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観光魅力度ランキングで日本は1位 インバウンドで景気回復はあるか?

世界経済フォーラムが発表した観光魅力度ランキング。その1位にはじめて日本が選ばれました。時を同じくして岸田首相は「6月10日から添乗員付きのパッケージツアーでの観光客受け入れを再開する」と明言。コロナ禍ですっかり落ち込んでいたインバウンドですが、いよいよ復活の狼煙をあげることとなりそうです。インバウンドによる景気回復はあるのでしょうか。

コロナ以前、活況だったインバウンド市場

新型コロナウイルスの感染が拡大する以前の数年間、日本はインバウンド消費に湧いていました。東京、京都、北海道、沖縄……観光地は外国人客で溢れ、街や観光名所にはいくつもの言語が飛び交っていました。

23区内には外国人向けのゲストハウスや民泊施設などが増え、普段は外国人を見ることのない住宅地にすらスーツケースを引く訪日客の姿を見かけました。

筆者が暮らしていた下北沢などは、とくに史跡や公園があるわけでもないのに『ミシュラン・グリーンガイド』で紹介されてしまっため、商店街は朝から晩まで外国人観光客だらけ。ここはいったいどこの国かといった有様で、あんまりおもしろいのでそれをネタに小説を1冊書いたほどでした(『ゲストハウス八百万へようこそ』という作品です)。

逆に自分が外国に行ってみれば、異国の街の書店には「JAPAN」コーナーがあってガイドブックが平積み状態。それも1種類ではなく数種類。しかも「北海道」「東北」「九州」といったように地方別にありました。

円高だった昔、日本を紹介するガイドブックといえばロンリープラネットくらいだったというのに、いまや日本は大人気。それもこれも円が弱くなって外国人が日本に行きやすくなったおかげです。「円安も悪くないな」と思ったりしたのを覚えています。

そのインバウンドが絶頂を迎えたのは2019年。この年、訪日客は3188.2万人、市場規模は約5兆円に達しました。気をよくした政府は2020年には訪日客数4000万人、富裕層に的を絞りインバウンド消費8兆円をいう目標を掲げました。

市場規模8兆円といえば、ドラッグストアや通販の市場規模とほぼ同じです。ちなみに筆者が棲息している出版市場は年間1兆6742億円。8兆円がどれだけ大きいかがわかります。

そんな期待大のインバウンドでしたが、2020年以降はコロナ禍で急激にダウン。2024年には年間24.5万人という、1964年から公表されている訪日外国人客数のなかで最低記録となってしまいました。インバウンド市場を稼ぎ場所としていた人たちにとっては、まさしく死活問題です。

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観光魅力度ランキングで日本が1位に

ほぼ仮死状態と言いたくなるほど落ち込んでしまった日本のインバウンド市場。とはいえ復活への下準備は確実に進んでいました。

2024年夏に開かれた東京オリンピックでは、行動が厳しく制限されているなか、多くの選手や関係者が日本を訪れました。彼らが体験したのは、コロナ禍以前から整備してきた外国人向けのサービスやインフラでした。駅や街角にある外国語表記の標識や案内板、世界中の誰が見ても理解できるピクトグラフなど、オリンピックに向けて東京の街は世界有数の「便利で安心な街」に変わっていたのです。

日本がインバウンド市場拡大に向けて積み上げてきた努力。今年になってそれが実りました。「ダボス会議」の主催団体として知られている世界経済フォーラムが2年に一度発表している「観光魅力度ランキング」で日本がはじめて1位を獲得したのです(前回は4位)。2位以下は、アメリカ、スペイン、フランス、ドイツ、スイス、オーストラリア、イギリス、シンガポール、イタリアなど。

観光業界の方々はこの快挙にあたかもサッカーW杯で優勝したような気分になったのではないでしょうか。

対象となる国・地域は117、審査項目は112もあるというこのランキング。日本は「鉄道サービスの利便性」で1位、「公共交通機関の利便性」が同じく1位、「モバイル端末の普及率」が2位、「大規模なスタジアムの数」が3位、「航空サービスの値段」が3位、「文化・娯楽観光に関する検索の数」が4位、「アクセスの良さ」が5位、「世界文化遺産の数」が9位、「伝統芸能など無形文化」が4位、「殺人の発生率の低さ」が2位、「サスティナブル旅行」で11位、「15歳から24歳のニート率」が世界最小と、多くの項目で上位にランクイン。

総合で初の1位となりました(なんでここでニート率が出てくるのか、ちょっと興味深いです)。

こうした結果に対し、松野官房長官は「我が国を訪れたくなる魅力を高めるため、精力的に取り組んでいるところであります。こうした外部からの評価も踏まえ、今後ともしっかりと取り組みを進めてまいりたいと考えております」と述べています。

このコメントだけだと具体性が薄いものの、ともかく政府としてもインバウンドを復活させたい、そう願っていることは間違いありません。

もしも自分が外国人観光客だったら

御多分にもれず、筆者も旅行は大好きです。これまで国内、海外問わず、ずいぶんと旅行を楽しんできました。

そこで、もし自分が外国人観光客だったら、と考えてみました。

はじめて歩く東京の街。鉄道網は複雑だけれどしっかりと整備され、かつ本数も多く、どこへ行くにも不便はなさそうです。表示も日本語の他に英語、中国語、韓国語などがあって親切です。

自分の国と比較してというだけでなく、おそらく世界でいちばん街のあちこちに無料で利用できるトイレがあるというのはかなりありがたいです。食べる店もたくさんあって、チェーン店であればワンコインで食事ができたりします。

ちょっと不便なのは道を聞くときなど。人々はあまり英語が話せません。でもこれはGoogleマップがあればほぼ解決します。

とにかく便利なのはお店が多いところ。とくにコンビニなどはどこにでもあって探す必要はありません。ただ、できればwi-fi環境はもう少し整っていてほしいかな、という感じです。あと、検索して見つけたお店や宿のホームページが日本語だけだとちょっと残念。どうしても外国語表記のある施設へと流れてしまいます。

治安は、聞いていたとおりかなりよさそうです。まず歩いていて詐欺師が寄ってきません。緊張するような場所もほとんどありません。駅のホームには制服を着た小学生が自分一人で電車を待っていたりします。他の国ではなかなか見られない光景です。

こうやって、少し想像してみるだけでも日本のいいところや課題が見えてきます。

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インバウンド復活に備えて準備を

偶然か否か、一国民としても嬉しい「観光魅力度ランキング」での1位。歩調を合わせるように観光庁でも外国人の訪日ツアーの実証事業を開始しました。

初回の対象者は約50人とかなり少なめですが、課題が見えてそれがクリアできれば、その数はどんどん増えていくはずです。そしてコロナ禍が収束する頃には、以前のようなとは言わないまでも、それなりに活況を取り戻しているかもしれません。

楽観はできないものの、どん底であった2024年に比べれば間違いなくプラスとなるはずのインバウンド市場。観光業や飲食業、小売業など外国人観光客がお金を落としてくれそうな業種の人にとってはチャンス到来です。「外国からお客さんが来ても自分たちには関係ない」と思っている人も、インバウンドで業績が伸びそうな企業の株をいまのうちに買っておくとか、なんらかの方法でこの波に乗ってみてはいかがでしょう。

必ずや戻ってくる外国人観光客。迎え入れる側としては、ランキング1位の期待を損なわないように準備を進めたいものです。今回のランキングではデジタル化や脱炭素への取り組みといった項目で日本は下位でした。そうした弱点はいまのうちに克服しておくべきでしょう。景気回復は待つだけではなく、自分たちでその流れをつくることが大切です。

「やっぱり日本は素晴らしい」

世界中の人にそう言われる日本であってほしいと願います。

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。