会社員にとって給料が下がることは死活問題。給料が下がった場合厚生年金保険料はどうなるのか、厚生年金保険料の決定方法、決定時期と共に紹介します。「給料が下がったことを理由に辞めたら会社都合?」「給料を下げるのは違法?」の疑問にもお答えします。
給料が下がったら厚生年金保険料はどうなる?
不景気や事業縮小、降格などにより給料が下がった場合、毎月支払っている厚生年金はどうなるのか気になる方も多いことでしょう。
結論は、「給料が下がったとしても厚生年金保険料が変わらない場合もあれば、変わる場合もある」です。理由について解説します。
厚生年金保険料の決め方
厚生年金保険の保険料は
- 標準報酬月額 × 保険料率(18.3%)
- 標準賞与額 × 保険料率(18.3%)
により計算されます。2024年度も、保険料率18.3%に変わりはありません。また、保険料は、事業主と被保険者とが半分(9.15%)ずつ負担します。
【標準報酬月額とは】
給与を厚生年金保険料額表の報酬月額区分に当てはめて決定したものです。
1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。
標準報酬 | 報酬月額 (円以上〜円未満) | 保険料(円) (保険料率=18.300%) | ||
等級 | 月額 | 事業主 | 被保険者 | |
1 | 88,000 | 〜93,000 | 8,052.00 | 8,052.00 |
2 | 98,000 | 93,000〜101,000 | 8,967.00 | 8,967.00 |
3 | 104,000 | 101,000〜107,000 | 9,516.00 | 9,516.00 |
4 | 110,000 | 107,000〜114,000 | 10,065.00 | 10,065.00 |
5 | 118,000 | 114,000〜122,000 | 10,797.00 | 10,797.00 |
6 | 126,000 | 122,000〜130,000 | 11,529.00 | 11,529.00 |
7 | 134,000 | 130,000〜138,000 | 12,261.00 | 12,261.00 |
8 | 142,000 | 138,000〜146,000 | 12,993.00 | 12,993.00 |
9 | 150,000 | 146,000〜155,000 | 13,725.00 | 13,725.00 |
10 | 160,000 | 155,000〜165,000 | 14,640.00 | 14,640.00 |
11 | 170,000 | 165,000〜175,000 | 15,555.00 | 15,555.00 |
12 | 180,000 | 175,000〜185,000 | 16,470.00 | 16,470.00 |
13 | 190,000 | 185,000〜195,000 | 17,385.00 | 17,385.00 |
14 | 200,000 | 195,000〜210,000 | 18,300.00 | 18,300.00 |
15 | 220,000 | 210,000〜230,000 | 20,130.00 | 20,130.00 |
16 | 240,000 | 230,000〜250,000 | 21,960.00 | 21,960.00 |
17 | 260,000 | 250,000〜270,000 | 23,790.00 | 23,790.00 |
18 | 280,000 | 270,000〜290,000 | 25,620.00 | 25,620.00 |
19 | 300,000 | 290,000〜310,000 | 27,450.00 | 27,450.00 |
20 | 320,000 | 310,000〜330,000 | 29,280.00 | 29,280.00 |
21 | 340,000 | 330,000〜350,000 | 31,110.00 | 31,110.00 |
22 | 360,000 | 350,000〜370,000 | 32,940.00 | 32,940.00 |
23 | 380,000 | 370,000〜395,000 | 34,770.00 | 34,770.00 |
24 | 410,000 | 395,000〜425,000 | 37,515.00 | 37,515.00 |
25 | 440,000 | 425,000〜455,000 | 40,260.00 | 40,260.00 |
26 | 470,000 | 455,000〜485,000 | 43,005.00 | 43,005.00 |
27 | 500,000 | 485,000〜515,000 | 45,750.00 | 45,750.00 |
28 | 530,000 | 515,000〜545,000 | 48,495.00 | 48,495.00 |
29 | 560,000 | 545,000〜575,000 | 51,240.00 | 51,240.00 |
30 | 590,000 | 575,000〜605,000 | 53,985.00 | 53,985.00 |
31 | 620,000 | 605,000〜635,000 | 56,730.00 | 56,730.00 |
32 | 650,000 | 635,000〜 | 59,475.00 | 59,475.00 |
※上記に加え、子ども・子育て拠出金(2024年4月1日から適用分/0.36%)については事業主の全額負担です。
【標準賞与額とは】
税引き前の賞与の額から1千円未満の端数を切り捨てたものをいいます。1回の支給につき上限は150万円です。
厚生年金保険料が決まるのは、原則年1回!
厚生年金保険料の決め方は「定時決定」「随時改定」の2種類です。4月から6月の報酬月額を元に、毎年9月に見直しが行われるのが「定時決定」です。基本は定時決定ですが、大幅な収入の増減(標準報酬月額の2等級以上)があった場合は、時期を問わず標準報酬月額の改定が行われます。これを「随時改定」といいます。
つまり、下がった給料の金額によっては随時改定がある=厚生年金保険料が下がるというわけです。
年度途中で随時改定があるのは、次の3つの条件を満たしている場合のみです。
|
つまり
- 固定賃金が変動した。しかし、標準報酬月額の2等級以上の差は出ていない
- 非固定的賃金(一時的な手当や残業の減少など)の変動だった
- 支払い基礎日数が17日未満
といった場合は、給料が下がっていたとしても厚生年金保険料は変動しません。
【給料が下がり、厚生年金保険料も下がる例】
標準報酬月額320,000円・20等級
↓
役職手当(50,000円)の減額
3ヵ月平均月額が270,000円・17等級
これまでの厚生年金保険料は58,560円(本人負担:29,280円)
↓
給料減額後の厚生年金保険料は47,580円(本人負担:23,790円)
改定されるのは、変更後から4ヵ月目
改定されるのは、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4ヵ月目です。
例
2024年4月に支払われる給与から変動があった
↓
2024年7月の標準報酬月額から改定
ただし、給料の変動に伴い、自動的に厚生年金の金額が変更されるわけではありません。
事業主が日本年金機構事務センターに「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届 厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届」を提出する必要があります。
給料が下がった場合は、自分が随時改定に該当するかを確認した上で、会社の担当部署に連絡し、提出を依頼することをお勧めします。
厚生年金保険料=将来の年金額に影響あり
給料が下がっても条件を満たしていれば、支払う厚生年金保険料も下がるため、手取り減少を食い止めることができます。
しかし、年金保険料が少なくなるデメリットもあります。
老齢厚生年金の年金額は、年金額=定額部分+報酬比例部分+加給年金額の式で求めることができます。
この中の「報酬比例部分」を計算する際に、現在受け取っている給料の「平均標準報酬月額」を使用します。つまり、将来受け取る年金額が下がってしまう可能性があるというわけです。
給料が下がったことに関するよくある質問
「業績が悪化し、給料が下がった」「給料が下がりモチベーションも下がった」等、悩みを抱えている方もいらっしゃることでしょう。ここでは、給料が下がったことに関するよくある質問と回答をまとめてみました。
給料が下がった!これって違法?
ひとことで給料が下がるといっても
- 人事評価による降格
- 基本給の減額
では、内容が異なります。
まず人事評価により課長から一般職に降格となり、役職手当がなくなったことで給料が減額された場合、会社のルールに基づき、職位と賃金が連動しているケースであれば、問題がないことが多いです。
しかし、この場合も、役職だけがなくなり、実際の仕事内容は課長職の頃と何ら変わりがないなどの場合は、単なる給料の切り下げとなる可能性があります。
また減額の金額にもよりますが、一定以上の給料の引き下げは違法です。
[労働基準法第91条]
就業規則で労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
また、基本給の減額は労働者にとって、さらに深刻な問題です。
基本給の減額は、労働契約そのものの変更となるため、会社側の一方的な通達による変更は、基本的には認められていません。
ただし
- 労働者が同意した
- 労働者が就業規則の変更に合意した
- 変更に合理性(倒産を避けるためなど)があり、従業員に周知した
などの場合は、労働者にとって不利益な変更であっても認められると考えてよいでしょう。
しかし、もちろん
- 最低賃金以下の給料
- 一方的な通達
は違法行為です。
会社と話し合い、それでも問題が解決しない場合は労働基準監督署に相談することをお勧めします。
給料が下がったことが理由の退職は「会社都合」?
給料が下がることは、生活に直結する大問題です。もし、給料が下がったことを理由に退職した場合「自己都合」「会社都合」、どちらで処理されるのでしょうか?
答えは、85%未満に減額された場合は「自己都合」ではなく、「会社都合」の「特定受給資格者」とみなされる可能性がある、です。
特定受給者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
II「解雇」等により離職した者
当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した(又は低下することになった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
1.離職の日の属する月以後の6ヵ月のうちいずれかの月に支払われる賃金と当該月より前6ヵ月のうちいずれかの月に支払われる賃金とを比較し、85%未満に低下した場合
2.離職の日の属する月より前の6ヵ月及び離職の日のいずれかの月の賃金と当該月より前6ヵ月のうちいずれかの月に支払われる賃金とを比較し、85%未満に低下した場合
厚生労働省リーフレット
特定資格受給者は、自己都合退職に比べ、給付制限期間がないことや失業手当の所定給付日数の上限が拡大されていることなどのメリットがあります。
自分が当てはまるかどうか、必ず確認してください。
ただし
- 低下する(低下した)時点からさかのぼって1年以上前の時点で内容が予見できる場合
- 出来高払制のように業績によって賃金が変動する場合
- 懲戒や疫病による欠勤がある場合
- 定年退職に伴い賃金が低下し、同一事業所に再雇用される場合
は、該当しないため注意が必要です。
給料が下がったら、随時改定の対象かどうかをチェック
給料が下がると同時に、手取りも下がります。厚生年金保険料は、老後の暮らしに必要なものですが、まずは今の暮らしを充実させることが重要という考え方もあります。
給料が下がった場合、随時改定の対象かどうかを自分でチェックし、該当する場合はすぐに会社に申し出ることで速やかに対応してもらうことが可能です。
文・柚月朋子
フリーランスとしての経験やポイント投資からスタートした経験を活かし、年間200本以上の記事を執筆・監修。投資初心者にわかりやすい記事執筆が目標。