創業・起業

個人事業主で開業届を出してないとどうなる?出す?出さない?正解はどっち?

「開業届を出さなくても開業できる?」「開業届は出さないほうがメリットを得られるってホント?」など、個人事業主の開業届に対する素朴な疑問に全てお答えします!開業届を出さないデメリット、出すデメリット、開業届の書類入手方法や提出方法までこの記事を読めば全て納得です。

開業届を出さなくても開業できる?

結論から言いますと、開業届を出さなくても事業を始める(開業する)ことは可能です。

ただし、所得税法では、事業所得、不動産所得、山林所得を生じる事業開始から1ヵ月以内に開業届を出すことを義務付けられています。つまり「開業届を出す?出さない?」という選択肢があるわけではなく、開業届の提出は義務です。

しかし、開業届を出していないからといって罰則が生じることはなく、基本的に税務署から催促されることはありません。

また、大変細かなことですが実は「個人事業主」と名乗るためには、開業届の提出が必須条件です。

個人事業主は「税法上の区分」の一種のため、何年事業を営み、利益を上げていたとしても、開業届を出していなければ「個人事業主」の区分には入りません。一方、フリーランスは、個人として仕事を請け負う働き方の一種を表す言葉です。開業届の提出有無は関係なく、名乗ることが可能です。

「個人事業主」「フリーランス」の言葉の違いやそれぞれのメリット・デメリットにつきましては、下記リンク先にてより詳しく解説しています。

開業届を出さないデメリット

開業届を出さなくても、開業自体は可能です。では、出さないことに対し、どのようなデメリットがあるのでしょうか。

おトクな青色申告ができない

開業し、事業所得を得ると確定申告が必要です。この確定申告は、大きく「青色申告」「白色申告」の2種類に分けることができます。

「青色申告はトク」だと聞いたことがある人もいるでしょう。

おトクと言われる理由は次の4点です。

  1. 青色申告特別控除で最大65万円が控除できる
  2. 家族に支払う給与(専従者給与)も経費にできる
  3. 3年間赤字を繰り越せる
  4. 家事按分の制度が活用できる

注意したいのは「青色申告=65万円控除」ではない点です。条件により控除額が異なります。

 控除額
e-Taxによる申告(電子申告)または電子帳簿保存65万円
電子申告や電子帳簿保存を行わない場合55万円
簡易(単式)簿記での取引記録保存10万円

専従者給与の上限

青色申告白色申告
上限なし上限あり

※専従者給与の制度を利用したい場合、その年の3月15日までに、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。

赤字の繰越ができるメリットは、赤字から黒字に転換した年の所得税を軽減できる点です。

 青色申告白色申告
1年目赤字200万円赤字200万円
2年目黒字500万円黒字500万円
2年目の事業所得300万円500万円

赤字の繰越ができない白色申告の場合、2年目の事業所得は500万円として計算されます。一方、青色申告の場合、繰越できるため500万円から前年度の赤字分200万円を引き、300万円として事業所得を計算します。

※実際にはさまざまな控除があるため、厳密には計算方法が異なりますが、基本的な考え方としてご理解ください。

また、店舗や事務所を持たない個人事業主、フリーランスの場合、自宅を仕事場とするケースも多いのではないでしょうか。こういった場合、家賃や電気代に関しても、一部は、仕事で使っていることになります。

青色申告の「家事按分」制度を使うことで、事業として使用した分を「必要経費」として計上することが可能です。白色申告の場合でも、家事按分の制度を使うこと自体は可能です。ただし、業務に関連する割合50%以上または明らかに区分できるなどのルールを満たす必要がある点から、法令上は青色申告の方がスムーズに制度を使えるといえます。

【注意】
青色申告をするためには、事前に税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。開業届を提出していない場合「青色申告承認申請書」が提出できません。

ビジネス口座・屋号での口座開設ができない

引用:楽天銀行

事業を営む上で、できる限りプライベート口座と事業用口座はわけておきたいものです。屋号での口座開設が可能なケースや、個人事業主向けのビジネス口座を開設できるケースも増えてきました。

口座開設は、事業規模関係なく開業したばかりでも可能です。ただし、申込時には、一般的に開業届の控え(受付印のあるもの)を求められます。開業届=事業を営んでいる証拠として使われるケースが多いです。

開業直後、小規模企業共済に入れない

「小規模企業共済」とは、簡単にいいますと、個人事業主や小さな規模の会社の役員のための退職金・廃業時の生活資金の積立です。

個人事業主が「小規模企業共済」に加入する際には、確定申告書の控えが必要です。しかし、事業を始めた時点では、確定申告書を用意することはできません。

確定申告書の控えの代わりに使えるのが、開業届の控えです。小規模企業共済への加入は義務ではないものの、次のようなメリットがあります。

  • 事業の廃業・退職時に積立金を退職金として受け取れる
  • 掛金は月額1,000~70,000円(500円単位)の範囲内で自由に設定可能
  • 掛金全額が所得控除になる
  • 12ヵ月以上積み立てた場合、任意解約でなければ元本割れしない
  • 自分の掛け金の範囲で貸付が受けられる(無担保・保証人不要)

補助金・助成金などの申請問題

東京都中小企業振興公社「創業助成金」をはじめ、事業開始準備中や事業開始から5年以内の事業者に対し、資金面での補助・助成制度があります。開業日の提示を求められるケースが多い中、開業届の控えは最もわかりやすい公的書類といえます。

例えば、2024年5月31日締め切りの事業復活支援金の特例申請であれば、開業届の提出日(受付印の日付)で第一段階のチェックが入ります。ただ、開業届を出していない場合も、事業開始等申告書や役所発行の開業に関する証明書などで代用することは可能です。飲食店営業許可証、古物商許可証などは、公的証明書として役立ちそうですが、こういったものがない人もいることでしょう。

開業届を出す=事業を営んでいる証拠です。提出していなければ、受け取れない補助金・助成金もあることを知っておきましょう。

開業届を出すデメリット

開業届を出さないデメリットがある一方、出すことによるデメリットもあります。

記帳・帳簿保存義務

個人事業主には、記帳の義務、帳簿の保存義務が発生します。「青色申告じゃないから、関係ない」なんてことはありません。

2014年1月より、事業や不動産貸付等を行う全ての方は、白色申告の場合も、記帳と帳簿書類の保存が義務化されています。取引ごとではなく1日分をまとめて記載する簡易な記帳方法で構わないとはいうものの、手間がかかると感じる方もいるかもしれません。また、帳簿や書類には5年間の保存義務があるため注意してください。

失業手当がもらえない

失業保険の受給資格があり、現在失業手当を受け取っている人、受給を予定している人は、開業届を提出することにより、受給資格がなくなる点に注意が必要です。

そもそも、失業保険は「失業の状態」でなければ受給することができません。

失業の状態とは、次の条件を満たすものをいいます。

  • 再就職の意思がある
  • いつでも就職できる健康状態、環境である
  • 積極的に仕事を探している(求職活動中)である

開業届を出す=個人事業主として事業を営むということですから、失業状態ではなくなります。「バレないだろうから、失業手当を最後まで受け取っておこう」などと考えるのはやめてください。不正受給となり、支給停止、返還命令、受け取った手当の最大2倍の納付命令などの処分を受けることになります。

健康保険の扶養に入れない可能性

現在、家族や配偶者の社会保険の扶養に入っている人の場合、開業届を出し、個人事業主となることで扶養から外れる可能性があります。健康保険料の負担が増えるため、大きなデメリットといえるでしょう。

ただ、各健康保険組合によって個人事業者の扱いのルールは異なっています。所得額によって、扶養のままでい続けられるケースもあるため、開業届を出す前にあらかじめ加入先の健康保険組合に確認することをおすすめします。

開業届を出してなくてもOKな具体例

「起業したけれど、まだ売上も少ないし開業届を出す必要はないのでは?」と思っている方もいることでしょう。開業届を出すかどうかは、売上や利益で決めるものではありません。

ポイントは、継続して収入を得ているかどうか(事業であるかどうか)です。

例えば次のような場合は、開業届を出す必要はないでしょう。

  • フリマアプリで子どもが着なくなった服を販売している
  • ネットオークションで自宅の不用品を時々販売している
  • 年に数回ほど、友人に頼まれてイラストを描いている
  • 本業に給与所得があり、あくまで副業(年間20万円以内)としたい

継続性がない、事業性がないケースや、副業として行いたいケースの場合、雑収入として申告することになります。

ただ、現在は継続性・事業性がないが「古物商の許可をとり、ネットショップで古道具を販売したい」「イラストの仕事に力を入れ、案件を増やしていきたい」などのケースであれば、事業として行う見込みがたった段階で開業届を出す方法もあります。

開業届の入手方法と提出方法

それでは開業届の提出に向け、準備を進めていきましょう。

開業届の入手先は、国税庁のウェブサイトです。ダウンロードと印刷が難しい場合は、管轄の税務署に取りに行っても構いません。不明点があれば、その場で質問しても良いでしょう。

国税庁 [手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続

また、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を使って開業届を作成・提出することも可能です。ただし本記事では、紙媒体の開業届を手に入れた前提で、説明しておきます。

提出先と日付提出先→提出先(納税地管轄)の税務署名 日付→提出日
納税地自宅または事務所の住所を記載 納税地=住所が基本です
上記以外の住所地・事業所等別に事務所を構える場合などは記入
氏名・生年月日自分の名前と生年月日を記入
個人番号マイナンバーカードや通知カードを確認
職業事業内容に基づく職業を記入
屋号屋号不要の場合(個人名のままで活動するなど)は、空欄のままでOK
届出の区分新規事業の場合は「開業」に○
所得の種類家賃収入など不動産から所得を得る場合は「不動産所得」、山林から所得を得る場合は「山林所得」、そのほかは「事業(農業)所得」に○
開業・廃業等日開業日を記入
事業所等を新増設、移転、廃止した場合新規開業の場合は、空欄のままでOK
廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合新規開業の場合は、空欄のままでOK
開業・廃業に伴う届出書の提出の有無開業届と共に「青色申告承認申請書」「課税事業者選択届出書」を提出する場合は「有」、提出しない場合は「無」を選択
事業の概要具体的な事業内容を記入
給与等の支払いの状況従業員を雇用する場合のみ記入 専従者→家族従業員 使用人→家族以外の従業員
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無給与を支払う人が、常時10人未満の場合、源泉所得税の支払いを通常の毎月10日から、年に2回まとめての支払いに変更可能 まとめて納付を希望する申請書を提出する場合は「有」を選択
給与支払を開始する年月日従業員への給与支払いを始める年月日を記入
関与税理士顧問弁護士がいない場合は空欄でOK

Q.電話番号は固定電話じゃないとダメ?

A.開業届に書く電話番号は、固定電話、携帯電話どちらでも問題ありません。私自身、携帯電話を記入し提出しましたが、特に何も言われませんでした。

Q.屋号はすぐに決めなきゃダメ?

A.開業届提出時点で屋号を決めていない場合は、空白でOKです。その後、屋号を決定したら確定申告提出の際に屋号を書きましょう。改めて開業届を出す必要はありません。

「個人事業税」の税率にも関わる職業の欄

開業届では、職業や事業内容を書く欄があります。ここで書いた内容と確定申告の書類の欄は、一致させるようにしておきましょう。

事業内容は「個人事業税」に関わる重要なものです。個人事業税とは、個人が営む事業のうち、地方税法等で定められた70の業種に対してかかる税金を意味しています。

下記は、事業税の一例です。事業内容により税率は3〜5%と異なることがお分かりいただけることでしょう。

区分税率事業の種類(一部)
第1種事業5%物品販売業、製造業、飲食店業など
第2種事業4%畜産業、水産業、薪炭製造業
第3種事業5%医業、コンサルタント業、デザイン業など
第3種事業3%あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復 その他の医業に類する事業など

できるだけ税率を下げたいのはやまやまですが、実態に基づく内容を書くようにしましょう。

開業届の記入を終えたらあとは提出するのみです。お疲れさまでした!

管轄の税務署に郵送または持参します。税務署の受付時間は、8時半〜17時までですが、閉庁日や受付時間外は「時間外収受箱」に投函することができます。

郵送の場合は、国税庁のwebサイト内「番号制度に係る税務署への申請書等の提出に当たってのお願い」を参考に「本人確認書類(写)添付台紙」をダウンロードした上で添付すると、書類の添付し忘れを防ぐことができます。

個人事業主の開業届に関するまとめ

個人事業主と名乗るためには、開業届の提出が必要です。開業届は、事業を営んでいることを証明できる公的な書類の一種です。開業届を出していないことによるデメリットを理解した上で、まだ出していない方は、税務署に行くようにしましょう。

文・柚月朋子

フリーランスとしての経験やポイント投資からスタートした経験を活かし、年間200本以上の記事を執筆・監修。投資初心者にわかりやすい記事執筆が目標。