世の中を飛び交っている「DX」という言葉。省庁や自治体、企業、団体の多くがDX推進に取り組んでいますが、そもそもDXとは何でしょうか。1分で解説したいと思います。
DXとは何か?
DXとは“Digital Transformation”(デジタルトランスフォーメーション)の略です。まるで特撮ヒーロー物の必殺技みたいな響きを持つこの用語、その意味は「デジタル技術を活用してこれまでのビジネスモデルや産業構造を変革する」といったものになります。
発案者はスウェーデンのウメオ大学で情報学やコンピューティング学などを研究していたエリック・ストルターマン教授。2004年に発表した論文でデジタル化によって変容する人々の生活を「DX」と定義づけ、それを提唱したのがはじまりでした。
頭文字が「D」と「T」なのになぜ「DX」なのかというと、英語圏ではtransが「X」と略されるからです(他にも「DT」というプログラミング言語があるので、それと被るのを避けたという説もあります)。
DXと聞いて、「デジタル技術ならみんな活用しているじゃないか」「IT化とどう違うの」という疑問の声もあるかと思います。
ちょっと強引かもしれませんが、個人レベルに落とし込んで考えてみましょう。
30代以降の大人の方なら覚えていると思います。
21世紀を迎えるまで、情報通信分野における手段は電話やFAX、郵便が中心でした(パソコン通信などもありましたが、一部の人のものでした)。
それが気がつくとパソコンや携帯電話が普及し、みんながそれを使うようになりました。これがIT化です。ビジネスの世界では「デジタイゼーション(アナログで行なっていた業務のツールをデジタル化する)」ともいいます。
電話に比べると、メールはいつでも送れて便利です。生活はすぐに「普段の連絡はメールで。急ぎのときは電話で」というふうに変わりました。
変わったのは連絡手段だけではありません。Amazonや楽天などのEコマースが登場し、徐々にデジタルを活用しての買物が増えてきました。生活のプロセスがアナログからデジタル化し始めたのです。このへんまでくると「デジタライゼーション(アナログで処理していたものをデジタル化して付加価値を高める)」化されたといっていいでしょう。
すっかりデジタルツールを使うことになれた自分。いつの間にか生活はデジタルなしでは成り立たなくなっていました。
そうするうちに、デジタルを活用してお金を稼ぐことができるようになりました。「好き」や「得意」を利用して、PCやスマホ、タブレットを使って副業で仕事をしているうちに新しいアイディアがどんどん湧いてきました。
新しいアイディアは新しいニーズを生み出し、ついには会社を辞めて独立・起業を果たしました。気分はなんだか生まれ変わったかのよう。新しい自分に出会えた感じです。ここまでくるとDX=デジタルトランスフォーメーションです。
日本のDXの現状
経済産業の「DX推進ガイドライン」ではDXをこのように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化、風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
早い話、「デジタルを活用してこれまでと違う強い自分(会社)に生まれ変わりなさい」と言っているのです。もうひとつ付け加えると「自分だけではなく、世の中全体を変えてしまいなさい」と提言しているわけです。
そんなことをいきなり言われても困る。よく「うちの会社はなぜDXが進まないのか」といった声を耳にしますが、それはある種当然のことです。「変わる」というのはたいへんエネルギーが要ることです。とくに旧態依然とした組織は「変化」や「変革」が苦手です。そして残念ながら、どうも日本にはこの旧態依然とした会社が多いようなのです。
2024年にスイスのIMD(国際経営開発研究所)が発表した世界主要各国のデジタル競争力ランキングでは、日本は64ヶ国中の28位(2020年は27位)でした。これだけDXを声高に叫んでいても現実はこの状態です。
DX 日本が抱えている課題とは
どうして日本の順位は低いのか。以下は主な理由です。
- ITにおいて日本人全体のスキルが低い
- デジタル化に向けて企業の本気度や準備が不足している
- 企業や団体がデータを活用していない
- グローバル人材が不足している
- デジタルにおいて企業全体でリテラシーが低く古い体質のままでいる
これらの指摘は相対的なものであり、それが28位という順位に反映しています。と同時に、企業が旧態依然としていたり、グローバル人材、ITスキルが不足しているといった部分は他国と比較するまでもない日本の絶対的な欠点、弱点といえます。
では、どうずればいいのか。
答はひとつしかありません。これらの課題を克服することです。実際、政府も企業もそれに向けて動き出しています。けれど、どうしてか笛吹けど踊らずなのが日本社会です。前に述べた通り、変革や変化には莫大なエネルギーが必要だからです。
DX 期待は若い世代
古くからある既存の企業は体質が古くてDXが進まない。社名やイメージだけ変えているけれど、実際には中身はたいして変わっていない。
高度成長期からバブル崩壊まで、経済的に栄えた日本には古いインフラやシステムがいまだに多く残っています。そのため、21世紀になってから台頭してきた新興国にデジタル化の分野などにおいて大きく遅れをとってしまいました。なまじ古いシステムが使えるものだから、それに依存し続けてしまった結果がいまの日本です。システムやインフラだけでなく、考え方までが古いためにDXが進まないというのが日本の現状なのではないでしょうか。
こうなると期待したいのは若い世代です。デジタルネイティブな若い世代が既存の価値観やシステムにとらわれない新しいビジネスを生み出してこそ、日本のDXは実現する。もちろん、それを待ってばかりはいられないので、現役世代も自分を変えていく努力を怠るわけにはいきません。とくに経営者にはそれが求められます。
DXは待ったなし。経営者やDX担当者はもちろん、一人一人の本気度が問われている時代です。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。