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独立・開業で人気の焼き鳥屋。出店には何が必要?

食べることや料理が好きな人だったら一度は考える飲食店の経営。なかでも少ない資金で始められるのが持ち帰り専門の小規模店です。今回は少額資金で始められることから人気のあるテイクアウト専門の焼き鳥屋さんに焦点を当ててみました。

焼き鳥屋って儲かるの?

商店街の一角やスーパー、遊戯施設の敷地などでよく見かける「焼き鳥」の赤い提灯やのぼり。香ばしい炭火焼の匂いに、ミツバチが花の蜜に吸い寄せられるようについふらふらと近づいて「もも〇本、ねぎま〇本」などと注文していることがありませんか。焼き鳥は老若男女問わず人気の高い日本人のソウルフードです。

そんな焼き鳥屋さんですが、実際のところ儲かっているのでしょうか。

売上は店によって変わるでしょう。味はもちろん、立地や客層がよければ売れるでしょうし、1本あたりの利益率やかかる経費によっても儲けは変わってくるはずです。

それにしても、見ているとたいていの焼き鳥屋さんは忙しそうです。試しに「できるのにどのくらいかかります?」と聞いてみると「すみません、いま混んでいるんで三十分くらいかかります」などという答えが帰ってくることも珍しくありません。儲かっているか、儲かっていないか、で問えば、どうやら儲かっている業者の方が多そうなのが焼き鳥屋さんなのです。

筆者もご多分にもれず焼き鳥には目がありません。割と最近も家から数キロメートル離れた場所に美味しい焼き鳥屋さんを見つけて、月に一、二度は通うようになりました。

その焼き鳥屋さんは、とあるスーパーの駐車場に専用の小さな店舗(というか小屋)を持っていて、家族で持ち帰り専門の店を営んでいます。

営業時間は、「食べログ」で調べると11時~20時(実際には閉まっている時間帯も多い)。開店したのは40数年前。地域の人たちからとても愛されているお店で、営業中はお客さんがひっきりなしに訪れます。夕方から夜にかけてはかなりの賑わいです。筆者もいままで、客が自分だけだったことは1回しかありません。

客層も幅広くて、スーパーのお客さんである主婦の方々はもちろん、昼から暇そうにしている高齢のおじさんが缶チューハイの入ったビニール袋片手にやって来たり、部活帰りの中学生が店先でおやつがわりにできたばかりの焼き鳥を頬張っていたりと、店のまわりにはなかなか和める空気が漂っています。

メニューは、ヒナ鳥、鳥皮、ツクネ、カシラ、レバ、シロの6種類のみ。小ぶりな焼き鳥ですが、1本50円~70円といまどき超格安です。

筆者は自宅近くでやっている別の焼き鳥屋さんも利用していますが、そちらは1本130円~160円なので、2分の1以下の価格です。このマジックのような安さは、見るだけで嬉しくなって頭がくらくらしてしまいます。そのため、一度に20本くらいの購入は当たり前。味もおいしいし、なんて素敵な店なんでしょうか。

焼き鳥を焼いたり売ったりしているのは店主の父子です。先代は年季の入った大ベテラン。二代目のご主人も愛想ときっぷのいい、いかにも焼き鳥屋のご主人といった感じの人です。人づてに聞いた話では、このお店のご家族は40数年のうちに「家を3軒建てた」とか(どこまで本当かはわからないけれど)。もちろん、この格安焼き鳥屋さんの上がりで得たお金で建てた家に違いありません。

1本50円の焼き鳥を売り続けていたら、家が3つ買えた。けっこうすごいですね。

やっぱり、焼き鳥屋さんは儲かるのです。

こうした持ち帰り(テイクアウト)専門の焼き鳥屋さんの平均的な年収や利益はいくらなのでしょうか。

キッチンカーや屋台などの移動販売の場合は、平均年収は400~500万だいいます。上記のような小さな店舗の場合は、ある程度顧客をつかんでいればそれ以上の収入がありそうです。最近流行りのキッチンカーでも売れている人ならば年収は1.000万に達しそうです。

うまくいっている人は原価率を25〜30%程度におさえていることが多いという話も聞きます。コツさえおさえておけば、大儲けはできないまでも暮らしていくのに十分な収入を得ることができる。家だって買える。焼き鳥屋はそういう商売だといえそうです。

焼き鳥屋の開業に必要な資金はいくら?

持ち帰り専門の焼き鳥屋を開業するにはどんな準備が必要で、お金はいくらかかるのでしょう。

キッチンカーでの移動販売の場合は、初期費用は200~500万円が相場だといわれています。ずいぶんと金額差があるのは、商売道具である車をはじめ設備投資の額に幅があるからです。もし新車を一から改造するとなると、事と次第によっては500万円でも収まらない可能性があります。これを中古にすれば200万円程度で済むかもしれません。

では、店舗の場合はどうでしょう。持ち帰り専門の焼き鳥屋であれば、店舗は極小サイズでも十分です。居抜きの物件を借りるなどして安上がりに済ませば100万円程度の資金で開業できるかもしれません。

むろん、都内の一等地であれば賃料は相当な額になります。地方であれば、それよりはだいぶ安くなります。もし単価の高い、たとえば高級品の地鶏の焼き鳥を好むようなお客さんが多い地域ならば多少高い賃料でもいいかもしれません。そうではないという場合は、これはもう賃料の安い物件をさがすに限ります。

ひとまずは店舗の賃料もキッチンカーと同様、かかるお金の額にはかなりの振り幅があることを理解しておきましょう。そんなふうに考えいぇいくと、店舗の場合も200万円円程度の資金はほしいところです。

この他、運転資金として毎月20~30万円、これをできれば半年分は用意したいところです。もしスタッフを雇うなら人件費も用意しなければなりません。ただし、少なくとも開業当初はスタッフは雇わずに自分だけで店をまわした方が経費も少なくて済むしおすすめです。

ざっと計算してみると、初期費用と運転資金で200~300万円の予算があればどうにか開業はできそうです。

焼き鳥屋のオーナーにはどんな人が向いている?

誰でもその気になればできる焼き鳥屋さん。しかし、やはり仕事には向き不向きがあります。焼き鳥屋に向いているのはどんな人でしょう。

・焼き鳥が好きな人
・料理が好きな人
・会社勤めよりも自分の裁量で生きていきたい人
・立ち仕事や体を動かして働くのが苦でない人
・人(お客さん)と話すのが苦手でない人
・衛生観念がしっかりしている人
・お金の計算がちゃんとできる人

上記はあくまでも「向いている人」です。極端な話、焼き鳥が好きでなくても焼き鳥屋さんは開業できます。しかし、やはりお店を始めるからには夢中になれるくらい焼き鳥が好きな方がいいに決まっています。概して、好きが高じて始めた商売というのは多少の困難があっても乗り越えられるし、うまくいくものだからです。

フランチャイズか個人経営か

「いまの仕事を辞めて焼き鳥屋を開業してみようか」 そんなアイディアが頭に浮かんだら、まずは焼き鳥屋の仕事を研究してみましょう。

焼き鳥は串に刺した肉を焼くだけのシンプルな料理ですが、奥はとても深いといわれています。店頭に並べる価値のある美味しい焼き鳥をつくるには肉の切り方や串の打ち方から学ぶ必要があります。

いちばんいいのは、どこかお店で修行させてもらうこと。けれど、世の焼き鳥屋さんには修行はせずに独学で開業したという人が大勢います。ネットで動画やブログを検索すれば、そういう人たちの経験談はたくさん見つかります。

持ち帰り専門の焼き鳥屋を開業するには、大きく2つの方法があります。ひとつは何もかも自力で始めること。もうひとつはフランチャイズで開業すること。フランチャイズは研修制度や開業支援制度が整っている、チェーンによっては資金0円から始められるなどメリットが多いのが魅力ですが、開業後は当然ながら本社に対するロイヤリティーが発生するというデメリットがあります。

ここでは、どうせ独立・開業するなら自分一人で挑戦したいという人を対象に完全な個人営業を、それもできるだけ安上がりに焼き鳥屋を始める方法を考えてみたいと思います。

開業には何が必要か

どんな商売でもそうですが、店を開くには、同時並行的にいくつかのことを進めねばなりません。焼き鳥店のような飲食店の場合は、だいたい以下のようなことです。

①店舗を借りる、又は建てる
持ち帰り専門店の場合、店舗は10坪以下の極小店舗で構わない。予算を安く済ませるには、ガス、水道、電気、その他設備のついた居抜き物件がいちばん。店舗をさがす際は、焼き鳥を焼くだけでなく、仕込みができるスペースがあるかどうかもチェックしたい。
物件そのもの以上に大切なのは立地。理想は人通りの多い商店街。商店街でなくても他に店舗が並んでいるような道路沿いでもいい。大事なのは、道行く人が気軽に寄れる路面店であること。ビルの2階や地下は避けた方が無難。居抜き物件でなければ、どこか空いている土地を借りてのコンテナハウス営業でもいい。コンテナハウスは安いもので数十万円から購入が可能。店舗本体に費やせる予算が200万円ほどあれば飲食店営業用にパッケージングされたコンテナハウスも購入できる。
立地が極端に悪い場合(そのかわり賃料は安いはず)はおもいきって店舗を仕込み専門の場として移動販売を始めるという方法もあり。

②食品衛生責任者の資格及び営業許可を取る
飲食店を開業するには保健所の講習を受けて食品衛生責任者の資格を取得する必要がある。講習は1日程度、費用は講習代と証明書の発行代で合わせて数千円。資格を取得したら営業許可の申請が可能となる。他にもし移動販売を行いたいという場合は仮設営業許可証も取得しておくこと。

③設備や道具を揃える
居抜き物件であっても足りないものはある。冷蔵庫、冷凍庫、食器類、計り、包丁、まな板、串、業務用焼き鳥器(LPガス用、木炭コンロなど)、焼き鳥用フードパック、焼き鳥袋などは必須。新品もしくは中古で探す。

④資金を調達する
融資を受けてもいいが、できれば開業資金はあらかじめ貯めておきたい。

⑤開業届を出す
独立する場合は個人事業主になるか会社を設立するかの二択。小規模な店舗なのだから、まずは個人事業主としてスタートするのがおすすめ。個人事業主の開業届はしなくても罰則などはないが、気持ちを新たにするためにも出しておきたい。最寄りの税務署に行けば用紙がもらえるので、記入して提出する。開業届をしておけば確定申告の際に最大65万円の特別控除が適用される青色申告が可能となる。開業届はいつでも提出できるので、しないまま実際に営業を始めてみて思ったよりも売上が出た場合などは、控除のためあとからでも出しておいた方がいい。

⑤保険に加入する
焼き鳥屋に限らず飲食店を経営する際に必須となるのがPL保険(生産物賠償責任保険)。この保険に加入していれば、万一、食中毒などが起きた場合でも賠償金を保険金で賄うことができる。

⑥キッチンカー・屋台を用意する(移動販売の場合)
移動販売を行うにはキッチンカーや屋台、テントなどが必要となる。キッチンカーは中古かリースにすれば初期費用を抑えることができる。合わせて駐車場も確保しておきたい。

⑦出店先(場所)をさがす(移動販売の場合)
移動販売の場合も店舗と同じで立地が重要。キッチンカーの出店先はマッチングサイトや仲介サイト、移動販売業者向けの情報サイト、大型店舗、企業、自治体のホームページなどでさがすことができる。地域によるが、商工会や観光協会、公園管理事務所などでも移動販売業者の募集や登録を行なっていることがある。

⑧メニューを決める
焼き鳥には種類がある。何をどれだけ提供するかによって仕入れ値や売値も決まってくる。
ひとくちに鶏肉といっても、比内地鶏や名古屋コーチンのような高級な地鶏もあれば、大量飼育されるプロイラーもある。また部位によっても値段が違うし、国産か、輸入品かでも原価は変わってくる。鶏肉以外では、シロやかしら、豚トロ、豚バラなど豚肉の人気も高い。
いくらで売るにしても原価率は30%未満に抑えるのが基本。逆に見ると売り値は原価の3倍以上にしたい。
メニューはたくさんあればいいというわけではなく、5~10種類程度にしておくのが無難。あまり多いと仕入れや保存、仕込みが大変。客の側もメニューが多いと迷ってしまう。味は塩とたれが基本。店の独自性を出すために特殊な味付けをするのもいいが、最初は大多数の人が好む定番の味を揃えた上でオプション的に並べてみるといった形の方がいい。サイズは15センチ串が基本だが、需要が見込めそうならジャンボ串などにして単価を上げる方法もある。

⑨仕入先を決める
できるだけ安くて良い品を扱っている業者をさがす。自分で買いに行くか、配送してもらうかは利便性を考慮した上で決める。肉のなかには焼き鳥業者用にあらかじめ串打ちされたものもあるが、仕込みをする時間があるなら塊をキロ買いした方が経費は安く済む。

⑩事業計画を立てる
ミニマムサイズの店とはいえ、最小限の計画は立てておく。家賃はできれば1日の売上、それが無理でも週末などの2日間の売上で払える程度の額に抑える。
利益は売り上げの50%(可能ならもっと多くてもいい)が目標など、絶対に達成すべきタスクを持っておくことが肝要。
焼き鳥店はその調理法と同じでシンプルなビジネス。1本100円の串であれば、100本売って1万円。かりに平日300本、土日(月に8日程度)に400本売れるとしたら、月に25日稼働して8,300本で83万円の売上。利益率が例えば40%なら手元に残るのは33万2,000円となる。もしその倍の数が売れたら、月の利益は66万4,000円。経費を徹底的に抑えれば利益率は上がるので、これ以上の収入を得ることも夢ではない。

⑪マーケティング
事業計画にも影響するのが市場調査。誰にでも好まれる焼き鳥とはいえ、出店場所によって客層は変化するもの。同じ場所でも昼と夜、平日と休日ではよく売れるものが違っていたりする。とくに移動販売の場合は出店先によっていちいちニーズが変わったりするのでマーケティングは欠かせない。トライ&エラーを繰り返してメニューや営業時間の最適化をはかるといい。

⑫技術を身につける
焼き鳥屋を営む以上はプロレベルの商品を提供しなければならない。ネットには焼き鳥屋開業志望者を対象にした無料動画や有料の教材がある。こうしたもので独学で学んでもいいし、焼き鳥屋が開講している養成講座(塾)などに通うという方法もある。ただしこうした塾は数十万円の講習費がかかる。資金がない場合は自分で勉強するのがベスト。試しに焼いて、家族や周囲の人に食べてもらって感想を聞くといい。

焼き鳥屋は、いざはじめて見ると「毎日、串打ちがたいへん」「労働時間が思ったより長かった」と、想像していなかった問題に直面することもありますが、それを補って余りある楽しさや喜びが感じられる仕事でもあります。とくにやりがいを感じるのはお客さんが喜んでくれたとき。毎日、自分の焼いた焼き鳥が誰かを笑顔にしてくれている。そう思えば多少の苦労は吹っ飛ぶことでしょう。

独立しての飲食業をお考えの方は、候補に焼き鳥屋を加えてみませんか?


文・中野渡淳一

文筆業者。著書に『怪しいガイドブック~トラベルライター世界あちこち沈没記』『漫画家誕生 169人の漫画道』。この他「仲野ワタリ」名義で『海の上の美容室』「猫の神さま」シリーズ、『最強戦国武将伝 徳川家康』等小説作品多数。『moneyscience』では生活者目線で最新トレンドの記事を中心に執筆。