頭。カゴの中でぴよぴよ鳴いていたうずらたちは、次に出てくるときには皮をはがれてパイの具材に変身です。ひれをバタつかせていた海亀は極上のスープに。フランス料理が実はワイルドだということがよくわかります。
料理だけでなく、テーブルに並ぶワインもシャンパンも一流のものばかりです。
ところが、招かれた村人たちはその価値すらわかりません。生まれてはじめて前にする豪奢な料理に、それが美味しいのかまずいのかすら判断がつかないのです。
だけど、うまい具合に晩餐会のテーブルには、かつて姉妹の一人を想っていた将軍(に出世した士官)がいます。
「これはフランスの○○で食べた○○ではないか!」と将軍が料理のガイド役になってくれるのです。
そうするうち、ぎくしゃくしていた村人たちも料理を楽しみ、晩餐会は和やかな雰囲気になっていきます。映画はこのあとしばらくして終わります。
『バベットの晩餐会』に学ぶ当せん金の使いかた
バベットには、当せん金の1万フランを使って、パリに戻るという選択肢もありました。しかし、彼女はそうはせず、流浪の身であった自分を受け入れてくれた姉妹や村人たちに対する感謝の気持ちの表れとして、お金のすべてを一夜の料理に使ってしまいます。
かなり思いきった使い方です。真似をしろと言われても、なかなかできることではありません。むしろお勧めできません。ゆえにか、だからこそそこには感動があります。バベットは自分に舞い込んだ幸運を我が物だけとはせず、持てる力のすべて=料理という魔法をかけて、愛すべき人たちに分け与えたのです。
もちろん、お金というのはトラブルの種にもなるものです。扱いは慎重にならざるを得ません。
ただ、筆者はこうも思います。もし宝くじで高額当せんしたら、その幸運や喜びを自分だけでなく家族やまわりの大切な人たちと何らかの形で分かち合いたい、と。『バベットの晩餐会』はその大事な心構えを教えてくれる映画なのです。
地味な映画ですが、実はユーモアもかなりあって、泣きも笑いもさせてくれる名作です。機会があったらぜひご覧ください。
当たったら楽しい宝くじ。これを買おう、あれに使おう、と夢を膨らますだけでなく、家族の喜ぶ顔を想像しながら売り場に行きたいものですね。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。