年が明けて、家の中で変わったものといえばカレンダー。日本のカレンダーの特徴はその多くに「大安」や「友引」などの六曜が暦注として印刷されていることです。六曜を構成する6つの日にはどんな意味があるのでしょうか。知っているようで知らない六曜の知識をおさらいしてみました。
知っておきたい六曜の意味
街を歩いていて、宝くじ売り場などでときどき目にする「本日大安吉日」の幟。これを見ると「今日は大安か。宝くじ買ってみようかな」という気持ちになる人もいるのではないでしょうか。こんなふうに六曜は現在も日本人の生活に染み込んでいるものです。
まずはあらためて、六曜の意味を知っておきましょう。
六曜は、縁起のいい順番に並べると以下のようになります。
※()内は読み方
- 大安(たいあん)
1日を通して幸運に恵まれる日。結婚、引っ越し、開業、契約など大事なことを行ったり、なにかを始めるのに適している。 - 友引(ともびき/ゆういん)
友を呼ぶ日。丑の刻にあたる午前11時から午後1時までは凶だが、それ以外の時間帯は吉とされる。葬儀は「故人が友を呼ぶ」という意味から敬遠されるが、それ以外の結婚式などの行事は大安に次いで適している。 - 先勝(せんしょう/せんがち」さきがち)
午前中(六曜では午後2時まで)が吉とされる日。逆に午後2時から6時までは運勢が悪い。文字通り、先手必勝の心得ですべきことは早い時間に済ませるとうまくいくといわれている。 - 先負(せんぷ/せんまけ/さきまけ)
「先んずれば負ける」という意味。先勝とは逆に午後2時までは凶で、それ以降は吉。この日は急ぎの用は避けた方が無難。 - 赤口(しゃっこう/しゃっく/せきぐち)
「赤舌日(しゃくぜつにち/陰陽道では羅刹神が支配する不吉な日)」ともいわれる凶日で、丑の刻(午前11時~午後1時)が吉の他は凶とされている。やるべきことがあるなら正午前後に済ませ、他はおとなしく過ごした方がいい。 - 仏滅(ぶつめつ)
六曜の中では運勢がいちばん悪い日。1日をとおして凶日なので、特別なことはしない方がいい。ただし、会いたく相手と別れるには適した日でもある。
中国伝来の暦注である六曜
六曜の読みは「ろくよう」もしくは「りくよう」。もとは中国発祥の吉兆を占う暦で、日本には鎌倉時代後期もしくは室町時代はじめの14世紀頃に入ってきたと言われています。七曜と混同しないために「六輝」といわれることもあります。
当時の中国は元、明の時代でしたが、おそらくつくられたのはもう少し古く、唐代の天文学者だった李淳風がつくった六壬時課(りくじんじか)という時刻占いがもとになったのではないかと論じられています。とはいえ、確たる証拠はないため、なかには『三国志』の時代に諸葛亮孔明が発案したという説もあります。
「六」の由来は時制。古来、中国では日の出から日の入りまでを3つに、日の入り後から日の出までを3つというように、1日を6つに分けていました。そしてそれぞれの時間で吉兆を占っていました。それが変化し、1日を1単位としたものが六曜です。六曜は「仏滅」という言葉などから仏教と関係しているように思われがちですが、両者の間に関係はまったくありません。六曜の名称は時代ごとに変遷していて、「仏滅」は意味が通じやすいようにした当て字に過ぎません。仏教ではむしろ心を揺らすものとして占いを禁じています。
日本では江戸時代後期に大流行
14世紀には日本に渡来していた六曜ですが、庶民の間に広まったのは江戸時代の後期です。
それまでは六曜の名称も大安と赤口以外は別のものが使われていました。
1688年(元禄元年)に発刊された暦注解説書である小泉松卓の『頭書長暦』では、「大安、立連、則吉、赤口、小吉、虚妄」、同時代に刊行された『和漢三才図会』では「大安、留連、速喜、赤口、将吉、空亡」というふうに、江戸時代も中盤までは六曜の名称や意味は現在のものとは微妙に異なっていました。
現在の「先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口」となったのも、やはり江戸後期。誰が決めたのかは詳細は定かではありませんが、誰もが意味を想像しやすい文字を当てたことで大流行し、暦注として暦に記されるようになりました。
明治に入ってからは迷信の類を暦に載せるのはいかがなものかと政府から禁止令も出ましたが、占い好きの庶民はこれに従わなかったといいます。結局、日本社会には広く六曜が広まり、商習慣や冠婚葬祭などの日取りを決めるのに利用するといった、現代に伝わる風習がつくられていきました。
戦後になるとカレンダーに印刷されるのは当たり前。人々は六曜を参考に結婚式や引っ越しの日を決めるようになりました。
もっとも、最近ではカレンダーに記載はされてはいるものの、日常生活において六曜のそれぞれの日を特段意識するということはなくなってきました。若い世代の中には「大安や仏滅ならなんとなくわかるけど、他の日はよく知らない」という人が多くなっています。
六曜はどんなときに参考にするといいのか
現代の日本では廃れ気味の六曜。忙しいいまの世の中では六曜に行動を縛られるのは現実的ではないかもしれません。ただ、一部には六曜を気にする人はまだ多く、そのため大安の日の結婚式場や引っ越し業者の予約は他の日に比べて早く埋まります。反対に、繁忙期を除けば、仏滅の日などは予約が少なく、ひょっとしたら交渉次第ではディスカウントが期待できるといったこともあるかもしれません。
もし六曜を意識するのであれば、やはり大事にしたいのは「大安」です。
なにか新しいことにチャレンジする日、お稽古事の申し込みや旅行の予約、結婚式、入籍、住宅や新車の購入、工事の着工、引っ越しなど、慶事や気持ちを新たにするような日は大安を選びたいものです。お見舞いなども大安がよいとされています。
なお仏事や神事などは六曜の影響を受けないのでとくに気にする必要はありません。それでも、「神社で結婚式を挙げるのだけど仏滅は避けたい」という場合などは仏滅以外の日にすればいいだけの話です。
六曜は、基本的に「先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口」の順で六日ごとに変わっていきますが旧暦時代からのきまりで、毎月、旧暦の1日にあたる日は必ず定まった六曜にリセットされます。そのため、大安と大安の間が6日より短かったり、逆に10日くらい空いてしまったりといったことが起きたりします。
旧暦では、以下のように1日の六曜が決まっています。
1月 先勝
2月 友引
3月 先負
4月 仏滅
5月 大安
6月 赤口
7月 先勝
8月 友引
9月 先負
10月 仏滅
11月 大安
12月 赤口
毎日カレンダーで目にする六曜。日本人として、とりあえずの意味は知っておきたいものですね。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。