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中古物件を買ってリフォームしてみた リフォーム編その⑪

家のリフォーム。みなさんはどうされているでしょう? リフォーム業者に丸投げ? それともDIYですべて自分でやってしまう? 筆者の場合は、水回りなら水回り、壁なら壁、畳なら畳、窓なら窓、とそれぞれ専門の業者にアプローチするという方法を選んで、出費を大幅に減らすことができました。中古のボロ物件を購入してのリフォーム工事。今回は畳とガス工事、エアコン工事、壁工事の巻、です。

謎のエアコン工事費。本当の相場はいくら?

首都圏にあるおおかたの小中学校が夏休みに入ったこの朝、引っ越しまであと9日という新居@中古物件に工事屋さんが次々とやってきました。妻は仕事なので対応するのは自分です。

最初に来たのは東京ガスの業者さん。都市ガスを引くには、前面道路からカースペースの向こうにあるガスメーターまでガス管を設置しなければなりません。距離にしたら、7、8メートル。ここはドリルによる力技での掘削作業が必要です。

ガス屋さんから工事の段取りを聞いていると、今度は畳屋さんが来ました。畳の縁の見本を見せてもらって色を決定。青を選ぶと「この色はよく出るんですよ」と畳屋さん。筆者の色使いのセンスは平均的、標準的であるようです(つまんないヤツだな)。

畳屋さんが畳を外して軽トラに積んでいると、今度はエアコンの取り付け業者さんが来ました。今日は2回の3室に取り付けの予定です。2台は標準工事で無料。問題はカースペースに室外機を置く予定の1台です。

夏の書き入れ時で忙しいのか、エアコン工事屋さんのお兄さんは、来るなり「壁に穴は空いていますか?」と訊いてきました。少しでも工事を早く終わらせたいのでしょう。確認してもらうと、今度は「ベランダのホースに化粧カバーを付けますか。付けた方が絶対かっこいいです」。勧める理由はわかるけれど、そうなると標準工事では済まなくなるのでこれは断念。なにしろ予算は最低限しかないのです。

お兄さんに懸案の部屋を見せると、やはり「室外機は駐車場に置くしかないですね」。壁に取り付けという方法もありかなと思っていたのですが、プロの目から見てそれはなしのようです。となると、ホースは何メートルか追加です。ベランダ側と違い、こっちは通りに面していて目立つので化粧カバーもつけたい。そうなるとプラスでいくらかかるのでしょうか。これについては、もちろんネットで検索しまくっています。しかし、どのサイトをあたってもはっきりした答は見つかりませんでした。

なんてことを考えていると、お兄さんが下で工事を始めていたガス屋さんに「どのへんで作業しますか?」と尋ねました。

「あ、そうすか。わかりました」と答えたお兄さんは、筆者に振り返ると「この部屋は別日で」と言ってきました。「この部屋、2階にしては高いし、ぼくらの梯子が届くかどうかやってみないとわからないんですよ。それに……」と説明するお兄さんに、筆者も「下はガス工事やってますもんね」と頷きました。ガス工事とエアコン工事が重なってしまったときから、これは予想していたことでした。

お兄さんはさっそく業者を手配している工事会社に連絡。あらためての工事日は8月1日となりました。ということは、引っ越して3、4日はこの部屋(仕事部屋)ではエアコンが使えないということです。まあ仕方がない。仕事はリビングでするか、と自分を納得させました。

標準工事の2部屋はあっという間に工事完了。2台のエアコンは試運転でフル稼働です。「さっきの部屋、もし工事していたらプラスでいくらくらいかかりますか?」と尋ねると「うーん、7万円くらいですかね」とお兄さん。思わず「ななまんえんっ!?」と叫びそうになった筆者でしたが、さすがに顔には出しませんでした。

〈けっこうかかるだろうと思っていたけど、それにしても7万円か……〉

去っていく黒いハイエースを見送りながら、正直、工事が延期になってよかった、と思いました。7万円では、エアコン本体よりもかかってしまいます。

〈しょうがない。いざとなったら〇〇君に訊くか〉

○○君というのは筆者の従兄弟です。家業はエアコン取り付け工事などの電気工事。筆者も10代の頃は先代の叔父の手伝いを何度かしたことがあります。だからか、なんとなくこの7万円というのが相場ではないだろうという勘が働いたのです。さっきのお兄さんは、これから来るであろう同業者のために、わざと高い値を口にしたのではないか。そんな気がしたのです。

本当の相場はいくらなのか。ここは是が非でも知りたいところです。従兄弟は従兄弟で夏はめちゃくちゃ忙しいので、できればこんなことで煩わせたくはないのが本音です。

次善の策としては、数日後に控えているリビングのエアコン移設工事、そこに来る業者さんにもう一回同じ質問をしてみるという方法があります。2回聞けば、だいたいの相場は見えてくるはずです。

外からは「ドドドドド!」というガス工事のドリルの音が響いてきます。ご近所さんに申し訳ない。緑地の向こうの保育園にもけっこうな音量で届いているはずです。どうか子どもたちのお昼寝の時間までには終わりますように、と祈りながら、工事をお任せして、自分は荷造りのために家へと戻りました。

新居の工事が佳境を迎えているいっぽう、家では荷造り。この機会に不要な物は捨てようと、プチ断捨離。人生で引っ越しは何回もしてきましたが、今回ほどやることが多い引っ越しはありません。

アルバムの写真を見て気がついたこと

引っ越しまであと7日。世間は海の日の連休です。

朝、新居に行くと壁屋のMさんが来ていました。奥さんと娘さんも一緒で、今日は3人で作業をしてくれるといいます。娘さんは「キッチン、きれいになりましたねー」と驚いている様子。前回、見積もりに来てもらったときはキッチンもトイレも廃墟みたいな状態だったので無理はありません。

壁は基本的に白。ただし、リビングのうち2面は青に、2階の子ども部屋はピンクにしてもらう予定です。1階のLDKとトイレ、脱衣所の壁は損傷や汚れが激しいので張り替え、他は専用の塗料で塗ってもらいます。作業内容を確認しあったあとは、差し入れのジュース類を詰めたクーラーボックスを置いて、夕方の作業終了を楽しみに待つこととしました。

遊んでいる暇はなし。家に戻ると荷造りとゴミ出しです。同じ経験を持っている人は多いでしょう。引っ越しの荷造りというのは、思わぬ物を見つけて感慨に耽ったり、捨てるべきかどうか悩んだりするものです。筆者も毎度、そういう思いをしています。

この日、見つけたのは壊れたデジカメにカセットテープ類。どちらも取材の仕事で使っていたものでした。思い出はあるけれど、物体としては邪魔なだけ。よってゴミ袋行きです。デジカメは区役所に回収ボックスがあったはずですが、わざわざ持って行く時間はありません。

この日はさらに難題が待っていました。

写真のアルバムです。筆者は文筆業者ですが、若い頃は一眼レフを抱えての取材によく出ていました。まだデジタルでなくフィルムの時代です。その頃のポジフィルムやプリントがいまだにたくさん残っているのです。引っ越しのたびに整理して、現在は10分の1ほどに減らしたものの、それでもまだ段ボール箱や衣装ケースのいくつかをそれらの写真が占めています(いったいどれだけ写真を撮っていたのでしょう)。

やめればいいのに、ついうっかりプライベートで撮った写真が入ったアルバムを開いてしまいました。そこには、まだ独身だった、30代の頃の自分がいました。

「あれ?」と思ったのは、違和感からでした。

筆者の場合、30代といえば楽しかった思い出しかありません。実際は、仕事、仕事、仕事の日々でしたが、その毎日がとても充実していたのを覚えています。仕事ではいろんな人に会って、国内外のあちこちに出かけて、雑誌の仕事をいくつも掛け持ちして、新聞連載などもやっていました。はじめて著書を出版したのも30代でした。友人も多く、いつも誰かと食事をしたりお酒を飲んだり、毎日が「移動祝祭日」といった感じでした。

なのに、写真のなかの自分の顔があまり楽しそうに見えないのです。なぜでしょう。

「そうか」とすぐに手元のスマホの写真フォルダーを開けてみました。そこには最近撮った写真が入っています。大半は家族で写したものです。

スマホの写真にいる自分は、どれも口を大きく開けて笑っています。見るからにバカ、もとい、幸せそうです。

古い写真と今現在の写真、比べてみると、いまの自分の方が圧倒的に幸せそうな顔をしています。そして、実際、幸せなのです。

現実はといえば、いまの生活は家事に育児にとまったく余裕がなく、毎日はへとへとで、自分の時間などというものはほぼありません。それどころか妻サービスの時間もとれません。仕事にしても独身時代の半分かそれ以下の量しかこなせません。経済的にも職業人としても、実にハードな毎日です。

しかし、人間の幸せというのはちょっと違うみたいです。30代の頃の自分も、笑顔は笑顔です。だけど、いまの笑顔を100パーセントとすると、40パーセントくらいにしか見えないのです。

〈家族がいるって、こういうことなのかな〉

どうやら、いまの自分は過去の自分よりも幸せなようです。古い写真を見て、あらためてそれに気がつきました。

これで踏ん切りがつきました。

「捨てるか」と、ずいぶん減らした写真をさらに処分しました。といっても、写真の整理は時間がかかるので、今回は1時間と時間を決めて、その範囲内でできるだけのことをしました。にしても、写真を捨てるというのはなかなか忍び難いものです。風景はともかく、ポートレートとなると、写ってくれている人たちをゴミ箱に入れているようで、処分しながら「ごめんなさい」と独りごちてしまうのです。

この日は祝日で娘の保育園は休み。娘は妻の両親が遊びに連れ出してくれていたので、その隙におもちゃなども荷造りです。

そして夕方、Mさんから「終わりました」と電話が鳴りました。

壁の張り替え&塗装でボロ物件が劇的に変身!

さっそく新居に行ってみました。玄関ドアを開けるや、家のなかは見違えた状態です。

「うわっ、新築みたい!」

汚れまくっていた壁が真っ白です。ぴかぴかです。2階の2室以外はエアコンが使えないという暑い中、よくぞこんなにきれいにしてくださいました。

「塗装の部分で、どうしても隠しきれない汚れなどがありましたけど」とMさんは言いますが、それとて気になるようなものではありません。

「ありがとうございます。妻が見たら泣きます!」

Mさんをネットで見つけたのは妻です。その目に狂いはありませんでした。

リビングはブルーがいいアクセントになっています。販売会社のIさんや前のオーナーさんにもお見せしたいくらいです。娘の部屋はピンク一色。いかにも女の子の部屋という感じです。筆者の仕事部屋も大変身。壁に空いていた穴も、見つけることができないくらいきれいんい埋まっています。

Mさん一家に御礼を言い、クーラーボックスに残っていた飲み物は全部お土産に持ってもらいました。

妻の仕事がそろそろ終わろうという時間だったので、買物ついでに近所のスーパーで待ち合わせました。

合流後、すぐにまた新居に戻って妻に家の中を見てもらうと。「すごい。星の王子さまのコンセプトに合ってきた!」と大喜びです(妻には家を『星の王子さま』風にしたいという思いがあったのです)。

中古ボロ物件が壁の張り替えと塗装で新築に化けました。費用は税込19万6000円(安い!)。大きなリフォームはこれでほぼ終了です。

(リフォーム編その⑫へつづく)

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。