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玉ねぎが高い! どうすればいい?

春から始まった値上げラッシュ。電気料金やガソリン代などのエネルギー費に加え、小麦粉やコーヒーなども軒並み値上げ。その影響で飲食店の料理なども値上げを余儀なくされています。今回は日常的に消費する野菜の代表格「玉ねぎ」について調べてみました。

玉ねぎが高過ぎる!

野菜類の中でも身近な玉ねぎ。値段が手軽なうえ、長く保存がきき、和洋中、いろいろな料理に使えて、生でも加熱しても食べられるという庶民の味方のような野菜ですが、最近は値上がりがつづき、飲食業界はもとより一般家庭からも悲鳴が上がっています。

地域や小売店にもよるものの、いつもの年なら中~大サイズが3~4個入って99~198円(税別)程度の玉ねぎが、今年(2024年)は299円(税別)だったり、店によっては399円(税別)だったりします。報道各社のニュースを見ると、この4月~5月の玉ねぎの価格は過去5年間の平均と比べて2倍以上に上昇しているといいます。

税込300~400円という金額自体はそう大きくないけれど、それが玉ねぎと聞くと「高い!」と感じるのが自然でしょう。これを高いと感じないのはよほど裕福な人か、普段まったく料理をしない人、玉ねぎが嫌いで絶対食べない人のどれかでしょう。

玉ねぎはとても便利な食材です。冷蔵庫の常備品としている人は多いでしょう。日々使う食材だけに、それが倍の価格になっているというのは痛手です。200円の差としても、毎日買っていたら30日で6,000円、3日に一度でも2,000円の出費増です。たかが玉ねぎと侮ってはいられません。

そもそも玉ねぎってどんな野菜なの?

玉ねぎは、名前からわかる通りネギの仲間です。流通しているものの大半は乾燥させた貯蔵品で、表面の皮は茶色、味は独特の辛味があり、熱を加えることで甘みが出ます。

辛味をもたらしているのは成分として含まれている硫化アリル。玉ねぎに含まれる硫化アリルには疲労回復や血中コレステロールの増加抑制、動脈硬化、血栓の生成予防、免疫機能の向上、発汗促進などの効果があるといわれています。また硫化アリルは揮発性のため、玉ねぎ特有のつんとした香りを放ちます。玉ねぎを切ると涙が出るのは、揮発した硫化アリルが目の粘膜を刺激するからです。

ときどき店頭で見かける新玉ねぎは貯蔵せずに採れたてを出荷したもの。こちらも辛味はありますが、水分が多いためか比較的優しい味で生でも食べやすいのが特徴です。また玉ねぎは品種によっては甘みが強いものもあります。

同じネギ属の仲間にはニンニクやラッキョウ、エシャロットなどがあります。見かけやかたさから根菜類に見えますが、実は葉菜類です。

食用の作物としての起源はかなり古く、原産地といわれるイランなどの西アジア周辺では文明が発祥した頃には栽培されていたようです。紀元前2700年以降のエジプト文明やメソポタミア文明の記録には、料理のレシピなどにたびたび玉ねぎの名が登場しています。

その後、玉ねぎは古代ギリシア、ローマ時代にも栽培されます。玉ねぎやニンニクなどネギの仲間は食べると力が漲り、病気の予防や治療に役立つと考えられていたため、古代ギリシア時代はオリンピックの出場選手が好んで食べていたといいます。また戦争に参加する兵士たちの食料としても必需品とされ、古代ローマ帝国が版図を拡大するに従い玉ねぎの栽培地も広がり、近世(16世紀)以降はヨーロッパ中で作られるようになっていきました。

日本に入ってきたのは江戸時代。長崎から入ってきたといいますから、おそらく鎖国政策をとってからのことでしょう。しかし、オランダ商人が持ち込んだと思われる玉ねぎは物珍しさこそあれ、食用としては普及しませんでした。当時の日本人の味覚には合わなかったか、あるいは約8~9ヶ月間という栽培期間の長さがネックとなったのかもしれません。

玉ねぎが日本で食用化されたのはいつ?

玉ねぎが食用となったのは幕末のこと。

ペリーの黒船が来航して欧米各国との交流が始まると、アメリカ産の玉ねぎなどが日本に入ってくるようになりました。もちろん、物流がいまとは格段に不便な時代です。入ってきたといっても、それがすぐに店頭に並ぶようなことはありません。

当時、このようにアメリカ、ヨーロッパから入ってきた野菜や果物の種子や苗などは、まず幕府の一機関である物産方の試験農場(培養地)で栽培され、日本での栽培が可能と判断された時点で農作物として扱われるようになりました。

玉ねぎもそうした作物のひとつ。他に白菜やキャベツやリンゴなど、いまではすっかり日本人の食卓に馴染んでいる野菜や果物の多くが、実はこの時代にはじめて栽培されたものでした。

明治になると、栽培法が確立されたこれらの野菜や果物は全国に広がっていきます。

なかでも玉ねぎは北は北海道から南は九州まで、列島を縦断する形で栽培地が増えていきました。

とくに有名な産地は北海道や佐賀県、兵庫県、長崎県、香川県、栃木県、群馬県、静岡県など。とくに北海道は年間の生産量が57万2,000tと圧倒的です。2位の佐賀県は14万4,900t、3位は兵庫県で9万1,900t。この3道県だけで全国の生産量の約8割を占めています。

どうして今年の玉ねぎは高い!?

玉ねぎが値上げしている主な理由、それは「不作」です。

昨今の物価の上昇を考えると、原油高の上昇や円安、コロナ禍、ウクライナ情勢などが理由に挙がってきそうなイメージがありますが(もちろん、それらも関係しています)、こと国産の玉ねぎに関しては雨不足による不作が最大の原因となっています。

とくに最大の生産地である北海道で不作が続いているため、昨年以降、玉ねぎの価格はじわじと上昇し、今年に入ってからはとうとう2倍以上となってしまいました。

北海道が不作なら生産量2位の佐賀県はどうでしょう。普通なら北海道産の出荷が少ない5~6月は佐賀県産が店頭の主役となるのですが、残念ながらこちらも生育状態は平年より遅れ気味とのこと。生産量3位の兵庫県に期待したいところですが、北海道産の不作を補うまでには至らなそうです。

国内産が高いというのなら輸入品はどうでしょうか。

玉ねぎは野菜類の中でも輸入量が多い野菜です。主な輸入先は中国、アメリカ、ニュージーランドなど。しかし、こちらはというとコロナ禍やウクライナ情勢、円安、原油高、世界的な品不足、物流の混乱などによる供給の不安定化で、やはりこれまでのような安値での大量輸入は困難な状況となっています。そのため商社や輸入業者はオランダ産などこれまであまり見ることのなかった国の玉ねぎを仕入れるなど工夫をしていますが、確保できる量は限られています。

国内産は不作、輸入物は供給不安定。こうなると消費者に与えられた選択肢は限られてきます。

玉ねぎ不足への対抗手段

すっかりいいお値段になってしまった玉ねぎ。ならば家庭菜園で栽培する、という手段もあります。ただ、栽培期間の長さを考えると対症療法としてはいまいちです。

できるのは、いくつかスーパーや直売所などをまわっていちばん安いものを買う、比較的安い日に大量買いしておく、、業務系のスーパーなどで見かける冷凍玉ねぎ(みじん切りされたものなど。1袋500gで120円程度)を買うといったところでしょう。

もうひとつ提案したいのは、他の野菜で代用する、という手段です。

玉ねぎの代用品というとなにが思いつくでしょう。たとえばカレーだったら、同じネギ仲間の長ネギを使うという手があります。

具材としては食感が似ているネギを使い、甘みを出すのには市販のカレー用玉ねぎペースト(100円程度からある)を入れてみるなど、ちょっとの工夫で玉ねぎの不在をカバーできます。

また同様に値上がり傾向のつづくじゃがいもは、煮込んでくずれすぎないようにあらかじめ茹でるか蒸すかしてあとから入れる。肉は値段が手頃な輸入品のブロック肉にしてみる。人参はいつもよりちょっと減らす(子どもは喜ぶことでしょう)、あるいは安ければ増やすなど、頭を使えば玉ねぎの値上げ以上にお得なカレーができるかもしれません。

これを機に出費をもう一度見直して、玉ねぎの値上げに負けない強固な家計をつくってください。

文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。