2024年9月1日の外国為替市場で、円相場が1ドル=140円をつけました。このままでは1ドル=150円も視野に入れねばならなくなってきました。日本の円安は、個人にとっては資産の目減りを意味します。対抗手段はあるのでしょうか。
24年ぶりの円安に打つ手なし!?
とうとう円が1ドル140円台まで下落してしまいました。
なぜか? それは円が売られ、ドルが買われているからです。
「アメリカのFRB(連邦準備制度理事会=アメリカの中央銀行)はこれまでも大幅な利上げを実施してきたが、この先もそれを継続するだろう」
そう判断した人々が「やっぱり買うなら利回りのいいドルだ」と円を売ってドルを買ったのです。
その結果が、1998年以来となる24年ぶりの円安。予想はできていたことだけに「ああ、やっぱりね」と思われた方も多いでしょう。
これに対して政府はというと「急速な変動な望ましくない。為替市場の動向を高い緊張をもって注視をしてまいりたい」(鈴木財務大臣)と、いつもどおりの答弁で、具体的な策はなにも打とうとしません(これからなにかするかもしれないけれど)。
今年のはじめは1ドル=115円だった円相場。それが8ヶ月で25円も下落。この数字だけ見ると、なんだか戦争に負けたような気分になってしまいます。
来年(2024年)の4月(3月説も有り)に予定されている日銀総裁の交替が相場にどう影響するか。メディアは盛んに候補者の名を挙げていますが、なにもできない一国民としては指をくわえて眺めているしかなさそうです。
実際、なにかできることはないのでしょうか?
もちろん、ないわけではありません。
いまこそ資産形成に本気になる
一個人ではどうしようもない為替相場。だけど、生きている以上はこの世の中で暮らしていかねばなりません。結局、自分たちにできるのは、置かれている状況下で最大限の努力をする、これしかありません。
ここで言う努力とは、前向きな努力を指します。
ビジネスでもスポーツでも、人は厳しい状況下に陥ると、つい守りに入ってしまうものです。じっと我慢して耐え、相手の攻撃が止むのを待つ。確かに、それは道理です。でも、耐えるのってたいへんですよね。
以前、ボクシングの経験者からこんな話を聞いたことがあります。
「同じ1ラウンド3分でも、自分が攻撃しているときと相手に攻撃されているときでは、攻撃されているときの方が何倍も疲れる」
そのとおりだと思います。
いまの円安は、数字の上では耐えるしかない状況だけど、これを「攻撃されている」とみなすのではなく、逆に「チャンスだ」と捉える。生活者にはそういった意識の変化が必要なのではないでしょうか。
早い話、「攻撃は最大の防御」なのです。
とはいえ、一個人に戦況を一変させるような魔法の武器はありません。ここはやはり、基本をしっかり押さえて実践することがなによりも大切です。
守りに入ったところで、円の価値は下がるばかり。そして、物の値段は上がるばかり。ただ貯金をしているだけでは持ち金は相対的に目減りしていく。これに対抗するには、資産形成しかありません。
①つみたてNISA、iDeCoを始める
②インデックス投資、その他の手堅い投資をする
③固定費の削減など節約に努める
④転職や副業で収入をアップさせる
⑤節税する
上記は誰もが知っている、そして思いつく資産形成の方法です。しかし、①~⑤のうち、すべてを満たしている人はどれだけいるでしょう。④の転職や副業は必ずしもする必要はないけれど、もう一度自分を洗い直して、なにがどこまでできているか、考えてみるといいのではないでしょうか。
要は、資産形成にどこまで本気になれるか。勝負はこの本気度にかかっている。「結局、精神論かよ」と言われてしまいそうですが、筆者にはこれがなによりも大切な気がするのです。
円安でも投資はつづけるべき
「でも、いまは円安だから株式投資はやめた方がいいんじゃない?」
どこからかこんな声が聞こえてきそうです。いやいや、そんなことはないでしょう。
そんなことを言っていたら、円安の間はずっと投資を控えなくてはなりません。ところが、すでに投資を始めている人の大半は円安のいまも投資をつづけています。理由は簡単で、たとえ円が一時的に25円安くなったとしても、長期の投資におけるリターンの方が大きいからです。
実際のところ、24年ぶりの円安局面で株を買うのは勇気が要るかもしれない(ことに筆者のような投資初心者は)。だけど「株式投資は長期で」「リスクの高いものは避ける」「株は割安なときに買う」の3つの原則を守っていれば、失敗することはほぼないはず。これは投資のプロがみんな口を揃えて言っていることです。
投資先企業の倒産が確実など、よほどのことがない限り「損切り」はしない。日々の株価の上下は気にしない。その種の雑音には動じない。そうした胆力がほしいところです。
円安のメリットは本当にメリットなのか
生活者にとっては値上げの連続で苦しい円安。いっぽうでは「円安は輸出企業には追い風となる」「円安は日本の対外純資産を増やす」という話もよく聞きます。それはそうでしょう。でも、これだけ円安がつづくと苦言のひとつも言いたくなります。
「円安に頼らなければ競争力が維持できない日本の企業ってどうなの?」
「日本の対外純資産は31年連続で世界1位。411兆円あるっていうけど、その一部でも国民にまわってくるの?」
このところ、「○○社がベースアップ」というニュースを見かけます。そう聞くと、円安で儲かった企業が社員に還元しているのかなと思えますが、蓋を開けてみると本当の理由は「人材確保のため(社員の流出を防ぐため)」だったりします。それでも、給料を上げてくれるだけその会社はまともと言えるでしょう。
円安で生活は厳しくなる。会社は給料をなかなか上げてくれない。こうなったらもう、自分で立ち上がるほかにありません。
資産形成の基本を守って頑張りましょう。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。