ロシアによるウクライナへの侵攻が続いています。国連機関の集計によるとウクライナから国外へと脱出した避難民の数はすでに500万人(2024年4月15日現在)を超えています。そのなかには日本に避難してきた人々もいます。もしも自分たちの住む町にそうした避難民の人たちが来たら何ができるでしょう。記事の前半では「戦争」という面から見た日本とロシアの関係、後半ではウクライナ避難民に対する支援策を紹介します。
簡単には終わりそうにないロシアとウクライナの戦争
2月24日に始まったロシア軍のウクライナへの侵攻は、ウクライナ軍とウクライナ国民の激しい抵抗もあり、2ヵ月経ったいまも激しい戦いが続いています。
この戦争はこの先どうなるのか。なかなか進展しない停戦交渉の行方はどうなるのか。さまざまなメディアで大勢の識者が今後の見通しについて語っています。なかにはロシアが核兵器を使うのではという、あってはならない話まで飛び交っています。いずれにせよ、そこから見えてくるのは、両国の戦いはどうも長引きそうだということです。
かりに停戦交渉がまとまったとしても、それですべてが終わるのかというと、けっしてそんなことはないでしょう。直接的な戦闘は収まっても、戦いの火種はくすぶり続けるはずです。世界中の人々を驚愕させ、憤りを覚えさせた一般市民に対する虐殺行為、破壊された町の惨状などはそうやすやすと忘れられるものではありません。
ウクライナにとって不運なことにロシアは陸続きの隣国です。その気になればいつでも国境を超えて領内に踏み込んでくることができる相手です。そんな物騒な隣国に警戒心を解くことなど不可能です。
ロシアと日本は「電車で1時間の距離」の隣国同士
今回のロシアによるウクライナ侵攻は、安全保障に関する日本の世論もざわつかせています。普段は外交や安全保障にあまり興味のない人も、さすがに今回ばかりはそれが意識にのぼっているのではないでしょうか。
とくにブチャをはじめとするウクライナ国内でのロシア軍の殺戮行為は、戦争というものの恐ろしさをあらためて人々に知らしめました。
人類史上、戦争においてこうした虐殺行為というがたびたび繰り返されてきたのですが、まさか21世紀にもなって、テロ組織などではなく、国連の常任理事国である一国が他国の領土に侵攻して相手国の国民を無差別に殺す、などという光景を見せられるとは。信じ難い思いでニュースに触れた人も多いかと思います。
日本にとって他人事でないのは、それを実践しているロシアという国が隣国であるということです。幸いなことに日本の場合は海を隔てているものの、いちばん近い北海道の宗谷岬とサハリンでは約43kmしかありません。
時速100kmで走行できる高速道路であれば、車で30分かからない距離です。電車でも1時間かかるかかからないかでしょう。首都圏に住んでいる人なら、小田急線で新宿から藤沢に行くようなものだと聞けば、なるほど近いなと感じるはずです。
もちろん、ロシアと日本は戦争状態にはないのですぐに攻め込まれるようなことはありません。
日本が欧米と呼応してとっている経済制裁に反発して、ロシアは日本を非友好国に指定したり、千島や日本海で盛んに軍事演習を行ったり、あるいは政治家の1人が北海道の権利はロシアにあるなどと発言して牽制していますが、だからといって、普通に考えて戦争になったりはしません(とはいえ、今回のウクライナ侵攻を見ていると不安を覚えてしまいますが)。
日本とロシア 過去にあった不幸な戦争
過去の歴史において、日本とロシアは何度も戦ってきました。その回数は、紛争レベルの小戦闘を加えると優に100回は超えるといわれています。というのも、かつて日本(及びその支配地域)とロシア(旧ソ連を含む)は陸続きの関係にあったからです。
ここでは、明治以降の近現代における日本の国策や戦争の是非については論じません。
ひとつはっきり言えるのは、明治以降の150年ほどの間、日本とロシアは何度も干戈を交えてきたということです。数え方はいろいろありますが、ざっと見て大きな戦いだと5回ほど。その回数は古代からときどきあった中国との戦争と同じか、それに迫るくらいです。
一般に日本人が連想するロシアとの戦争といえば、明治時代に起きた日露戦争でしょう。この戦争で日本は海でも陸でもロシア軍に大勝しました。実は国力ギリギリ、これ以上やっていたら危なかった、という話もありますが、とにかくこの戦争は世界が認める日本の大勝利に終わりました。
しかし、そのあとはというと、大正期のシベリア出兵にしても昭和期の張鼓峰事件、ノモンハン事件、第二次大戦末期のソ連の参戦にしても、日本はどちらかというと不利な側で、幾度も手痛い目に遭ってきました。
ことに第二次大戦末期のソ連軍の侵攻は、まだ有効であった日ソ中立条約を違反しての行為で、日本から見たら火事場泥棒に遭ったようなものでした。このときのソ連軍の侵攻によって家族や財産を失った日本人は少なくありません。
前世紀の日本は今世紀のウクライナ。まったく他人事ではないのです。
日本にも逃れてきたウクライナの人々
日常の平和な生活を奪われてしまったウクライナからの避難民の人々は、ヨーロッパ諸国に比べれば数は少ないものの日本にも来ています。それにともない国や各自治体でも受け入れ準備を始めたり、数人単位ながらすでに受け入れを開始したりしています。
もし自分の町にウクライナから避難して来た人がいたらどうしましょう。
温かく迎え入れてあげたいですよね。
自分の町でなくても、そうした人々がいるということを知ったらどう感じるでしょう、
できれば、何かしたい。力になりたい。そう思うのが自然だと思います。
でも、何をすればいいのでしょう。政府や自治体は当面の生活費の支給をはじめ、避難民の人たちが望んでいることを聞いてそれを応えようとしています。しかし、これまであまり難民を受け入れてこなかった日本だけに、すぐには的確な対応が見つからないというのが現状のようです。ある自治体ではどうすればいいのか国に問い合わせたところ、国側でもどうすればいいのか考えているところだといった回答をもらったといいます。
すでに始まっている日本に来た避難民への支援
これから先、ウクライナからの避難民に対する支援策はどんどんかたまっていく。それを期待しながら、すでに始まっている支援策を紹介します。
・ウクライナ学生支援会 JSUS(Japanese Supports for Ukrainian Students)
避難民の人たちが日本に来てまず感じるのは「言葉の壁」です。「志ある日本語学校のグループ」であるウクライナ学生支援会では、ウクライナから避難してきた人々へ日本語教育の無料提供を行うとしています。プロジェクトではまず日本語の話せるメンターを100名程度育成し、後続支援につなげる予定だといいます。
有志校として参加している日本語学校は、清風情報工科学院、メロス言語学院、日本語センター、青山国際教育学院、新宿日本語学校、大阪日本語アカデミー、東京国際外語学院、さくら日本語学院など全国30校以上。他に校名非公開の学校もあります。
ウクライナの人々が日本に来るのにネックとなっているのが、最低でも1人30万円程度かかるという渡航費。同会では、避難者の渡航費や学費などの補助のために5月31日までの予定でクラウドファンディングを行っています。支援は1,000円程度から。クレジットカード払いも可能です。
・日本財団
日本財団では、全国各地域におけるウクライナ避難民の受け入れ態勢の整備を目的に、ウクライナ避難民の受け入れや生活支援を行う各地域の市民社会の活動や、それらの支援活動の連携をコーディネートする事業等を対象に助成を行っています。
対象が団体のため個人では申請できませんが、NPO法人や任意団体など、もし非営利活動や公益事業などを行っている団体に所属しているのであればこのプログラムを利用して避難民への支援が可能かもしれません。
・想定される対象事業は以下の通り(同財団ホームページより抜粋)
- 衣食住の保障に関する相談、支援事業
- 子どもへの学びの機会提供や、居場所づくりの事業
- 日本での就労に向けた準備、研修事業(日本語学習など)
- メンタルヘルスのケア、心理的サポートを提供する相談、支援事業
- 女性特有の課題に関する相談、支援事業
- 避難民と地域社会(自治体、学校、医療機関、介護士施設など)を相談員が結び、併走する事業
- 教育機関等と連携し避難民の受入れと教育支援を行うコーディネーション事業
- 企業等と連携し避難民の受入れと就労支援を行うコーディネーション事業
- 自治体や各支援団体間の連携による生活、教育、就労等の一体的な支援事業
- 上記のような事業を行う事業者のプラットフォームとして情報共有・発信を行う事業
・対象となる団体
日本国内にて次の法人格を取得している団体:一般財団法人、一般社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人(NPO法人)、学校法人(国立大学法人を含む)、任意団体(法人格のない団体)など非営利活動・公益事業を行う団体
自治体も募金活動を開始
・大分県
大分県では「県内に受け入れたウクライナ避難民の皆様の生活を支えるため、広く寄附を地募り、大分県による生活支援等を行うプロジェクト」を立ち上げ、クラウドファンディングを行っています。
※同様の動きは、今後、さまざまな自治体で行われることになると予想されます。
・北海道
北海道では5月31日までの予定で日本国際連合協会北海道本部と連携して、道内へ避難して来たウクライナ避難民の生活を支援するための募金を行っています。
支援対象は「北海道在住のウクライナ人の方などの親族・知人で、ウクライナから北海道へ避難して来られた方」
振込先
北洋銀行 道庁支店 普通 3594247
北海道銀行 道庁支店 普通 0721748
口座名義・日本国際連合協会北海道本部 北海道ウクライナ避難ん民支援募金(※名義は両銀行共通)
※振込時は振込先の口座名義などをよく確認してください。
この他、全国の都道府県、市町村などでは、市役所に募金箱を設置するなど、ウクライナから避難してきた人々への支援を行っています。自分の住んでいる地域がどんな支援を行っているのか、自治体のホームページなどで確認してみましょう。
最後に、日本に来ている難民はウクライナの人々だけではありません。内戦状態のミャンマーなど、他の国のことも忘れずにいたいものです。
また日本国内にはロシア人の方々も住んでいます。戦争に反対している人、母国を支持している人、いろいろな方がいると思います。それでも自分の国ではない異国に暮らしているということは一緒です。お互いに尊重しつつ理解を深めあうことができる、そんな日本社会であることを願っています。
困っている人を助けるというのはお金にはならないけれど、心の資産になります。自分が誰かの役に立つという「心の資産形成」にも励みたいですね。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。