行動制限のないお正月。2024年のお正月は控えていた初詣に行くという人も多いことでしょう。ここでは初詣の基本である参拝の方法や縁起のいいお賽銭の金額などについて説明します。
そもそも初詣とは何か
初詣とは、1年のはじめに神社や寺院に参拝し、神仏に感謝するとともに新しい年を平穏無事に過ごせるよう祈願するものです。
現代では三が日か、それに近い日取りで近所の氏神や有名な寺社に参拝に行くものとなっていますが、江戸期以前はその家の主が大晦日から元旦を神社で祈願して過ごすこと(年籠り)を指していたといいます。
時代が過ぎるにつれ、年籠りの習慣は、大晦日と元旦の2回の参拝へと形を変えていきます。大晦日の参拝は除夜詣、元旦の参拝は元日詣とされ、これが明治時代に入ると元日詣が主流となり、今日に至る初詣の習慣が形成されていきました。
現在と当時の初詣には共通点もありますが違う点もあります。初詣がまだ元日詣と呼ばれていた江戸時代は、参拝先は地元の氏神様が中心でした。これはいまでも変わらぬ習慣で、初詣といえばまずは近所の氏神様という人が多いはずです。
現在と違うのは、氏神様の他に恵方(その年の干支にもとづいて決まる縁起のいい方角)にある寺社にも参拝していた点。これを恵方詣りといいます。
最近はというと、冬になるとスーパーで恵方巻きを買う人は多いと思いますが、お正月に恵方の神社をわざわざさがして行くという人はほとんどいません。
もし氏神様の代わりに行くとしたら、ご利益がありそうな有名どころの寺社に行く。東京とその周辺だったら、明治神宮や川崎大師、成田山新勝寺、浅草寺などなど。こうした初詣の名所には、正月だけで100万人以上の人たちが参拝に訪れます。
現代の初詣はマーケティングから生まれた!?
では、どうして恵方詣は廃れてしまったのでしょう。実はその答は、はからずもいま挙げた川崎大師などおの有名どころの寺社にあります。
明治時代になると、日本にも鉄道が発達し始めます。次々に開通する鉄道は、沿線の住民に利用してもらうためにあの手この手と営業施策を打ち出します。初詣もそのひとつでした。
鉄道と初詣の掛け合わせはヒットしました。
「お正月は家族で鉄道を利用して初詣に行こう!」
そう言われると、明治の人たちは文明開化の象徴である鉄道に乗るという物珍しさもあって、遠くの寺社へと出かけるようになりました。鉄道も神社もお寺も、その周辺のお店も人々の落とすお金で潤いました。
うまくいったとなれば、これを毎年の習慣にしてほしいと思うのが人情です。となると、干支によって方角が変わる恵方詣りでは都合が悪くなります。恵方などにこだわらず、汽車に乗って行けるうちの神社(寺)に来てほしい。そう考えた鉄道と寺社は猛キャンペーンを張りました。
キャンペーンの甲斐あって、明治の世において恵方詣りの習慣は徐々に薄くなっていきました。同時に、元日のみの元日詣も、日を絞らない「初詣」へと姿を変えていったのです。
わかりやすく言うと、初詣もクリスマスやバレンタインデー、ハロウィンなどと同じで、マーケティングが大きく影響した文化ということになります。
なんだ、結局は商売がらみか。裏事情を知るとちょっとしらけた気分になりますが、ここは気持ちを入れ替えましょう。
参拝客が多かろうが少なかろうが、そこに儲けが絡んでいようが、神仏は神仏です。神様や仏様に変わりはありません。参拝するときは最低限の礼儀を守って参拝しましょう。
参拝の手順
初詣の参拝も通常の参拝と手順は同じです。神社の場合は以下のことを守って参拝してください。
①鳥居をくぐる前に一礼する(帽子やマフラーははずしておく)
②参道を歩く時は正中(参道の真ん中)を避けて歩く(正中は神様の通り道)
③社殿に行く前に手水で手や口を清める(神様はきれい好き。左手、右手を洗い、左手で口をすすぎ、そのあと左手を洗う)
④社殿(本殿)に行って賽銭を納める
⑤鈴を鳴らす
⑥二礼する(背筋を伸ばしてきちんと腰を折るっこと)
⑦二拍手する(このとき左右の手は合わせたときに右の手を少し下にずらして打つ)
⑧一礼する
⑨鳥居を出るときも一礼する
参拝の間、忘れてはならないのは神様への感謝の気持ちです。手順ばかりが頭にあって、肝心の感謝の気持ちが抜け落ちていたということがないようにしてください。
タイミング的には本殿で二拍手したときに目を瞑り、そこで感謝の思いや自分の願いごとを心で呟くといいでしょう。
参拝客が自らの願いごとを祈願するようになったのも、実は明治以来のこと。本来、神様はただ願うだけの人の願いを成就させてくれるものではないので、お願いするというよりも「〇〇を〇〇したいので精一杯努力します」と誓いを立てるといった気持ちで臨むのが正解かもしれません。真摯に頑張る人を神様は応援してくれます。
お寺に行く場合は、以下の流れが基本となります。
①山門に一礼
②山門に仁王像などがあるときは手を合わせる
③手水で手や口を清める(手順は神社と同じ)
④香炉の煙で身を清める(なければ省略)
⑤本堂の賽銭箱に布施をする(鈴などがあれば布施の前に3回鳴らす)
⑥静かに手を合わせて祈願する
⑦一礼する
この他、初詣には場所によって細かいマナーがあったりしますが、とりあえず上記の手順を覚えておけば困ることはないでしょう。参拝時間はできれば朝(朝は清浄を意味する)がおすすめですが、午後や夕方でいけないということはありません。
お賽銭はいくらにするといいの?
初詣に行くと必要なのがお賽銭。もっともお賽銭は必ずしも必要ではありません。持ち合わせがなければ入れずに祈願だけすることも可能です。
とはいえ、一円も賽銭しないのも気が引けます。賽銭は感謝の気持ちの表れでもあるので、少額でいいので入れたいものです。
実際、賽銭はいくら入れるといいのでしょう。
実はこれもとくに決まったルールはありません。いくらでもかまわないというのが答です。入れていけない金額はありません。ただ、縁起を担ぐと、たとえば10円玉1枚などは避けた方がいいと言われています(「とおえん」は縁から遠くなる)。
逆に1枚だけ入れるならおすすめのは5円(ご縁がある)。それじゃ少ないと感じたら100円玉を入れるといいでしょう(100円には100の縁があるとされている)。
他にも5円玉が2枚だと「重ねてご縁がある」、125円だと「十二分にご縁がある」など、縁起が良いとされている金額はいくつもあります。
賽銭には語呂合わせの「縁起がいい」「縁起が悪い」はあっても、金額の大小によって願いが叶う、叶わないといった差はありません。あくまでも気持ちなので、そのとき出せる金額を出すといいでしょう。
神社などには末社や摂社といった本殿以外の社があったりします。そこにもたいてい小さな賽銭箱が備えてあります。賽銭は本殿でしておけば十分ですが、気が向いたらこうした小さな社にも入れてみましょう。また初詣には一ヶ所だけというルールはないので、複数の寺社に参拝に行くのもOKです(むしろ神社やお寺としては嬉しいでしょう)。基本として、行くのならば近所の氏神様。他にも行きたければどこの神社でもお寺でも問題ありません(お寺の場合は檀家のみ参拝可能といった場所もあるので注意)。
お正月気分を盛り上げてくれるイベントいえば、やっぱり初詣。家族と友人と、新年最初の思い出となる初詣を楽しんでください。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。