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中古物件を買ってリフォームしてみた リフォーム編その⑫

リフォーム業者から430万円という見積金額が出ていた中古物件のリフォーム。すべてを白紙に戻して自分たちで手配を進めたら、同等のリフォームが250万円程度でできることがわかりました。差額は実に180万円。そしてリフォームはいよいよ大詰め。新居への入居は無事にできるのでしょうか。

引っ越しまでカウントダウン

引っ越しは7月29日。今日は7月24日です。荷造りができるのは5日しかありません。仕事と家事と育児、それに新居で残っている工事の立会いなどと併行しての5日間などあっという間に経ってしまいます。

この日は粗大ゴミの収集日だったので、回収を予約していた不用品をゴミ集積場に出しました。使わなくなった自転車やベビーカー2台、プリンター、キャリーケースなどとお別れ。ベビーカーは本当は記念にとっておきたいのだけど、新居とてそんなに広くはないので手放すしかありません。リサイクルショップに持って行っても買取価格はいいところ500円。時間が惜しいので今回は普通に粗大ゴミに出しました。

荷造りをしていると、またも写真を含む過去の遺産がたくさん出てきました。今日出てきたのは主に海外で撮ったポジフィルム。その昔、旅行ライターとしてヨーロッパやアジア、南太平洋などをまわっていたときの写真です。本当は選別して保存したり捨てたりしたいところですが、そんな時間はありません。さらに頭を悩ますのが、過去に寄稿した雑誌などの山(過去の引っ越しでずいぶん処分したのだけど、まだかなり残っている)。いっそ捨ててしまえばいいのですが、いつか娘に「パパはこんなのも書いていたんだよ」と見せてあげたいという気持ちもあって捨てるに捨てることができないのです。

駄目押しは、四年前に天国へと旅立った飼い猫が使っていた猫グッズ。移動用のバッグなどは鼻を当てるとまだほのかに亡くなった猫の匂いがします。なんだか胸がキュンとなってバッグを抱きしめてしまいました(これも捨てられず)。

と、感傷にばかり浸ってもいられないので、立ち上がって荷造りのつづきです。翌日も、翌々日も空いている時間は荷造りと片付け。三人家族なのになんでこんなに荷物が多いのか。あらためて見ると、娘の服やおもちゃがこの2年間ですごく増えていることに気がつきました。

作業中、お向かいの家のご主人さんの姿が見えたので「実は引っ越すんです」とご挨拶しました。「この間、妻が引越し屋さんのクルマがとまっているからもしかしたらって言っていたんですけど、やっぱりそうでしたか」とご主人。お向かいさんには、いつも洗濯物を干していて雨が降り出したときなどに教えてもらったりしていたので、もっとちゃんとご挨拶したいところです。

引っ越し寸前、リフォームは9割以上終了!

あと3日で引っ越し、というところで畳屋さんから予定より1日早く「いまから納めに行ってもいいですか」と連絡が入りました。さっそく新居にクルマを走らせて、真新しくなった畳を和室の床にはめてもらいました。グレードはいちばん安いものを注文したのですが「ひとつ上のグレードにしておきました」と泣けるお言葉。代金は六畳一間で3万円。良心的な価格です。

畳屋さんは「明後日から入院します」とのこと。

「膀胱がんでしてね。コロナでずいぶん遅くなったけど、この間手術してもらって、今回は検査と化学療法で5、6日の入院なんです」

こちらとしては完治を祈るばかりです。こういう仕事が丁寧で良心的な職人さんは社会の宝です。ずっと元気で活躍してもらいたいものです。

交換した畳は「20年は持つ」とか。

「でも小さいお子さんがいる場合は、少し早めに貼り直した方がいいかもしれません」

娘のやんちゃぶりを思うに、きっとそうなるに違いありません。

畳屋さんを見送ったあと、畳の上を軽く雑巾掛けしてごろんと横になってみました。藺草の香りが鼻腔をくすぐります。すごく気持ちがいいです。

次の日はまたガス工事。この日はガス管がむき出しになっているカースペースの回復作業と点火試験です。工事屋さんが回復作業をしてくれている間に、東京ガスのYさんと、ちゃんと火がつくか、お湯が出るかをチェックしました。どちらも問題なし。これでやっとプロパンガスから都市ガス生活に復帰です。

工事費の分割払いのスタートは再来月からとのこと。分割払いは3年。毎月の支払いは7000円程度です。住宅ローンと合わせると毎月7万2000円。3年後にはガス工事の分は終わるので、毎月6万5000円。筆者や妻の身に何かあっても、これくらいなら十分払っていけそうです。

Yさんたちが帰ると、ガス契約担当のSさんが来てガスの再チェックと契約、それに火災報知器の購入手続き。火災報知器はリースか一括購入か、2つの選択肢があります。聞いていると一括購入の方が数千円お得とわかったので購入と決定。今日買った性能の良いものはキッチン用。残りの部屋につける分は低価格のものでよさそうなのでホームセンターかネットで買うことにしました。

ガス工事も終わって、残るリフォーム関連の作業はリビングのペアガラス交換とエアコンの取付工事が2台といったところです。他に電話やインターネットの工事などがあります。この2ヶ月弱。いったい何組の業者さんとやりとりし、事を前に進めてきたことか。見積に金額交渉にスケジュール調整の連続でした。それももうすぐ終わりです。

悔しい!「ハズレ」だったハウスクリーニング

引っ越し前日です。娘を保育園に送り、そのまま新居でハウスクリーニング業者のBさんを待ちました。Bさんも妻がネットで見つけた業者さんです。お願いしているのは「家全体の掃除」。お値段は1日4万円です。

やって来たBさんは「もともとは水道屋」だそうで、習い性らしく最初に水回りをチェックされました。「二階の洗面台のパッキンがいかれていたので交換しておきますね。一個ですからサービスしておきます」といい感じの人です。

「どこか集中してやってほしいという場所はありますか?」

尋ねてくるBさんに「窓枠が、葉っぱとかでかなり汚れているので気になっています」とお願いしました。

「あとはできる範囲で結構ですから時間の許すところで家全体を」

「わかりました!」

掃除は夕方まで。床のワックスがけなどはできなくても、水拭きくらいはしてくれるとのこと。お任せして、自分は郵便局に転送届を出しに行きました。スーパーにも寄って、Bさんに差し入れをして、家に帰ってまた荷造りです。

夕方、隣に住む義母や義父、義兄がやって来ました。そこにBさんから「終了」の電話が入ったので、妻も合わせ5人で新居へ向かいました。ちょうど保育園のお迎えの時間だったため、筆者だけは娘を引き取りに園へ行きました。

娘を連れて園から新居へと歩いている途中、クルマに乗ったBさんとすれ違いました。挨拶したかったけれど、Bさんは携帯片手にニコニコしながらハンドルを握っていて、こちらには気づきませんでした。

新居に行くと、義母や義父、義兄は「きれいになったねえ」とリフォームされた家に大喜びです。娘も「ポン子(仮名)のおうちー!」と駆けずりまわっています。

そんななか、妻ひとりがうかない顔をしています。

「どうしたの?」と聞くと、「おかあさんが1万円払っちゃった」。

「1万円?」

「なんか、いろいろ説明して、ここは本当はプランに入っていないけどサービスでやっておきましたとか、水回りもパッキン換えましたとっか言うから、本当にいいんですかって聞いたんだよ」

「うん、そうしたら?」

「ずるいんだよ。お気持ち次第です、って言うの」

「で?」

「おかあさんが、ええかっこしいで財布から1万円出して渡しちゃったの」

一瞬、携帯片手のBさんのニコニコ顔が頭をよぎりました。4万円の代金がいきなり5万円になったのですから、そりゃあ笑顔にもなるはずです。

義母はというと「いいのよ。この広さの家を1日で掃除するのはたいへんだから」と気にしていません。義母はかつてハウスメーカーに勤めていたこともあって、業者さんには優しいのです。

が、妻はおさまりません。

「おかあさん、よく見てよ。これが5万円の仕事? 全然掃除できていないよ」

妻の言葉に筆者も「え、マジで?」と不安になりました。お願いした窓枠を見ると、まあまあきれいにはなっています。が、その他のところを指でこすってみると、埃が溜まったままだったりします。おいおい、という感じです。

「あの人、1日いたけど、さぼってばかりだったんじゃない?」

妻の言う通りでした。床は掃除したのかしなかったのか、わからないレベルでうっすら汚れ得ているし、階段の手すりや取手類、下駄箱の上なども触った形跡はなく埃がついたままです。

「しくじった。ずっといい業者さんに当たっていたけれど、最後の最後でハズレを引いちゃったな」

差し入れなどした自分が、とんだお人好しのバカ者であった気がして情けない気分です。

気を取り直して、全員で回転すし屋に行って夕食としました。家に帰ってからは最後の箱詰め作業。2年5ヶ月住んだこの家で寝るのも今夜が最後です。

明日はいよいよはじめてのマイホームに入居。2月の内見から続いたドタバタ劇もゴールが見えてきました。

(引っ越し編①へつづく)

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。