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個人事業主の消費税が免除されるケースとは?納税額の計算方法や役立つ知識も解説

個人事業主の消費税に関しては、免除期間が定められていたり、特定期間の売上高が1,000万円以下の場合、免税事業者でいることができたりと、さまざまなルールが決められています。事業を始めたばかりの頃には特にありがたい制度ですが、その免除がなくなるかもしれません。本記事では、個人事業主と消費税の支払い、まもなくスタート予定のインボイス制度について詳しく解説します。

課税?免税?2つの期間と条件をチェック

個人事業主の場合、消費税の納付義務のある「課税事業者」、納付義務のない「免税事業者」の2種類に分かれます。

自分がどちらかを知る前に、2つの期間を説明する用語について理解しておきましょう。

基準期間特定期間
課税期間の前々年度前年の1月1日~6月30日

また「課税売上高」の用語も、消費税の説明の際によく出てきます。

国税庁の説明によりますと、課税売上高とは、消費税の課税対象となる取引の売上高のことです。一部(住宅家賃、土地を売却した際の収入など消費税の非課税取引にかかる収入)を除き、一般的な事業収入は課税売上高だと考えてよいでしょう。

これらの用語の意味を押さえた上で、免税事業者、課税事業者の条件を確認しましょう。

免税事業者の条件

消費税の支払いを免除されるケースについて、開業した年と一緒に見ていきましょう。

開業1年目

個人事業主1年目の段階では、基準期間、特定期間ともに、まだ事業を始めていない状況です。つまり、課税売上高がゼロ=消費税の納税義務がない状態です。全ての個人事業主が免税事業者である時期です。

開業2年目

2年目の場合も、まだ基準期間はありません。ただし、特定期間が発生します。

(例)2024年1月に開業

  • 基準期間→2020年1月〜12月のため、まだ事業収入がない
  • 特定期間→2024年1月〜6月

特定期間の課税売上高が1,000万円に満たない場合は、免税事業者です。

開業3年目以降

3年目以降は、基準期間、特定期間、両方とも課税売上高1,000万円に満たない場合のみ、免税事業者となります。

課税事業者の条件

消費税の納付義務が発生する課税事業者となるのは、最も早くても開業2年目からです。

次のいずれかの条件を満たした際に、課税事業者となります。

  • 基準期間の課税売上高:1,000万円超
  • 特定期間の課税売上高(または給与支払額):1,000万円超

Q.基準期間の課税売上高が600万、特定期間の課税売上高が1,200万円の場合はどうなる?

A.いずれか片方の条件を満たした時点で、課税対象者となります。「消費税課税事業者届出書」を準備し、税務署に提出する必要があります。

Q.去年は課税事業者だったけれど、今年は条件を満たしていない。どうしたらいい?

A.「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」に記入し、税務署に届け出てください。免税事業者になることができます。

個人事業主の消費税計算方法と具体例

納める消費税額の計算方法は「一般課税(原則課税)」「簡易課税」の2種類です。

一般課税(原則課税)とは

一般課税は、「課税売上高にかかる消費税額 ― 課税仕入高にかかる消費税額」にて計算します。

(例)小売業を営むAさん

  • 課税売上高:2000万円
  • 課税仕入高:600万円

  • 課税売上高にかかる消費税額:200万円
  • 課税仕入高にかかる消費税額:60万円

※ここでは消費税を標準税率の10%として計算(軽減税率は8%)

200万円―60万円=消費税納付額140万円

個人事業主も、事業に関係する備品を購入する際には消費税を支払っています。そのため、「消費税の二重支払いでは?」といった話題が時々出ていますが、上記を見てもらえれば、仕入で支払った消費税分が減額されているため、二重支払いになっていないことがよくわかるはずです。

理にかなっている一般課税ですが、取引全てに対して「標準税率10%か、軽減税率8%か」、「消費税がかかるものか、かからないものか」を判断し、帳簿につける必要があります。

取引量の少ない個人事業主であれば、あまり負担に感じないかもしれません。ただ、取引数が多ければ、一気に事務処理の負担が増えてしまうでしょう。

簡易課税制度とは

一般課税のデメリットである、事務処理負担を軽減するために生まれたのが、もうひとつの「簡易課税制度」です。

簡易課税制度を利用するためには、次の2つの条件を満たす必要があります。

  • 基準期間の課税売上高5,000万以下
  • 簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前提出している

また、一般課税(原則課税)との大きな違いは、仕入税額控除の計算方法です。

一般課税簡易課税
実際に支払った消費税額を計算受け取った消費税の金額 × みなし仕入れ率で計算

ここで使用するみなし仕入れ率は、事業内容により異なります。

該当事業みなし仕入率
卸売業90%
小売業80%
農業・漁業・製造業70%
その他の事業(飲食店業など)60%
運輸通信業、金融・保険業、サービス業等50%
不動産業40%

簡易課税制度での消費税納付額計算式は、次の通りです。

課税売上高にかかる消費税額 ― 課税仕入高にかかる消費税額 × みなし仕入率

先ほどと同じく、小売業を営むAさんを例に挙げます。

(例)小売業を営むAさん

  • 課税売上高:2000万円

  • 課税売上高にかかる消費税額:200万円
  • 小売業のみなし仕入率は80%

200万円 – 160万(200万×80%) =消費税納税額40万円

Aさんのように課税売上高が同じ出会っても、計算方法により消費税の納税額が異なることがあります。

「簡易課税」「原則課税」どちらがトク?

納税義務が生じたとしても、できるだけおトクに払いたいと考える人が多いもの。ここからは「簡易課税」「原則課税」それぞれ、どちらがトクになる可能性が高いのか、解説します。

原則課税がトクになるケース

みなし仕入れ率は、業種により一律で決められています。そのため、自分の業種のみなし仕入れ率と実際の仕入れ率を比べてみましょう。

みなし仕入れ率 < 実際の仕入れ率 の場合は、原則課税がトクになることが多いでしょう。

高額な固定資産を購入した場合も、原則課税がトクになることが多いです。固定資産購入に支払った消費税は、課税仕入高にかかる消費税額に含まれるためです。

【複数事業を営む個人事業主は要注意】
必ず原則課税がトクになるとは言えませんが、複数の事業を営んでいる場合は、注意してください。小売業(みなし仕入率80%)とサービス業(みなし仕入れ率50%)のケースであれば、低いみなし仕入れ率を使って控除計算が必要となるためです。

簡易課税がトクになるケース

一方、みなし仕入れ率 > 実際の仕入れ率 の場合は、簡易課税適用が有利になることが多いでしょう。

固定資産の購入がない、支出が少ないような年は、簡易課税のメリットを感じるケースも多いです。

消費税の免除がなくなる?インボイス制度とは

2024年10月から始まる「インボイス制度」。正式には「適格請求書等保存方式」といいます。このインボイス制度により、個人事業主も消費税が免除できなくなる!?といった声があがっています。

しかし、厳密に言うと、全ての個人事業主が消費税の免税事業者ではなくなると言うわけではありません。

インボイス制度の内容と、個人事業主に与える影響について見ていきましょう。

インボイス制度とは

インボイス制度とは、次の6つの条件を満たした請求書や納品書を交付・保存する制度です。

  1. 適格請求書発行事業者の、氏名または名称および登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
  5. 消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

1番に記載されている「適格請求書発行事業者」でなければ、「適格請求書」を発行することはできません。

発行事業者になれるのは、課税事業者のみ。つまり、消費税を納めている事業者以外は(免税事業者のままでは)、発行事業者になることができません。

もちろんインボイス制度が始まったとしても、課税売上高1,000万円に満たない場合は、免税事業者のままで居続ける自由はあります。

ただし、その場合、適格請求書の発行はできません。

そうなると何が困るのでしょうか。適格請求書がない場合、取引先企業は仕入れ税額控除を受けることができなくなります。取引先にとっては、適格請求書を発行できる相手と仕事をしたいと思うのは自然なことだといえるでしょう。

インボイス制度が個人事業主に与える影響

さらに詳しく、インボイス制度が個人事業主に与える影響について見ておきましょう。

想定される影響は、主に次の3点です。

  1. 消費税分の減額要求
  2. 取引先からの契約・発注の停止
  3. 課税事業者になることへの推奨

免税事業者との取引分に関しては、消費税分の控除ができなくなります。

そのため、消費税分の値引きを要求されることも想定されます。

(例)個人事業主のデザイナーの場合

 インボイス制度開始前インボイス制度開始後
デザイン代400,000円400,000円
消費税40,000円0円
受け取る金額(合計)440,000円400,000円
  マイナス40,000円!

上記の表が示す通り、同じ仕事内容であっても、消費税分の値引きを要求されることで収入が減少してしまいます。免税事業者で居続けた場合、消費税の納税義務はありませんが、これまでと同じ内容で契約できるかどうかは不透明です。

では、個人事業主が「値引きや減額要求には、断固応じない!」と強い意思を見せた場合はどうでしょうか。しかし、この場合も、取引先からの契約を打ち切られてしまうリスクがあります。

唯一無二のスキルを持っている、強い関係性があるなど、一部の例外を除き、全ての個人事業主が強気に出られるとは言い難いでしょう。

最後の「課税事業者になることへの推奨」は、最も想定されるケースではないでしょうか。「消費税をきちんと納税すればいいだけ」「適格請求書発行事業者になってくれたら、問題なく継続できる」と言われてしまえば、否定しにくいと思う人もいることでしょう。

「適格請求書発行事業者の登録申請書」を作成、提出すれば、適格請求書となり、これまでの問題は解決します。ただ、消費税の納税や納税に伴う事務作業負担の増加など、やるべきこと支出が増えるため、慎重に判断することをおすすめします。無計画に進めてしまうと「課税事業者になったものの、消費税が払えない」などということにもなりかねません。

個人事業主の消費税に関するよくある質問

最後に、個人事業主の消費税に関する質問についてまとめてみました。

Q.免税事業者も消費税の請求は可能?

A.免税事業者であっても、消費税の上乗せ請求は可能です。ただ、インボイス制度が開始されると、免税事業者は上乗せ請求が難しくなると想定されます。

Q.個人事業者は2年で法人成りするとおトクって本当?

はい。もし2年前の売上が1,000万円を超えていたとしても、法人化した時点で、基準期間の判定がリセットされます。さらにその後2期、消費税の申告義務がなくなります。免除期間が増えるため、おトクといった声が出ていると考えられます。

Q.個人事業主の消費税の申告時期は?

毎年1〜12月分の納税額を計算した上で、翌年3月末までに消費税の確定申告をする必要があります。

個人事業主も消費税について考える時期が来た

これまで、売上1,000万円以下の個人事業主にとっては、消費税免除が当たり前でした。その上で基準期間、特定期間の条件を満たした場合は、「簡易課税」「原則課税」のどちらかを選択し、消費税を納税します。

しかし、2024年10月より開始するインボイス制度により、これまで免税事業者だった個人事業主も、課税事業者になるかどうかの選択が迫られるようになりました。

適格請求書発行事業者(課税事業者)となり納税するか、免税事業者のままでいるか、どちらにせよ、メリットとデメリットがあります。また課税事業者となる場合は、課税方式を選ぶ必要も出てきます。

ただ、同じ個人事業主でも、一般の人を対象に取引をしている場合、インボイス制度の影響が出ないことも考えられます。(例:個人向け駐車場を運営しているケース)。この辺りは、事業により影響の大きさがかなり異なる点でしょう。

また、インボイス制度に関しては、国税庁主催のオンライン説明会も随時開催されています。「自分には関係ない」と思わずに、一度目を通しておくことをおすすめします。

文・柚月朋子

フリーランスとしての経験やポイント投資からスタートした経験を活かし、年間200本以上の記事を執筆・監修。投資初心者にわかりやすい記事執筆が目標。