1人でも経営できる小さな飲食店といえば、思い浮かぶのはカフェ。専門的な料理の知識やスキルがない素人でも挑戦しやすいカフェ経営は、多くの人が一度は夢見るものかもしれません。とはいえ、始めるにはクリアすべき課題がいくつもあります。カフェをオープンするのに必要なものは何か。最低限、満たすべき条件を説明します。
カフェの開業資金の相場はいくら?
飲食業における開業にはさまざまな手段や選択肢があります。その道のプロならば、満を持しての独立や暖簾分け、ノウハウを持っていない人ならフランチャイズで出店。お酒が好きな人ならバーや居酒屋を、ラーメンが好きならラーメン店を、といったようにバラエティーに富んでいるのが飲食業の特徴です。
そのなかで、男女問わず人気が高いのがカフェです。
ドリンク類を中心に提供する小規模なカフェは、1人もしくは2人程度での経営が可能で、飲食店の中では比較的少ない資金で開業できます。ここでは10坪程度、席数は10席程度のカフェを想定して話を進めたいと思います。
カフェの開業資金の相場は500万円~700万円といわれています。
しかし、実際は立地や借りる物件、床面積、スタッフ数などによってかかるお金はずいぶんと変わってきます。うまくリーズナブルにおさえることができれば200万円~300万円程度で済むし、改装や什器などにこだわった場合は1.000万円あっても足りなかったりします。
ひとくちに開業資金と言いますが、内訳はどうなっているのでしょう。
カフェを開くには、大きく分けると以下のようなお金がかかります。
①物件取得費(保証金、仲介手数料等含む)
②改装費(内外装)
③設備・什器・その他備品
④運転資金(人件費、毎月の家賃、原材料費、光熱費等含む)
このうち①は、例えば家賃が10万円前後であれば150万円前後はかかると見ていいでしょう。
②はそのまま使える居抜き物件ならたいしてかからずに済みますが、大きな改装や修繕が必要なら100~200万円は用意せねばなりません。
③も同様で、もしほとんどのものを一から揃えたら100~200万円かかります。
④の運転資金は、できれば1年分は用意しておきたいところ。スタッフを雇わずに自分ひとりで経営していく場合でも、やはり200万円程度はキープしておきたいものです。
これらにプラスして、もし開業前に有料の開業セミナーやスクールなどに参加したら受講費用がかかるし、宣伝にお金をかけるのなら広告出稿費などが重なります。そうなると資金は最低で600万円程度は必要となります。しかも、ここには自分自身の人件費や生活費はのっていません。それを考えると1,000万円はほしいところです。
もちろん、これは「できればそれくらいほしい」という話。工夫次第で開業資金はもっと減らすことができます。物件取得費は交渉次第では多少安くしてもらえる可能性はあるし、改装費や什器類も工夫次第で下げることが可能です。
どんなカフェを持ちたいのか(世界観の構築)
自分でカフェをやりたい。そう思ったとき、いちばん大切なのはどんな店にするかというコンセプトです。
自分が始めたい店はどういう店なのか。独立・開業したいと願うくらいなのだから、それは既存のチェーン店とはだいぶ形が違うはずです。
そもそも、個人営業の小さなカフェとはどんな空間なのでしょうか。
最近は個人の部屋づくりでも会社のオフィスでも、あるいは異業種の店舗でも「カフェ風」という言葉がよく使われます。
カフェ風の内装。カフェ風のインテリア。ビジュアルでいうと、それらはたいていビンテージ風の木材が使われた壁だったり、テーブルだったり棚だったりします。もちろん、他の素材も使われていますが、意味合いで言うと「カフェ風」というのはほとんど「お洒落」と同義語とみなしていいでしょう。
それにプラスして、居心地がよくて気持ちが落ち着く、そこにいるだけで楽しくなる、そんな場所が「カフェ風」という空間だといえます。こうした空間を生み出すカフェは、いわばひとつひとつが文化の発信地なのです。
カフェのオーナーで、あるいはこれからやってみたいという人で、「空間」を意識しない人はいないはずです。当然、コンセプトの中でも「空間」は大きな比重を占めることとなります。
10坪程度の小さなお店をどんな世界観で表現するか。これを考えるのは、難しくもあるかもしれないけれど、けっこう楽しい作業です。
本が好きなら壁一面を本棚にしたブックカフェにする。漫画が好きなら漫画を中心にする。小説が好きなら文芸作品を並べる。イノベーションに関心があるならその方面のビジネス書や教養本を。もしくはいっそ書店を兼ねたカフェにしてしまう。ただ一冊、例えば『星の王子さま』が大好きなら店の内装や家具類も『星の王子さま』を想起させるようなものにしてみる。このように本ひとつとってもさまざまな方向へとコンセプトを広げていくことができます。
店の世界観が決まれば、物件探しにもそれが生かせます。逆に物件が先にありきの場合は、物件そのものが世界観を構築する手伝いをしてくれるでしょう。そのいい例が古民家を改造した古民家カフェです。
コンセプトの中でもうひとつ大きな比重を占めるのは、やはりメニューです。人によってはこちらの比重の方が大きいということも十分にありえます。お客さんに美味しいコーヒーを飲んでほしいから、という純粋な思いでカフェを開業する人は少なくないはずです。
自分ひとりでまわすような小さな店の場合、メニューはシンプルに絞り込むのがおすすめです。ドリンクは多くても10種類程度。食べ物も調理が必要なものは2~3種類にしておいた方が無難です。
メニューを決める際には、もちろん値段の設定も欠かせません。原価率や店の開店率などを考えて1日の売上がいくらになるのか。月商はいくらを目標とするのか。こういった数字は少し厳しめに設定しておいた方が、あとになって思ったより集客ができなかったときなどに泣かずに済みます。
なんとなく趣味性の強いカフェですが、顧客がいなくては成り立たないビジネスであることに変わりはありません。コンセプトを作る際には、そこを利用するお客さんのこともよく考えねばなりません。
ターゲット層となるのは、どんな人たちか。地域に住んでいる人たちか、それともその地域に職場や学校のある人たちか。ターゲット層によっても店づくりの内容は変わってきます。また出店する地域の特色によっても、どんな店が求められるかは変わってきます。
コンセプトひとつを作るにも、条件がいろいろあって悩んでしまいそうなカフェの開店。悩むようならば、原点に立ち返ってみましょう。
自分はどんなカフェをやりたいのか。
これさえはっきり見えていれば、物件探しや出店場所で迷うことはないはずです。自分の中にゆるぎない世界観を持つ。これこそがカフェのコンセプト作りでいちばん大切なことなのかもしれません。
少ない資金で開業するコツ
500万円も資金を用意することはできない。手持ちの資金は200万円、なんとかこれでオープンしたい。カフェオーナー志望者のなかにはこういう人もいるかと思います。むろん、開店するだけならできなくはないはずです。
少ない資金で開業したいなら、以下のことを心がけてください。
①物件は居抜きを選ぶ
借りる物件は、なるべくそのまま使える居抜き物件をさがしましょう。少なくとも、一から水道やガスを引くような物件は避けないと、それだけでよけいな費用がかかってしまいます。
②立地にこだわらない
店をどこに開くか。飲食店にとって立地は非常に重要なものです。誰が言い出したのか、飲食店業界では「飲食店は立地がすべて」という言葉もまかり通っています。そして、それはたいていの場合は当たっています。
しかし、個人経営のカフェについては必ずしもそうであるとは限りません。自分で小さなカフェをやりたいという人たちにとって、駅前に陣取るスターバックスやドトールコーヒーは競合でしょうか。答は「ノー」のはずです。
その店だけでしか飲めない自家焙煎のコーヒーや店の世界観といった付加価値を提供する個人経営のカフェは、なにも無理をしてまで家賃の高い一等地に店を構える必要はありません。
それよりも継続性を考えるならば商店街の外れや住宅街の一角などの安い物件を探した方が賢明でしょう。カフェを利用する人が求めるのは「静けさ」や「居心地の良さ」です。それならばむしろ辺鄙な場所の方がいいかもしれません。誰も来ないような場所にある格安物件にあえて店を構えて付加価値で勝負する。それが結果、資金をおさえることにもなります。
③人件費をかけない
店舗経営でいちばんお金がかかるのがスタッフの人件費です。売上が安定しない開店当初は、できればオーナー単独でまわしたいところ。それが難しいときは家族や友人など、助っ人を頼める相手を確保しておくといいでしょう。スタッフを雇うのは経営が軌道に乗ってからの方が安全です。
④共同経営者を募る
資金が足りないときは、同じ夢を持つ友人や自分の考えに共感してくれる仲間を探して共同経営するという方法もあります。資金は2人なら折半、もしくは人数に応じてそれぞれが出し合えば、手持ち資金でできる以上の店が持てます。ただし、利益も折半になるし、人によって店に対する考え方は異なるので、安易に話を進めるのは危険です。
⑤他に収入源を確保する
個人経営の小さなカフェの売上はけっして大きなものではありません。とくに固定客がつかないうちは1日の売上が数千円という日もあるはずです。雨の日はお客さんが1人も来なかった、などというのはこの業界では「あるある」です。開業資金が少ない上に売上も少ないとなったら、せっかくオープンしたカフェも早晩たたむことになってしまいかねません。
そこで提案したいのが、他に収入源を確保することです。収入ならばどんな形でもかまいません。カフェの経営者のなかには、平日は会社に勤めて土日のみの週末オープンにするという営業形態をとっている人もいます。もしくは、お客さんのいない時間を利用してテレワークでできる仕事をする、メニューの通信販売をする、仮想通貨投資や株式投資をするなど、カフェ自体の売上とは別のところで収入を得ることができれば安心です。
⑥補助金や融資を利用する
資金が足りないときは、小規模事業者が利用できる国の補助金を申請したり、金融機関からの融資を受けるといった方法があります。後者は借金だから、できれば避けたいところ。前者は返済不要のものがほとんどで、カフェ経営者が利用できそうなものとしては、創業補助金、小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金などがあります。いずれも申請には綿密な事業計画書をはじめ、さまざまな書類を用意しなければなりませんが、返済不要の資金が得られることは大きなメリットです。問題は、申請したからといって採択されるとは限らないという点。合否は補助金にもよりますが半々程度だと考えてください。採択率を上げたければ、有料にはなりますが行政書士やコンサルタントに相談してサポートしてもらうといいでしょう。
⑦内外装にお金をかけない
資金が少ないときは物件取得費に加え、内外装や什器にかける予算も絞る必要があります。DIYが好きならば内装は自分でやってみる。施工業者に頼むならなるべく親身になって安くやってくれるところを探す。什器は中古のリサイクル品で揃えるなど、お金をかけられないかわりに手間をかけることで予算不足をカバーしてください。
カフェ開業に必要な資格
カフェに限らず飲食店を開業するには食品衛生責任者の資格や飲食店の営業許可が必須となります。食品衛生責任者の資格は最低でも店舗に1人は持っていなければなりません。個人経営のカフェならばオーナーが取得することとなります。
食品衛生責任者の資格は、17歳以上(高校生は除く)であれば、各地の食品衛生協会が主催する講習会を受講することで誰でも取得できます。講習会は、会場集合型の場合は、食品衛生学、公衆衛生学、食品衛生法の3科目で合計6時間を1日で終えることができます(他にオンライン方式も有り。受講時間は会場集合型と同じ)。
受講料は1万円程度(地域によって若干の差がある)。講習会の最後には修了考査という簡単なテストがありますが、ほとんどの人は合格します(不合格の場合は再受講)。
なお、調理師や栄養士の資格がある人は講習会なしで食品衛生責任者の資格を得ることができます。
この他、店舗が大きいとき(収容人数が従業員を含めて30人以上となるとき)は「防火管理者」を設置する必要があります。資格には店舗面積に応じて乙種と甲種があり、乙種は1日、甲種は2日間の講習会を受けることで取得できます。受講料は乙種が7,000円、甲種は8,000円となっています。
飲食店の営業許可は保健所に申請します。
取得には、飲食店営業許可申請書の他、営業設備の大要、配置図、内装の図面、食品衛生責任者資格の証明書などが必要となります。一発で取得するためにはあらかじめ図面を携えて保健所に相談に行くことをおすすめします。取得費用は地域によって異なりますが、だいたい1万6,000円~1万9,000円程度です。
次に必要なのは開業届(個人の事業主の開業・廃業等届出書)。こちらは開業から1ヶ月以内に最寄りの税務署に提出します。この際、合わせて「所得税の青色申告承認申請書」も提出すれば、確定申告の際に節税になる青色申告ができるようになります。届出はどちらも無料です。届出書や申請書は税務署でもらえる他、国税庁のホームページからダウンロードできます。
流れとしては、
①食品衛生責任者の講習会を受講し、資格を取得する。
②保健所で営業許可をもらう。
③税務署に開業届を出す。
の順で進めていくといいでしょう。
カフェをオープンする前にしておきたいこと
カフェはいうまでもなく飲食店。提供するメニューはお客様が口にして「美味しい」「また来たい」と思ってもらえるものでなければいけません。
それだけでなく、カフェ経営には何が必要か、できれば実地で学んでおきたいものです。ここでは開店前の準備として、オーナーがやっておきたいことについて考えてみます。
①カフェで働く(修業する)
カフェの経営を学ぶには、同じ個人経営のカフェでスタッフとして働くのがいちばんの早道かもしれません。カフェ経営のいいところ、悪いところ、ノウハウを理解したうえでの開業ならスムーズに事を運べるはずです。
②カフェスクールに通う
大手の飲料メーカーなどではコーヒー好きやカフェオーナー志望者に向けてスクールや養成講座を開講しています。数万円から数十万円の受講料が必要ですが、知識や技術を深めるうえでもスクールでの勉強はおすすめです。とくにコーヒーや紅茶はいくら究めても究めきれぬほど奥が深いものなので、勉強は欠かせません。
③デジタルや経営に関するスキルを身につける
カフェ経営は店に立つだけでは成り立ちません。事務的な業務やSNSを活用しての集客などにも相応の時間を割くこととなります。スキルというものはスタート時点ですぐに身につくものではありませんが、少なくとも準備段階である程度は経理やデジタルの知識は身につけておきたいものです。
④客単価や売上、利益率を設定する
飲食店の売上は、立地や席数、営業日(&定休日)、営業時間、メニュー内容、回転率などによって大きく変わります。
客単価も、ドリンク類のみの場合と食事をともなう場合では変わります。
難しい話かもしれませんが、客単価や売上はなるべく正確な数字を弾き出しておきたいものです。同じように固定費や変動費などの経費も月ごとにいくらかかるのか算出してみてください。売上とそれらの経費を見比べれば利益率も見えてきます。
個人経営の場合、利益はイコール自分の収入となります。
利益率については、できれば20%を確保したいところですが、いざ始めてみるといいところ10%だったりします。その場合、月の売上がかりに100万円あったとしても収入として残るのは10万円となります。月商が50万円だと5万円にしかなりません。これでは、運転資金のあるうちはなんとかなっても長く経営を続けるのは厳しくなります。売上や利益がどれほどのものか、シビアに考えていけば解決すべき課題が浮かび上がってきます。
サイレントオープンで課題を可視化させる
カフェをオープンするとき、すぐに閉店したいなどと思っている人は1人もいないはずです。理想はオープン初日から満席が続くといった状態かもしれませんが、現実は甘くありません。
自分が夢見ていたのはどんなカフェでしょうか。常にお客さんで賑わっている忙しい店なのか、それともゆったりとした時間が流れている静かな店なのか。その中間くらいの店なのか。それによってオープンに合わせた集客の方法は変わってきます。
ここでお勧めしたいのはサイレントオープンです。サイレントオープンとは、開店に合わせていっさいの宣伝をしない営業手法です。
「宣伝しなくちゃお客さんが来ない」という意見もありそうですが、オープンしたての飲食店というのはなにかとトラブルが起きがちなものです。使う設備も新しければ、スタッフも経験不足。物の配置や動線も完璧とは言えません。いわば未完成品のようなものです。
そこへもし大々的に宣伝をかけて一度に大勢のお客さんが押しかけたらどうなるでしょう。おそらく想定外のトラブルやミスが頻発するはずです。そうなると気の早いお客さんは「この店はダメだ」と早々とジャッジしてしまうことでしょう。これがノウハウのある大手チェーン店だったらまだしも、なにもかもがはじめてという個人経営の店だったら、よけいにミスが増えるはずです。カフェにしても同様です。
だからこそ、オープン時はあえて宣伝はしないという方法が選ばれているのかもしれません。Twitterくらいはアカウントを立ち上げてツイートしてもいいでしょう(まだこの時点ではフォロワーも少ないはず)が、その他の告知はあえて控える。売上はまったく期待できないけれど、お客さんが少ないぶん慌てることなくひとつひとつの仕事を点検しながら進めていくことができるし、お客さんの反応も確かめることができます。それによって改善すべき点などの課題を早期に見つけることができます。
課題を解決し、カフェを滞りなく運営できる自信がついたら、インターネットを活用して本格的な宣伝活動を始めるといいでしょう。もちろん、宣伝を始めたからといってすぐに集客できるとは限りません。それよりも来たお客さんにリピーターになってもらえるよう、メニューの開発やサービスの向上に努めてください。そのためにお客さんとのほどよい距離感でのコミュニケーションも必要かもしれません。
リピーターを増やすには粘り強さが求められます。こうして考えると、前述したようにやはり運転資金は1年分は用意しておきたいところです。
おしゃれで居心地のいいカフェは、そこに佇んでいるだけで街の雰囲気を華やかにしてくれる素敵な空間です。しかし、経営するとなるとなかなかたいへん。軌道に乗るまでの道筋をきちんと描いたうえで開業へと踏み出してください。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ、『最強戦国武将伝 徳川家康』等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。