創業・起業

個人事業主とフリーランスの違いは?メリット・デメリットも解説

起業を検討中の方にとって「個人事業主」「フリーランス」「自営業」の違いはわかりにくいもの。本記事ではそれぞれの特徴に加え、メリットやデメリット、フリーランスに向いているタイプ、向いていないタイプを解説します。自分に合った働き方を見つけたい方はぜひ参考にしてください。

個人事業主・フリーランス・自営業はどう違う?

「個人事業主=フリーランス」と思われがちですが、実際にはイコールではありません。まずはそれぞれの意味を解説します。

個人事業主

個人事業主を名乗るためには、次の条件を満たす必要があります。

  • 税務署に開業届を提出している
  • 個人として継続して事業を営んでいる(法人を設立していない)

個人事業主は「税法上の区分」の一種です。つまり、いくら事業を営んでいたとしても、開業届を出していなければ「個人事業主」の区分には入りません。

開業届の提出期限は、事業を始めてから1ヵ月以内ですが、過ぎてから提出しても罰則はありません。開業届は問題なく受理されますので「開業届を出すことを忘れていた」という人は、提出をおすすめします。

開業届を出し、個人事業主となることで、さまざまなメリットが得られます。開業届と合わせて「所得税の青色申告承認申請書」を提出しておくことで、確定申告の際に青色申告をすることができます。別々の日に提出しても構いませんが、一緒に出すことでうっかり出し忘れを防ぐことができます。

青色申告には、最大65万円が控除できるメリットや、事業を手伝ってくれる家族に払う給料を「青色事業専従者給与」として全額控除が可能です。

また、開業届を出すことで次のような社会的信用を得ることができます。

  • 銀行口座が屋号で開設できる
  • 法人用のクレジットカードを作れる
  • 事業復活支援金や持続化給付金などの助成金や給付金申請ができる
  • 就労証明書類として使用できる

開業届は、提出すれば更新などの必要はありません。ただ、個人事業主の私が思うことは、助成金申請などの際には控えの提出が必要ということ。無くしてしまった場合は、税務署で再発行ができますが時間も手間もかかるため、提出後は必ず控えを受け取り、無くさないように大切に保存しておくことをおすすめします!

そしてもうひとつ、個人事業主にとって強い味方となるのが、中小機構が運営する「小規模企業共済」への加入権利です。個人事業主だけでなく小規模企業の経営者も加入できます。

個人事業主の場合、会社員と違って退職金がありません。だからこそ、働きながら自分で退職金を積み立てると考えるとイメージしやすいでしょう。さらに、掛金は全額所得控除が可能なこと、掛金の範囲で事業資金の貸付制度が利用できる点は、大きなメリットです。

主婦も個人事業主になれる?

個人事業主に関する疑問の中で、特に多いのは「主婦でも個人事業主になれる?」「個人事業主になれない人はいる?」です。

結論から言いますと、個人事業主になれない人はいません。性格や能力面からあまり向いていない人はいるかもしれませんが、極論を言えば開業届さえ出せば、誰でも個人事業主になることができます。

もちろん、主婦・主夫の方も個人事業主として開業することは可能です。また、個人事業主として、配偶者の扶養に入ることもできます。開業したとしても、年間合計所得48万円以下なら配偶者控除、133万円以下なら配偶者特別控除の範囲です。

ただし、配偶者の会社の規定によっては、配偶者手当などは、個人事業主の場合特別ルールが定められていることもあります。あらかじめ確認することをおすすめします。

フリーランス

フリーランスは、職業ではなく「働き方」を意味する言葉です。特定の組織や会社、団体などに属さずに、個人として仕事を請け負うことをいいます。自分の技術やスキルを活かし、雇用契約を結ばずに業務を遂行します。

平日は会社員として働きながら、週末だけプログラマーやデザイナーとして働く「週末フリーランス」という言葉もあります。フリーランスは働き方のため、開業届を出しているかどうかは関係ありません。

個人事業主フリーランス
税法による区分働き方の一種

起業に関する記事には、フリーランス=個人事業主として記載されていることがありますが、同じではありませんので注意してください。

自営業(者)

自営業者は、会社などに属さず独立して個人で事業を営む人を意味する言葉です。個人事業主だけでなく、会社を設立している法人経営者も「自営業者」の中に含まれます。自営業の言葉には、本来、組織の人数は関係ありません。

しかし、書類やアンケート記入欄において、職業を選ぶ場合「自営業」「自由業」「会社経営者」のように分かれているケースが多いです。そのため一般的には、自営業の中には、会社経営者は含まれていないといった考え方もできます。

フリーランスとして働く4つのメリット

フリーランスとして働くことを検討している方向けに、4つのメリットについてまとめました。

仕事を選ぶことができる

フリーランスとして働く場合、会社員やアルバイトとは違い、事業内容を自由に決めることができます。自分の好きなこと、得意なことを仕事にする人が多いです。もちろんあまり気の進まない依頼を持ちかけられた場合は、断っても構いません。

会社員の場合は、上司からの命令・指示があれば、苦手だからといって拒否することは難しいものです。仕事を選べることでストレスが軽減するというのは、フリーランスにとっての大きなメリットといえます。

時間の融通がききやすい

フリーランスの場合、会社員のような定められた勤務時間は存在しません。店舗にて何かを販売する場合は、ある程度勤務時間や定休日などが決定しますが、職種によっては、働く時間や曜日も自由に決めることができます。

「融通がきく」ではなく「融通がききやすい」としたのは、取引相手との打ち合わせなど、ある程度相手の事情も汲んだ上でのやりとりが必要なケースもあるためです。ただ、そういった点を踏まえても、会社員に比べ自由に働くことができます。

私も実際、オンラインで打ち合わせを終えた後、親を病院まで送り迎えし、帰宅後仕事の続きをするといった働き方をする日があります。納期を守ることは必須ですが、自分の都合に合わせてスケジュールを組めることは大きなメリットと言えます。

働く場所に制限が少ない

フリーランスの職種にもよりますが、パソコンとインターネット環境さえあれば仕事ができる人も多いです。自宅を事務所とすることもできますし、全国各地、海外などに出向き、好きな場所で仕事をすることもできます。ワーク+バケーションの造語、ワーケーションは、フリーランスにとって活用したい働き方といえるでしょう。

収入を増やすことができる

会社員の場合、基本的には定額の給料と業績が良い場合のボーナスが年収となります。入社し退職まで働き続けるとして、大体の生涯年収は計算可能です。倒産、失業、転職などがなければ、計算から大幅に増えることも減ることもないでしょう。

一方、フリーランスの場合、仕事の成果と収入は直結しています。請ける案件の数を増やす、自分のスキルを磨き単価を上げるなどの方法で収入を増やすことは可能です。また、業種によっては初期投資が少ないものもあります。経費が少ない業種であれば、より利益を上げやすいでしょう。

フリーランスとして働く5つのデメリット

フリーランスとして働くメリットを見て「フリーランスって最高!」と思う人もいるかもしれません。もちろんメリットは実体験に基づく真実ではあるものの、同時にフリーランスのデメリットも存在します。

自己管理が難しい

まさに「フリーランスあるある」とも言えるのが、自己管理の難しさです。特にフリーランスとして働き始めた頃は「依頼された案件を断ってしまっては次がないかも」と、つい自分のキャパを超えて引き受けてしまいがち。

その結果、体調を崩したとしても、誰も責任を取ってくれません。仕事に対する責任感がないとマイナス評価を受け、仕事の依頼がなくなる可能性もあります。どの仕事をどれだけ請けるか、全ては自分の選択しだい。だからこそ自己管理能力が問われます。

収入が不安定になりがち

メリットでお伝えしたように、自分の努力や采配により収入が一気に増えることがある反面、取引先の都合や自分の稼働時間の減少により、一気に仕事が減り収入が減少するリスクもあります。

事業以外の細かな手続きが発生

フリーランスとして働く中で「仕事は得意だけど、経理や事務処理が苦手」という方とお話しする機会がありました。これも「フリーランスあるある」だと思います。自分の好きなことをメインに働くことはできますが、請求書の作成や確定申告など、細かな事務作業は想定以上に多いものです。苦手だからといってほったらかしにするのは絶対にNGです!

保険の負担が大きい

会社員の場合、厚生年金保険や健康保険は、会社と折半するため負担が少なくてすみます。一方、フリーランスの場合は、国民年金保険と国民健康保険への加入となり、全額自己負担です。確定申告の際には、控除されるものの、会社員からフリーランスの道を選んだ人にとっては、負担増の事実に驚くことでしょう。

開業当初は社会的信用が低い

クレジットカード、カーローン、住宅ローンなどを検討している人にとっては、厳しい現実ですが、開業当初のフリーランスの社会信用度は、かなり低めです。会社員=安定収入、フリーランス=収入が不安定とのイメージがあることや、未来の年収が想定しにくい点がデメリットとなります。

特にクレジットカードは、フリーランスとして働く前、会社員として勤務している間につくっておくことをおすすめします。同時に退職後には、勤務先変更をきちんとカード会社に届けましょう。

あなたはフリーランス向き?会社員向き?

フリーランスの働き方は、向き・不向きがあります。実際にフリーランスとして働く前に、自分の適性を考えてみてください。

フリーランスに向いている人の特徴

  • 自己管理が得意
  • オンとオフの切り替えがうまい
  • 好奇心旺盛

フリーランスは、仕事の内容や実働時間など、自由に決められることが多い反面、誰からも指示されることはありません。働いても良いし、働かなくても良い状況です。その状況下で、自分を律しつつ、仕事に向き合うことができる人、自己管理能力が高い人は、フリーランスに向いています。

また会社員に比べストレスが溜まりにくいとはいうものの、収入の不安定さやスケジュール管理を誤り納期が重なった場合などは、ストレスも溜まるもの。そういった場合や理不尽な取引先とのやりとりの後も、自分の機嫌をとり、気分を切り替えられる人は、向いています。

そして、フリーランスは自分から新しいことを学ばなければ、誰かが教えてくれるわけではありません。会社の研修のようなものは存在しないためです。仮に自宅から一歩も出ずに仕事ができる業種だとしても、外に出て他のフリーランスと話す、会社員と交流するなど、さまざまな情報を取り入れる努力が必要です。

「異業種交流会」に参加する、「コワーキングスペース」で作業し情報収集する、地元の商工会に入るなど方法はいろいろです。自分が参加してみたい、行ってみたいと思う場所を選びましょう。SNS上でのつながりをつくることも良いですが、リアルな場所での知人も増やしておくこともおすすめします。

フリーランスに向いていない人の特徴

  • 自己管理が苦手
  • 交渉が苦手
  • 本業以外の作業はしたくない

いうまでもなく、自己管理能力が低く、誰かに言われなければ動けない人やサボってしまう人はフリーランス向きではありません。また、自分の意見をはっきり述べることが苦手な人、交渉に対して苦手意識が高い人もあまりおすすめできません。

なぜならフリーランスとして働く以上、業務内容や価格、納期などの話し合いは、必須だからです。会社としての後ろ盾がない状況で、堂々と交渉しなければ、足元を見られてしまうこともあります。過剰に強気になる必要はありませんが、条件のすりあわせや確認は必須です。あいまいなまま話を進めてしまうと、お互いにとって好ましくない結果に終わりがちです。

またフリーランスとして働く場合、本業以外にも社会保険の加入手続きや見積書、請求書、領収書の作成、確定申告などやるべき作業が増えます。職種によっては営業や広告も自分でやることになるでしょう。こういった作業に強い苦手意識を持つ人も、あまり向いていないと考えられます。

自己管理や交渉が苦手でも会社員なら働けるというわけではありません。ただ、会社員であれば勤務時間が決まっています。交渉などのコミュニケーションが求められない部署もたくさんあります。フリーランスは好きなことだけできるということを鵜呑みにしてしまうと、辛い思いをしてしまうでしょう。

個人事業主として事業を始めるなら開業届を出そう

どのような働き方にもメリット・デメリットは存在します。その上で、自分にとって「どちらが働きやすいか」を考えることが重要です。

今回本記事で解説したデメリットに関しても、実はさまざまな対応方法があります。収入の不安定さを悩むならば、1社にだけ依存せず複数の取引先を見つけることが大切です。また、事務処理に苦手意識があるならば、会計ソフトを使うことでかなり負担を減らすことができます。

自分の技術やスキルを活かし個人事業主として、フリーランスの働き方を始めたいと思ったら、開業届を出し、動き出すことをおすすめします。

文・柚月朋子

フリーランスとしての経験やポイント投資からスタートした経験を活かし、年間200本以上の記事を執筆・監修。投資初心者にわかりやすい記事執筆が目標。