業務の自動化が進んでいる現代社会。本来なら仕事は効率的に進み、もう少し楽に生きていけるはずでした。しかし、実際はちっとも楽にはならず、年々仕事が増えているという人も多いでしょう。その理由として、ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)が増え続けていることが挙げられます。クソどうでもいい仕事はなぜ増え続けるのでしょうか。
「クソどうでもいい仕事」とは?
「クソどうでもいい仕事」とは、アメリカの文化人類学者デヴィッド・グレーバーが自著の中で唱えた言葉「ブルシット・ジョブ」を日本語に置き換えたものです。
書籍の英語タイトルは「Bullshit Jobs:A Theory」、日本語版では「ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論」と訳されました。個々の単語の意味は下記になります。
- Bullshit :たわごと、でたらめ
- Jobs :仕事
- Theory :理論
「クソどうでもいい仕事」と訳された「 Bullshit Jobs 」。「社会に貢献していない無意味な仕事」を意味します。
具体的には下記のような仕事を言うようです。
秘書、受付、企業弁護士、広報、中間管理職、社内報ジャーナリスト、不良コードの一時的な修正を行うプログラマー など。
ブルシット・ジョブの5つのタイプ
デヴィッド・グレーバーは、これらの仕事を5つのタイプに分類しています。
- 取り巻き(flunkies):その言葉通り、組織の幹部の周囲にいる人です。取り巻きとなることで幹部が重要人物であることを示します
- 脅し屋(goons):組織が社会的に影響力を持つこと、制裁能力があることを示すために存在します。顧問弁護士や広報担当者などが該当します
- 尻ぬぐい(duct tapers):尻ぬぐいをするためにいる人。迷惑をかけた人などに謝るために存在します
- 書類穴埋め人(box tickers):組織が仕事をしていると見せかけるために無意味な書類を作る人です
- タスクマスター(taskmasters):必要性があるどうかわからない仕事を作ったり、業務の内容を明らかにしないまま役割分担をしたりします
確かにこの分類を見ると、本当に必要なのかと考えさせられてしまいます。
「クソどうでもいい仕事」の従事者は「自分の仕事は無意味」と感じている
ところで「クソどうでもいい仕事」の従事者は自分の仕事をどう感じているのでしょうか?
その参考となるのが「YouGov」が行った「クソどうでもいい仕事」についての検証を目的とする調査です。データは2015年と少し古いのですが、こちらによれば、調査に回答したイギリスの労働者のうち、37%は「自分の仕事は世界に有意義な貢献をしていない」と回答しています。
また、「仕事に満足感を感じない」と回答した人は41%となっています。そのような回答を行った人の中には「クソどうでもいい仕事」の従事者が多いようでした。
「クソどうでもいい仕事」なのに転職しない人が多い理由は?
一方、同調査では「自分の仕事は世界に有意義な貢献をしていない」と回答した人の半数以上が「12ヵ月以内に転職する意思はない」との矛盾した回答を寄せています。
その理由として考えられるのが、「クソどうでもいい仕事」ほど報酬が高く、社会的地位も高い傾向にあることです。
仕事において報酬や社会的地位が高いことは非常に大きなメリットです。自らの仕事が無意味だと感じても割り切る人が多いのも当然でしょう。
その影響で「クソどうでもいい仕事」は一向に減りません。逆に業務の自動化と比例するように「クソどうでもいい仕事」は年々増えています。
「クソどうでもいい仕事」は社会に深刻な影響を及ぼしている
実は急増する「クソどうでもいい仕事」は社会に深刻な悪影響を及ぼしています。
例えば、教師や保育士、介護士は社会への貢献度が高く意味のある仕事ですが、低報酬かつ劣悪な労働環境で働くことを強いられています。
その結果、社会からのニーズが増える一方で就業希望者は激減し、人手不足が深刻化しています。
その背景に社会への貢献度が低いのに労働条件はよい「クソどうでもいい仕事」の存在があることは間違いありません。
しかし、その状態が続けば社会的なニーズが高い仕事に従事する人がますます減り、社会全体が混乱する恐れがあります。
そのような事態に陥らないためにも、世界中の国や企業、そして一人ひとりが労働に対する意識を大きく変えて無意味な仕事を減らしていく必要があるでしょう。
文・大岩楓