3分で読める

もしかして25万円もらえる? 特別弔慰金とは

現在、第十一回特別弔慰金の請求受付が行われています。対象者であれば申請することによって額面25万円の記名国債(5年償還)が支給されるこの制度について説明します。

家族の中に70代後半以上の人がいるか?

請求すれば25万円が支給される国の制度があることをご存知でしょうか。それが厚生労働省が管轄する「特別弔慰金」です。これは主に第二次世界大戦(太平洋戦争、日中戦争など)における戦没者等の遺族に対して支払われるもので、今回が11回目の支給となります。

支給のタイミングは、戦後20周年、30周年、50周年、70周年といった節目となる年。国はこういった年を特別な機会と捉え、弔慰の意を表すために過去10回、特別弔慰金(国債)を支給してきました。

太平洋戦争で日本が敗戦したのは1945年8月15日、いまから数えると80年近くも前のこととなります。この記事を読まれているほとんどの人にとって、戦争はまだ自分が生まれていない遠い過去の話のはずです。「自分には関係のない話」と感じたとしても無理はない、むしろ自然なことだと思います。

でも、もしかすると関係がないこともないかもしれません。

自分の家族の中に70代以上の高齢者の方はいないでしょうか?

両親や祖父母は何歳でしょう?

両親や祖父母、または曽祖父や曽祖母、高齢の親戚などからこんな話を聞いたことはありませんか。

「あなたのおじいちゃんは戦争で亡くなったのよ」

「わたしのおじいちゃんは戦地で病死した」

「兄が兵隊にとられて南方で死んだ」

このように家族を戦争で亡くした経験を持つ70代後半以上の人の場合、条件を満たせば特別弔慰金を受け取れる可能性があります。自分は対象外であっても、高齢の家族にはその権利があるかもしれないのです。

支給対象者の中には、ひょっとしたら過去10回あった特別弔慰金を知らずに今日まで過ごしてしまったという方や、高齢にともなう認知症などの症状で自分が対象者であることを忘れてしまった方がいるかもしれません。対象者がほぼ後期高齢者となった今回の請求では、若い世代の家族の助けを必要としている人も少なくないはずです。父母でも祖父母でも曽祖父母でも、対象となっているかどうか一度確認してみてはどうでしょうか。

支給対象は「戦没者等」の遺族

第二次世界大戦において日本では軍人・民間人含めて約310万人の犠牲者(死亡者)が出ました。戦後は厚生省(現・厚労省)が中心となって生き残った戦傷病者や遺族に対して恩給や年金などのさまざまな救済策がとられてきました。特別弔慰金もそのうちのひとつです。

厚生労働省のパンフレットでは支給対象者について以下のように説明されています(以下抜粋)

令和2年4月1日(基準日)において、「恩給法による公務扶助料」や「戦傷病者戦没者遺族等援護法による遺族年金」等を受ける方(戦没者等の妻や父母等)がいない場合に、次の順番による先順位のご遺族一人に支給します。

戦没者等の死亡当時のご遺族で

1. 令和2年4月1日までに戦傷病者戦没者遺族等援護法による弔慰金の受給権を取得した方
2. 戦没者等の子
3. 戦没者等の①父母 ②孫 ③祖父母 ④兄弟姉妹
 ※戦没者等の死亡当時、生計関係を有している等の要件を満たしているかどうかにより、順番が入れ替わります。
4. 上記1~3以外の戦没者等の三親等内の親族(甥、姪等)
※戦没者等の死亡時まで引き続き1年以上の生計関係を有していた方に限ります。

補足して説明すると、支給対象者は「戦没者が死亡当時、すでに生まれていた人」に限られます。

例えば、戦後生まれの人で、戦争中に祖父が戦死していたという人がいても、その人は支給対象者とはなりません。

例外は「子」で、戦没者である父の死亡当時、自分が母のおなかのなかにいた(胎児だった)場合は、支給対象者となる権利があります。この場合、戦後77年が経っているので、出産までの期間を含めて考えると大半の支給対象者は76歳以上となります(※一部、戦後数年経って収容所等で亡くなった方もいるので76歳未満の支給対象者も存在します)。

支給対象者の順位は、戦没者等から見た続柄は「子」が一番で、次に上記①~④の親族となります。

例えば戦没者等の「子」がすでに亡くなっている場合などは①~④に該当する誰かが対象となる可能性があります。

順位としては数字通り①から④までの順に優先権が与えられますが、必ずしもその限りではありません。厚労省では「戦没者等の死亡当時の生計関係、改氏婚、養子縁組の有無等により順番が入れ替わります」としています。

子がすでにいない、①~④に該当する人もいない、という場合は戦没者等の三親等内の親族(甥、姪等)が支給対象となる可能性がありますが、そこには「戦没者等と一年以上生計関係を有していた」という条件がつきます。これに当たらない場合は対象外となります。

この他、「戦傷病者戦没者遺族等援護法による弔慰金の受給者本人」などは必ずしもこの条件が当てはまらない場合がありますが、一般的にはここで説明したような形で支給対象者が決まります。

もし遺族が複数いるという場合でも、特別弔慰金は「ご遺族を代表するお一人が受け取るもの」とされています。遺族間での分配などの調整は支給を受けた人が責任をもって行うと決められています。

「戦没者等」とは?

特別弔慰金でいう「戦没者等」とは、「軍人軍属としての在職期間中、又は準軍属としての公務上の傷病、又は勤務に関連した傷病が原因で死亡した者」を指します。

軍人はなんとなくわかるけど、軍属とか準軍属ってなに? と首を傾げる方もいることでしょう。

厚労省がこうした事業で認める、軍人、軍属、準軍属とは以下のような人たちです。

軍人
1. もとの陸海軍の現役、予備役、補充兵役、国民兵役にあった者(軍人)
2. もとの陸軍の見習士官、士官候補生、もとの海軍候補生、見習尉官(準軍人)
3. もとの陸海軍部内の警部、監獄看守長、高等文官、従軍文官等(文官)

軍属
1. 戦地勤務の陸海軍部内の雇員、よう人等
2. 船舶運営会船員
3. 満鉄職員等

準軍属
1. 国家総動員法関係者(被徴用者、動員学徒、女子挺身隊員)
2. 戦闘参加者
3. 国民義勇隊員
4. 満州開拓青年義勇隊員(満州青年移民)、義勇隊開拓団員
5. 特別未帰還者
6. 内地等勤務の陸海軍部内の雇員、よう人等
7. 防空従事者

戦時中、上記のような身分にあった人は最低でも数百万人いて、そのうち約230万人が命を落としました。当時の人口を考えると、ざっくり数えて国民30人のうち1人は戦没者に名を連ねたことになります。

特別弔慰金の申請方法は?

(請求期間)

第十一回特別弔慰金の請求期間は令和2年4月1日から令和5年3月31日までとなっています。請求期間を過ぎると特別弔慰金を受けることができなくなるので注意が必要です。

(請求窓口)
現在居住している区市町村の援護担当課。

(請求に必要な主な書類等)
①請求書類
1. 戦没者等の遺族に対する特別弔慰金請求書
2. 第十一回特別弔慰金国庫再建印鑑等届出書(要印鑑)
3. 戦没者等の遺族の現況等についての申立書

②戸籍書類等
原則として令和2年4月1日(基準日)現在の請求者の戸籍抄本。この他、過去に特別弔慰金の請求をしたことがあるか等の状況によって提出種類は異なる(一度、居住している市町村の援護担当課で確認するのがベター)。

③本人確認書類(請求者、相続人の場合)
請求者の現在の戸籍抄本
下記の1~3のうち1つ
1. 官公庁から発行された顔写真入りの書類(例:運転免許証、運転経歴証明書、パスポート、マイナンバーカード等)
2. 官公庁から発行された顔写真がない書類(例:介護保険被保険者証、年金手帳、公的医療保険の被保険者証、氏名の他に、生年月日または住所が入ったもの)
3. 氏名の他に、生年月日、住所または顔写真が入った書類(例;預金通帳、公共料金の領収証、診察券、社員証等)

④本人確認書類(法定代理人が請求手続きを行う場合)
法定代理人の代理権を確認する書類
成年後見人等:登記事項証明書
未成年後見人、親権者及民法改正前の後見人、請求者の戸籍書類

1. 官公庁から発行された顔写真入りの書類(例:運転免許証、運転経歴証明書、パスポート、マイナンバーカード等)
2. 官公庁から発行された顔写真がない書類(例:介護保険被保険者証、年金手帳、公的医療保険の被保険者証、氏名の他に、生年月日または住所が入ったもの)
3. 氏名の他に、生年月日、住所または顔写真が入った書類(例;預金通帳、公共料金の領収証、診察券、社員証等)

※成年後見人等が団体の場合は、登記事項証明書の他、請求手続きを行う者が団体職員であることが確認できる書類(例:職員証・職員当ての郵便物等)

※委任状により任意代理人(外国居住者の代理人を含む)が請求手続きを行う場合、請求者および代理人双方の本人確認書類が必要請求に必要な書類は各市町村の援護担当課に置いてあります(請求すれば郵送も可)。

特別弔慰金、支給までは時間がかかる

特別弔慰金は市町村での受付から都道府県での審査、裁定を経て、可決裁定されたものが厚生労働省経由で財務省へとまわり、そこで国債の記名加工手続きが終わり次第、国債として市区町村経由で請求者のもとに届きます。審査と裁定には約9ヶ月から1年、国債の記名加工手続きには約3~4ヶ月かかるため、請求受付から国債交付まで1年から1年半を要します。

また今回が初めての請求であったり、前回と請求者が変わっていたり、審査裁定を行う都道府県(戦没者の除籍時本籍都道府県等)が請求者の居住都道府県と異なるときはさらに時間を要する場合があります。

発行される国債は5年償還で、令和3年から毎年1回償還日(4月15日)以降に、年5万円ずつ支払いを受けることができます。支払いを受ける場所は、請求手続き時に希望する郵便局等を指定することができです(ゆうちょ銀行の口座への振込も可)。

請求から国債発行まで最低でも1年以上かかるうえ、分割で支給される特別弔慰金。しかし、戦争の犠牲となった戦没者や遺族である家族のためにも、ここはきちんと請求しておきたいところです。

戦後80年近い歳月が過ぎたいまとなっては、家族や親族と疎遠になっていたり、手元に正確な記録が残っていなかったり、記憶が曖昧だったりするというケースも多いかと思われます。それでも、なにか心当たりがあるのならばまずは市区町村の援護担当課に相談してみるのがおすすめです。請求期限までに、一度、問い合わせしてみてはいかがでしょうか。

詳しくはこちら。

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。