昼休みのオフィス街や休日のイベント会場、公園などでよく見かけるキッチンカー(フードトラック)。最近は和洋中にエスニック、スイーツと、いろいろな食べ物を提供するだけでなく、おしゃれな雰囲気のキッチンカーが増えてきました。通常の飲食店よりも開業へのハードルが低いといわれるキッチンカーですが、実際のところはどうなのでしょう? 開業までのノウハウを調べてみました。
キッチンカーの開業資金は300万~500万円が相場
普通の飲食店よりは手軽に始められそうなキッチンカー(※キッチンカーは和製英語。外国ではフードトラック)。その開業資金は300万円~500万円が相場とされています。固定の店舗を開業するには最低1,000万円が必要といわれていることを考えると、その意味では「手軽」というイメージは間違ってはいないようです。
事実、キッチンカーを始める人の数は年々増加していて、例えば東京都では2018年度に3,000台程度だったキッチンカーが、2024年度には5,137台と1.7倍ほどに増えています。わずか4年でこれほどまでに増加した主な理由は新型コロナウイルス感染症にあります。2020年に始まったコロナ禍では、多くの飲食店が経営危機に晒されました。なかには閉店してしまった店舗も少なくありません。いっぽうで需要を伸ばしたのが、屋外で営業するキッチンカーでした。
テイクアウトが中心で、ソーシャルディスタンスがとりやすいキッチンカーは3密を避ける新しいライフスタイルと相性が良く、それまで固定の店舗を営業していた人たちにとっても新たな活路となるものでした。
そうした動きに合わせるように出店場所を紹介するマッチングサイトなども普及し、市場がどんどん拡大していきました。そのおかげもあってか、いまやキッチンカーは日本のどこに行っても目にするものとなりました。
丸の内のオフィス街ではビルの敷地で営業するキッチンカーに列ができているし、休日の公園やイベント会場などでも同様の光景が見られます。場所によっては数十台のキッチンカーが並ぶ壮観な様を目にします。新型コロナウイルス感染症が2類から5類に移行することが決定したいま、これまで開催が中止されていたイベントも続々と復活、また入場者数の制限なども取り払われるとあって、キッチンカーの需要はますます増していくと思われます。コロナ禍で拡大したキッチンカー市場は、アフターコロナでも成長し続ける。そう予測されています。
なぜキッチンカーは人々に支持されるのでしょうか。
確かに、ここ数年の増加を後押ししたのは新型コロナウイルス感染症でした。しかし、これはきっかけに過ぎません。もともとキッチンカーは外国では珍しいものではなく、日本でも10数年前から音楽フェスやフードフェスなどでさまざまな料理を提供するキッチンカーを目にするようになりました。そのおしゃれな雰囲気とあいまって、キッチンカーは若い層を中心に人気が拡大。いまや全国に数万台を数えるまでになったのです。
実際、キッチンカーというのは、なぜかそこにあるだけで周囲の空気を楽しげなものに変えてくれるものです。そしてキッチンカーでの買物は、ちょっとしたワクワク感を与えてくれます。そうした付加価値がキッチンカーにはあるのです。
もちろん、キッチンカーの魅力は商品そのものにもあります。東京だけで5,000台以上が営業しているキッチンカーは、鶏の唐揚げ、フライドポテト、ハンバーガー、ホットドッグ、たこ焼き、ピザ、ケバブ、クレープ、焼き芋などの定番メニューの他、ランチ向けには各種の丼ものや弁当、カレーライス、ロコモコ、タコライス、その他にも東南アジアや中東、中南米など世界各国のご当地料理が食べられることでも人気です。これがレストランだったら注文を躊躇してしまうはじめての料理でも、キッチンカーであれば物は試しと買ってしまえる。キッチンカーのメニューは非日常な楽しみを与えてくれるものなのです。
キッチンカーはどんな人がやっている?
魅力いっぱいのキッチンカー。そのオーナーはどんな人たちでしょう。目立つのは、キッチンカーで独立・開業したという個人経営者、小規模事業者です。そのなかには脱サラしたばかりで飲食業も移動販売もはじめてという人もいれば、もともと飲食業での経験があるという人もいます。
前述したように固定店舗を営業していたけれどコロナ禍をきっかけにキッチンカーに乗り換えた、あるいは固定店舗を維持しつつキッチンカーの営業を始めたという人もいます。
他に最近増えてきたのが、人気のある飲食店やホテルが宣伝も兼ねてキッチンカーでの販売を始めるというパターン。さまざまな場所に移動できるキッチンカーは自店の魅力を広める宣伝媒体となり得るのです。
ここでは、主に「飲食業もキッチンカーも未経験」という人が出店するにはどんな段階を踏んで準備を進めればいいのかを考えてみたいと思います。
「キッチンカーをやりたい」、人がそう思うとき、そこには「食べることが好きだから自分でも店を持ちたい」「おいしいものをみんなに知ってほしい」「何かをやりたい」「新しいビジネスに挑戦したい」「独立・開業したい」「会社勤めで縛らられるよりももっと自由に生きたい」といった動機があるはずです。
ことに未経験の人の場合、キッチンカーに限らずこうした思いに突き動かされて事業を始めるといったケースが多いのではないでしょうか。もちろん、人は霞を食って生きるというわけにはいきませんから、なかには生活のためという人もいるでしょう。
一概には言えませんが、キッチンカーのオーナーの特徴を並べてみると以下のようなイメージの人物像が浮かんできます。
・独立心が旺盛
・自由を愛する
・働くのが好き
・人と話すのが好き
・料理、食べることが好き
イメージとしては「自由人」。とはいえ、キッチンカーのオーナーも立派な小規模事業者です。お金や時間の管理、法令の遵守がきちんとできない人は向いていません。自由な分だけ自己管理も自分でしなければならないため、会社に勤めているときよりもむしろ自分を律する強い意思が求められます。
キッチンカーのメリット
手軽さと機動力が魅力のキッチンカー。そのメリットとはなんででしょう。
①開業資金が少なくて済む
前述したようにキッチンカーの開業資金の相場は300~500万円といわれています。運よく状態のいい中古車を格安で購入できたり、リースを利用したり、キッチンカーの開業支援を行なっている企業のサービスなどを利用するなどすれば、初期費用は工夫次第で10万~200万円で済む場合もあります。いずれにしても固定店舗型の飲食店を開業するのに比べれば数分の一の資金で開業できるのは大きなメリットです。
②固定費が安い
飲食店の場合、持ち物件でもない限りは家賃が発生します。立地の良い場所だと家賃はかなりの高額となります。もちろん、光熱費もかかります。これに対してキッチンカーは駐車場代(自宅に置ける場合は無料)、クルマの維持費、ガソリン代、自動車保険などはかかりますが、合計しても固定店舗よりは安く済みます。
③人件費が安い(1人、または少人数で営業可能)
キッチンカーはそのサイズもあって、おのずとスタッフの数も限られてきます。スタッフは最大でも3名程度。自分ひとりであれば、人件費はかかりません。
④どこにでも移動できる
キッチンカー(移動販売)の最大のメリットが出店場所を変えられることです。出店するには、もちろんその場所の管理者の許可が必要ですが、固定店舗と違って曜日や時間帯、客足によって場所を移動できるというのは固定店舗にはない魅力です。
⑤臨機応変にメニューを変えられる
時間帯や場所、客層によっては好まれるメニューも変わります。あまり多種類となると難しいけれど、出店場所によって、そこに合わせたメニューに変えることができるのもキッチンカーのメリットです。
⑥営業日、営業時間を自分で決めることができる
自分がオーナーのキッチンカーなら、いつ働くか、どれだけ休むかは自分次第。ランタイムだけ出店、夜だけ出店という営業スタイルも可能なら、平日は半分休んで売上のあがる土日祝日に集中して稼ぐというスタイルも有りです。出店場所やニーズ、自分の生活スタイルをよく見つめた上で最適な営業日、営業時間を決めるといいでしょう。
⑦長期休暇がとりやすい
その気になれば長い休みがとれるのもキッチンカーでのビジネスの長所です。季節商品的なメニューを扱っている場合などはシーズンオフに長期休暇をとって海外旅行に出かけるといったことも可能です。不幸にして病気や怪我で長期療養を必要とした場合でも、他のビジネスに比べれば周囲に迷惑をかけることなく休むことができます。
⑧副業にもしやすい
キッチンカーは副業にも向いています。平日は本業、休日のみイベントなどに出店ということもできます。音楽フェスなど売上が期待できるイベントに出店できれば、本業を超える売上が期待できるかもしれません。
⑨開店までの準備期間が短い
固定型の店舗に比べると、キッチンカーは概して開店準備が短くて済みます。もちろん、開業するからには用意は周到に。クルマの改造やメニュー作りにじっくり時間をかけていけないということはありませんが、保健所の営業許可と販売用の車両さえあればすぐに出店できるのは魅力のひとつです。
⑩将来的に固定店舗の経営につながる
もし、いつか固定店舗を持ちたいと思っている人にとって、キッチンカーはサジェッションに満ちたビジネスだといえます。どんな客層にどんなメニューが好まれるのか体感でリサーチできるだけでなく、同じ場所に出店し続けることで将来の顧客を獲得できる可能性もあります。キッチンカーの経験とそこで蓄えた資金を生かして固定店舗を持つということはけっして夢ではありません。
⑪日銭が稼げる
世の中にはさまざまな日銭商売があります。キッチンカーのような飲食業はそのなかでも王道です。毎日(営業日分だけ)、確実に売上のあるキッチンカーは個人が経営するものとしては戦略が立てやすく、軌道修正もしやすいビジネスといえます。それだけでなく、毎日収入があることでモチベーションもアップします。
⑫定年がない
キッチンカーだけの話ではありませんが、自営業には定年がありません。体が動く限りは働くことができます。定年後も働きたい人、老後の資金がないという人にとって、セカンドライフの魅力的な働き先のひとつとなるはずです。
ここげ挙げた他にも、キッチンカーにはいくつものメリットがあります。物理的な売上ではなくても、お客さんに「おいしい」と喜んでもらえたり、お客さんの笑顔が見られたりすれば、それは自分自身のやる気や幸福感につながります。また、同業者が集まる場所に出店すれば、同じ価値観や信条を持った仲間に出会うこともできます。お互いに情報交換もできたりする仲間の存在は大きな助けや心の支えとなるはずです。
キッチンカーのデメリット
メリットの多いキッチンカーですが、デメリットがないわけではありません。またデメリットまでいかなくてもキッチンカーならではの留意すべき点がいくつかあります。
①天候にビジネスが左右される
台風や大雪、猛暑、寒波などはキッチンカーにつきもののデメリットです。ちょっとした天気の急変などでも客足は鈍ります。極端に天気が悪いときは出店をやめて、仕込みや、いっそ晴耕雨読に徹した方がいいかもしれません。
②メニューに限りがある
クルマ1台に収まる最小限の設備しかないキッチンカーでは、出せる料理の数や質におのずと限界があります。原料も保存がきくものが中心となります。
③衛生管理に気を遣う
固定店舗のように大型の冷凍庫や冷蔵庫がないキッチンカーでは食材や衛生面での管理に気を遣います。食中毒を出さないためにも手や物品の消毒を徹底する必要があります。
④エアコンが使えない
キッチンカーでは店側も客側も固定店舗のような暑さ、寒さ対策ができません。できるのはせいぜい扇風機、送風機、石油ストーブなどを使うくらいです。とりわけ火を使う仕事では、真夏の猛暑はこたえます。冬も風邪をひきやすくなるし、外にいるぶん花粉対策なども講じなければなりません。日頃から運動をして体力をつけておきたいものです。
⑤競合が多い(出店場所に苦労する)
キッチンカーは年々増加しています。それと歩調を合わせるように出店可能な場所も増えつつありますが、一等地といえるような場所はすでに他のキッチンカーが占めている場合がほとんどです。参入当初はいい出店場所になかなか巡り会えないかもしれません。それでもマッチングサイト(ポータルサイト)への登録や自前での情報収集、同業者との情報交換を進めるうちにいい出店場所に出会えるはずです。
⑥商売が軌道に乗るのに時間がかかる
⑤のようなこともあるため、開業したはいいものの思うように売上があがらないといったことはよくあります。それも考えて、運転資金は数ヶ月分、できれば1年分くらい用意してから開業した方がいいかもしれません。ここは根気強さが求められるところです。
⑦広域で営業するには地域ごとの営業許可が必要
保健所が出すキッチンカーの営業許可は、原則として自治体ごとの認可となります。よって自治体をまたいで出店するときはそのまたいだ先の自治体の営業許可も申請せねばなりません。
注意すべきは、保健所の営業許可の適用される範囲は必ずしも一律でないという点です。例えば、東京の立川市や武蔵野市などで営業したい場合は東京都の保健所で営業許可を取ることになりますが、この営業許可は23区や八王子市、町田市では使えません。もし23区、八王子市、町田市に出店したい場合は、それぞれの区や市にある保健所で営業許可を取らねばなりません。
人口や行事、公園が多く、キッチンカーの出店で人気の高い神奈川県の場合も、以前はそれぞれの地域の保健所の営業許可が必要でしたが、 食品衛生法の改正があった2024年6月1日からは、横浜、川崎、相模原、横須賀、藤沢、茅ヶ崎の6つの市のいずれかの保健所で営業許可をとれば県内全域での営業が可能となりました。
例えば、平日は丸の内のオフィス街、土日祝日は横浜や湘南エリアで出店したいという場合は、東京の千代田区及び神奈川県(6市のいずれか)の営業許可をそれぞれ申請することになります。
最近の流れを見ると、キッチンカーの営業許可の範囲は緩和化・拡大化の傾向にあって、大阪府なども2024年6月1日以降に営業許可を取得したキッチンカーは2024年1月1日から大阪府内全域での営業が可能となっています。また、栃木県、埼玉県、京都府などでも同様の施策がとられています。ただし、まだ1回取ればその地方全域、あるいは全国で営業可能といったところまではいっていないので、もし「キッチンカーをやりながら日本一周したい」といった夢を持っていた場合は、行く先々で営業許可を申請する必要があります。その場合は50~100万円程度の申請料が必要になります。
キッチンカーの開業に必要なもの
キッチンカーを開業するには最低限、物理的に以下のものが必要となります。
①キッチンカー本体
これがなければ始まらないのがクルマです。手に入れる方法としては、購入またはレンタル・リースとなります。購入の場合は、新車もしくは中古車を購入して自前、もしくは業者に依頼して改造してもらう方法、中古のキッチンカーを購入する方法があります。理想は新車を購入して目的に合わせて改造(カスタマイズ)することですが、そのぶんお金もかかります。中古車の場合は予算は安くなりますが、故障などのリスクをともないます。
新車を購入する場合の費用は、クルマ本体に150~200万円、そこに改造費が150万円~300万円がかかります。
中古を購入する場合は、極端に安いものは避けるとして、70万~120万円くらいの価格帯で車両を選び、そこに改造費を加えます。キッチンカーの中古を購入する場合は、150万~250万円を考えるといいでしょう。
レンタルの場合はクルマの購入費はかかりませんが、1日あたりのランニングコストは上がります。短期レンタルの場合は1日2万円~10万円(曜日や車種による)。長期だと1ヶ月30万円が相場といわれています。
リースの場合は新車購入よりは費用が安く済みますが、数十万円~100万円の頭金が必要だったり、毎月数万円の支払いが必要となります。
またキッチンカーには軽自動車から3000ccクラスの中型フードトラックまでいくつかのサイズがあります。それによって新車価格、中古車価格、リース、レンタル料金も変わってきます。
初期費用を安く抑えたい、最初のうちはテスト期間としたい、とりあえず副業で土日だけやってみたい、という人はレンタルがおすすめです。資金があって最初から本気で勝負したいという人は、新車もしくは程度のいい中古車を購入するといいでしょう。
またキッチンカーはメニューによってサイズが変わってきます。例えば、ラーメンやうどんなどを出したい場合は200リットルの給排水タンクが必要となります。通常、このサイズのタンクを使うには軽自動車ではスペースやパワーが不足します。汁物をメニューにしたい人は普通車以上のキッチンカーが入り用となります。
自前のキッチンカーを用意する場合、当然ながら外装や看板などはおしゃれに決めたいものです。予算が許す限り、人々の目を引く、そこにあるだけでひとつの世界観が構築できるようなキッチンカーをつくってください。
②設備・備品
キッチンカーを開業するには、調理器具や冷蔵庫、冷凍庫、給排水タンク、シンク、換気扇、照明などが必要となります。他にもテイクアウト用の容器やコップ、カップ、食器、ストロー、ポリ袋、販促用の看板、イーゼル、のぼり、ゴミ箱、石鹸、洗剤、消毒液などさまざまな備品を揃えなければなりません。これらの設備や備品は車両本体と合わせて保健所の営業許可をとるうえで重要なものとなります。定められた設備基準をクリアできるように揃えましょう。
【キッチンカーの設備基準の一例】
・給排水タンク:給水タンクと排水タンクの2つが必要。給排水タンクは単一品目のみの取り扱いや簡単な調理のみの場合などは40リットル、複数品目の取り扱いや2工程程度までの簡易的な調理だと約80リットル、大量の水を要する調理を行ったり、複数の工程からなる調理を行ったり、その場で仕込みを行ったり、魚介類の加工行ったりするときは約200リットルの容量が義務付けられています。
・シンク:手洗い用と調理器具洗浄用の2つが必要。蛇口は自動式又はレバー式の非接触型蛇口が必須。
他にもキッチンカーの営業許可を取るには、水拭きできる床や壁、運転席との間仕切り、窓、網戸、照明、防水・撥水加工された作業台・調理台、給湯設備、電源、戸棚、収納ケースなどのチェック項目があります。備品を揃える前に、一度保健所で確認を取ることがおすすめです。
③仕込み場所
キッチンカーで調理した食べ物を販売する場合、その多くは仕込みを必要とするものとなります(ここで言う仕込みとは、下ごしらえ、下準備、下処理、一次加工などと同義語です)。営業する側としては自宅の台所で仕込みができれば楽なのですが、それは法律で禁じられています。よって、どこかに仕込み場所を確保する必要があります。
もっとも手っ取り早いのはキッチンカーで行うことです。その場合は200リットルの給排水タンクの装備が必要条件となります。それが不可能な場合は、どこか別の場所に仕込み場所を確保しなければなりません。
方法としては「どこかの飲食店の厨房を借りる」「飲食店の居抜き物件を借りる」「シェアキッチンを使う」などがあります。
もし知り合いの店の厨房などを借りることができれば費用は安くて済むかもしれませんが、自分で借りるとなるとその分家賃がかかってしまいます。
いっぽう、シェアキッチンにはさまざまな形態があり、使用料金も施設や時間によって違います。キッチンカー向けのプランを提案しているシェアキッチンなどもあるので、いくつか並べて検討してみるといいでしょう。また「月額5万円以内」「週に3日」といったように最初から条件を決めておくと探しやすいかもしれません。
④食品衛生責任者の資格
キッチンカーを出店するには飲食店の開業に必要な食品衛生責任者の資格が必要となります。規則として〈食品衛生法第51条に基づく「公衆衛生条必要な措置の基準」により、営業者は食品衛生責任者を定めることとされています〉となっているので、キッチンカーのスタッフのうち1人がこの資格を有していればいいわけですが、実際のところはオーナーが取得するケースがほとんどです。
資格取得は養成講習会を受講するだけで誰でも資格を取得できます。講習会は各都道府県の食品衛生協会で行われており、概ね1日で取得できます。例えば東京都食品衛生協会(東食協)の場合は、受講者が句集会場に来場して学ぶ会場集合型養成講習会と、自宅などで受講ができるeラーニング型養成講習会のどちらかが選択可能となっています。
東京都の場合:講習内容や受講資格は以下の通りとなっています。
【会場集合型養成講習会の講習内容及び講習時間】
・食品衛生学 2時間30分
・公衆衛生学 30分
・食品衛生法 3時間 計6時間(実施時間は当日の9:45~16:30)
受講料(当日払い):教材費を含めて1万2,000円(税込)
受講修了証:講習会終了時に修了証(赤い手帳)を交付
受講資格:
・経験・学歴は問わない。
・17歳以上に限る(高校生は受講不可)。
・受講者確認のため、顔写真付き身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード等)を持参すること。
・外国人の場合は在留カードまたは特別永住者証明書を持参する。また受講は日本語が理解(読み・書き・会話が)できる人に限る。
受講申込:都内の各保健所、東食協総合事務所、東食協本部窓口に用意してある専用の申込往復はがきを郵送、または東食協ホームページから印刷した申込書に記入の上、返信用封筒(切手貼付)と同封して郵送。受理次第、「受付票」が送付される。日程や会場の詳細は東食協ホームページ内の「日程表」で確認可能。
【eラーニング型養成講習会】
・配信形式‥ビデオ動画
・標準学習時間:合計約6時間
・受講可能期間:新規ログインiD、パスワードの登録日から30日間
受講料:教材費を含めて1万2,000円(税込)。受講申込時にクレジット又はコンビニでの事前払い。入金確認後、受講可能。受講申込には顔認証による本人確認が必要。受講環境としてはカメラ機能が備わったパソコン、スマートフォンなどが必要。
受講修了証:受講修了後、受講基準を満たせば10営業日以内にレターパックで自宅に郵送。
受講資格
・経験・学歴は問わない
・運転免許証またはマイナンバーカードを所有していること。
・17歳以上に限る(高校生は受講不可)。
・外国人の場合は在留カードまたは特別永住者証明書を持参する。また日本語が理解(読み・書き・会話が)できる人に限る。
・東京都内の食品関連施設に勤務している。または食品関連施設に勤務していない東京都内の在住者。
受講申込:東食協ホームページより申込。
東京都以外の道府県も受講内容はほぼ同じです(道府県によって受講資格や受講料や受講の方法に若干の違いはある)。
この他、栄養士、調理師、製菓衛生師、食鳥処理衛生管理者、及び畜場法に規定する衛生管理責任者もしくは作業衛生責任者、船舶料理士、食品衛生管理者は講習会を受講しなくても食品衛生責任者の資格が取得できます。
食品衛生責任者の資格は有効期限がなく、一度取得すれば更新の必要はありません。資格取得から年数が経過している人には実務講習会が開かれることもあります。よく似た名前で食品衛生管理者という国家資格がありますが、これは食品衛生責任者とは異なるものです。
④営業許可
キッチンカーを営業するためには「飲食店営業」の営業許可を保険所で取得しなければなりません。届出先は実際に出店する地域を管轄している保健所となります。営業許可の条件は以前は各地域によって違いがありましたが、2024年6月を境に全国共通となりました。ただし、細かい項目や判断基準などは保健所によって差があるようなので、詳しい条件については該当する保健所で事前に直接確認しておいた方がいいでしょう。営業許可は一般に合格率50%といわれているので、準備は入念にした方が確実です(不合格の場合は条件を満たしていない項目を改善して再検査が可能)。
営業許可の対象となるのは、いうまでもなくキッチンカーそのものです。営業許可はキッチンカー1台ごとに出されます。このためキッチンカーは営業許可を取得する前に条件を満たす形で用意しておく必要があります。
主な検査対象は前述したように、給排水タンク、水道蛇口(非接触型)、シンク(最低2つ)、冷蔵庫.冷凍庫、戸棚・収納ケース、電源装置、換気扇、ゴミ箱(蓋付き)、石鹸類、間仕切りなどです。
これらが基準を満たす形で設置されていない場合は不合格となります。とくに車内で仕込みを行う場合は給排水タンクの容量を200リットルにする必要があります。
仕込みがなく、焼く、揚げる、温める、盛り付ける程度の調理(かつ単一品目)ならば40リットルで十分です。もしメインメニューにつけあわせがある場合は複数品目となるため、80リットル以上のタンクを用意しなければなりません。また40リットル、80リットルの場合は容器は使い捨てのみ。洗浄が必要な食器を使用する際は200リットルのタンクが必要になります。
タンクの容量はメニューによって変わってもくるので、営業許可を申請する前に何を提供するのか商品も決めておく必要があります。「とりあえず営業許可を先に」ではなく、出店後のメニュー変更や仕込み場所を考慮したうえでタンクの容量を決めるといいでしょう。
取得の流れとしては、一発合格をめざすためにも、まずは保健所に相談に行くことをおすすめします。
この時点で、いちおうのメニューやキッチンカーの見取り図(現物があれば写真なども)、出店を想定している場所の情報などを用意しておくと適切なアドバイスが受けられます。
その後、保健所でもらえる申請書類の必要事項に記入したうえで提出します。
申請には、営業許可申請書の他に食品衛生責任者手帳、車検証のコピー、仕込み場所の水質検査証明書(又は成績書。※水道水の場合は不要)、検便検査成績書(自治体によっては不要)、許可申請手数料(自治体によって違う。概ね1万円前後)、営業の大要、営業設備の大要・配置図、登記事項証明書(法人の場合)などが必要となります。
仕込み場所の水質検査証明書は、もし湧き水や井戸水などを使用したい場合は必要となるので、その際は各都道府県の食品衛生協会などに検査を依頼して発行してもらうことができます。また申請に不安がある場合は保健所だけでなく行政書士事務所などに有料で相談することもできます。
検査の日程が決まったらキッチンカーを持ち込んでチェックしてもらいます。
合格の場合は2週間程度で許可証が交付されます。
不合格の場合は対象となった箇所を改善して再検査に臨みます。取得した営業許可証はキッチンカーの車内(見える場所)に提示します。
なお上記の「営業許可」は車内で調理を行う場合の営業許可です。
例えばパンなど包装されものをクルマで販売する場合は飲食店の営業許可は不要で、かわりに「販売業」の届出をすることになります。販売業については検査はなく、届出をするだけで始めることができます。ただし、食品衛生責任者は1名置かねばなりません。
⑤運転免許証
いうまでもなくキッチンカーは公道を走る車両です。車両に合った運転免許証が必要となります。
キッチンカーのメニューを決める
キッチンカーの命、それがメニューです。提供するメニュー次第で売上が左右されます。キッチンカーで定番のメニューといえば、以下のもの。
・ハンバーガー
・ホットドッグ
・ピザ・クレープ
・からあげ
・焼き鳥
・たこ焼き
・カレー
この他、最近多いのはケバブやタコライス、ロコモコ、ドーナツ、ベーグル、焼き芋など。キッチンカーのメニューは保存のきく粉物がいいと言われていますが、オフィス街での平日のランチ販売などで顧客数がある程度見込めるものなどはその限りではありません。
最近はエスニック料理や創作料理、定番メニューをアレンジしたオリジネルメニューなど、独自性を追求したメニューが目立つキッチンカー。メニュー選定で重要なのは、当たり前ですが顧客のニーズに応えることと、看板メニューをつくることです。定番メニューが「定番」であるのはやはりニーズがあるからです。なかでも唐揚げや焼き鳥、たこ焼きなどは季節も客層も問わない鉄板メニューです。それだけに競合も多いのですが、これらのメニューをそれにふさわしい場所で美味しく提供できれば失敗する率はかなり低くなるはずです。
逆にリスキーなのはオリジナリティーを求めるあまり、誰も食べたことがないような奇をてらったメニューにしてしまうこと。独自性を打ち出したいのであれば、定番メニューをアレンジする程度に収めておくといいでしょう。その際も定番メニューを残して、顧客に選択の余地を与えておくほうが無難です(例:普通のからあげとカレー風味のからあげの2種類など)。そして、売れる方を看板メニューにするといいでしょう。
メニューは出店場所や時間、食べる場所によっても変わります。ランチ向けか、イベント向けか、持ち帰りか、その場で食べる人が多いか。同じ商品でもそれに応じて売り方が変わります。たとえば鶏のからあげなら、イベント会場では単品で販売、ランチタイム向けならライスやつけあわせと一緒にして弁当で販売といった工夫が求められます。
もっともお大切なのは、いうまでもなく「味」です。イベント感のあるキッチンカーは、それだけでお客さんが集まってくるものですが、リピーターになってもらうにはやはり味がよくなくてはいけません。とくに素人が始める場合は、少なくとも自分の提供する商品だけはプロの料理人に負けないものを出さねばなりません。そのためにもいろいろな店のものを食べて味を研究しておきましょう。コーヒーやジュースなどのドリンク類、スイーツなども然りです。
キッチンカーのたくさん集まるフードフェスや休日の公園、イベントなどに足を運んで、どんなメニューがどんな人たちに人気なのか。季節によってどんなメニューが売れるのか。よく研究してメニューを開発してください。
もうひとつ大切なのは見栄え。「インスタ映え」は人気獲得の絶対条件だと考えてください。
出店場所はメニューと並ぶキッチンカーの命
「キッチンカーのデメリット」の欄で説明したとおり、キッチンカーを始めたはいいものの、なかなかいい出店場所が確保できずに苦労するといったパターンはよくあります。
最初から場所が決まっているという人はともかく、まだという人はまずはネットで「キッチンカー 出店場所」などと入力して検索をかけてください。ネット上にはキッチンカーの出店募集の情報がたくさん出ています。登録制のポータルサイトや空きスペースの紹介サイト、イベント情報サイトなどもあります(例:『ネオ屋台村』、『Melloow』、『自由市場』、『軒先ビジネス』など)。
他にも地域ごとにキッチンカーの出店をサポートしてくれる団体や協会、紹介代行業者などがあります。また商業施設や企業、自治体、公園管理事務所、イベント主催者などは独自に募集をかけているケースが少なくありません。こまめにチェックすれば出店可能な場所は必ず見つかるはずです。
そうやっていろいろな場所に出店していくうちに、自分のキッチンカーがどの場所で求められているかも見えてくるはずです。また営業していくうちに知り合ったキッチンカー仲間から情報を得ることもできるようになるはずです。
とくに出店募集はかけていないけれど、ぜひこの場所に出店したい。そう思える場所があったら、一度管理者に問い合わせをしてみるといいでしょう。交渉の際には企画書を用意し、キッチンカーの現物を見せれば話が早く進みます。
絶対にNGなのは勝手に出店してしまうこと。道路でも公用地でも私有地でも、キッチンカーをとめられるような場所には必ず管理者や持ち主がいます。出店には取るべき段取りを踏んだ上で臨んでください。
宣伝はSNSをフル活用。リアルな場所での出会いも
キッチンカーのオーナーの大半はTwitter、Facebook、Instagram、ブログなどのSNSで情報を発信しています。
毎日のメニューや出店場所、完売情報、その日あった出来事などは面倒でも画像や動画付きで随時発信してください。発信が多ければ多いほど情報は人々の目にとまります。
他に、もし誰かがTwitterなどで自分のキッチンカーの情報を発信してくれているのを見つけたら、感謝の気持ちを込めてリプしてください。ファンやフォロワーが増えれば増えるほど商売も繁盛するはずです。
キッチンカーはその業態の性格上、リアルな場所での人と人とのつながりを生んでくれます。ときにそれは、その人の人生を大きく変えるものであったりもします。
最初は自宅のある地域で始めたキッチンカーが、たまたま遠く離れた地方でのイベントに参加したのがきっかけとなって、最終的にその土地へ移住してしまった、といったケースもあったりします。
「自由」や「冒険心」「挑戦」といった言葉ば似合うキッチンカー。買う側から見れば、休日やイベント開催日などで出会うキッチンカーはそれだけで気持ちを高揚させてくれるものです。毎日がワクワク感に満ちたキッチンカービジネス。自分の殻を破りたい人は一度本気で考えてみるといいのではないでしょうか。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ、『最強戦国武将伝 徳川家康』等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。