大人になっても意外と知らないことってありますよね。例えば病気やケガによる入院費。普段はあまり意識していないことでも、とくにコロナ渦のいまなどは、「ひょっとしたら自分もそんなことに……」と一度や二度は考えたことがある人も多いのでは? そこで気になる入院費用について、ざっくり説明します。
今日も100人に1人が入院中
不意に襲ってくるケガや病気。日本全国で入院している人はどれくらいいるのでしょうか。2017年に実施された厚生労働省の「患者調査」によると、人口10万人に対する入院受療率(入院患者)の総数は1036人。およそ100人に1人がケガやなんらかの疾患で入院していることになります。100人に1人と聞くと、「入院」が意外と身近なところにあるような気がしてきますね。
1036人の内訳を見ると、がん(悪性新生物)が100人。がんと並ぶ三大疾病の脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)は115人、心疾患(狭心症、心筋梗塞)は50人となっています。最も多いのは精神障害の統合失調症で121人。統合失調症は100人に1人がかかるという病気だけに、入院患者もやはり多いようです。現在はコロナ禍のためこの割合は変化しているかもしれませんが、基本的には常にこれだけの数の人が入院受療を必要としているのです。
入院費用の平均は1日約2万円
入院するとなると、病状はもちろんのこと、頭をかすめるのは医療費です。とくに経済的にゆとりがない人は「入院」と聞いただけで「いくらかかるのだろう」と頭を抱えてしまうかもしれません。
入院費は、もちろん疾病の種類や受ける医療、入院日数などで変わります。自己負担額の平均は1日約2万円。割合としていちばん多いのは1日1万~1万5千円です。
入院日数の平均は32日間。がんの場合は平均で約17日間、心疾患は約19日間、脳血管疾患は78日となっています。
女性に多い乳がんで入院した場合を見てみましょう。
乳がんの平均入院日数 11.5日 × 2万円=23万円 がかかる計算となります。
胃がんの場合は、平均入院日数 19.2日 × 2万円=38万4000円 が自己負担額となります。
1日の入院費を1万5000円としても、19.2日 × 1万5000円=28万8000円 が必要です。
目の玉が飛び出るほどではないけれど、けっこうな出費です。
もちろん、病気やケガのなかには入院日数がもっと少なくて済むものもあります。それらも含めると、入院時の自己負担額の平均は約21万円となっています。
やっぱり高い入院費。
しかし、これを安く抑える方法があります。
誰でも利用できる高額療養費制度
もし、がんなどの病気でその月の1日から30日まで、1ヶ月入院したとします。自分のお財布からはいくら出さなければならないのでしょうか。
結論から言うと、算出される医療費の自己負担額は9万円程度で済みます。なぜかというと、国民健康保険などの公的医療保険に加入している人は「高額療養費制度」を利用できるからです。
高額療養費制度は、その月の1日から月末までの間に医療費の自己負担額が自己負担限度額を超えた場合に適用される制度で、利用した場合は超過分の還付が受けられます。つまり、払った入院費のうち、かなりの部分が戻ってくるのです。
高額療養費の自己負担限度額は、年齢や収入(所得)によって変わります。ここでは年収が400万~500万の人で計算してみます。
例えば、退院時に病院の窓口で払った自己負担額が30万円だったとします。全国健康保険協会の「高額療養費簡易試算」を用いると、その場合の高額療養費の見込額は21万2570円。
30万円 - 21万2570円=8万7430円
つまり、実際に払う金額は8万7430円となります。
かりに50万円かかった場合は、9万4097円。100万円だと11万763円。200万円だと14万4097円。現実には自己負担額が100万円以上になるようなことはまずないので、頭の中で「自己負担額は9万円程度」と思っておけばいいでしょう。
食事代などは高額療養費が適用されない
ひとつ覚えておきたいのは、「9万円」というのは、公的医療保険の適用範囲内の金額だということです。例えば、個室に入ったときの差額ベッド代や、食事代(1食460円)、クリーニング代、服などのレンタル代、売店での買物などは対象とはならず、全額自己負担となります。差額ベッド代を除いたものをざっと計算すると、1ヶ月で約5万円。差額ベッド代は平均約6200円/1日ですから、「絶対に大部屋は嫌だ」という人以外は使わないのが賢明です。
(例)1ヶ月入院した場合(差額ベット代なし)
高額療養費を差し引いた自己負担額約9万円+ 適用範囲外の食事代など約5万円=約14万円
14万円ならば、入院保障が日額5000円程度の保険や共済に加入していれば十分カバーできる金額ですね。
高額療養費の申請方法 いつすればいいの?
お財布に優しい高額療養費。利用するのは簡単です。まず、高額療養費自体の請求や支払いは医療機関と健康保険組合などの保険団体の間で行われるので、入院患者は原則として入院時に健康保険証を提示すれば他にすることはありません(医療機関によっては必要書類への記入などがあるかもしれません)。
その後は病院から保険団体に情報が送られ、保険団体から手続きに必要な書類や通知が自宅など登録されている住所に送られてきます。それに振込先口座番号などの必要事項を記入して返送すれば、所定の日に差額の払い戻しを受けることができます。支給額が決定し、払い戻しが受けられるのはだいたい対象となる月の約3ヶ月後からというケースが多いようです。
入院日が決まっている場合は限度額適用認定証を使おう
もし入院がいつと決まっているのなら、入院前に「限度額適用認定証」を取得しておくことをおすすめします。
高額療養費はあとから申請する場合だと、いったん病院の窓口で自己負担額の全額を支払う必要があります。一時的とはいえ、20万円、30万円といった出費は痛いものです。払い戻しにも時間がかかります。
しかし、入院前に「限度額適用認定証」を手に入れれば、それを入院時に病院に提出することで支払い時に払う自己負担額があらかじめ高額療養費が差し引かれた金額となります。
限度額適用認定証の申請は、国民健康保険の加入者は市町村の役所の国民健康保険窓口、その他の健康保険は各健康保険組合でできます。申請から発行までは数日かかることもあるので早めの手続きをするといいでしょう。
この他、限度額適用認定証の発行が遅くなって入院に間に合わなかった場合、また退院時の支払いが高額で難しい場合などは、高額療養費の8割から9割程度の金額を無利子で借りることのできる「高額療養費貸付制度」を利用することができます。
なお、もしも新型コロナウイルスに感染して入院した場合はどうなるのでしょう。
2024年3月現在、新型コロナウイルス感染症は指定感染症に指定されているため、医療費は公費負担となっています。入院しても医療費は負担せずに済みます(食事代などは発生します)。
最後にまとめておきます。
- 入院したときにかかるお金は1ヶ月で約14万円(医療費約9万円+食事代など約5万円)
- 高額療養費はあとからの支給でいいなら入院時の手続きは不要
- 高額療養費を最初から差し引きたいときは入院前に限度額適用認定証をとっておく
- 入院保険は1日5000円程度のものでいい
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。