個人が事業を始める場合、おそらく最初に提出する書類が「開業届」でしょう。「費用はいくらかかる?」「開業にはどんな書類が必要?」など、お悩みの方も多いでしょう。開業届に関する疑問や開業届を出すメリット・デメリットまでわかりやすく解説します。個人事業主、フリーランス、副業など、開業届の提出を考えている方はぜひご確認ください。
「開業届」は0円で出せる!ただし提出時に注意点あり
結論から言うと、個人事業主の「開業届」にお金はかかりません。もちろん手数料も不要です。
国税庁のウェブサイト内「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」から、「個人事業の開業届出・廃業届出書」をダウンロードし、印刷した上で記入すればOKです。
とても簡単ですが、提出時に注意すべきポイントが3つあります。スムーズに開業届を提出するためにも、覚えておいてください。
1:郵送の場合「切手代」、持参の場合「交通費」が発生
開業届の提出方法は、次の3種類です。
- 管轄の税務署に郵送する
- 管轄の税務署に直接出向く
- e-Taxで提出する
郵送した場合は、送る際の切手代に加え、控え用の返信用封筒に貼るための切手代が必要です。
【ポイント】
住所・氏名を書き、切手を貼った控え用の返信用封筒と控え用の開業届を入れておかないと、開業届の控えを受け取ることができません。税務署からは「開業届を受け取りました」などの連絡はありませんので、注意しましょう。
また、開業届の控えは、さまざまな場面で役に立つため、必ずもらっておくようにしましょう。 もちろん、管轄の税務署に出向き、直接提出しても構いません。家から簡単に送りたいという場合は、e-Taxを使うのがおすすめです。
2:「配偶者の扶養」に入っている人は注意
もし、現在配偶者の扶養に入っている場合、開業届を出す前に考える必要があります。
扶養は、次の2種類に分けることができます。
- 健康保険上の扶養
- 所得税法上の扶養
今回、問題となる可能性があるのは「健康保険上の扶養」です。
一般的に、配偶者が会社員や公務員であり、自分の年間所得が130万円未満の場合は「扶養に入っている=健康保険料を支払う必要がない」という状態になります。
しかし、会社や組織により、個々にルールを設けている可能性があります。
(例)
- 年間所得に関係なく、個人事業主は扶養に入れない
- 年間所得が100万円未満(例)のみ扶養に入れる
社会保険の扶養に入れなくなると「国民健康保険料」「国民年金保険料」を自分で支払わなければなりません。開業届自体は無料で提出できますが、一定の利益が上がらない状態では、トータルで考えると大きくマイナスとなる可能性があります。
3:受給中の失業手当が受け取れなくなる
現在、会社を退職し失業手当(基本手当)を受け取っている場合も、開業届を出すタイミングに注意が必要です。そもそも、失業手当とは「失業状態」にある人が受け取れる手当です。
開業届を出し、個人事業主として事業を営んでいる状態は、失業状態にはあたりません。いくら開業したばかりで売上がゼロだとしても、黙って受給することは、不正受給につながります。
原則として次の条件に当てはまる方は、給付を受けることができません。
・自営を開始、または自営準備に専念する方(求職活動中に創業の準備・検討を行う方は支給可能な場合があります)
ハローワーク
・自分の名義で事業を営んでいる方
一方、起業に向けて情報収集をしている、起業するか就職するか悩んでいるといった状態であれば、手当を受給できる可能性はゼロではないでしょう。ただし、あくまで可能性であり、必ずしも受給できるわけではない点に注意してください。
ただ、条件を満たしている場合は、個人事業主も再就職手当を受け取れる可能性があります。
開業届と一緒に「青色申告承認申請書」も出せる
個人事業主として開業届を出す際に「所得税の青色申告承認申請書」を同時に出すことで、手間を省くことができます。
所得税の青色申告承認申請書には、開業届のような提出義務はありません。かんたんに言うと「確定申告の際に青色申告をします」と申し出るための書類です。
青色申告のメリット | 白色申告のメリット |
・青色申告特別控除(最大65万) ・家族への給与を経費にできる ・赤字の場合繰越ができる(最大3年) ・「家事按分」制度が使える | ・申請書の提出が扶養 ・記帳がカンタン |
青色申告のデメリット | 白色申告のデメリット |
・事前に申請書の提出が必要 ・複式簿記での記帳が必要 ・所得48万円以下でも確定申告が必要 | ・特別控除が受けられない ・赤字の3年間の繰越ができない |
例えば、2024年分の確定申告を青色申告で行いたい場合、2024年3月15日までに所管の税務署に「青色申告承認申請書」を提出しなければなりません。また、年度途中での開業の場合は、開業から2ヵ月以内の提出でOKです。
確定申告の時期が来てから、「青色申告の方がおトクだ」と気づいて慌てても、すでに締切は過ぎているため、青色申告ができるのは翌年からとなってしまいます。
青色申告、白色申告それぞれにメリット・デメリットがありますが、節税の面から見ると、青色申告のメリットは大きいものです。青色申告をするならば、開業届と一緒に「所得税の青色申告承認申請書」を提出することをおすすめします。
申請書は、国税庁の「所得税の青色申告承認申請手続」のページからダウンロードが可能です。
開業届を出す3つのメリット
開業届は、法律上、事業開始から1ヵ月以内に提出することが義務付けられています。しかし、あくまで義務であり守らなくても罰則はありません。そのため、メリット・デメリットを天秤にかけて選んでいる人が多いと考えられます。
ここではまず開業届を出すことによるメリットについて紹介します。
節税効果が高い
開業届を出すことで、確定申告時に青色申告が可能です。最大65万円の控除が受けられることや家族への給与を経費にできること、自宅兼事務所としている場合に「家事按分」制度を使い、事業分の家賃や光熱費を経費にできるなど、さまざまなメリットが得られます。
控除額が増えれば、翌年の健康保険税や住民税にも影響するため、大きな節税効果を実感できるでしょう。
赤字の繰越が可能
個人事業主として事業を始めたとしてもすぐに黒字になるとは限りません。また赤字と黒字を交互に繰り返すパターンもあります。開業届と「青色申告承認申請書」を提出することで、3年間の赤字繰越が可能となります。
社会的信用度が上がる
開業届を出すことで、屋号での事業用口座を開設することが可能となります。また、創業融資や補助金、助成金の申請などにおいて、開業届の控えの提出を求められるケースも多くあります。
開業届を出す3つのデメリット
開業届を出すデメリットについても見ておきましょう。
健康保険の扶養に入れない可能性がある
これまで自分で健康保険料を支払う必要がなかった人にとっては、開業届を出すことで、保険料の負担が増えることは大きなデメリットといえます。
ただし、各健康保険組合によってルールが異なるため、中には、個人事業主であっても所得額さえクリアしていれば扶養に入れるケースもあります。開業届を出す前に、あらかじめ確認することをおすすめします。
失業手当がストップする
現在、ハローワークに通い失業手当を受け取っている人の場合、開業届を出し、個人事業主として活動することで、失業手当の受給が終了します。失業状態ではなくなるため、当然のことですが、出すタイミングによってはデメリットと感じるでしょう。
基本的に毎年確定申告が必要
開業届を提出した後でも、赤字の場合は確定申告をする義務はありません。ただし、下記のようなさまざまな助成金や補助金を申請する際には、確定申告書や青色申告決算書の提出が求められるケースが多いです。そのため、基本的には毎年確定申告を行うことになります。
- 小規模事業者持続化補助金(一般型)
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
- IT導入補助金
- 事業復活支援金
- そのほか各都道府県や市区町村別の補助金・助成金
また、青色申告をおこなっている場合は、赤字であっても必ず確定申告が必要です。3年の赤字繰り越しもできるため、制度を活用しましょう。
【個人事業主の開業届】よくある質問
Q.開業届の控えは貰っておいた方がいい?
A.絶対に貰っておくことをおすすめします。開業届は提出して終わりではなく、補助金・支援金申請や事業用口座開設などさまざまな場面で使う機会があります。
Q.郵便で開業届を送るときの注意点は?
A.控え用の返信用封筒&切手を同封すること。また普通郵便で送ると、届いたかどうかが確認できないため、レターパックや簡易書留など追跡可能な方法で送りましょう!
Q.開業届の控えを無くした!再発行できる?
A.はい、所轄の税務署に行き「保有個人情報開示請求書」を提出することで、開業届の「写し」を交付してもらえます。ただし、手数料300円がかかること、即日交付されないことに注意が必要です。
Q.開業と同時に人を雇用する予定。他に提出すべき書類は?
A.「給与支払事務所等の開設届出書」の提出が必要です。家族を雇用する場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」も提出してください。
個人事業主の開業届まとめ
個人が新しく事業を始める際に、税務署に提出する「開業届」。開業届の提出は義務であり、事業開始から1ヵ月以内に届けることが基本です。
ただ、何をもって事業を開始したと言うかは人によりさまざまです。最初は副業の気持ちで始めたことに対して、どこかのタイミングで本業としてやっていこうと決めた日=事業開始日とすることもできます。
- 開業届は0円で提出できる
- ただし、控えを紛失した場合の「写し」の交付には300円必要
- 青色申告を考えているなら、開業届と同時に「所得税の青色申告承認申請手続」を提出
- 事業口座の開設や事業資金の融資、給付金の受給など開業届の控えが必要な場面は意外と多い
開業届を提出しなくても、罰則はありません。ただ、事業を開始する以上は、開業届をきちんと提出するべきと考えます。本記事を参考に、開業届を正しく提出してくださいね。
文・柚月朋子
フリーランスとしての経験やポイント投資からスタートした経験を活かし、年間200本以上の記事を執筆・監修。投資初心者にわかりやすい記事執筆が目標。