内見した客がすべて逃げていったという中古ボロ物件。それでも買ってしまったもの好きがここにいました。最低限の予算でどこまでリフォームができたのか。最終回の今回はいくらかかってなにができたのか、総括してみました。
中古物件、購入から入居までの半年間を振り返る
結論から言ってしまえば、予算的にも内容的にも「大成功」といえた今回のマイホーム購入。
入居に至るまでの流れをざっと振り返ってみると、以下のような感じでした。
- 2月 妻がネットで物件を発見。販売会社に連絡を取る。
- 3月 内見後、購入を検討。ローンの仮審査を通す。
- 4月 リフォームの見積りをとる(当初予定より130万増)。
- 5月 リフォーム開始を待ちながら過ごす。
- 6月 丸投げだったリフォーム工事を白紙撤回。自分たちで業者を手配する。住宅ローンを契約。売主との間で決済を済ませる。
- 7月 リフォームに着手。月末に引っ越し。
いっぽう、この間、夫婦の心理状態はこんな感じでした。
- 2月 いま家を買うべきかどうか夫婦で揉める(400万しか貯金がない。自営業者の夫はローンが組みづらい等々)。
- 3月 内見した家は他の客がみんなドン引きしたボロ物件。でも安い(売値は1980万)。そして娘の保育園が目の前という好立地。「ときめきはまったくなかった。でも買わない理由はない」で購入決定。
- 4月 リフォーム費用は300万円、のはずが、いざ見積もりをとると430万円。「リフォーム業者さんはいい人だけど……なんか話と違う」と気持ちがもやもや。
- 5月 夫婦ともにもやもやした気持ちのまま過ごす。
- 6月 水回りのメーカーで商品選び。送られてきた見積書が高くてびっくり。「リフォームやめよう!」と妻がブチギレ。その勢いのままリフォーム業者さんに電話をして「工事中止、キャンセル」を伝える。同時に「とりあえず200万でどこまでできるかやってみよう」と、自分たちで個々の専門業者さんにあたることとする。430万円の見積もりを見て以来、ずっとつづいていたもやもや感が吹き飛んで、やる気スイッチが入る。
- 7月 とにかく忙しい。but,充実感あり。引っ越しまで駆け抜ける。
こうして振り返ると、心理的に大きな山は購入を決めた3月と、リフォームの丸投げ工事をキャンセルした6月だったとわかります。そして物理的に忙しかったのは6月から7月にかけて。この間、いったい何組の業者さんとやりとりしたことか。
次項では、かかった費用と一緒に、ざっと並べてみます。
リフォーム費用は見積もり金額430万円に対し251万円
まずは購入当初から予定していたリフォームを列記します。
- 水回り4点(システムキッチン、バス&給湯器、トイレ、洗面台)交換(水回りに強いリフォーム会社に発注)/191万5,000円
- 壁の張り替え、塗装(家族経営の業者さんに発注)/19万6,000円
- 都市ガスの引き込み工事(東京ガスの販売店に発注)/27万円
- 畳の張り替え(個人経営の畳屋さんに発注)/3万円
- リビングの窓ガラス&網戸交換(個人経営のガラス屋さんに発注)/9万9000円
合計金額 251万円
これを販売会社が紹介してくれたリフォーム業者さんに一括でお願いしたところ、見積価格は430万円(その後、400万円に引き下げ)でした。
しかし、実際に自分たちでそれぞれの業者さんを手配してみると、上記の金額(251万円)で収まりました。
さらに、見積もりには加えていなかったその他の工事と作業も並べてみます。
- エアコン取り付け工事(工事会社手配の3組の業者が来訪)。2台はエアコン価格込みの標準工事で、2台は有料の工事。/6万1,300円(2台の合計)
- テレビのアンテナ交換(個人経営の家電工事屋さんに依頼)/4万7,000円
- ハウスクリーニング(個人経営のクリーニング屋さんに依頼)/4万円(+義母がチップ1万円を渡して合計5万円)
合計金額 15万8,300円
これを足すと、251万円+15万8300円で、リフォームにかかった費用は266万8,300円となります。
さらに、
- 引っ越し代(大手引っ越し会社に依頼)/11万円
を足すと277万8,300円。
そこに、火災報知器(全部で2万円くらい)、旧居の修繕費(10数万円)があとから請求されたので、リフォームと引っ越しにまつわる出費の総計は290万円といったところです。
もし最初のリフォーム業者にそのまま依頼していたら、その他にかかった費用と合わせると469万円かかっていたものが290万円に抑えることができた。
469万円-290万円=179万円
同じリフォーム&引っ越しでも、自分たちで業者を手配しただけで約180万円の予算を浮かせることができました。手前味噌ですが、我ながらよくやったなあ、というのが実感です。
なお、家本体の価格は売値は販売当初で1,980万円。
これは購入に向けて話が進むうち、売主さんの厚意で100万円安い1,880万円になりました。
横浜市内で土地が35坪、建物面積が93平米の3LDKとしてはかなりお買い得な価格といえます(当時、同じくらいの築年数、間取りの物件を近隣でさがすと、安くても2,480万円くらいの価格がついていました)。
たいへんだけど楽しかった業者の手配
上記の工事のうち、あきらかに「ハズレ」だったのはハウスクリーニングのみ。他はどの業者さんも親切で、予算のない客に対してできる限りのいい仕事をしてくれました。ことに水回り業者のMさんと壁業者のMさん(どちらもMさん)は、予定していなかった作業もサービスでやってくれて本当に助かりました。
業者はすべてネットで検索、口コミなどを見て良さそうな業者さんにメールや電話で相談しました。何組もの業者さんを選別して連絡を取るのはなかなかたいへんでしたが、回数を重ねるうちに面倒さは薄れ、むしろだんだん楽しくなってきて、しまいには「リフォームを1社に丸投げするだなんてどうかしていた」と思うようになりました。
そして、当初の見積もりとの差額を見比べては、「ああ、なるほど、この工事ではこれだけの金額を上乗せして利益を得ているんだな」といちいち納得したりしました(事業者が利益を得るのは悪いことではありません。みんなそうやって食べているのだから)。
そういうわけで、筆者は今回のリフォームでいくつかのことを学びました。
・リフォームは丸投げでなく、個別に業者をあたった方がお得
・問い合わせや交渉の際は、最初にはっきりと予算を伝える
・業者選定はとにかく口コミ重視(口コミすると報酬がもらえるタイプのものでなく、無報酬かつ能動的な口コミを参考とする)
・業者は個人経営レベルの職人さんほど良心的価格で請け負ってくれる
この先も今回学んだことを忘れず、将来的に予定している屋根や外壁塗装、床の張り替えなどでもいい業者さんをさがしたいと思います。
中古物件のその後
ドタバタ劇の中古物件購入からはや2年。おかげさまでリフォームした家に問題はなく、一家は平穏に暮らしています。
最近、よく思うのは「いいときに家を買った」ということです。
自分たちが家を買ったのはコロナ禍が始まった頃。その後、テレワークや在宅勤務、わーケーションなどが一般化し、不動産市場はちょっとした移住ブームにわきました。
不動産の特徴のひとつは、需要があるとたちまちそれが価格に反映されるところです。
この頃、近所を歩いていると、自分の家と変わらないサイズの新築の建売住宅が4,380万円くらいで売りに出されているのをよく目にします。飼い犬の散歩で遠くまで歩いてみても、農地に囲まれた辺鄙な場所に建つ家が3,480万円程度で売られていたりします。コロナ禍前なら、いずれも300万~500万円は安い値で売られていたはずの物件です。
我が家は築18年と数ヶ月(購入時)の中古ボロ物件ですが、もっといい立地で、1,880万円でした。売主さんが売却を急いでいたという事情もあって、かなりのお買い得価格で買うことができた。これは幸運としか言いようがありません。つくづく、家というのは巡り合わせだなと感じる毎日です。
住宅ローンは毎月6万5,000円程度。直近で住んでいた賃貸物件の家賃8万9,000円と比較しても2万4,000円も安くなりました。この金額なら、34年という長いローンも払っていけそうです(もちろん、途中返済も視野に入れつつ)。
マイホームは大切な資産です。自分と縁がある家は、ネットなどでも見た瞬間に「ん?」となにかひっっかるものがあるはずです。直感を信じて購入すると案外うまくいく。逆に、心のどこかで迷うような家は買わない方がいい気がします。
自宅の購入は、それまで資産形成に本気でなかった夫婦の意識も変えてくれました。
ことに妻の変化はドラスティックで、家を買ってからというもの、読む本といえば資産形成や節約に関するもの、ユーチューブ動画といえばやっぱり資産形成や節約術、投資術についてのものばかりとなりました。
住宅購入がそうだったように、思い立つと即座に行動に移すタイプの妻は、次々に投資のための口座を開設し、おかげでいまでは、毎朝、スマホで自分の資産がいくらになっているのかを確かめてはニヤニヤするような生活を送っています。
物理的な資産だけでなく、精神的な変化も与えてくれるマイホームの購入は、やはり人生の一大イベントだといえます。中古でも新築でも、戸建でもマンションでも、せっかくこの世に生まれてきたのですから、一度くらい家を買ってみるのもいいかもしれません。筆者はおすすめいたします。
『中古物件を買ってリフォームしてみた(第1回 内見編①)』はこちら
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。