まん延防止等重点措置が解除されて2ヶ月が経ちました。この5月は3年ぶりに何の縛りもないゴールデンウィークを楽しまれた方も多いでしょう。いっぽうでテレワーク(リモートワーク)をやめて原則出社に切り替える企業も現れ始めました。この2年ですっかり世の中に定着したテレワーク。出社か、テレワーク継続か、あなたの会社はどちらでしょう?
テレワークは終わり?世間をざわつかせたホンダショック
仕事はテレワークが当たり前。満員電車に揺られて通勤することはなくなったし、早起きの必要もなくなった。パソコン1台あれば仕事はできるし、嫌な上司との接触も最低限で済む。朝起きたばかりのノーメイクでも、無精髭が生えていても、テレワークでマスクをしていればどうにかしのげる。
その他、数え上げたらキリがないほどメリットだらけのテレワーク。もう以前のような日々には戻ることはできない。だいいち、戻るにもテレワーク用のスペースを確保するのに会社から遠く離れた場所に引っ越してしまったし、いまさら毎日出社なんて無理無理、マジ無理。
こんなふうに思っている人は少なくないでしょう。そこへ衝撃的なニュースが飛び込んできました。
二輪・四輪メーカー大手のホンダ(本田技研工業)が、国内の全部署で原則出社を決めたのです。テレワークではなく、コロナ禍以前のように社員は職場に出社。つまり、会社に通勤せよというのです。
メディアの反応は早く、東洋経済オンライン、日本経済新聞などがこのニュースを報じました。両紙によると、ホンダは本社部門、研究所などに勤務している従業員はすべて原則出社を義務づけるといいます。この方針はすでに5月上旬に国内の従業員全員に通達していて、実際には各部署の状況や条件に応じて段階的にテレワークから出社へと運用を切り替えていくとのことです。
なぜホンダは、一見、時代に逆行するような「出社」を社員に課すのでしょう。
そこには「変革期を勝ち抜くため」という切実な理由があります。同社は現在、EV(電気自動車)の開発に全社を挙げて取り組んでいます。現状では海外勢に比べて遅れをとっているEVですが、ホンダはそれを一気に巻き返そうとしています。
変革を勝ち抜くには、社員が一丸となって目標に突き進む必要があります。そのために同社では創業者である本田宗一郎氏の時代から唱えてきた企業理念である「三現(現場・現実・現物)主義」に立ち戻ることにしました。
会社の成長の中心にあった「三現主義」で物事の本質を考える。さらなる進化を生み出すため、そして事業を円滑に推進するために、社員同士がリアルに対面する働き方を選択する、というのです。
実はホンダでは2024年末時点で、すでに出社を基本とする業務ルールを設計していたといいます。アフターコロナを見据えての措置だったのでしょう。現場を大切にする同社らしい施策といえますが、ニュースにふれて「くるべきものがきた」と感じた人も多いのではないでしょうか。
テレワークは継続派が圧倒多数
現在、テレワークは対面式の業態である飲食業や宿泊業、生活関連サービス業、娯楽業などを除くほとんどの業種で「働き方」の主流となっています。まん延防止等重点措置の解除を挟んだ3~4月に実施された民間の調査でも8~9割の企業が継続する予定だといいます。
もっとも、なかには時期を見てホンダのように出社へと切り替えていく会社も出てくるかもしれません。テレワークに馴染んでしまった身としては、それを考えると気分が滅入ってしまいます。
会社員なのだから出社は当然。いまだって必要とあらば出社は厭わない。だけど、テレワークのメリットを知ってしまったいま、そうした選択肢も残してほしい。おおかたの人はこんんな気持ちではないでしょうか。
もちろん、テレワークには課題もあります。多くの企業が課題として挙げているのは「コミュニケーション不足」。同一職場内で、部署間で、社外で、取引先との間でコミュニケーションが不足しているため業務やサービスの質が落ちてしまった。あるいは雑談などの機会が減ったため、精神面で不安定になる社員が出てきたなど、「コミュニケーション不足」が引き起こす問題に悩む企業は少なくありません。
他にも、オンオフの切り替えがうまくできずに残業時間が増えてしまった、ITリテラシーのある人とない人とで業務の効率に差が出てきた、利便性が向上して出社していた頃に比べて逆に会議や打ち合わせが増えてしまった、など、便利で自由度が高いだけに持ち上がってくる課題も多いようです。
とはいえ、全体的に見ればテレワークはメリットがデメリットを上回っています。この2年間、試行錯誤を続けるうちに業務の効率化が実現した企業は多く、さまざま面で経費も削減されました。社員一人一人のワークライフバランスも充実したものとなっています。
同時に、コロナ禍以前から推進が叫ばれていた企業のDXもテレワークによって進んでいる印象です。
なによりも忘れてはならないのは、テレワークによって、新型コロナウイルスの感染拡大が防止できている、という点です。
現状、コロナ禍は「落ち着いている」だけで収束したわけではありません。5月27日現在で全国の感染者数は2万7549人(1位の東京は2630人)。感染者はいまも毎日増えています。この一点だけ見ても、テレワークは継続した方がいいといえるでしょう。
テレワークについて日本政府の方針は?
それでは、政府はテレワークについてなんと言っているでしょうか?
内閣府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」が作成した最新(令和4年5月23日変更)の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を見てみました。そこにはこう書いてあります。(※以下引用)
4)職場への出勤等(都道府県から事業者への働きかけ)
(中略)
② 特定都道府県は、事業者に対して、上記①に加え、以下の取組を行うよう働きかけを行うものとする。
・ 職場への出勤について、人の流れを抑制する観点から、出勤者数の削減の目標を定め、在宅勤務(テレワーク)の活用や休暇取得の促進等の取組を推進すること。
・ 職場に出勤する場合でも、時差出勤、自転車通勤等の人との接触を提言する取組を強力に推進すること。
・ 職場においては「感染リスクが高まる「5つの場面」」を避ける行動を徹底するよう、実践例も活用しながら促すこと。
(中略)
③ 重点措置区域である都道府県においては、事業者に対して、上記①に加え、以下の取組を行うよう働きかけを行うものとする。
・ 人の流れを抑制する観点から、在宅勤務(テレワーク)の活用や休暇取得の促進等により、出勤者数の削減の取組を推進するとともに、接触機会の低減に向け、職場に出勤する場合でも時差出勤、自転車通勤等を強力に推進すること。
④ 緊急事態措置区域及び重点措置区域以外の都道府県においては、事業者に対して、上記①に加え、以下の取組を行うよう働きかけを行うものとする。
・ 在宅勤務(テレワーク)、時差出勤、自転車通勤等、人との接触を低減する取組を推進すること。
(政府等の取組)
⑤ 政府及び地方公共団体は、在宅勤務(テレワーク)、ローテーション勤務、時差出勤、自転車通勤等、人との接触を低減する取組を自ら進めるとともに、事業者に対して必要な支援等を行う。
⑥ 政府は、上記①、②、③及び④に示された感染防止のための取組等を働きかけるため、特に留意すべき事項を提示し、事業場への訪問等事業者と接する機会等を捉え、事業者自らが当該事項の遵守状況を確認するよう促す。また、遵守している事業者に、対策実施を宣言させるなど、感染防止のための取組が勧奨されるよう促す。さらに、経済団体に対し、在宅勤務(テレワーク)の活用等による出勤者数の削減の実施状況を各事業者が自ら積極的に公表し、取組を促進するよう要請するとともに、公表された情報の幅広い周知について、関連する事業者と連携して取り組む。
上記に明記されているように、政府はテレワークを勧奨、推進していることがわかります。
テレワークは国のお墨付きがついた働き方だということです。
テレワーク、若い世代の声は?
話をホンダに戻すと、社内には原則出社に戻すことで、新卒採用で応募してくる学生が減るのでないかと危惧する声もあるようです。
確かに「どうせ就職するならテレワークで仕事ができる企業がいい」と考える就活生は多そうです。
株式会社DYMが3月に行った就活生の意識調査では、「入社する際に重視する項目」で「テレワーク、リモートワークなど場所に縛られない働き方」がトップとなっています。大学の授業などでリモートでの作業に慣れた学生にとって、いまどきテレワークのない企業への就職など考えられないのかもしれません。
いっぽう、ソニー生命が20~29歳の社会人の男女に対して行った「社会人1年目と2年目の意識調査」では、「完全出社」と「完全テレワーク」のどちらを希望するかといった質問に対し、「完全テレワーク」と答えた人は全体の54.9%、「完全出社」と答えた人は45.1%という結果が出ています。ほとんどが「完全テレワーク」かと思いきや、「完全出社」派も半数近くいるというのは興味深い結果です。もしかしたら、回答者のなかには出社しなければ業務が成り立たない職場に勤めている人も多いのかもしれません。
ただ、これを社会人2年目で「テレワーク経験あり」の人に絞ってみると、「完全テレワーク」は60.8%で、「完全出社」は39.2%と差が開き始めます。
また「居住地域制限がないテレワーク」については賛成が77.2%と、これはテレワーク派が8割近くを占めています。
以上の結果から窺えるのは、若い世代の人もテレワークを希望しているということです。
「完全テレワーク」と言いきられてしまうと、ちょっとどうかなと立ち止まってしまうけれど、テレワーク中心で、必要なときには出社するというスタイルだったらやってみたい。とくに新人のうちは経験不足だから、出社して上司や先輩に直接指導してもらいたい。自分が就活生だったらこんなふうに考えるかもしれません。
テレワークで公私ともにハッピーに
言うまでもなく、コロナ禍のいまはたいへんな時代です。感染された方、不幸にして亡くなられた方にとっては「最悪」と言っていいかもしれない状況です。
ただ、それによって起きたテレワークなどの働き方の変革は、実のところ多くの人にこれまでになかった幸せをもたらしているのではないか。そう感じもします。
テレワークのおかげで家族と過ごせる時間が増えた。家事や趣味に費やせる時間が増えた。不得手だったデジタルに詳しくなった。空いた時間で副業を始めた。自然の豊かな場所に引っ越すことができた。他にもあれやこれや、テレワークの恩恵に授かった人はかなりの数にのぼるはずです。
企業や経営者によって考え方はさまざまです。それは認めたうえで、やはりテレワークは推進、継続してほしいし、すべきではないか。筆者はそう考えています。
文・中野渡淳一
文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線及び最新トレンドの記事を中心に執筆。