好きなモノに囲まれて仕事をしたい。その願いをかなえてくれるのが雑貨店の経営です。夢見るのは簡単でもいざ始めるとなるとたいへんそうな雑貨店ですが、開業に向けてどんな準備が必要なのでしょうか。失敗しない雑貨店の開業方法を考えてみました。
雑貨店、やるなら実店舗? それともネットショップ?
街を歩いていると目につくもののひとつが雑貨店です。しゃれた外観が醸すなんだか楽しそうな雰囲気につられてそのまま店の中へ、といったことはよくあるのではないでしょうか。
雑貨店のおもしろいところは、それぞれの店に世界観があるところ。文具や食器などに特化した店もあれば、東南アジアやヨーロッパの小物を集めた店があったり、とにかく安い店もあれば、エレガントな高級品を並べている店もある。ひとくちに雑貨店といっても店によって置いてある商品や店の雰囲気はかなりまちまちです。
共通しているのは、どのお店にもオーナーの趣味嗜好が反映されているという点。個人オーナーの店にせよ、企業が経営している店にせよ、人気があって長続きしている雑貨店には他店にないこだわりや世界観があります。そのこだわりに共鳴したとき、人はそこで物を買うのではないでしょうか。
そこに入ってみるだけで楽しい気持ちにさせてくれる雑貨店。もし自分で店を持つとしたらどうすればいいのでしょうか。
方法は主に3つあります。
ひとつは「自分で実店舗を持つ」こと。もうひとつは「ネットショップを開くこと」。そして「フランチャイズで店を持つ」ことです。
3つの方法には、もちろん、それぞれメリットとデメリットがあります。
・実店舗
メリット:直接、顧客とコミュニケーションがとれる。内装や外装を自分好みにできる。デメリット:開業資金がかかる。
・ネットショップ
メリット:365日24時間営業が可能。開業資金が実店舗の数分の1で済む。デメリット:商圏が広く競合が多い。顧客とのコミュニケーションが薄くなる。
・フランチャイズ
メリット:個人経営の店舗よりも開業資金が少なくて済む。開業のノウハウが学べる。本社の支援を受けることができる。デメリット:オリジナリティが出しにくい。開業後、ロイヤリティ(手数料)が発生する。
以上のうち、雑貨店をやりたいと思った人が真っ先に考えるのは実店舗ではないでしょうか。ここでは実店舗を開業する場合に準備すべきことや必要な資金について考えてみたいと思います。
雑貨店開業の費用はいくら?
実店舗の雑貨店を開業するには何にいくらのお金が必要となるでしょう。
物件の取得費用や内外装工事、什器代、初回の仕入れ代、宣伝費などの主な出費を合わせた開業資金の相場は、安くても500万~600万円、開店から1年間のランニングコストを入れた金額は1,000万円以上といわれています。
もちろん、これは立地や物件の規模、扱う商品によって大きく変わります。格安物件で内外装ともにDIYなどで済ませた場合は100万円程度からでも開業できるし、逆に人気エリアの一等地にそれなりの床面積を持った店を出すとなると開業資金は1,000万円あっても足りません。
そこでこの記事では、開業資金の相場といわれる500~600万、あるいはそれ以下の予算で店を持つことを想定して話を進めていきます。
開業資金500万~600万円で何ができるか。例えば、都内や東京近郊の駅商店街などに5~10坪程度の店舗を開くとすると、内訳はこんな感じになるはずです。
物件取得費:100万~150万円
内外装工事費:200万
什器購入費:100万円
仕入れ代:100万円
宣伝費:0~50万円
合計:500万~600万円
そしていざ開業したとなると、毎月の賃借料、光熱費、人件費、仕入れ代、消耗品代などがかかります。ランニングコストは以下のようになります。
賃借料:10~20万円
光熱費:2~5万円
人件費:0~30万円(オーナーのみで経営、もしくはスタッフ1~2名を雇ったとして)
消耗品代:1万~3万円(包装紙、文具など)
仕入れ代:30~100万円
宣伝費:0~5万円
合計:43万~163万円
ここからわかるのは、毎月最低でも43万円程度の運営費が必要になるということです。年間にすると516万円。突き詰めて考えていくと、雑貨店の開業には運営費と合わせて、やはり1,000万円程度の資金がほしいところです。むろん、そこまで用意できなくても開業はできますが、資金はある方が安心です。
支出する金額がある程度見込めれば、目標とする売上や客単価が見えてきます。もし自分ひとりで経営するとしたら、生活費を賄うための利益はいくら必要でしょう。消費税などは勘案せずに、ここでは単純に計算してみます。
例えば、月に生活費が30万円は必要というのなら、売上は最低でもランニングコストにプラス30万円の金額でなければいけません。
ランニングコストを抑えに抑えて40万円程度にした場合でも、30万円の利益を得るには70万円の売上が要ります。
70万円を売り上げるにはどうすればいいでしょう。
例えば、定休日を週1回程度として、月に25日営業するとします。
すると、1日に必要な売上は2万8,000円。
かりに客単価を1,000円とした場合は1日に28人の客が必要となります。もしこれが10人の場合は客単価は2,800円。20人の場合は1,400円となります。
この数字が達成できないようならビジネスとしては失敗。それでも開業したければ、どこかでコストを削らねばなりません。逆にこれがクリアできるのならば、開業に向けて夢が膨らみます。
自分が売りたい商品はどんな種類の雑貨でしょうか。店はどこに開きたいのでしょう。それによっても売上や客単価は変わってきます。雑貨店を開業するには、理想と現実のバランスをうまくとることが重要です。
もし、資金がどうしても足りないという場合は補助金を申請するという方法があります。補助金のメリットは融資と違い返済の必要がないところです。
雑貨店の開業で利用できそうな補助金には、小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金などがあります。利用するには複数の必要書類を用意して申請し、採択されなければなりません。申請に手間がかかるうえ、必ずしも採択されるとは限らないものですが、挑戦する価値はあります。申請する時間がない、採択率を上げたい、という場合は、有料ですが補助金申請を支援、申請書の作成などを代行してくれる外部業者に依頼するという方法もあります。
これらの補助金とは別に、県や市町村など自治体によって独自の創業助成金制度などがあったりするので、一度確認してみるといいでしょう。
どこにどんな店を出せばいいのか?
雑貨店を開きたい。そう閃いたとき、それと同時か、もしくは次に思い浮かぶのは商品や立地、店の雰囲気などではないでしょうか。
とくに立地は店の性格を左右させます。極端な例えをすると、10代の若者が集まる原宿の竹下通りに巣鴨に集まる高齢者が好むような物を売る店を出しても売れるわけはないし、その逆もまた然りです。
もし先に売りたい商品があるとすれば、店を出すにはやはりそれを購入してくれそうな人たちが商圏に存在する場所に開かねばなりません。
逆にこの街に出店したいと思うのなら、その街に来る人たちが好む商品を置かねばなりません。
または「この街でこんな商品を売りたい」と両方が決まっているのなら、どうにかして売る手を模索しなければなりません。
もしくは人によると、商品よりも「こんな雰囲気の店を持ちたい」と、店の内外装や雰囲気が先にイメージできている場合もあるかもしれません。
こんなふうに、十人十色でイメージがあると思います。
ここでいちばん困ってしまうのは、イメージすら明確でなく、ただ漠然と「雑貨店をやりたい」と願っている場合です。
もし「本気で雑貨店をやりたいのだけど、どんな店にしたらいいか迷う」というような状況であるならば、まずは「好き」を優先してみましょう。
「この街が好き」「こんな雑貨が好き」「食べることが好き」「アクセサリーが好き」
と、自分の「好き」を並べていけば、おぼろげながら店のコンセプトも見えてくることでしょう。
そして「この街でおしゃれな輸入食器を売る店を開きたい」という段階まで進んだら、次に待っているのは現実的な検討です。
はたして、この街におしゃれな輸入食器を買ってくれるお客さんはいるだろうか。
店を出したとして、家賃は払っていけるのか。
扱いたい商品を仕入れるだけの予算はあるのか。
次々に立ちふさがる現実的な壁はピンチのようにも見えますが、迷いを抱いている人にとっては進むべきはどこかという道しるべにもなります。
例えば、下北沢や吉祥寺、自由が丘といったおしゃれな店が集まる人気の街に出店したいけれど、家賃が高すぎてとても出せない。だったら隣駅はどうだろうか。でなければ、下北沢や吉祥寺に似た雰囲気の街はないだろうか。と、こんなふうに、いくつもの障害に行く手を塞がれることで、次のアイディアは出てきます。
本当に「好き」なことならば、人は努力を惜しみません。理想の店を持つために、なんとかしようと頑張るものです。そうやって、これがダメならこれ、というふうにトライを繰り返していけば、どこにどんな店を出せばいいのか、全体の輪郭がはっきり見えてくるはずです。
雑貨店、開業までの流れ
雑貨店を開業すると決めたら、箇条書きでいいので開業までの流れを把握しましょう。
①コンセプトをつくる(商品も含めて、どこにどんな店を出すか)
②仕入れ先をさがす
③必要な資格や許可を取得する
④物件をさがして契約する
⑤内外装工事の業者に見積もりをとって工事を発注する
⑥棚やレジ、看板など什器を揃える
⑦仕入れをする
⑧開店に備えて宣伝、告知をする
以下、①~⑧まで、細かいポイントについて説明します。
①コンセプト
つくる際は簡単なものでいいから事業計画書を作成しておくといい。ネットで「事業計画書 作成」「事業計画書 見本」と検索すればフォーマットが出てくる。事業計画書があれば、補助金や融資の申請などをするときも便利。
②&⑦仕入れ
「ネットで卸売専門の業者をさがす」「商品展示会などへ足を運ぶ」「実店舗の問屋で買う」「製造元のメーカーや作家、職人から直接仕入れる」などの方法がある。中古品など古物を扱うときは客から買い取ったり、古物市場などから仕入れる。仕入れ先はいくつか開拓しておいた方がいい。仕入れの発注は、できれば物件(店舗)が決まってから行いたい。店舗の規模が決まれば、商品棚などの什器やそこに並べることのできる商品の量が見えてくる。
③資格・許可
雑貨店を開くにあたって特別な資格や認可は必要ないが、前述したように中古品を取り扱うときは古物商許可が必要となる。古物商許可は店舗のある地域を管轄している警察署に申請する。
もし店舗を雑貨店兼カフェなどにしたいときは食品衛生責任者の資格と飲食業の営業許可、クッキーなどの菓子を販売、提供するときは菓子製造許可が必要となる。いずれも最寄りの保健所に必要書類を提出して申請する。
この他、個人事業主として開業するのであれば税務署に開業届を提出する。
④物件
内見などを行う際は、どんな業態の店にするのかきちんと説明を行う。内外装工事はどこまでOKか、店の前にA型看板などを置けるか、自転車での来店客に対応できるか、BGMを流しても大丈夫か、など、借りたあとで問題が発生しないようにあらかじめ確認しておくことが必要。
⑤内外装工事
物件が決まったところで、いくつかの業者に合い見積もりをとるのが予算的にはベスト。最初に予算を伝えておくのもひとつの方法。
⑥什器
開店前に揃うように購入、配送の手配をする。POSレジやカード決済、店舗用電話、インターネット開設の準備もしておく。
⑧宣伝・広告
予算を安く抑えるには無料でできるSNS、ブログなどを活用する。よく目にするのは開業までの日々を綴った開業ブログ。合わせてTwitterやInstagramでの発信も心がけたい。ネットの他、物件の賃借契約が済んだら開店前の店舗に「近日OPEN」の張り紙を出したり、商圏内でのポスティングをするなども効果的。
上記①~⑧は、①を除けば前後してかまいません。
スケジュールにはある程度の余裕を持たせることをおすすめします。とくに物件さがしは安易に妥協せず、納得のいく物件に出会うまで待ちましょう。そして「これだ」と思った物件を見つけたら迅速に手を打つこと。なぜならそうした物件はすぐに埋まってしまうからです。
また内外装工事は10坪程度の店ならば数日で終わりますが、部材ひとつでも生産地からの輸送に遅れが生じると日程が1週間ずれこんだりします。仕入れも、いざ商品棚を設置してみたら並べる商品が足りなくて追加で注文といったことがよくあります。新品以外の未開封品や中古品を扱う場合に必要な古物商許可も、申請から取得まで1ヶ月以上かかります。
他にもある開業までの準備
・ラッピング
雑貨店を開業するのに、これだけは欲しいというスキルがあるとすればラッピングです。
雑貨店ではお客さんの多くが人への贈り物を買い求めます。となると包装も当然「プレゼント用」となります。大切な商品をさらに大切に見せてくれるラッピングは雑貨店スタッフにとっては不可欠な技術です。しかもラッピングには包むものによってさまざまなやりかたや種類があります。これらを会得するにはラッピングの講座を受けることがおすすめです。
初心者向け講座は包装用紙の製造メーカーやラッピング協会など多くの企業や団体が開催しています。講習料数千円程度の基礎講座から、5万~10万円というラッピン講師養成講座までコースはさまざま。店で売る商品も考慮して、必要な講座を受けるといいでしょう。
・ディスプレイ
ラッピングと同じく、「小売業がはじめて」「自分のセンスにいまいち自信がない」という人は商品ディスプレイについても勉強しておいた方がいいかもしれません。こつらもオンラインやリアルの講習会が開催されています。講習料は5,000~5万円程度。
こうした講座には、雑貨店開業、雑貨店経営のノウハウを教えてくれる開業スクールなどもあるので、時間に余裕のある人は受講してみるといいでしょう。
この他、本格的な開店を前にペースや手応えをつかみたければ、1日または数日のプレオープン、イベントへの出店などもおすすめです。
おすすめは実店舗+ネットショップ
実店舗は開業するまでに踏むべきステップがたくさんあって、それだけでくたびれてしまうものです。とはいえ、開業は人生における大勝負。ビジネスを成功させるためにも打つべき手はできるだけ打っておきたいものです。
そこでおすすめなのがネットショップの出店です。
ネットショップは前述したように商圏が広く、24時間365日営業できるというメリットがあります。もし同時に出店できれば、実店舗の売上を補助してくれるだけでなく、店の知名度アップにも役立ってくれます。またネットショップと実店舗では売れる商品に違いが出たりするので、そのぶん主力となる商品を増やすことができるかもしれません。配送などバックヤードの仕事は増えますが、実際、実店舗の雑貨店の多くがネットショップを開いています。
ネットショップに出店するには、①自社サイトを構築、②モールへの出店、③フリマアプリなどの方法があります。
実店舗の開業でリソースの多くをとられることを考えれば、いちばん簡単なのはフリマアプリでの出店です。
数を売りたいときは楽天市場やAmazonを利用するといいでしょう(出店には審査が必要)。自社サイトは構築するのにいささか手間がかかりますが、モールやフリマアプリほど手数料をとられない、もしくは手数料がかからないのが魅力です。作成方法はいくつかありますが、初心者であればネットショップ向けに開発されたASPを利用するのが手軽でおすすめです。出店にかかる初期費用は安いASPで1万円程度。月額の費用も1万円程度からとなっています。ASPはいくつもあって選択に迷いますが、BASEやSTORES、MakeShopなど実績のある大手のサービスを利用すれば安心です。
最後に、雑貨店開業のための要点をまとめておきます。
・明確なコンセプトを持つ
・開業資金は最低100万円、相場は500万~600万円
・開業までのスケジュールには余裕を持たせる
・中古品を扱うときは古物商許可を取得する
・ラッピング、ディスプレイの技術を身につける
・宣伝、集客はSNS、ブログ、貼り紙などを活用
・ネットショップも出店して相乗効果を狙う
魅力的な街には、必ず魅力的な雑貨店があります。雑貨店は街の顔。ぜひ素敵なお店をオープンしてください。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ、『最強戦国武将伝 徳川家康』等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。