国や地方公共団体(民間の団体で行っている場合もあり)は、企業の課題や困りごとの解決を目的として、数多くの補助金・助成金制度を設けています。
補助金・助成金は、金融機関からの借入れとは違い、一旦給付を受ければ返済する義務はありません。これが、最大のメリットです。しかし、財源は税金や雇用保険料、国や地方公共団体等からの資金になるため、無暗に支給するという訳にも行きません。そこで、応募してきた申請者を、色々な方法でふるいにかける訳ですが、補助金と助成金とでは、程度が異なります。
今回は、「ものづくり補助金」(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)に的を絞り、最大の関門とも呼べる採択について考察します。
ものづくり補助金における「採択」とは?
ものづくり補助金の給付を受けるには、採択を受けることが必須となりますが、これはどのようなものでしょうか。
- 給付を受けるには審査が必要
助成金は、予め決められている要件を満たしていれば、誰にでも支給される可能性が高くなります。これに対して補助金は、補助金額が高額で、支給範囲も広範囲に及ぶため、審査の基準は高く設定されています。この審査を、「採択」と呼びます。
補助金と助成金とでは、元々、明確な違いはありません。ただ、あえて一点だけ、大きな相違点があるとしたら、助成金は申請した企業が一定の形式を満たしていれば、貰えるお金であるのに対し、補助金は補助対象者かを厳しく審査され、申請した企業の中から特に資金が必要と認められたところにのみ支給される、という点でしょう。
つまり、助成金は、申請書の形式要件が事前に定められた内容に合致していれば、審査はクリアしたことになります。これに対して補助金は、形式要件の審査に加えて、提案の中身が審査対象となります。実際には、申請時に提出する「事業計画」の内容が吟味される訳です。
- 審査委員の構成と審査基準を知る
補助金の申請を行う場合、事業計画等を記載した申請書類を提出する必要があります。応募された提案を、採択するか否かの判断は、有識者等で構成されている審査委員に委ねられています。審査委員は一般的に、外部の識者で構成されていますが、どのような属性の審査委員がいるのかについては、管轄省庁が発表する審査結果の公表にて確認することが可能です。
審査委員は、ある一定の分野においては、最高の知識と経験を備えたエキスパートではあります。ただ、それ以外の分野にはさほど詳しくないといった場合もあるようです。これに比べて申請者は、長年、特定の分野に携わり、深い知識と経験を有している人たちです。採択を受けようとするあまり、専門用語を駆使して難解な申請書を提出する人もいます。
しかし、採択を目指すのであれば、図版や表などを駆使して一目で分かりやすい申請書を作ることが推奨されます。補助金の申請の場合、1回の募集に対し、数千件の応募になることも少なくありません。1通の申請書を読み込む時間はないといってもよいため、分かりやすい申請書で応募することが採択への近道といえます。
次に、申請書類を審査する上での、主な判断基準についても確認しておきましょう。「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領」※1を見ると、事業計画が、技術面、事業化面、政策面の3つの側面から判断されることが分かります。
・技術面
- 新製品・サービス(既存技術の転用、あるいは隠れた価値の発掘)の革新的な開発となっているか。グローバル展開型では、地域内での革新性だけではなく、国際競争力を有しているか。
- 試作品・サービスモデル等の開発における課題が、明確になっており、補助事業の目標に対する達成度の考え方を明白に設定しているか。
- 課題の解決方法が明確及び妥当で、優位性が見込まれるか。
- 補助事業実施のための、技術的能力が備わっているか。
・事業化面
- 地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等や雇用に対する経済的波及効果を及ぼすことで、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。また、金融機関からの十分な資金の調達が見込まれるか。グローバル展開型では、海外展開に必要な実施体制や、計画が明記されているか。
- 事業化するにあたり、市場ニーズを意識し、補助事業の成果の事業化が寄与する消費者、市場及びマーケットが明確か。
- 補助事業の成果が、性能的・価格的に収益性や優位性を持ち、事業化に至るまでのスケジュール、遂行方法が明白か。
- 補助事業として、費用対効果が高いか。
・政策面
- 地域の特性を活かし、高い付加価値を生みだして、地域の事業者等や雇用に対する経済的波及効果を及ぼすことにより、地域の経済成長を牽引する事業となることを期待できるか。グローバル展開型では、事業の成果及び波及効果が、国内に還流することが見込まれるか。
- ニッチ分野において、マーケティングを駆使し、オリジナル性のある製品・サービス、高度な品質管理により差別化を行い、グローバル市場においても、トップを勝ち取る潜在性を有するか。
- 異なるサービスを提供する事業者が、共通のプラットフォームを構築し、サービスを提供する場合、単独では解決できない課題に対し、複数の事業者が連携して取り組むことで、生産性の向上が期待できるか。異なる強みを持つ企業等(大学等を含む)が、共同体を構成して製品開発を行うなど、経済的波及効果が期待できるか。
- 先端的なデジタル技術及び低炭素技術、経済社会にとり重要な技術の活用、環境に配慮した事業の実施、新たなビジネスモデルの構築等を通じ、日本のイノベーションを牽引できるか。
- [低感染リスク型ビジネス枠のみ]新型コロナの感染拡大を抑え、同時に経済の回復を図り、ウィズコロナ・ポストコロナに向けた経済構造の転換、好循環を実現させるため、有効な投資内容となっているか。
※ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(14次締切分)
公募から採択までのスケジュール
ものづくり補助金の申請における、公募から採択までの流れを把握しておきましょう。
補助金の公募
支給機関のサイトに記載されています、募集期間は2カ月前後ですので、気になるのであれば常にチェックしておきましょう。
申請書類の作成・提出
申請書類の作成は、補助金の応募において、要ともいえる作業です。先にも触れたように、審査委員は限られた時間に大量の書類に目を通さねばなりません。従って申請書も、分かりやすい表現で、補助事業のアピールポイントを明確に記載した内容であることが望まれます。
なお、申請は、電子申請システムのみで受け付けています。
書類審査
実際には、提案された事業計画について、厳格な審査が行われます。
採択の決定
申請者全員に対して、事務局から採択・不採択の結果が通知されます。
補助金申請の前に採択率を把握しておこう
助成金とは違い、厳正な審査や短い申請期間など、色々な制約がある補助金ですが、支給金の高額さや対象範囲の広さを考えると、やはり利用したいところです。
では、どれほどの「狭き門」なのでしょうか。それを把握するには、過去に実施された補助金事業の、実際の採択率を調べるのが近道です。ここでは、ものづくり補助金の採択率を取り上げます。
「ものづくり補助金総合サイト」※2では、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金について、過去に実施した補助金の採択結果を公表しています。
第1次締切 応募者数:2,287人 採択者数:1,429人 採択率:62.4%
第2次締切 応募者数:5,721人 採択者数:3,267人 採択率:57.1%
第3次締切 応募者数:6,923人 採択者数:2,637人 採択率;38.0%
第4次締切 [一般型]応募者数:10,041人 採択者数:3,132人 採択率:31.1%
[グローバル展開型]応募者数:271人 採択者数:46人 採択率:16.9%
第5次締切 [一般型]応募者数:5,139人 採択者数:2,291人 採択率:44.5%
[グローバル展開型]応募者数:160人 採択者数:46人 採択率:28.7%
第6次締切 [一般型]応募者数:4,875人 採択者数:2,326人 採択率:47.7%
[グローバル展開型]応募者数:105人 採択者数:36人 採択率:34.2%
第7次締切 [一般型]応募者数:5,414人 採択者数:2,729人 採択率:50.4%
[グローバル展開型]応募者数:93人 採択者数:39人 採択率:41.9%
第8次締切 [一般型]応募者数:4,584人 採択者数:2,753人 採択率:60.0%
[グローバル展開型]応募者数:69人 採択者数:27人 採択率:39.1%
第9次締切 [一般型]応募者数:3,552人 採択者数:2,223人 採択率:62.5%
[グローバル展開型]応募者数:61人 採択者数:24人 採択率:39.3%
第10次締切 [一般型]応募者数:4,224人 採択者数:2,584人 採択率:61.0%
[グローバル展開型]応募者数:70人 採択者数:28人 採択率:40.0%
第11次締切 [一般型]応募者数:4,668人 採択者数:2,786人 採択率:59.7%
[グローバル展開型]応募者数:76人 採択者数:31人 採択率:40.8%
第12次締切 [一般型]応募者数:3,200人 採択者数:1,885人 採択率:58.9%
[グローバル展開型]応募者数:56人 採択者数:22人 採択率:39.3%
ものづくり補助金の採択を受けるポイント
ここまでお読みになった事業者の中には、「何か採択されやすいポイントはあるのか」と思われる方は多いのではないでしょうか。審査は、提出された事業計画書の内容について行われます。ものづくり補助金という施策の主眼である、企業の志向する補助事業の革新性が問われる訳です。この判断は、先に触れた審査基準に沿って行われるのですが、採択を左右する要因は、それだけではありません。
1 加点項目を積み上げる
ものづくり補助金の審査では、経営計画を主体とした申請書の内容が吟味されるのですが、ほかにも「加点項目」というものがあり、これをいかに効率よく獲得するかによって、審査結果は大きく異なります。
公募要領で定められている加点項目は、以下の通りです。
成長性加点
有効な期間の経営革新計画の承認を取得した事業者であること。ここでいう経営革新計画とは、経営の向上を図ることを目的して、新事業に取り組む中小企業が策定する、中長期的な経営計画書を指します。
政策加点
創業・第二創業後間もない事業であること。(5年以内)
災害等加点
有効な期間の事業継続力強化計画の認定を取得した事業者であること。事業継続力強化計画とは、中小企業が自社の災害リスクを認識して防災対策に取り組むため、必要な項目を網羅し、将来的に行う防災対策を記載したものです。経済産業大臣が認定を行い、認定を受けた中小企業は、防災・災害設備に対する税制優遇、低利融資及び、補助金の優先採択等を受けることができます。
賃上げ加点等
①事業計画期間内に、給与支給総額を年率平均2%以上増加させ、事業場内最低賃金を、地域別最低賃金+60円以上の水準にする計画を持ち、従業員に表明している事業者。あるいは、事業計画期間において、給与支給増額を年率平均3%以上増加させ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+90円以上の水準にする計画を有し、そのことを従業員に表明している事業者であること。
②被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業が、制度改革に先立ち、任意に適用に取り組む場合。
2 客観的な数字を多用する
事業内容や効果を示す際、なるべく客観的な数字を用いて説明するようにしましょう。例えば、「この設備を導入すれば、売上が上がります」と書いただけでは、なぜ売上が上がるのか、どの程度上がるのかがはっきりしません。それよりも、「この設備を導入すれば、作業者の負担を軽減させ、生産性を15倍に引き上げ、売上を現状の3倍に向上させることが可能です」と記載した方が、説得力が増します。
3 グラフや図を併用する
申請書を作成するにあたり、文章だけではなく、グラフや図を利用することも、よい審査結果を得るポイントの一つです。事業内容は、文章だけで説明されるよりも、グラフや図の視覚的な効果を借りることで、読み手の理解の助けとなるでしょう。
まとめ:補助金申請は狭き門だが、外部のプロの手を借りれば近道もある
採択を決めるのは、主に事業計画の内容次第ということになりますが、ほかにも採択を獲得する上でのポイントはいくつかあります。しかし、それらをクリアしてもなお、補助金申請は狭き門と言わざるを得ません。専属の要員を確保できれば良いのですが、個人事業主及び小規模事業者では、それだけに限られたリソースを割くことは難しいかも知れません。もし自社内で補助金申請業務が難しいというのであれば、ある程度の金銭コストはかかりますが、外部のプロの手を借りるという選択肢もあります。