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個人事業主も消費税の支払い義務あり?課税事業者のメリットと注意点

法人・個人ともに消費税を払う義務がある「課税事業者」。しかし納税が免除される事業者もいます。納税義務が発生するかどうかの判断基準や、消費税の計算方法、必要書類のほか、課税事業者のメリットと注意点についても解説します。

個人事業主も消費税を払う必要がある?

個人事業主も、原則として事業を営む場合、消費税を納める義務があります。しかし、次の条件に当てはまる場合、納税の義務を免除されます。

課税事業者か免除事業者かを判断する際に必要となるのが「課税売上高」です。

【課税売上高とは】

消費税がかかっている全ての取引の売上高です。仕入れた商品代や講演料、原稿料なども含め、特別なもの(住宅の家賃、車椅子など)を除き、多くのものが課税売上高に入っています。一般的な個人事業主であれば、売上高がそのまま課税売上高になることが多いでしょう。

【持続化給付金は課税売上に入る?】

フリーランスを含む個人事業主も対象となった持続化給付金。収入として計上する必要はあるものの、消費税の課税対象ではありません

判定に使用される期間は「基準期間」「特定期間」の2種類です。それぞれの内容について解説します。

「基準期間」による判定

個人事業主の基準期間は、前々年度です。基準期間の「課税売上高の金額」が、1,000万円を超える場合は、「課税事業者」として判断されます。

「特定期間」による判定

個人事業主の特定期間は、前年の1月から6月までです。基準期間では課税事業者として判断されない場合も、特定期間の課税売上高や給与総額によっては、課税事業者として判断されるケースがあります。

・特定期間の課税売上高が1,000万以下免税事業者
・特定期間の課税売上高が1,000万円超
かつ
・特定期間の給与総額が1,000万円以下

免税事業者
・特定期間の課税売上高が1,000万円超
かつ
・特定期間の給与総額が1,000万円超
課税事業者

開業1年目は、全員が「免税事業者」!2年目から異なる

事業開始から1年間は「基準期間」「特定期間」が存在しません。もちろん、課税売上高もありませんから、個人事業主全員が「免税事業者」です。

2年目も、基準期間はありません。ただし、特定期間(1年目の1月1日〜6月30日)の課税売上高と給与総額の両方が1,000万円超の場合は、課税事業者になります。

3年目は基準期間・特定期間の両方が存在します。基準期間と特定期間の課税売上高、特定期間の給与総額で判定されます。

消費税の課税事業者にあてはまった場合にやるべきこと

課税売上高が1,000万円を超えるなどして、自分が課税事業者になるとわかった場合、まずは、税務署に届出をしなければなりません。

提出書類は、1年間の課税売上高が1,000万円を超えた場合と、上半期の課税売上高が1,000万円を超えた場合では、それぞれ異なります。

1年間の課税売上高が1,000万円を超えた場合

税務署に「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」を提出します。これは、2年後から「課税事業所になります」との届出です。

個人事業主が記載すべき内容は次のとおりです。

  • 納税地
  • 住所
  • 名称(屋号)
  • 個人番号
  • 氏名
  • 適用開始課税期間
  • 基準期間 基準期間の総売上高、課税売上高
  • 生年月日
  • 事業内容

上半期の課税売上高が1,000万円を超えた場合

税務署に「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を提出します。これは、翌年から「課税事業所になります」との届出です。

個人事業主が記載すべき内容は次のとおりです。

  • 納税地
  • 住所
  • 名称(屋号)
  • 個人番号
  • 氏名
  • 適用開始課税期間
  • 特定期間
  • 特定期間の総売上高、課税売上高、給与等支払額
  • 生年月日
  • 事業内容

消費税課税事業者届出書(基準期間用)と記載する内容はほぼ同じです。ただし、書類自体が異なるため、自分が基準期間に該当したのか、特定期間(上半期)に該当したのか、必ずチェックし、間違わないようにしましょう。

消費税は「一般課税(原則課税)方式」か「簡易課税方式」のどちらか

課税事業者となり、消費税を納めることになった場合の計算方法は「原則課税方式」「簡易課税方式」のどちらかです。どちらを選ぶかは、事業主自身の意思と課税売上高の金額により異なります。

課税売上高別に、表にまとめてみました。

5,000万円超一般課税(原則課税)のみ
1,000万円超~5,000万円以下基本は一般課税(原則課税)
ただし簡易課税も選択できる
1,000万円以下免税事業者

基本的な計算方法「一般課税(原則課税)方式」

一般課税方式は、売上として預かった消費税から自分が仕入れや業務の外注などで支払った消費税を差し引いた金額を納める納税方法です。

消費税納付額=(課税売上高×8%または10%)-(課税仕入れ高×8%または10%)

課税売上高が5,000万円以下の場合に選べる「簡易課税方式」

「簡易課税方式」は、基準期間または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の場合にのみ選択することができます。

簡易課税方式と一般課税方式の最も大きな違いは「みなし仕入率」を用いることができるかどうかです。みなし仕入れ率を使うことで、仕入れの際に支払った消費税を計算する手間を省くことが可能です。

簡易課税方式の消費税納付額=(課税売上高×8%または10%)-(課税売上高×8%または10%×みなし仕入率)

6つの事業区分ごとにみなし仕入れ率が定められています。

事業区分みなし仕入れ率事業
第一種事業90%卸売業
第二種事業80%小売業・農林水産業(食用)
第三種事業70%農林水産業(非食用)・鉱業、建設業、製造業など
第四種事業60%飲食店事業など (他の事業に当てはまらないもの)
第五種事業50%運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業を除く)
第六種事業40%不動産業

参考:国税庁 簡易課税制度の事業区分

簡易課税制度を選択する場合、適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。

簡易課税制度は簡単。でもデメリットも

一見簡単で便利な簡易課税制度ですが、申し込む前にデメリットを理解しておく必要があります。

  • 複数の事業を扱う事業者の場合、低い方のみなし仕入れ率が適用される
  • 複数事業を扱う事業者の場合、事務手続きが複雑になる
  • 実際の仕入れ額によっては、納税額が増える可能性がある
  • 簡易課税制度の開始・終了には届出が必要

消費税が支払えない!?リスクと流れをチェック

個人事業主の場合、会社員に比べて収入の増減リスクがあります。原則として、2年前の売上高を基準に消費税の納付額が決定するため、必ずしも手元に納税分があるとは限りません。余裕を持った資金運用をしたいと思いつつも、なかなか難しいと感じている個人事業主の方も多いのではないでしょうか。

ここでは、消費税の支払いができなかった場合に考えられるリスクと一連の流れについて解説します。

消費税の納付期限が過ぎた場合は、延滞税が発生

消費税の納付期限までに支払いができなかった場合、他の税金と同様に「延滞税」が発生します。納付期限の翌日から2ヵ月が経過するまでは「年7.3%」、2ヵ月以降は「年14.6%」の延滞税がかかります。

特に2ヵ月以上経過した場合、延滞税が高くなるため、当初の消費税の納付額を上回ってしまうことも考えられます。

納付できない場合の一連の流れ

期限までに消費税が納付できなかった場合、どのような流れになるのか、詳しく解説します。

  1. 督促
  2. 差押え
  3. 換価
  4. 配当

一般的には納期限から50日前後で「督促状」が送られます。督促状発送日から、10日間以内に税金が完納できない場合、法律上、差押が可能となります。

差押では、換金しやすく事業活動や生活への影響が出にくいものから選ばれます。ただし選ぶのは現場の人間であり、事業主ではありません。また個人事業主の場合、事業に関する資産だけでなく個人資産が差し押さえられるケースもあります。

差し押さえられた現金は、滞納していた税金の支払いへとあてられます。しかし、貴金属や車、不動産など現金以外の財産は、そのままでは納税に使えないため、金銭に変える手続きが行われます。これが「換価」です。換価により得た税金が、支払いへとあてられます。

換価を終えて納税後、もし現金が残った場合は、滞納者である事業主に返金されます。これが一連の流れです。

納付期限までに納税できない場合は申請・相談を

消費税を滞納し、処分を受けると個人事業主であっても事業そのものや個人の信用に傷がつきます。自己破産したとしても、個人の場合は、税金の免除は行われません。

支払いが難しい場合は、税務署に猶予を申請する方法があります。

猶予制度には「換価の猶予」「納税の猶予」の2種類があり、認められた場合最大1年間支払いを待ってもらうことが可能になります。

猶予が認められることのメリット

  • 原則として1年間納税が猶予(状況に応じて更に1年間)される。
  • 猶予期間中の延滞税が通常8.7%から年0.9%に軽減(※令和4年中の割合)
  • 財産の差押えや換価(売却)が猶予される

特に、現在は新型コロナウイルス感染症の影響により、事業に影響を受けている個人事業主の方も多いことでしょう。そういった方のために、国税局猶予相談センターでは猶予の相談・質問を受け付けています。

期間内に消費税を納めることが難しそうな場合は、できるだけ早めに相談することをおすすめします。

個人事業主が「課税事業者」を選ぶメリット・デメリット

「課税事業者選択届出書」を提出した時点で、免税事業者から課税事業者へと変更されます。免税事業者は、消費税を納税する義務がないことから、イメージとしては「免税事業者のままでいると、メリットが多そう」と思う人がいらっしゃることでしょう。

ここでは課税事業者になることのメリットとデメリットを解説します。

メリット1:インボイス制度が始まり、取引先相手から選ばれやすくなる

2024年(令和5年)10月1日から、「インボイス制度」が開始されます。インボイスとは「適格請求書」のことであり、「適格請求書発行事業者」のみ発行することが可能です。

インボイス制度導入後

  • 課税事業者の仕入れ税額→税額控除ができる
  • 免税事業者の仕入れ税額→税額控除できなくなる(段階的)

取引先から見た場合、もし同じ条件であれば、仕入れ先の相手として課税事業者を選ぶのは自然な流れといえます。

登録申請書の受付は2024年10月1日から始まっています。2024年10月1日から登録を受けるためには、2024年3月31日までに(※)登録申請書の提出が必要です。

※困難な事情がある場合は、2024年9月30日まで

メリット2:預かった消費税<支払った消費税の場合「還付」がある

消費税の納税額は「預かった消費税―支払った消費税」として計算します。そのため、預かった消費税<支払った消費税の場合、消費税が還付されます。ただし、還付を受けられるのは、課税事業者かつ一般課税(原則課税)を選択した場合だけです。免税事業者は、消費税の納税義務はありません。

しかし、事業に使用する商品などを購入する際には、消費税を支払っているはずです。その際に支払っている消費税は免除されませんので、多くの消費税を支払っている人にとっては、課税事業者になることで還付が受けられることは大きなメリットと言えます。

デメリット1:2年間は課税事業者として継続

基本的に「今年度は消費税が還付されそうだから、課税事業者。来年度は免税事業者に戻る」といったことはできません。課税期間の初日から、原則として2年間は課税事業者で居続ける必要があります。

ただし、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、かつ免税事業者の条件を満たしている事業者が、税務署に申請後承認を受けた場合、免税事業者に戻ることができるケースがあります。

参考:国税庁 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置 消費税の課税選択の変更に係る特例について

デメリット2:簡易課税の場合、消費税の還付がない

簡易課税は事業ごとに「みなし仕入れ率」が決められており、予測値として控除額が決められています。そのため、実際の売上金や仕入れ金額によっては、納付する消費税の額が多くなることがあります。またその場合も、消費税が還付されることはありません。

個人事業主も理解しておきたい「消費税」の仕組み

課税売上が1,000万以下の個人事業主にとっては、これまであまり身近ではなかった消費税の存在ですが、2024年10月1日から導入されるインボイス制度により、自分が課税事業者になるか、免税事業者のままでいるかの選択が迫っています。

課税事業者になることで、消費税を納める義務が発生するものの、一般課税(原則課税)方式であれば、預かった消費税<支払った消費税の場合は還付されるメリットがあります。簡易課税方式の場合、消費税の還付はありませんが、計算自体は一般課税に比べて楽です。個人事業主にとっては、課税事業者になったとしても、事務負担をあまり増やさずにすむことはひとつのメリットと言えるでしょう。

自分の事業内容と今後の方向性、取引先など、さまざまな方向から考えた上で、消費税の課税事業者になるかどうかを選ぶことをおすすめします。

文・柚月朋子

フリーランスとしての経験やポイント投資からスタートした経験を活かし、年間200本以上の記事を執筆・監修。投資初心者にわかりやすい記事執筆が目標。